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番外編 庇護欲

番外編第二弾は人気投票二位のセシル君です。

セシル君視点です。

 黙っていればそれなりに可愛らしく儚げで繊細そうな女、というのがリズだ。

 結構な間側に居る俺からすれば、最初は兎も角儚げで繊細とかは否定するしかないのだが。


 確かに客観的に見れば、醜美で表すなら美の方に天秤が傾くだろう。

 色素が薄くさらさらな髪に宝石のような深緋の瞳、真っ白な肌。顔立ち自体は親の血を継いでいるのか整っているし、体格も小柄で華奢。

 ……胸?勘弁してくれ。俺は知らん、頼むから考えさせるな。ジルにでも聞いておけ。


 まあ総合的には可愛らしく、守ってやりたくなるというのが一般的な印象だ。




 だが、親しくなるとその評価は変わってくる。

 あいつは、結構に強かな女だ。精神的にも、肉体的にも。まあ魔術暴走に血塗れで突っ込んで頭突きかます所からお察しだな。体が特別丈夫という訳ではないらしいが、ちょっと変な女である。

 中身は中身で俺をからかいに走ったり計算で他人に接したり、時には演技を辞さない構え。これを強かと呼ばずしてなんと呼ぼうか。


 こう言うとリズに悪魔的なイメージが先行してしまうが、実際は素でやってるからもっとのほほんとした女だ。無自覚にやってるから質が悪くもあるのだが。

 変に賢く鋭く、変に鈍く幼い。弟バカで、弟大好きと公言して憚らない。


 そして、妙な所で弱い。


 普段は無駄に強かでへこたれない癖に、ふとした拍子に弱る。一番弱ったのは、反乱の時かもしれない。

 リズからは、ロリコンから襲われたと聞いた。泣いた事も。

 あいつが泣くなんて、見た事がない。じわっと来ていた事くらいはあっても、ぼろぼろ泣くのはなかった。

 その時に、今更あいつは女の子だと思い知らされた。強いけれど弱い、普通の女の子なのだと。


 ……ちゃんと、女扱いしないといけないと、思った。リズは強そうに見えても、少し爪を立てたくらいで傷付いてしまいそうな繊細な奴で。

 ……ルビィやジルが守りたがっているのも、何と無く分かった。庇護欲をそそるのだ、あいつは。あの屈託のない笑顔を守りたいと、そう思わせるのだ。




「リズベット嬢は中々姿を表さないな……」

「是非お近付きになりたいものだが」


 親父によって仕方なく出席させられた夜会で、ふとそんな会話を聞いた。

 グラスを片手に壁の華……にはならんが壁に凭れかかっていた俺に、溜め息混じりの会話が届いた。どうやら同じように夜会に参加していたらしい、どこぞの貴族の子息が固まって話しているようだ。


「魔導院には偶に姿を見せるのだろう?そこを話し掛ければ、」

「無理に決まってるだろ、従者が見張ってるんだから」

「ああ、あの元サヴァンの末子の……」


 声を潜めているつもりらしいが、普通に筒抜けだからな。俺が聞いているとも思っていないみたいだが。

 ジルはよくも悪くも有名だ。取り潰しの処罰を受けた家系の末の子で、反乱の首謀者を断罪した男で、そして滅多にパーティなどに出席しないリズの従者でもある。アデルシャン家に取り入りたい輩からすれば、邪魔でしかないのだろう。


「見掛けは好みだし大人しそうで丁度良いんだがなあ……」

「何が丁度良いんだよ」

「ほら、嫁にしたら御奉仕してくれそうじゃないか?言う事聞いてくれそう」

「はは、強く言えなさそうっぽいもんな」

「何処がだよ」


 二人の会話に思わず突っ込んでしまった。いやだって言う事聞くとか御奉仕とか、ないだろ。つーかそんな下劣な妄想にあいつを使うな、気持ち悪い。


 俺の突っ込みに、二人は漸く俺の存在に気付いたのか両目を見開いている。周りの存在に気を配るくらいしろと言いたいな。


「……これはこれはセシル殿、ご息災でいらっしゃいましたか?」

「身内から大罪人が出て大変なようで」


 にたにたと嫌味を言ってくるのは流石貴族社会って所だな。正直どうでも良いが。貴族から平民に落とされようが。

 極論貴族でなくても俺は魔導院で働ければ良い。貴族という事に誇りは然してない。下らん慣習と醜い権力争いなんかくそくらえである。


「ああ、此方は随分と忙しくてな。何もしない無能と違って、反逆者の処理に忙しかったからな」


 勿論無能とは目の前のこいつらである。

 正面から言って敵に回すのは本来良くないが、正直こいつらが何か出来るとも思わない。そもそも無能は事実だ、魔力反応も微弱で、そもそも反乱時は家から一歩も出ていないだろうからな。


 誰とは言ってないのだが、自覚があったのか目の前の二人は顔を赤くして肩をぷるぷると震わせている。取り繕うつもりがないから構わんが。


「あいつの事何も知らないのによく言えたな、そんな事」

「……では、セシル殿は知っていると言うので?」

「そりゃリズの家に出入りしてるからな」


 これだけは自負出来るが、リズと友人として仲が良いのは俺だ。あいつに言ってやるつもりはないが、あいつは結構大切な友人である。……唯一無二、と言って良い程に。

 だから、何にも知らない野郎にリズの事を語られると鼻で笑いたくなるな。同時に、苛々もするのだが。


 何が御奉仕だ、何が言う事聞いてくれそうだ。あいつがそんな中身してるとは思わない。

 あいつは案外我が強くて、そして、認めた奴にしかなつかない。こいつら如きがリズに認められる訳がない。


「言っとくが、……お前らみたいなのが、あいつに手を出せると思うなよ。無理矢理手込めにしようもんなら、ヴェルフもジルも、俺も黙っちゃいない」


 その前にこいつら如きなら、リズが魔術で捕縛なり昏倒なりさせるだろう。

 それは分かっているが、あいつが再び男に襲われるなんて避けたい。下らない野心で触れられて穢されるなんて、あってたまるか。


 あいつは、日溜まりの中に居るべきなんだ。幸せに笑っているべきだ。

 俺が傷付けてしまったあいつ。ずっとずっと溜まっている利息を、俺はこれから返していかなければならない。

 願わくば、リズの隣で友人として。


「汚い感情で近付くなら、周りが黙ってねえからな。覚悟しとけ」


 ……あいつには内緒だが、こっそり守ってやるくらい、してやるに決まってるだろう。絶対に言ってやらんけどな。


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