私は魔王を倒して帰って来たばっかり何ですけど!多くは望みません、寝かせて下さい。(怒)
現在書いている連載がオジサンしか出て来ないので、ちょっと浮気です。
でも基本女の子二人の話なのに、華やかじゃない。
「痛い!何するのよ!手を放してよ!」
何をする?は、それはこちらの言う台詞。
「何をしている!妹に乱暴するな!」
怒鳴らないで下さいな、癇癪持ちの貴方の声には昔から良い思い出が有りません。ただでさえ、こちらは気力を削られてるんです。
ため息しか出ないけれど、一応抗弁しなくちゃいけないの?
「お言葉ですけれどお父様、そこの寝台に突き刺さっている短刀が見えていらっしゃいます?刺したのが妹、直前まで寝て居たのが私なのですが、私に自分の身を守るなとか、よもやおっしゃいませんよねえ?」
ですから取り押さえたんです、見てわかりませんか?けれど魔族の相手ばかりしていたから、力加減を間違いそうです(笑)私は今寝起きですし。
貴族の女性用の護身用の短剣程度では、もう刺さりもしませんけど、ソレはソレです。
ああ、心がささくれる、8年ぶりで忘れていたけれど、我が家は最前線の戦場より気が休まらない。
魔王討伐、それに続く魔族の残存勢力掃討の為に、私達勇者一行と殿軍は遠回りして連合国軍本体に遅れること2ヶ月後、母国王都の城門を潜りました。
「祝勝会も戦没者の慰霊祭も後日執り行う、まずは8年振りの家族との再会だ。勇敢なる戦士達よ皆良く戦った、今日はゆっくりと休んでくれ。」
国王陛下にお心遣い頂いて、宿に泊まりたいです、帰宅したくありません、とか、まぁ言える筈もありませんので、嫌々戻った訳ですが。
安眠には程遠いとは思っていたけど、帰って来たその日に家族に永眠させられそうになるなんて、我が国の帰還兵の中でも、私くらいじゃないの?
Q.問題です。魔王を倒して帰って来たら、家族に命を狙われました。何故でしょう?選択で答えなさい。
1、私の事が目障りな国内貴族の買収に応じた。
2、魔族の甘言に操られている。
3、この家族は偽物で、魔族が化けている。
全部どれでも正当防衛が成立しますが、答えは3で良いかしら?後腐れ無く、愛剣の一振りでバッサリサックリ片付きますし。
などと現実逃避な事を考えていたら、父が腰の剣を抜いて斬り掛かって来ました、寝起きで考えている事が声に出ていたようです。
バッサリは冗談ですよ?
押さえ付けたままの妹を助けようとしたのでしょうが、まず『落ち着け』とか言葉で止めてくれませんか?ウッカリ背骨を折ったりしませんよ。
突っ込んで来る勢いを利用して、手首を掴んで壁に投げつけます、いつもの習慣でついでに骨折させてしまいました、一連の流れでトドメまで刺しそうです、まあ言ったそばからなんて事でしょう、昨日まで戦場にいたとは言え、身についた技量と言うものは我ながら恐ろしいですが、お父様も鍛練が足りませんね。
さて、答えは三つのどれでもありません。
自分で認めるのは、悲しくて辛いですが、私は弟妹達とは差別されて育ちました。
幸い幼い頃に同居していた祖父が目を光らせてくれたお陰で、食事を与えない等は出来ませんでしたし、魔術や武術の修練中の暴力(と言うか攻撃)はすぐに、自力で反撃出来る様になりました。
両親がしたことは、妹達は溺愛し、私の事は何を成しても褒めず、労わず、理由無く罵倒し、又は無視をする。
基本は精神的な虐待ですが、幼い頃はそれなりに悲しかったですよ?毎日罵詈雑言を浴びせられれば誰でも嬉しい訳が無いでしょう。
父に言わせると『私が悪い』そうですよ?学業でも魔術でも武術でも、私が余りにも異常な成績を修めるて褒めちぎられるので、比較される妹も平等に扱おうとするのなら、私を引きずり落とすしか無かったそうです。
17歳と16歳、子供が子供を産んだ様な新米の両親に、『祝福の花』は荷が重かったというのが、二人の言い分です。
私も貴族の子女ですから、そんな人達でも、礼儀として家族に帰還の挨拶をしないという訳には、参りませんが、ですが。
「勝手に家を飛び出して、身持ちの悪い娘が今更帰ってきて、勇者一行の一員でした?出鱈目を言うのも大概になさい。」
箱入り娘がそのまま世間知らずな奥様になったお母様のお言葉は、私の8年間の戦いの全否定でした。
従軍して屋敷から姿の見えなくなった私を、母は口に出すのも憚られる悪所に身を落とした、ふしだらな娘だとでも思っている御様子、どのような紆余曲折を経てそんな結論(誤解)になったのでしょう。
出陣前の挨拶は、耳に届いてなかったんですね。
そんな華やかな場所で働くなら、一定水準以上の容姿が要求されるのですよ、こんなに嫁入り前から古傷だらけでは働けませんとも。
「女のくせに、戦場にまでしゃしゃり出て自分は活躍したと有頂天の様だが、お前のせいで面子を潰された弟の気持ちを考えた事が有るのか?」
我が国は魔大陸からは遠いですが、50年の長きにわたって続いた戦乱で、貴族家の子女には、二人以上の子供がいれば必ず一人は兵役に出なければいけない義務が有ります。
私達双子の姉妹と一歳下の弟の三人のうち、死んでも惜しく無いと言って私を選んだのは、何処のどなたですか?
