にゃんにゃん(全年齢対象)
ルビィは、私に似て可愛いものや動物が大好きです。ぬいぐるみを買っても喜ぶし、庭に鳥が来たらおおはしゃぎするくらいに。
もう八歳にもなるルビィですが、そういう所は無邪気な子です。好奇心も強く、気になった事は素直に聞きます。
「マリアって何でねこさんの耳としっぽがあるの?」
なので、偶にルビィは普通正面から向かって聞かないような事も聞いてしまう事があります。
マリアがうちに来て早七年。
ルビィの御付きになってから、三年が経っていました。
ルビィにとって、幼い頃から側に居るマリアに猫耳と尻尾が生えているのは当たり前の事でした。だからこそ、今までそれを追及しなかったのかもしれません。
でも周りを観察出来るようになり、視野を広げようとしている今、改めて気になったらしく、ルビィは首を傾げていました。
マリアはというと、ルビィの質問に動じた様子はありません。この家に来てから差別なんか有り得ませんし、獣人としてもマリア個人としても保護されています。
だからこそ、指摘を受けても害意がないと分かってるのでしょう。
「……私はルビィ様と違う種族にありますので」
「……しゅぞく?」
「ルビィや私とは、ほんのちょっと違うんですよ。そう大差はないですけどね」
種族が違うと言っても、殆ど変わりはありません。顕著に違うのは獣耳と尻尾くらいで、あとは身体能力に差がある程度。耳と尻尾さえ隠してしまえば、人間にしか見えないのですから。
マリアは相変わらずの小柄で、私よりも背が低い。それでも身体能力は比べ物になりませんし、多分鍛えれば騎士団とかにも対抗出来るレベルで優れた体を備えています。今でもある程度は鍛えているらしいのですけどね、ルビィの護衛が出来るように。
ルビィは言葉だけでは上手く飲み込めないらしく、マリアの耳を触っては不思議そうにしています。
ふさふさと毛並みの整ったそれは、細い指先が表面をなぞる度にぴくり。特別に仕立てたメイド服、飛び出た尻尾もふりふりと動いていて……ああ、私も撫でたいもふもふしたい。でも今はお仕事中ですしルビィの時間だから我慢。
「ぼくには、生えないの?」
「……ルビィ様には生えないですね。代々受け継がれて来たものですので、次に生えてくるのは私の子供になります」
小さく「……相手は現れないでしょうが」と付け足したマリアに、将来好い人を見付けてあげようと決めた私です。
獣人だからって女の子の幸せがないなんて、そんなの酷いです。偏見も差別もない人に嫁がせてあげたいものですね。幸せになってくれて、偶にもふもふさせに帰って来てくれたら尚良し。
こっそり誓った私に、マリアは何だか第六感を働かせたらしく微妙に困ったような顔をしておりますが、口に出してないからセーフ。
ルビィはというと、マリアの言葉を聞いてうーんと唸っています。
やっぱり種族の違いとかその辺は八歳児には難しかったでしょうか、なんて思ったのも束の間。
「こどもってどうしたら出来るの?」
多分子供に聞かれると一番反応に困る事間違いなしな質問が飛び出てきました。
無邪気な好奇心で問い掛けたのでしょうが、答える私としては非常に解答しにくい。にゃんにゃんするとか時代錯誤も甚だしい言い方をしたら、猫耳なマリアと意味も分からずにゃんにゃんするとか言い出しかねません。
かといって具体的に言ったら理解出来ないでしょうし、私が恥ずかしい。ルビィにはまだ早いです。
子供特有の澄んだ眼差しに見つめられては曖昧に流す事も出来ず、どうして良いものかと黙って見守っていたジルに視線を送ると……あっ、逸らした。そこは大人の出番でしょうに。
「え、ええと、ですね……ルビィには、まだ早いというか」
「えー! 姉さまのいじわる!」
「い、意地悪……。……ええっと、……好きな人同士が仲良くしてたら出来ますよ?」
嘘は言ってない筈、うん。
「じゃあ、姉さまはセシルお兄ちゃんやジルとこども出来る?」
ぶっ、と吹きそうになったのを堪えつつ、何とか笑顔を保ってルビィの頭を撫でます。後ろでげほげほとジルが咳き込んでいたので、不意打ちに巻き込まれたのが良く分かりました。
因みにマリアは涼しい顔をしています。……あれ、何で私が凄く慌ててるんでしょう。
「そ、そうですねえ……夫婦になったら、出来るかもしれませんね……?」
「ふうふ?」
「結婚した男女の事ですよ。父様母様みたいな」
「けっこん、……姉さまけっこんしないの? ぼく、姉さまのこども見たい」
「ま、まだ当分先ですねえ……」
私、まだ十三歳ですからね。体的には子供は授かる事が可能ではあるものの、負担が大きいしそもそも相手が居ないというか。
引き攣りだした頬が笑顔という仕事をしてくれなくなったので、取り敢えずルビィをなでなでして誤魔化します。ルビィ、お姉ちゃんまだ結婚の予定はないので許して下さい。
「る、ルビィは、子供見たいのですか?」
「うん!」
ルビィの表情筋は絶好調のようで、輝かんばかりに眩い笑顔。子供だから邪気がない分、質が悪いというか。
「……えーと、……お父様に頼んでいらっしゃい?」
「父さま、こども見せてくれるの?」
「……母様の同意があれば」
後ろで「ヴェルフ様に押し付けましたね」という呟きが聞こえましたが、知りません。
父様には後でごめんなさいをすると同時に、次があるなら妹が良いですと然り気無くおねだりしておきましょう。まあ性別までは操作出来ませんけど。
取り敢えず、夜はお部屋に近付かないようにしてあげる配慮くらいはしておくつもりです。
ルビィは「分かった!」と笑顔で頷いて、多分父様の所に駆け出しました。仕事が休みだったのが災難でしたね父様。いや幸福には幸福でしょうけども。
「……お嬢様、逃げましたね」
「だ、だって……私に欲しいとか言われても……」
「リズ様、どうなさるおつもりですか……」
その時はその時です。
その数ヵ月後に母様が懐妊したという報告を受けて、三人で額を押さえたのは栓なき事というか。
 




