表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/54

招待

ダイダイの拠点を特定する為、セロリは正体不明の情報の化け能力者に対峙する・・・。

兵機庁西灯支部家畜棟。

セロリ専用のコンピュータールーム。


 サゴシは夏に連れられ、入室した。


 以前ここに来た時よりも、ケーブルもパソコン機器の台数も大幅に減っていた。

 代わりに、天井のない小さな檻が置かれていた。

 中には、セロリと同じキュウシュウノウサギが二羽入れられている。

 服を着ておらず、二足歩行姿でもない。

 個体識別タグの他に、ケーブルを細長い耳に繋げている。


「これは、私と同じ目的で作られた家畜よ。

 私のレベルまで技術と能力が形成できなかった為、研究用に使われているの」


 クルリと椅子を回し、セロリは背後のサゴシ達の方を向いた。

 彼女の耳にも普段よりは少ないが、ケーブルを幾つか繋いでいる。

 白いワンピースの二足歩行姿が、どうもこの無機質な場に似合わない。


「お前の親戚みたいなものか」

「出生の系列を見ればそうなるわね。

 尤も、その概念がここでは全く無意味であることは理解してるわよね」


 ウサギ家畜達は、ムシャムシャとニンジンを齧っている。

 檻に敷かれた毛布には黒い小さな糞が散らばっていた。


「ジョークだよ。失礼」

 サゴシはセロリの隣の椅子に座った。

 デスクトップの一つにキャンディの顔が映っていた。


『サゴシ、事前に説明はしていますが、もう一度確認の為に言うわね。

 これから、セロリがダイダイ拠点へアクセスします。

 敵は高度のセキュリティでブロックしていますが、セロリが強引に突破します。

 当然ながら、相手はそれに抵抗し攻撃してきます。

 こちら側のコンピュータがハッキングされるでしょう』


 サゴシは黙ったまま頷いた。

 キャンディは手にしているキャンデーを一舐めした。


『我々の存在を明かさない為に、二羽のウサギ家畜の脳を囮にします。

 敵は情報の化け能力者がいると勘付いています。

 機器よりも生体の方を優先し、攻撃してくるでしょう。

 尤も、今取り揃えているのは、全て破棄しますので、仮に特定されても支障はありません。

 ウサギ家畜も、市販の高機能愛玩用とほぼ見分けがつかないように処理しています』


 サゴシはチラリと隣のセロリの方を見た。

 彼女はジッと一点だけを見ていた。

 その先に何が見えているのか分からなかった。


『得た情報のバックアップを、専用機器とサゴシの脳に共有します。

 セロリは情報を、記憶と電子に分けることができます。

 その記憶の方をあなたに送らせるのです』


「俺はそんな複雑な分析は出来ないし、すぐにタグに送っちゃうけど良いか?」


『もちろんです。

 セロリの作業を一切止めずに、記憶を保管する術はあなたにしかできません。

 しかし、危険な作業です。

 自分の脳の保護を最優先にし、あなただけはすぐに離脱できる状態にしておきなさい』


「承知した」


 サゴシは夏から二本のケーブルを受け取り、耳の穴に差した。

 一つはセロリの耳と、もう一つは自分のタグに繋いだ。


『では、開始します』


 サゴシは目を閉じる。

 すると、セロリの声が聞こえてきた。


『今朝、お前に言ったことだが、恐らくこのアクセスで、信号を受信できるだろう。

 お前にも飛ばすから、聞いてくれ。

 タグにも移せないようなものだから、しっかり記憶してくれ』


(少佐からこの作業の話を聞いて、想定してたけど、まぁまぁ無茶振りだな)


『ロマンスは嫌いじゃないだろ?』

 その声は、どこか楽しげに聞こえた。


     ◇◆◇


某所

日の光を遮断した空間に、壁掛けテレビ画面だけが光る。


「大地の声よ!

 どうか、我々に御言葉を!

 我々は崇高なる目的を阻害せんとする一匹のサルを駆逐しました。

 偉大なる我等の力からすれば、ほんの一端に過ぎませんが、連中を戦かせるには充分でしょう」


 男は声高らかに話し続けている。

 銀色の鬣を大きく振るい、長い腕を上へ上へ伸ばしている。

 彼は白馬である自分をひどく愛していた。

 その美しく響く声も、自分を感動させるにふさわしいものだった。


『・・・ピピ・・・』

 画面は何かを受信したようだ。

 真っ白に光る画面から、草一つ生えぬ、むき出しの土や岩肌の景色が映し出された。


「おお、大地の声よ!」


『・・・近づいてくる・・・』

 濁った音声。

 何かで加工されているようだが、彼は全く気に留めていない。


『身を固めよ。

 虫が動き出すやもしれぬ。

 潰す場に外は向かぬ。

 招き入れる覚悟でいよ・・・』


「おおおお!

