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仲良き事は

 現魔導院トップである父様にも近道はないとはっきり断言を頂いたので、私は継続は力なりコースで行こうと改めて決意しました。まあこれが結局一番近道ですよね、と納得してます。

 そもそも私の場合は制御が甘い事が一番の課題ですので、制御なんか一朝一夕で出来る訳がないですし。魔力量は多いですし、これから容量の成長期なので更に増えるから問題ないでしょう。


 つまり、回数こなして慣れていくしかないって事です。


「……火の魔術苦手なんですよねえ」


 父様やジルはほいほい全属性使ってますけど、私にはそれが難しいです。

 一応私にも適性はありますし、その適性は寧ろ良い方な筈なのですが……火の魔術は何故か苦手です。暑いの嫌いだからですかね。

 ジルにも才能はお墨付きを貰っているのに、それが発揮されてないのですよ。私の実力不足が否めません。


 うーん、と小さく唸りながら、頭上で魔術を展開しては思案に耽ってしまいます。

 出すだけなら、こうやって業火球くらい出せます。自主練習なので放つ場所がないですし、上で待機状態なのですが。お陰で地味に熱い。


 私には何が足りないか。

 制御能力は勿論なのですけど、……覚悟が足りないのでしょうか。人を傷付ける、覚悟が。


 今魔力で炎の球を具現化させている訳ですけども、これを誰かに当てるとなるとやっぱり躊躇ってしまう。仲の良い人なら尚更。

 ジルにぶつけるのも本当は嫌なんですよ、防ぐと分かっているから撃ちますけど。


「そのまんま出されると危ないだろ」

「ルビィに当たったら大事ですもんね」


 悩む間も発動したまま放ちはしなかったので、それを見ていたセシル君が注意を飛ばして来ました。ルビィはその側で一生懸命剣……まあ木製ですけど、剣を振っています。




 結局剣術の稽古もセシル君が引き受けているそうです。と言っても父様が優秀且つ信頼のおける師範を探しているそうなので、それまでの代役らしいですが。


 その為、今日はセシル君は動きやすそうな服装です。

 ローブやマントは着けてないですし、長袖は腕まくり。下は捲ってないですけどそれは仕方ないにしても、今までにないくらい軽装をしていました。


 セシル君は夏期っぽい季節も長袖とローブなので、初めてこういった姿を見る訳ですが……思ったよりも、逞しい。筋肉ムキムキではないですけど、決してひょろくはない。

 この間は確かに失礼な発言をしてしまいましたね、反省です。


「ルビィの調子はどうですか?」

「まあ体力はないな。素振りやらせて良いのかもちょっと悩んだ」

「取り敢えず軽く庭で遊ぶ事から始めては?」

「それは午前にやった。今は本人たっての希望でちょこっとだけ握らせてる」


 完全に訓練のつもりでルビィはしてるでしょうけどね。顔が物凄く真面目なので。


 ちゃんと火を消してからセシル君の側に寄ると、ルビィは額から汗を流しながらも私に笑顔で手を振ります。剣ごと振っちゃ駄目ですよ、ルビィ。特訓にはなってるでしょうが。


「……剣ってちょっと憧れますね。ジルには駄目だって言われましたけど」

「筋肉つけて欲しくないんじゃないのか?二の腕ぷにゅんぷにゅんのままで居て欲しいとか」

「むっ、とは失礼な。ぷにぷにはしてますけどそこまでじゃないです」

「いや変わらねえから」


 いやいやぷにゅんぷにゅんとぷにぷにの差は大きいのです。ぷにゅんぷにゅんって、凄く柔らかそうじゃないですか、締まりがなさそうで。私そんなにたるんでないもん。


 むー、と唇が自然と突き出た私に、セシル君が呆れたように肩をすぼませて、私の二の腕を掴みます。

 今日は半袖のワンピースだったので直に掌が触れて、指ががっちりと皮膚に張り付く。確かにぷに、と効果音がつきそうな感じはしますけども……ぷにゅんぷにゅんとかぷにょんぷにょんじゃないですもん。


