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父様へのお願い

 ジルには襲われた時の対処を考えなさいとかよく言われますけど、二度とそんな事がない事を祈るべきだとも思うのです。勿論怠けて訓練を怠り、自分の身に危険が迫った時に無力で殺されたりとかされても嫌なので、努力は欠かしませんが。

 そもそもジルから離れなければ解決する気がしますね。確実に手出しする人間を排除するでしょうから。


 まあそれは抜きにしても、どちらにせよ強くありたいとは思うのです。

 自分の身を守る為、誰かを守る為、それから将来の役に立てる為。出来れば魔導院に就職して父様の右腕になれるくらいになりたいのですよ。

 ……政略結婚?そこは追々考えます。父様のお眼鏡に敵う方が居たらその人になるのでしょう。

 個人的には好きな人間を見付けられなかったら生涯独身でも良いのですが……まあそれは父様に止められるでしょう。私を溺愛するとはいえ、アデルシャン家の家長なのですから。


「父様、魔導院で働きたいのですけど」

「は!?」


 結婚は置いておくにしても、強くなる為には実践が一番と父様は言いました。そしてその実践と実戦の為には、魔導院に居るのが一番良いと思うのです。


 でもって魔導院で働くとなるとトップの許可とか要りそうですし、実質上の支配者である父様にお願いしたら、すっとんきょうな声を上げられました。

 想定してなかったらしい父様は、愕然と此方を見ています。普通に考えれば、今までの言動からしていつかはこうなるとか分かっていたでしょうに。


「一番勉強になるのが魔導院で働く事だと思ったので」

「そりゃあそうだろうが、リズはまだ子供で」

「いつまでも子供でいられませんから」


 否応がなしに、時は進みます。今はまだ子供でも、直ぐに大人になって父様母様の庇護から外れる時が来る。

 それを分かっているからこそ、今の内に出来る事はしておこうと思うのです。


「将来自立出来るようにしておきたいんです」

「結婚とかはどうするつもりだ。成人すれば、適齢期が来るぞ」

「貴族の責務としてならするつもりはありますよ」


 父様が心配しているような事にはならないつもりです。ちゃんと父様達が選んだ相手に嫁ぐつもりです、少なくとも今のところは。

 父様の事ですから、私が嫌がりそうな相手は選ばないでしょうし。そうなると対象も限られて来るでしょう?


「相手はセシル君が有力候補でしょうし、それだったら別に嫌がる理由はありませんよ」


 父様、実は婚約蹴ってないでしょう?と首を傾げて問い掛けると、ぐっ、と言葉に詰まったらしく片頬が吊り上がっていました。


 セシル君から聞きましたけど、どうやら父様は正式には蹴ってないらしいです。シュタインベルトの押しが強かったのと、私が然程嫌がってないからでしょう。


 それに、余計な虫にたかられるよりは、セシル君を側に置いといて虫除けをして貰った方が良いと考えているのだろう、ってセシル君が。

 まあ確かに一理ありますね、何処の馬の骨とも知らぬ輩に狙われるよりは、まだ見知った人に保護して貰いたいでしょう。


 正式な婚約にはなっていませんけど、噂でちらつかせる事にはなってます。シュタインベルトも、それで充分に繋がりが出来名誉も回復するので一応は納得している現状です。

 ぶっちゃけうちと懇意にしているくらいの噂で充分でしょう、と私は思うのですがね。


「セシル君なら私が家を守らなくても怒らないと思いますし、寧ろセシル君が守りそうです」

「遠回りに引きこもりって言ってないか?」

「そんな事はなきにしもあらずです」

「おい」

「セシル君は私の意思を尊重してくれると思いますし。……父様、魔導院で働いたら駄目?」


 基本我が儘を言わないからこそ、おねだりは通用するものです。

 若干あざといとか思いつつも父様に縋り付いて、首を傾げてみせます。母様似の顔立ちなので、父様多分弱いんですよね。元から溺愛してくれてますし。それに……うん、父様って母様に弱いのですよ。かかあ天下とまではいかないと信じていますが。


 うぐ、と言葉を詰まらせた父様に、後もう一押し。今度は切なげに瞳を伏せて、しょげたように肩を落とします。


「父様の力になりたかったのに……」


 寂しそうに呟くと、父様も拒む事が出来なくなったのか、とうとう困ったような溜め息をつきました。

 抱き締めて頭を撫でた父様は仕方ないと小さく溢していて、ちょっとズルして申し訳ない気分になります。でも、許して欲しいのです、私が道を見付ける事を。


「……試験受けて、受かったらだぞ。あと、受かっても非常勤な」

「やった!父様大好き!」


 我ながら現金だと思いつつも父様に抱き付いて顔一杯に笑みを浮かべると、これも想像していたらしく深く嘆息をされて背中を撫でられます。


「……あっという間に巣立ちそうで恐いな、リズは……」


 何処か途方に暮れたような呟きを口から吐いた父様に、私はごめんなさいと心で謝ってから胸元に顔を埋めました。


 ……まだ、鳥籠に収まっていますけど、いずれは私も羽ばたく時が来る。それまで父様の下に居るから、そこだけは安心して下さいね。



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