ちなみにその弟は、激戦地にいる私達から遥か遥か後方の安全な場所で物資の管理を任されていたのに、横領が発覚して告発者を口封じしようとして、返り討ちにあって大怪我をしたそうですが。弟のどこに面子が残っていますか?
そして翌日、早朝からこの騒ぎです。
「お前ばっかりズルイわ、弟は大怪我したのにどうしてお前だけが無事に帰ってきたのよ、双子なのにお前だけ女神様の祝福を受けているのよ、その上王太子様のお妃になるなんて、私はお前のせいで化け物の妹と呼ばれて縁談もまとまらないのに、どうして……」
とうとう『お前』『化け物』呼びですか、そうですか。
妹は怒濤の様に涙と一緒に、支離滅裂な不満を並べ立てているけれどね、いっぺんに言われても困るわ。
嘘泣きでしゃくりあげながら良くハッキリ発音出来るものだわ、長年培った演技力って凄い、私はもうひっかから無いけど。
そもそもあなたの縁談(男爵家長男)が無くなったのは、王都に攻め入って来た上級魔将を私が討ち取って、名誉伯爵の地位を賜った時に、相手の方の家格が釣り合わなくなったと言って、あなたが自分で破談にしたのよね、忘れたとは言わせ無いわよ。
『名誉伯爵』って独立して別家を立てた、私が“存命中”だけ有効な爵位なのよ、実家に関係無いし、実質中身は男爵と変わらないわ(笑)
弟の怪我は自業自得だし、殆どが文句を言われたって、私自身どうにも出来ないことばかりだし、なにより。
「王太子殿下とのお話なら2ヶ月も前にお断りさせていただきましたよ。」
情報が遅いですね、そもそもソレって各国が国に取り込みたい、『祝福の花』10人の中で我が国の出身は、女の私だけだからであって、男の人なら王女様との縁談でしたでしょう、これほどあからさまに名声目当て、地位(と言っていいの?)目当てな求婚も無いと思うわ。
「なぜ断るのよ?私がいるのよ!」
意味がわかりません。
「コレは私の縁談で、あなたには関係無いでしょう?」
妹は私にばかり王太子妃という玉の輿が舞い込むのはズルイと言って、ついたった今、就寝中の私に短剣を突き立てようとした筈ですが?
「関係無いですってぇ、私達は双子なのよ!」
貴族の縁談は家同士の結び付きですから、姉がダメなら妹を、というのは良く有ることですが、今回はそれは無理じゃないかしら?
あなたじゃ政治利用出来ないもの。
ああ!解った。
『双子なのよ!』ですか、ひょっとしなくても、私を殺して入れ替わろうとか?幼い頃ならともかく、今は見分けがつかない程うり二つな訳でも無いのよ、特に私が逞しくなりすぎて(泣)
『私がいるのよ!』は、私にはこの縁談が要るのよ!ですか?
私を殺すのは、まあ確実に成功しないから今は置いておくけど、王家を謀るのは重罪ですよ。
「なんだこの騒ぎは?」
そこに別の声が割り込んで来ました。
「あら、お爺様、ずいぶんとお久しぶりでございます。」
出陣前に最後にお会いした時には、生きているうちには、お互いもう会えなくなるかと思っていた祖父がそこにいました。
ごめんなさい、中途半端ですね、直ぐに次を上げます。