駄女神様が再度、来店されました
カランカラン
お店のドアに付いた来客を告げる呼び鈴が鳴り響きました。…そうです私は前にここを勇んで出ていきました。それから一週間も経たずに再度来店しました。
恥ずかしさがなかったわけではありません。
私も、またすぐにあの子に頼るのはどうなのだろう。呆れられてしまうのではないか。叱られてしまうのではないか。などという葛藤がありました。しかし、心のどこかであの子ならば慰めてくれるのではないか。笑顔で許してくれるのではないか。という想い(というより願い?)があり、また来てしまいました。
「すみません、また来ちゃいました」
私は遠慮がちにドアを開きました。
「いらっしゃいませ、…少々来るのが早すぎでは?」
うっ…!イタいところを訊かれてしまいました。
「アハハ…、」ズーン
……笑ってごまかしましょう。
「とりあえず何か食べますか?」
ごまかしきれてないとは思いますが、この子は何も訊かないでくれました。代わりに注文を訊かれました。
では、とりあえず…
「クリームシチューでお願いします。あと、何かもう一品デザートをおまかせでお願いしてもよろしいでしょうか?」
「おまかせですか…、かしこまりました」
あの時食べたクリームシチューの味が忘れられず、迷わずクリームシチューを頼みました。それと、女性らしくなるため、スイーツのひとつでも食べておこうと思いデザートも一つ、何があるのかわからないため、おまかせで注文しました。一番困る注文のしかただとわかっています。けど、
…だってメニューが無いのですもの……。
それでもあの子は注文を受け入れてくれました。
~~~~~
暫く待っているとあの子が料理を運んできました。
「お待たせ致しました。クリームシチューとデザートにザッハトルテで御座います」
ザッハトルテ…ですか?
…今更ですが、私って料理の知識無さ過ぎじゃないですか?
一人の女性として悲しい事実が判明してしまいました。
落ち込んだところで女性らしくなるわけでもありません。ましてや、せっかくの温かい料理が冷めてしまいます。料理の方を頂きましょうか。
まずはクリームシチューを、やっぱりここのクリームシチューは美味しいですね。コクがあり、クリーミーです。ですが、さっぱりもしている為、飽きる気配がありません。野菜もしっかり煮込まれているため柔らかく食べやすいです。私はここのクリームシチューが一番美味しいと思います。
……ここ以外でクリームシチューを食べた事はありませんが…
ふぅ…クリームシチューはやはり絶品でした。
さて、ではザッハトルテを頂きますか。
スポンジケーキの周りは光を反射するほど美しくコーティングされたチョコレートが、とても美味しそうです。
では、早速一口頂きます。
あら?
「あれ? そんなに甘くない。って顔してますね」
…私ってそんなに顔に出やすいですか?
だって、ケーキっていったら全てが甘いのだと思っていました。それに使用されているのがチョコレートなのですから、妹の話ではチョコレートは甘い物ばかりだと聞いていましたし。
「このザッハトルテにはビターな感じのチョコレートを使用していますから」
…なるほど、どうりでそんなに甘くないのですね。ですが、これは丁度良い甘さですね。甘過ぎな訳ではないためスイーツ初心者の私にとっては入門編に最適かもしれません。
私がザッハトルテの味を堪能していたら
「このようなことを伺うのは失礼かもしれませんが、何かお悩みがあるのならば愚痴なり相談なり、お聞きしますよ?」
あっ! そうでした。シチューとザッハトルテの味を堪能していた為、本来の目的を忘れていました。
「あの、あの後私はやる気を出したのですが、どうしても仕事の事となると上手くいかないのです。そして、お父上には叱られてばかりで、私がミスをすると直ぐに叱られます」
「誠に失礼な質問なのですが、どのような失敗をなさるのですか?」
「ある人の願いを他の人に叶えてしまったり、緑豊かな土地にしようとしたら間違えて干からびた土地になってしまったりとか」
「……。」
…絵に描いたように唖然としていますね。
「えと、それはわざとやっている訳ではありませんよね」
「はい、わざとではありません」
失礼なこれでも神様の端くれです。わざとな訳ないじゃないですか。只ちょっとだけ失敗してしまうだけです。…大きな失敗ではありますが。
「それであなたはこの先どうなりたいのですか?」
「どうなりたいとは?」
「心配をかけないようになりたいとか、誰かの役にたちたいとかそんな感じで構いません」
そうですね……なら、
「失敗しないようになりたいのとなるべく叱られたくないですね」
と、私が言うとあの子は少し険しい顔をして、
「叱られたくないというのは少し失敗をしてもですか?」
と、私に訊いてきました。なので私は
「少しくらいは大目に見てくれても」
と、答えました。するとあの子は大きな溜め息をつき、こう言いました。
「これからのあなたの為を思って言わせて頂きます。間違いは人であれ神様であれしてしまうものなのでしょう。なので少しの間違いはしょうがないでしょう。しかし、大きな間違いをしてしまった時に叱るのはあなたの為を思っての事です。あなたに成長してほしいからこそ、親は叱るのです。それをあなたは大目に見てほしいなど甘えにも程があるのではないですか? それに叱られなくなったら最後ですよ。叱らなくなったということはあなたに期待するのが馬鹿らしくなった。と、期待すらされなくなり、愛情も薄くなります。叱ること即ち愛情があるからこそなのです」
私は黙って聞く事しか出来ませんでした。ここで文句を言えばこの子を失望させてしまう。そう感じていたので。
「但し、理不尽に怒鳴りつける、暴力を振るうのは愛情等ではありません。あなたの親御さんはそのような事をするような人ではないでしょう?」
「…はい」
私は重々しく返事をしました。この子の言う通り父上は、理不尽な怒りも、暴力も私にはしてきた事はありませんでした。全て私の為を思っての事でした。それなのに私は直ぐに泣いたり逃げ出したりしていました。…私が変わらなければなりませんね。
私が反省したとみるとあの子は優しい笑顔になり。
「あなたは親御さんに愛されていますよ。立派に育ってくれると期待しているのです。勿論、僕もあなたは立派な神様になると期待していますから。それにあなたは大器晩成型だと思います」
「大器晩成型ですか……、でもそれって今すぐ立派にはなれないって事ですよね!?」
私が少しうなだれてると、
「あなたは努力を積む事が出来る御方だ。だから、断言出来ます。あなたの努力は必ず、必ず報われる日が来ます。その日が来るまであなたの親御さんはあなたの傍に居てくれます。僕も微力ながら、あなたを支える事くらいは出来ます。あなたは愛されているその事を忘れないでくださいね」
その言葉で、私の心は少し軽くなりました。まだまだ立派な神様になるには程遠いかもしれません。それでも、この子や両親は私を見守ってくれる。それが私の支えとなって、私は頑張り続ける事が出来るでしょう。
「ありがとうございます」
私は、私に勇気をくれた、私の小さな神様にお礼の言葉を告げました。
すると、その子はにこっとはにかみ、
「誰かの支えとなる事が私の喜びですから」
と、言いました。本当にこの子は立派な子ですね。
私は、「また来ますね」と伝え、店を出ようとした時にあの子に呼び止められました。
「そういえば名前、訊いていませんでしたね」
そういえばすっかり忘れていました。
「僕は東雲優といいます。これかもよろしくお願いしますね」
私も名前を名乗りました。
──「私は日の本を照らす神、天照大神と申します」──
まだまだ見習いの女神様なのでした。
この話の完結の目処は、女神様が立派な神様になった時です。つまり、未定です。
色々な人とふれあい成長していく女神様を作者と共に見守って頂けたらと存じます。