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第21話 新たな仲間

翌朝俺達は、どえらい騒音で目が覚めた。

 その音は二階にある……俺の隣から聞こえてきた……犯人は間違いなくウンちゃんだ。


「おーい、ウンディーネ……少し静かに出来ないのか?」


 暫く待っても返答が無い。

 さっきからずっとガリガリガンガンやかましくて堪らない。

『おい、ウンディーネ! なんとか言えよ』

 今度は念話で聞いてみた。

『申し訳ありません、主様。暫くこのまま一人にしておいてください』


 お前は鶴か!?

 と突っ込むのも気の毒な気がしたので、ここは放っておいてあげよう。


「お早うございます先生、朝食の用意できてすよ」

 朝一番に見れたのが、爽やかなユキの笑顔で良かった……ちょっとだけ、彼女が嫁さんになった姿を想像してニンマリしてしまう。


「おはようございます、我が君! 今朝もご機嫌麗しく、恐悦至極に存じます」


 良かった……朝一番にこいつの顔見てたら一日気が滅入る。

 やがてジゴロウさん達も次々に大広間に集まってきたが、サクラの姿だけ見当たらない。


「それが……サクラちゃん昨夜食べ過ぎでお腹壊したみたいで……」


 いや、それ絶対鶏の呪いだから……腹の中で合体して暴れてるに違いないから。

 もしくは生で食ってた報いで食あたりだよ。

 可哀想だし、後で薬でも処方してやるか、俺はこう見えて医者でも有るんだし。


「ところで我が君、本日のご予定は如何に?」


 なし崩し的に俺の副官の地位を得たロイが、執事みたいにスケジュールの確認をしてきた。

 正直、あんまり動きたくも無いのだが、ここにいてもウンディーネの部屋から聞こえる騒音で落ち着かない。

 取り敢えず町を見て回りたいから、お前さん付き合えと言ってみたら……。


「はは、ありがたき幸せ。このロイ・アダムス一命に代えましても――」

「いや、そこまで大袈裟にするなよ、普通見まわりで死ぬか!?」

「お言葉ですが、追放した貴族の残党が未だ町中に潜伏している可能性も有ります。

 警戒しておくに越したことはございません!」


 それもそうか。

 何よりこいつに口で敵いそうにないし、食事の後ジゴロウさんも含めて3人で回ることにした。

 もちろんサクラの胃腸薬を確保するのも目的の一つだ。

 ウンディーネは夢中で何か作っているみたいだし、そっとしておいてやろう。



――――――



 金髪碧眼のロイが同行する限り、変装したって無駄だ。

 昨日テラスで派手に宣誓文なんか読みやがったら、すっかり有名人になっている。


「おお、フワ様達だ、新しい領主様だー!」

「フワ様ばんざーい!」


 どこへ行っても誰に会ってもこんな具合、で大勢に取り囲まれては頭を下げられたり握手を求められたり……さすがにサインは求められないか。

 だが俺は元来引っ込み思案というかコミュ症に近い。

 大学でも大抵ぼっちだったし、接客も苦手なんでバイトは肉体労働系が多かった。

 それがいきなり他人に取り囲まれて、褒め称えられたり感謝されたりでは精神的に保たない!


「ロイ! ジゴロウさん! 後は任せた!」


 人集りを2人に押し付けて、俺はその場を駆け足で逃げ出す。

 それでも何人かの人が追いかけて来る……が、町の若い娘さん達はロイの周りから離れねえでやんの!! ちくしょう! イケメンなんて滅んじまえ!

 

 悔し紛れにひたすら走った。

 いつの間にやら街道に出てしまったが、なんか久しぶりに自分の足で走るのが気持ち良いので止まらない。

 後ろからロイとジゴロウさんが叫びながら追ってくるが、構うこと無く走っていたら、前方に荷車を押している連中を見つけて立ち止まった。


「ひい……アニキ、ちょっと休憩しましょうよ……もう、無理、ふう……」

「そおっすよ、もうここまで来れば大丈夫っすよ……大体何するんです、この……なんとかってやつで」


 見ると三人の若者……つっても俺と大して変わらない3人組が、大きな樽を3つ載せた荷車を必死で押しているではないか。

 そこまでなら大して気にもしなかったのだが、問題はその樽の中身だ。

 継ぎ目から滲み出る黒い液体……そして覚えの有るこのニオイ。


「シャキッとしろ、てめえら! ここの領主に見つかったら荷物持って通っただけで税金取るっつーじゃねえか!?

