1、ある老紳士が君達に伝えたいこと
2024/06/26〜 本文改稿始めました。改行調整がメインですので、内容に変化ありません。より読みやすくなるようにする為の作業です。よろしくお願いいたします。
やぁ、はじめまして。
君には、私がどう見えるかい?
そうか、良かった。ちゃんと、白髪よりも頭皮が目立つ痩せた高齢の雄ヒトに見えているみたいだね。種はモンゴロイド(黄色人種)系と捉えてくれているかな。
おっと、いけない。
君の世界では、人種や肌の色についてはデリケートだから気を付けろと、腹田氏に言われていたんだ。
だが、悪く思わないでくれたまえ。
なぜなら、私は君とは違う世界に生きているヒトだからだ。君の世界とは、異なる価値観も持っている。
私は今、君と同じ世界を生きる腹田氏の協力を得て、君に話しかけている。
これから始まる物語の前に、いくつか事前説明をしておきたいからね。
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この物語は、私が若い頃の思い出話である。
今思えば、青臭い未熟さに溢れた自分を恥ずかしく思う。だが、あの時の自分があったから、今の私がある。
結婚し子どもに恵まれ、孫がたまに遊びにやってくるのを楽しみに待つジジィになった今でも、あの時の記憶は感情と共に消えずに残り、時が経てば経つ程ますます磨かれていく。それをどうしても、何か形に遺したいと思ったのだよ。
やれやれ、長生きする動物というのは、これだから面倒がられるんだ。
話が逸れてしまった。
本題に入ろう。
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腹田氏と話し合い、私がいる世界を、君がいる世界のパラレルワールドと表現することに決めた。舞台も時代も文明も、君が今いる世界と大差ない。
この作品においては、刑事ドラマとロボットアニメのような、正義の組織をイメージしてくれると良いかもしれない。
大きく異なるのは、社会を構築しているのが「一種の動物」か「複数種の動物」であるかという点だ。
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ヒトは二本足で立つという進化を遂げた。
それに続けて、他の種も二本足で立つ能力を身に付けた。複数種の動物が二本足で立ち、共に協力し、作物を育て、組織や国を創り上げていった。
分かりやすく言うと、擬人化した動物が、ヒト同様に社会の中で生きているということだ。
ん、肉食獣は草食獣を食べるのに、一緒に暮らせるのかだって?
素晴らしい!
君は非常に重要な点にいち早く気付いたね。
私の世界では、トラやライオンといった肉食獣も、ウシやヤギといった草食獣も一緒に暮らしている。
トラの腹が減ったら、隣のウシは食べられるんじゃないかって?
大丈夫だ。その心配は、現代においてほぼ皆無だと言っておこう。何故なら私達の世界では、命を次のように分けている。
「動物」と「家畜」だ。
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「動物」とは、社会を構築する一員を指し、家畜を支配し使用する側にある命のことだ。
対して「家畜」とは、動物に支配され、使用される命を指す。「家畜」は食糧であり、道具であり、資源であり、そして兵器にもなる。
君の世界にも家畜はいるから、それと扱いは変わりないと思ってくれて良い。しかし、君の世界以上に、「動物」と「家畜」はシビアに線引きされている。
動物のウシが、家畜のウシを育てて搾乳し、解体して精肉を販売し、牛革のブーツを愛用する。
家畜のヒトは、飼育期間が長く、ハイコストだが、希少価値の高い資源・道具・食糧として流通される。
それらがこの作品における世界だ。
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ここまで聞いてみてどうだい?
ヒト家畜と聞いて、不快感を示すのは、人間なら当然のことだろう。
申し訳ないが、そこは慣れてもらうしかない。無理なら遠慮しなくていい。このサイト風に言うなら、ブラバOKだ。
え、ブラバはしないのかい?
そうか、君のその姿勢に敬意を示すよ。
続いて、この世界を説明する上で、もう一つ重要なものがある。
それが、トランスフォーメーションだ。
擬態という意味だが、この世界では微妙に異なる。
ヒト以外の動物が二足歩行に進化したと言ったが、四足歩行しなくなった訳ではない。
彼らは社会生活を送る時のみ、二足歩行をしているのだ。それ以外の時は、本来の四足歩行なのだ。二足歩行時と四足歩行時では、骨格と内臓の大きさや位置が変わってしまう。それを自在に操る能力が、トランスフォーメーションだ。
彼らからすれば、食べる・話す・走る・排泄するといった基本動作の中に含まれているものだ。
動物である以上、トランスフォーメーションで、二足歩行ができないと生きていけない。彼らは幼少期から、長時間体格を変化し調整する技術を、訓練で身に付けているのだ。
例外として、ヒトはそれを要しない。
よって、ほとんどのヒトにはトランスフォーメーション能力がない。
なお、トランスフォーメーションは世界共通単語である。だが、私が生まれ育った灯のと列島では、独自の名称がある。
「化け」だ。
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長い前置きで申し訳ない。
最後に、注意点を伝えておこう。
この世界は君が住む世界と似ているが、全く異なる世界だ。地理や時代がほぼ変わらない為に、文明や文化など似ている点も出てくる。だが、あくまで似ているだけであり、君の世界とは全く関係ないということを知っていてほしい。
もう一つ、言語についてだ。腹田氏が最も苦悩した部分でもある。
腹田氏は、日本語しか使えない。
その日本語能力も、この作品を書く上で、充分なのかも怪しい。
基本的に、作中の言語は日本語であるが、固有名詞で別の言語が用いられることもある。
それは、私の世界においても、言語の違いが発生してくるからなんだが、私の世界は共通語が確立しているので、固有名詞程度にしか、別言語は出てこない。
地理や種を指す言葉は、あえて君の世界の単語を使用することもある。
例えば、アジアゾウとアフリカゾウ。
この二種は分けるのが一般的だが、私の世界の表記通りにしても、伝わりにくいし、説明も面倒だ。
そういう訳で、異世界なのに、なぜ現実世界の表現や言葉が出てくるんだと思った時は、そうした方が分かりやすいから、と認識してもらえるとありがたい。
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最後まで聞いてくれた、心の広い君に感謝だ!
折角だ。
次話から始まる『家畜の意思「愛玩用と呼ばないで」』も覗いてみてはいかがかな?
タイトルに☆マークがついているものは、作画担当の加純の挿絵が掲載されている。
☆マークの回のイラストだけ見に行くのも良いぞ。
もちろんいつでもブラバもOKさ!