西灯留置所 ☆
遂に、ヴァランの記憶を探る為、彼は西灯留置所に侵入する・・・ ※前回から更新がかなり空いてしまいました。2017年1月11日の活動報告にこれまでの話の流れを簡単にまとめましたので、よろしければそちらもご覧ください。
兵機庁西灯支部家畜棟。
ヒリヒリする身体を乾かし、サゴシは用意された服を着る。
パリッとした襟のワイシャツに袖を通す。
黒いズボンは、彼好みの丈に裾が調整されている。
最後にショルダーホルスターを装着した。
「着替えたぜ」
夏が脱衣室に入る。
ハンガーに黒ネクタイが残っていた。
夏は髭を小刻みに動かす。
「ネクタイは嫌いなんだよ」
サゴシはニヤリと笑った。
「談話室に、武装具と靴を用意してある。急げ」
「やっとまともな履物がもらえるんだな」
サゴシは新品の黒ソックスを履いた片足を上げた。
彼含め特畜は、スリッパか靴下、裸足で過ごしていた。
夏や冬は専用の長靴を履いていた。
◇◆◇
談話室では、特畜達がソファに座っていた。
皆、色違いのハーフ丈ダウンジャケットを羽織っていた。
サゴシはそれとソファの色が同じことに気付いた。
ドアを起点に左側から順番に、サゴシは彼らを見た。
ピンクのソファに座る雄ニホンジカのムギ。
ピンクダウンのジッパーを首元まで上げている。
黒のスキニーパンツの裾をショートブーツに入れ込んでいた。
ホルスターとミニポーチをベルトに取り付けている。
青色のソファには、雌キュウシュウノウサギのセロリ。
彼女も青いダウンの前を閉じている。
黒のミニスカートと黒いニーソックスとショートブーツ。
任務よりも、デートのような格好だ。
黄色のソファに座る雄カバの陸稲。
レモンイエローのノースリーブダウンから、茶色の腕と胸板が剥き出しになっている。
迷彩柄のズボンとがっしりしたブーツ。
ベルトにはミニポーチをサバイバルナイフ。
ホルスターは右太ももに取り付けられていた。
正面テレビを挟み、白ソファには雄柴犬のサエズリ。
今は二足歩行姿で、行儀良く足を閉じて座っている。
白いダウンを羽織り、ジッパーを上げている。
ハーフパンツとスリッポンも同じく白色だ。
黒いソファには雌ヒトの餡。
彼女は、左袖のない黒いダウンを羽織っている。
左腕は、黒色のシリコンカバーで覆われていた。
ダウンの中は、白いタンクトップのようだ。
細身のブルーデニムに、ひざ下まである黒のブーツ。
右太ももにホルスターをつけていた。
右手側端の赤いソファには、雄ライオンのタテガミ。
赤いダウンを毛皮の上から羽織り、胸元の鬣を流す。
陸稲と同じズボンとブーツだが、ベルトのミニポーチ以外何も装備していない。
最後にムギの隣、左手側端の緑色のソファを見る。
同じ色のダウンジャケットが畳んで置かれていた。
サゴシはソファに近付き、ダウンを手に取る。
鮮やかではっきりとした緑色だった。
「せめてカーキ色とかにしてくれよ。
正直、ダサい」
サゴシは言った。
「色分けは、家畜管理する上で重要です。
あなたに選択の権利はありません」
夏はピシャリと答えた。
「凹凸の少ないお顔には、派手な色の方が映えるぜ」
タテガミが笑いながら言った。
サゴシは不満そうに羽織り、ソファに座った。
夏がワゴンを押し、サゴシの前に持ってきた。
革靴と拳銃二丁と銃弾が置かれている。
「拳銃はどちらか選び、自分で弾を詰めなさい。
今回は麻酔銃用の銃弾のみ使用可です」
夏は言った。
サゴシはまず、ピカピカに磨かれた革靴を履いた。
履いた瞬間、今まで自分が愛用していたものだと分かった。
手入れされた靴は、以前よりも履き心地が良くなっていた。
次に拳銃二丁を手に取った。
どちらも訓練で毎日のように扱っているものだった。
サゴシは特任時代から使用しているリボルバーを選んだ。
これもきちんとメンテナンスされていた。
「どれも、新品よりも上等になっているぜ」
「当たり前でしょ。ここは兵機庁よ。
列島一のメンテナンス技術の宝庫よ」
サゴシのつぶやきに、隣に座るムギがクスッと微笑んだ。
◇◆◇
サゴシの支度が済むと、テレビの電源が入った。
キャンデーを齧る雌ジャガーのキャンディ少佐の姿が映る。
『任務の最終確認です。