「……俺には違いが分からないんだが」

「兎に角ぷにぷにで良いのです。……セシル君、辺りにジルは居ませんよね」

「振りたいんだな。ほらよ」

「流石セシル君」


 どうやら言わなくても私の意図は理解してくれたらしいセシル君、ぽいっと片手にしていた木製の剣を投げてくれます。

 個人的には投げて欲しくなかったのですが、ギリギリキャッチ出来たのでよしとしましょう。


 掌には、結構な重量がある剣。鉄製だったら確実に落としてましたよ。


 これは片手剣、それも細身の……所謂レイピアに近い形の形状をしています。

 フェンシングで使うフルーレのような刺突に特化した刀身ではなく、きちんと刃のついた形。細いには細いけど、思い切りぶつけても折れない程度には太さと厚みがありますね。


 セシル君は簡単に投げてましたけど、私にはぶんぶん振るとか多分無理です。途中で疲れ果てます。流石男の子。

 あ、ルビィはこれより小さめの剣を振ってますよ。家にこもっている七歳児にこれを振れってキツいと思うので、


「……もうちょっと軽いのは?」

「我が儘言うな」

「うーん……これ振ったら明日筋肉痛になりそう。まあ頑張ってみます」


 ジルにばれないと良いのですけど。鋭いですし。


 もうちょっと軽かったらチャンバラごっことかしたのですけどね、魔術ばかりだったしインドア派な私の憧れだったのに。

 ……後で箒とかで遊んでみましょうか、ルビィと。喜びそうですし。ジルには内緒の方向で。


 取り敢えず剣を片手で持って、やっぱり片手だとちょっと重いと眉を寄せて。

 そのまま柄を視線で真っ直ぐに捉えられる位置まで持ち上げます。


 力を込めて下ろすと、ぶおんと鈍く音が鳴りました。

 そのまま、繰り返し数回。


「お前姿勢がおかしい」

「えっ、駄目ですか?」

「棒立ちで振るあほが居るか」


 そんな事言われても振った事がないですし、とぼやくと、残念な物を見るかのような眼差しをプレゼントされました。

 ……だって、やんちゃな事出来なかったですし。誘拐やら決闘やら怪我やらで危ない事から遠ざけられていたんですもん。

 そう考えると深窓の令嬢とか言えなくもないですけど、中身が如何せんこれですからね。




 どうしたら良いのかもさっぱりなので首を捻るしかない私に、呆れつつも見兼ねたらしいセシル君が手を伸ばして来ます。

 見捨てないのはセシル君の優しさだと理解しているので、実は何だかんだ手を差し伸べてくれるのではないかと期待していました。本人に言ったら止めたとか言われそうなので内緒ですよ。


「直立でやる馬鹿が居るか。ほら、ちょっと脚開いて立って……」


 後ろから包むような体勢で手を添えて、耳元で囁くセシル君。

 ……最近ちょっぴり声が低くなって来ている気がして、何だか不思議ですね。身長だって、昔は私の方が大きかったのに、今じゃ普通に抜かされてますから。

 成長期って凄いですよね、と改めて実感する例です。


「聞いてるのか?」

「聞いてますよ、こうですか?」


 疑う眼差しを向けられたので、私は慌てないように気を付けながらセシル君の言われた通りの姿勢を取りました。

 片手剣でしたけどちょっと私には物理的にも荷が重かったので、両手で構えてみて、セシル君に確認。若干不安定だったらしく、後ろから構えを修整してくれます。

 背後から抱き締められるような体勢ですけど、本人は至って真面目で気付いてないみたいですね。


 近付いて改めて思ったのですが、セシル君って結構良い匂いがします。匂いフェチって訳ではないのですよ、うん。

 でも石鹸っぽい、清潔な香りは凄く好きです。ジルと違うのは、そこに微妙に柑橘類の匂いが混じっているのですよね。


「ちゃんと脇締めろ、それから背筋伸ばして」


 まあ近いのは私が抱き付いたりしますから今に始まった事ではない。気にはしませんので、敢えて言う必要もないでしょう。

 肩の辺りに顔があるので、横目で見えますけど本人真剣ですし。水を注すのも悪いですから。


 セシル君に従って剣を振ってみると、さっきよりは形になったかなあとは思います。

 風を切るというよりは押し退ける感じにはなってますけど、幾分かそれっぽくなってるので嬉しい。絶対実戦では瞬殺されちゃうのが落ちですけども。


「おー」

「お前見込み無さそうだわ」

「まあ実戦レベルで使えるのになるには五年はかかるでしょうね」

「十年はかかるだろ」

「むー」


 それをはっきり言われてしまうと此方も複雑なのですけど、事実には違いないでしょう。そもそも魔術特化型の能力ですし、護身術くらいで充分です。


 セシル君だって剣得意じゃないって言ってた癖に、と唇を尖らせると渋い表情が返って来ました。

 うるさいな、と小さくふてたように呟くので、それが可愛らしくてついつい笑ってしまいます。勿論セシル君が不満顔で睨んで来ちゃいますけど、怖くないですもん。


「セシルせんせー、おねーちゃんとなかいいねー。ぼくもぼくも」


 ちょこっとほっこりしていると、ルビィが屈託のない笑みで私とセシル君ごと抱き付いて来ます。

 緩んだ笑顔に、漸くセシル君は今の体勢に気付いたらしくて慌てて離れようとするものの、ルビィが抱き付いてるから乱暴に出来ないのが現状。というか気付かなかったのが凄いですよね。


「今更拒まなくても」

「気付いてたんだったら突っ込めよ!」

「真剣なのに水を注すのも悪いかと思って。別に気にしなくても良いのに」

「気にするわ!」

「そうですか?」


 だって近いの今更ですし、抱き締めるのは慣れてますから。今は立場的に逆ですけども。


「ほら、ルビィも仲良くしたいって言ってますし。抱き締めてくれる甲斐性くらいあっても良いでしょう?」

「お前からかう気満々だよな」

「バレました?」


 悪戯っぽく口の端を吊り上げたら、軽く頬を引き攣らせて私の頬を背後から掴んでむにむにして来るセシル君。いひゃいと抗議しつつも、頬が緩むのは止まりません。

 ……結局抱き寄せている事に本人は気付いてないのでしょうね。まあ仲良き事は良き事かな、です。ルビィが喜んでるので、暫くはこのままにしておきましょう。

 


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