 それにオーサワの野郎にコレぶっかけて文句言わなきゃ気が済まねえんだよ!!」


 俺は3人組のリーダーらしき男の言葉を聞き逃さなかった。

 それに連中が運んでいるのは間違いなく「石油」だ!


「おい、あんた。ちょっといいか?」


 俺は一番偉そうにしてる、リーダーらしき男を呼び止めた。

 こっちを振り向いたその顔は……間違いない、こいつDQNだ、ヤンキーだ!!


「ああん? 何見てんだコルぁ……コロスぞ!?」


 伸び放題の髪は、先端だけ脱色した茶髪。

 ポケットに両手を突っ込んで、肩を揺らしながらメンチを切るその眼つき……間違いないヤンキーだ、まずい、怖い! うかつに声かけなきゃ良かった、カツアゲされたらどうしよう! 全力で逃げるか!?


 なんて一瞬怯んだが、即座に形勢は逆転した。

 いつの間にか追いついたロイとジゴロウさんが、奴の「コロス」に対して容赦無く剣を抜いたのだ。

 無言のまま、冷酷な眼差しで突き付けられた二本の大剣に、俺を睨みつけていた奴の目は、眼球が転げ落ちんばかりに見開かれ、ガニ股に開いていた両足が、バイブ機能付きかと思われるほどに小刻みに震えている。


「我が君に対しての狼藉とみなし、この場で成敗いたします!」

「ああ、領主様に対して……こんな無礼なガキ見たこたあ無えな。そこの2人も同罪だ、素っ首切り落として晒してやりましょう!」


 2人は完全に本気だった。

 

「あああ、あろ、あろろ、さあせん! さあせん!」

 

 既に何言ってるのかわからん上に、奴の足はバイブどころかツイスト一歩手前の震えっぷりだ。

 あれだけ足が揺れて、顔が揺れないのは何か凄い気もするが……あ、ションベン漏らしやがった……誰かを思い出すな。

 今度は3人そろって座り込み、猛烈な勢いで土下座を始める。

 そりゃもう、機械仕掛けみたいに何度も何度も頭を上げたり下げたりで、面白いからもうちょっと見ていようかと思った。


「どうどう、二人共剣を引け。怖がらせて悪かった、ちょっと話が有っただけなんだ。

 あんた達のその荷物、それって石油なんじゃないか?」


 すると茶髪のDQNの顔色が変わる、そして俺も気付いた、こいつの耳のピアス……もしかしてこいつは……。


「あ、あんた……石油って何でわかった?」

「いや、馴染みが有ったからで……そっちこそ、もしかして『日本人』か!?」


 なんという偶然! 

 他の2人はこの世界の人間みたいだが、このDQNだけは俺と同じ世界の人間だ!

 

 ――ヒイイイイイイイインンンン――


 その時、城の方からなにか飛んで来る異様な風切り音が聞こえてきた。

 どんどんこっちへ向かって来る、ヤバイ、きっとあいつだ!!


 俺達から5メートルほど離れた街道沿いの(あぜ)に「ズドーン」とそいつが着弾した。

 そこら中に土や小石が飛び散って、土煙がもうもうと上がる。

 その中から平然と彼女は現れた。


「主様、至急ご相談したい事がございます。城までお戻りください。

 これは設楽(したら)様、お久しぶりです、お元気そうで何より」

 

 これもやっぱりと言うか、ウンディーネはこのDQNと知り合いみたいだ。

 その設楽君は……巡航ミサイル・ウンディーネによる着弾の衝撃で気を失っている。

 つーかどう見ても元気そうじゃ無いだろ?