まず、変更点を伝えます。
タテガミとサエズリは、今すぐ南灯に向かいなさい』
「了解」
「分かりました!」
二人は立ち上がり、速やかに談話室を出た。
「どうして彼らを南灯へ?」サゴシは尋ねた。
『セロリの継続調査により、南灯でテロが起こる可能性が浮上したからです』
「何だって!?」
陸稲やムギも、驚きの表情を浮かべた。
『既に二人には、南灯任務詳細を植え付けています。
残り五名で、ヴァラン記憶探査任務を遂行するのです。
ムギ、西灯留置所に向かいなさい』
「はーい」
ムギは立ち上がり、ドアの方へ向かった。
その時サゴシの方を見て、パチッとウィンクをした。
ゾワワと鳥肌を立てながら、サゴシはテレビに集中した。
『次に陸稲とセロリは、中継待機地点へ移動。
最後に餡とサゴシが出発しなさい。
二人は、セロリの指示に従い、留置所に侵入すること』
「「「了解」」」
セロリ、陸稲、餡が立ち上がる。
慌ててサゴシも後に続く。
『サゴシ』キャンディは言った。
『西灯留置所は、警察庁管轄。
敵地ではありません。
存在を悟られぬよう、細心の注意を払いなさい』
「分かってますよ、少佐」
『そして、餡に指一本触れないように。
もしそんなことをしたら、どうなるか。
今、教えてあげましょうか?』
「遠慮します」サゴシは苦笑いした。
『では、出動せよ』
テレビ画面はプツッと切れた。
「行くぞ」餡は静かに言った。
◇◆◇
家畜棟屋上。
二人を待っていたのは、二羽の巨大な鷹だった。
翼の付け根に、特畜達と同じくタグがついている。
用意された二羽の鷹は、特殊な薬液を全身に浴びている。
二人の着ているダウンも、特殊加工が施されている。
上空を移動しても、光を乱反射し、周りから姿が見えにくくなるのだ。
餡は慣れた様子で右手を上げ、鷹に自分の肩を掴ませる。
もう一羽の鷹もサゴシの肩を掴んだ。
鷹は、ほとんど音も立てずに上昇を始めた。
「すげーな。
特任の連中も、兵機庁と仲良くすれば、こんな良い備品を支給してもらえるのに」
サゴシは小さくなる家畜棟を見ながら言った。
久々の外。障害も何もない空中。
任務と分かっていても、サゴシの胸はワクワクした。
◇◆◇
西灯留置所。
灯のと第二の規模を誇る留置所だ。
ここに、刑確定前の被告人や取り調べ中の容疑者が収容される。
広い敷地と巨大な灰色コンクリートの建物は、案外都市部に位置していた。
しかし、ビジネスや文化で賑わう街とは大きな川で隔たれている。
留置所周囲は白い塀が囲っており、そこには花畑の明るいイラストが描かれている。
それも虚しく、近隣に立つ古びたアパート群は、暗い雰囲気を出していた。
『長老、サゴシ、聞こえるか?』
タグを通してセロリの声が、風に消されずに聴こえてくる。
『既に隊長が留置所全体に膜を張っている。
効果はあと約八分だ。
それまでに屋上に到着できるか?』
「問題ない」餡は答えた。
『屋上に到着したら、私の合図が出るまで入口前で待つように。
健闘を祈る』
サゴシは少しくすぐったく感じた。
特任時代の彼は、単独任務ばかりだった。
仲間に「健闘を祈る」など、言われたことがなかった。
留置所の真上で鷹は停止した。
そして、鍵爪を緩め、二人の肩を離した。
トスン! トスン!
上空から落ちたにも関わらず、着地の衝撃は少なかった。
二人が身体強化で備えたのと、陸稲の膜の効果だった。
着地した部分の破損もほとんど見られなかった。
「今回は設備を修復するサエズリがいない。
私は本来の力を発揮することができない。
お前も無駄に暴れるのは避けるんだ」
餡はシリコンカバーで覆われた左腕を見ながら言った。
「安心しろ。
優秀な奴ほど、穏便に仕事するもんだ」
サゴシはニッと微笑んだ。
『留置所内外の監視カメラは既に細工済みだ。
あと三十秒で屋上入口のロックが開く。
二人は肉食動物棟二階にある管理室に向かえ。
待機中のムギから、ヴァランの居る地下室の鍵を受け取れ』
「「了解」」
ガチャリ。
屋上入口のロックが解除された音が響く。
二人は中に侵入した。
期間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。引き続き頑張ります。