 ご安心ください。

 我々の準備は整っております。

 愛すべき『希望の象徴』も、眠りから覚めるのを待っております」


『身を固めよ・・・

 虫を招き、潰せ・・・』


 画面は景色から真っ白に切り替わった。


 雄の白馬は、すぐにスマートフォンで連絡をとった。


『はい』


「ジェミニ、大地のお声を聞いた。

 虫に招待状を送ってやってくれ」


『畏まりました、バルゴ様。

 ピスケスが警官を殺めてから、こちらへのアクセス操作が増えていますの。

 連中が仕掛けてくるのも、時間の問題でしたわ』


「では、頼んだよ」


 バルゴは、椅子に腰を下ろした。

 大地の声との語らいは、ひどく体力を使う。

 最高級ブランドスーツのジャケットを脱ぎ、一呼吸置く。


「灯のとが動けば、我々はそれに乗るだけ。

 下等動物め。

己の愚行で、踏み潰されれば良い・・・」


 バルゴは引きつるような笑い声をあげた。


     ◇◆◇


兵機庁西灯支部家畜棟。

セロリ専用のコンピュータールーム。


「アクセス開始」


 セロリは言った。

 彼女の目の色が赤と青色に点滅し始めた。


 ギュイーーーーーン・・・


 唸るような機械音が室内に響く。


 家畜のウサギ達の目の色も点滅していた。


 目を閉じているサゴシには、まだ何も送られてこない。

 サゴシは電子情報を取り入れられないからだ。

 ただ、不気味に響く音だけを聴いていた。


 セロリの目の色が強く光り出した。

 髭が逆立ち、全身の毛もビリビリする。

 夏は不安そうに、セロリとキャンディが映るモニターを見た。


『中断させては駄目よ、夏』

 キャンディがピシリと言った。


 バシッ!


 何かが弾けるような音が聞こえた。

 焦げた臭いは、一羽の家畜からだった。

 ウサギ家畜の頭部が焼けて煙が立っていた。


「ああ・・・」

 夏が戸惑う中、次々に音と火花が連発した。


 ビビビッ!

 バチッバチチッ!


 予め音量を抑えるクリーム(耳栓みたいなもの)を塗っていたが、耐えられるものではなかった。

 夏は少しでも逃れる為に、ドアへ近付く。


「セロリ!」サゴシが叫んだ。


 バーーーン!!!


 彼女の傍にあった機器が爆発した。


 サゴシは咄嗟に彼女を椅子から抱き上げ、椅子下に避難した。

 ケーブルはまだ繋がっていた。


「セロリ、大丈夫か!?」


 サゴシが彼女の顔を確認する。

 開いたままの目の色は、少しずつ黒色に戻っていった。


 キュルルルル・・・


 保存用の機器はかろうじて無事だった。


 二羽の家畜は、全身黒焦げになり、一羽は脳破裂を起こしていた。

 焦げた金属の臭いと、血肉の臭いが混じる。


『セロリ、サゴシ、任務は成功です』


 キャンディは画面越しに言った。


『場所を特定しました。

 央灯から少し離れた離島、行燈島あんどんとうです』


     ◇◆◇


兵機庁西灯支部。

遠隔家畜管理用モニタールーム。


 夏が二人を退室させ、他の職員が家畜の片付けに入室した辺りで、キャンディは映像を切った。


「お疲れ様です、警部。

 コーヒーをお持ちいたしましょう」


 キャンディがチラリと視線を送ると、マコが即座に移動した。


「行燈島か・・・。

 確かに行灯あんどんには、灯キ協の支部があるが、行燈島に施設があるとは聞いておらん」

 典巻は苦い表情を浮かべながら言った。


「未届けの施設があるのかもしれません。

 灯キ協とダイダイが密接に関係しているなら、ダイダイ支援企業から多額の予算を得ているはずです。

 明日、行燈島に特畜達を派遣させます」


「だが、しかし・・・」

 典巻は椅子の上で立ち上がった。


 行灯は央灯の南部に位置する観光都市。

 第一ブロックに分けられるエリアだ。


「明日の任務は、警部達とは関係ありません。

 あくまで、兵機庁が内密に実施するだけです。

 敵が我々に場所を特定させたのは、招待してくれたからですよ。

 早々に行かなくてはなりませんわ」


 マコが二人分のコーヒーを運んできた。

 キャンディはマコにキャンデーを渡し、コーヒーをすする。


「マキ、セロリに栄養剤を投与して。

 明日の任務に向けて、情報を集めさせて」


「承知しました」

 マキは手早くキーボードを叩き、関係部署に連絡する。


「待て、彼女にこれ以上負担をかけるのか?」

 典巻が言う。


「彼女? セロリのことですか?

 仕方ありません。今のままでは計画を立てるのに情報が足りませんわ」


「これは使えるか?」

 典巻は背広の内ポケットから、折り畳まれた紙切れを出した。

 タノイチが未来に託したものだ。

 

 キャンディは受け取り、それを開く。「まぁ・・・」

「警部。貴重な情報をありがとうございます。

 明日の任務に活用させていただきます」


「そうか・・・。

 亡くなったわしの部下が遺したものだ。

 警察ではどうしようもできんかった」

 典巻は少し安心したような表情を浮かべた。


「セロリは、データから証拠を見出し、私達に提供することは可能です。

 推論を立てることも。

 しかし、データを度外視したものは出せません」

 キャンディは落ち着いた声で話す。


「データもエビデンスも越えた発想は、動物にしかできません。

 その方がどういう経緯で、この可能性に至ったかは、計り知れません。

 しかし、今はご冥福をお祈り申し上げるだけです」


 キャンディはその紙切れをマキに渡した。

 マキはそれを見て、目を見開いた。

 

 走り書きの荒っぽい字でこう書かれてた。


 キメラ 移植


ダイダイ拠点を突き止めた特畜隊。

次回から第4章が始まります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