――――――


「いやあ、マジぱねえ! 不破先輩超凄え! マジリスペクトっす!!」


 何言ってるのか分かんないんですけど……。


 あれからウンディーネが急かすものだから、なし崩しに3人も城まで連れて来た。

 こいつ、設楽純(したらじゅん)は、この世界に来て2年目だそうだ。

 領内をこっそり通って、通行税を逃れようとしていたらしいのだが、もちろんそんな悪辣な税は取らねえし、今は俺が領主だといったら急に態度が変わりやがった。

 なんだよ不破先輩って……。


「いやね、大沢の野郎が『金』掘るならサドだって言うもんで、こいつら連れて行ったんすよ。

 行ってみたら、船が要るんすよ? マジあり得ないっしょ?

 でね、俺考えたんす、わざわざ海渡らなくてもサドで出るならこの辺でも出るはずだって、そしたら……」


 石油が出てきたと……バカなんだか凄いんだか……呆れて言葉も出ない。


「でもあれですか、あのババア死んだんすか。ったく、俺の顔見れば説教ばっかでウゼえったらねえし……俺がぶっ殺す予定だったんすけどねー!」


 その言葉には、カチンと来た!

 世話になったくせに、モトコさんの悪口は許せない。

 このガキ言って良い事と悪い事が有るって身体に教えて――!?


「ぐず……ババア、約束したじゃねえか……俺が金持ちになって、死ぬまで美味いもん食わせてやるって……」


 急に肩を震わせて泣き始めた……他の2人も同様だ。

 ああ、なんだ……こいつも俺と同じあのひとの「息子」だったみたいだな。

 ウンディーネを見ると、彼女も黙って頷いていた。


「それはそうと主様、計画に支障が出てしまい困っております。問題解決のお知恵を拝借いたしたいのです」


 彼女が困っているのは珍しい……くも無いか。

 先日もそうだが、エネルギーを奪われて気付かなかったり、診療所では時々馬鹿力で物を壊したりと、意外とドジなところが多い。

 破壊力が大きい分、被害も甚大になりやすいので、笑えないドジっ子なのだ。


 そもそも彼女の計画とやらも、俺は初耳だ。

 おそらく今朝からの騒音が関係しているのだろうが、案内されるまま庭に出ると……。


「何あれ?」

「急拵えですが、今回の移動手段です。外観や構造は、主様の記憶から参考になりそうな物を見繕いました」


 そこに鎮座しているのは真っ白な……馬車?


「なんだか……でかくね?」


 全長はこの前のゴリアテの二倍、およそ7メートル近い上に、地上高も随分高い。

 何よりその巨体ゆえか、車輪が8つも有る。

 俺の記憶にこんな馬車無えぞ? 大体これ引っ張るのに馬何頭要るの?


「おーい、ウンディーネさん。言われたとおり街中の人に触って貰って来ました。

 これで良いんですか? というよりこれを何に使うんですか?」


 ジゴロウさんとこの若い衆が運んで来たのはキャニスターが3つ?

 それにこれは、シルヴィア・ゴリアテ・ヴィルムのじゃないか?


「ありがとうございました、サンタさん。主様、それでは契約を」


 彼の名前はサンタっていうのか。

 冬になったら赤い服着せて白いひげ付けたくなる……って、そんな事いいんだよ!

 今ウンディーネが言った言葉の方が重要だ。


「契約って……これは奴等、あのダフニルのキャニスターじゃないのか?

 それをどうしようってんだ? ちゃんと説明してくれよ!」


 彼女は時々突拍子もない事をさらっとやるし、肝心な事を問題が大きくなってから喋るから始末に負えない。

 それも俺が「聞かなかったから言わなかった」と宣うから困る。

 だから今回はちゃんと応えてもらおう。


「回答します。このキャニスターを、今後の戦力とする事を計画致しました。

 故に、エネルギーとしての魂を町の人々に触れていただき、少しずつ分けていただいたのです。

 後は主様が新しい主人としての契約を望みます。

 彼らは扱いを誤らなければ心強い戦力となるでしょう、さあ」


 「さあ」って言われても、妙な気持ちだ。

 しかし今回は隠すこと無く話してくれたので、彼女の意見を尊重する事にするか。


「わかった、任せるからやってくれ」

「それでは、お手を拝借いたします」


 そう言うと彼女は俺の手をそっと握ると、人差し指を掴んで――!!


「ぎゃああああああ!? やめ! やめ! や、やああああー!!」


 ――「ブチイ!!」――


 という音と共に、俺の右手の人差指を引き千切った!?


「あだああああ! お、おま、何すんの……いでええええ!!」

「お静かに、これで完了です」


 引き千切った指から滴る鮮血を、キャニスターにふりかける。

 するとそれらが「ブーン」と低く唸り始めた。

 ウンディーネはそれを確認すると、俺の指を元に戻した。

 第二関節から離れた指は、魔極水のおかげだろうか、瞬時に傷跡も無く復元して激痛も嘘の様に消える……でも痛みの記憶は残ってるぞ!


「お前なあ! やって良い事と悪い事が有るだろう!? 何で指を引き千切る必要があるんだよ!?」


 さすがに憤慨した俺は、ウンディーネに詰め寄るが、彼女は相変わらず平然と言う。


「お答えします。ダフニル卿の死亡によりこれらはリセット状態でした。イニシャライズには使用者の遺伝子情報を記憶させる必要があり、主様の血液が必要でしたので――」

「――そんなのナイフかなんかでちょっと切れば済むだろが!?」

「はっ!?……その発想はありませんでした! さすが主様、画期的な方法です」


 俺は膝から力が抜け、その場でぐったりと項垂れる。

 もうやだ……モトコさん、なんとかしてください……付き合いきれないです。


「凄え、指が元通りにくっついた? マジぱねえっす!」


 何興奮してんだよ、何なら代わってやってもいいよ? 首根っこ引っこ抜かれても知らんけど……。


「で……それをどうするって……?」


 ウンディーネは血まみれのキャニスターを抱え歩いて行く……その先には先程の馬車っつーかマイクロバス?

 まさか……。


 扉を開け中に入り、何やらゴソゴソやった後出てきてこう言った。


「さあ、あなた達。新しい主様にご挨拶を――!」


 その途端、メキメキと音を立てて馬車が「立ち上がり」始めた!

 あの俺達を運んだゴリアテとは違い、逞しく太い手足、バランスの良いプロポーション!

 乗車するワゴン部分を背中に背負って、頭部までクルッと現れた!!

 さすがに車輪は収納できず、両肩と両腕、腰と膝に付いたままだが悪くない。


 そうだ、これは俺の記憶に有る。

 子どもの頃、爺ちゃんが買ってくれたオモチャ。

 高校生の時見に行った映画! 

 男の子の憧れの、変形する車の……!


「すっげー!! ト○ン○フォー○ーじゃないっすか!? マジやべえ!!」


 おま、言うなよ!!

 でも認めよう! カッコいい、木製みたいだけどカッコいいよ! でかしたウンちゃん!!


 見ていた皆が息を呑む、その迫力と巨大さ。

 これこそ変形ロボと呼ぶにふさわしい! ……仕組みはよくわからん……つか考えたくないけど。


「アタラシキワガアルジサマ、ワレワレハアナタサマニチュウギヲツクシマス、ドウカゴメイレイヲ!」


 なんか喋る言葉もそれっぽくて良い!

 それにしてもデカイな……立ち上がると軽く10メートルは超えてそうだ。

 背中のワゴンが操縦席になってたりしないかな?


「今喋ったのは、統括のシルヴィアです。発声に木製の振動板を用いていますので、お聞き苦しい点はご容赦を。

 基本行動はゴリアテ、戦闘時はヴィルムが担当します」


 なんか鳥肌が立ってきた、これなら勝てる! 相手が誰であろうと!! とか言ってみたい気分だ。

 でもさあ……。


「これって実は、デカくて馬鹿力で動き鈍くて……お前より弱いとかそういうオチ?」

「主様、使い様を間違えなければ問題ありません。この巨体なら多数の兵士を威圧でき、騎馬隊を蹴散らす事も可能です。

 ですが、今回の様にエレオノーラが相手ですと、おそらく保って数秒……」


 ダメじゃん!

 どうやら決戦兵器ってわけじゃ無さそうだ……残念。


「そこで先程申し上げた『支障』についてですが、車輪の車軸・各関節に用いる潤滑油が難点です。

 植物油では性能が悪く、動物の脂肪では劣化が早いので、長時間の行動に耐えられません。

 何か良い物は無いかと……」


「ああ、それなら!!」


 俺が目をつけたのは、もちろん隣で興奮している設楽君が持っている石油だった。

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