強さの秘訣は?
「父様、強くなるにはどうしたら良いですか」
強くなるには、強い人に聞くのが手っ取り早いと思うのです。
ジルに直接聞いても良いのですが、出来ればジルをぎゃふんと言わせたいのでジルに師事しつつも他でも特訓するつもりなのですよ。
漸く仕事が一段落ついたのか、久々にゆったりとしていた父様の所に押し掛けて開口一番に問うと、ぽかんとした父様の顔とご対面です。いきなり過ぎたとは自覚してますけど、私としては切実な問題なのです。
「……いきなりどうしたんだ?」
「強くなりたいので」
「女の子が強くなりたいってのも中々に見ないな。リズにはジルが居るだろ、別にリズが強くならなくても」
「強くなりたいのです!」
「お、おおう……凄い意気込みだな」
私の食って掛からんばかりの勢いにたじろぎ気味な父様は、取り敢えず私を落ち着かせようと手招き。
逆らうつもりもないので素直に父様に歩み寄ると、手を引かれて膝の上に誘われます。まあ嫌ではなかったのでそのまま膝に乗っかると、お腹に手を回して抱き締めて来る父様。
反抗期と言うものは迎えていないので、別に拒む理由もないです。ちょっぴり恥ずかしい気もしますけど。
抱き寄せたまま肩に顎を乗っける父様は、横目で見た限りで柔らかい笑顔。何処か悪戯っ子のような年齢を感じさせない笑みが、頬の側で揺れていました。
「何で強くなりたいんだ?」
「これから色んな危険に遭うかもしれないので、自衛の為に」
「凄く具体的だな……」
真顔で答えると、やっぱりちょっぴり困ったような笑みが表情に浮かびますが、それでも父様は楽しげに瞳を細めています。それでいて何処か寂しそうに見えたのは、私の気のせいでしょうか。
「リズもどんどん俺の手から離れていくな、一人立ちは嬉しい事なんだが」
「いつまでも頼っていられないというのが実情です。本音はまだ甘えていたいのですけど」
そりゃあ私だってまだ父様やジルに寄りかかって幸せに浸っていたいですとも。
でも、危険は待ってくれないし、何かあった時に一人で何も出来ないのは自分が困るだけです。自衛くらい出来ないと、周りに迷惑がかかりますし。
「俺としてはまだ甘えていて欲しいんだがなあ」
「充分に甘えてますけど」
こうやって体を預けている時点で、大分甘えているつもりです。父様だって甘やかすつもりで私を抱えているのでしょうし。
父様が甘やかしてくれるのは、とても気持ちいい。温かい体温も、案外アウトドア派らしい引き締まった体の感触も、変わらないお日様の匂いも。
頭を撫でられるだけで、無性にむずむずして、同時に言い表せない幸福感があるのです。
父様は私が許した人に髪を触られるのが好きだと分かっているから、あやすようにするすると指を通す。武骨な指が地肌に触れる度に、擽ったさと心地好さが内側に広がりました。
「……どうしても、強くなりたいのか?」
「ん……将来は父様の右腕目指してますから」
「リズ……っ」
「うぎゅっ、父様、苦し……」
右腕、の一言に感動したらしく私を強く抱き寄せて来るのは良いのですが、締まる締まる。お腹が人力コルセット状態です。うとうとしてたのにそれが普通にぶっ飛びましたよ。
苦しいとぺちぺち腕を叩くと、父様は我に返って拘束を緩めます。それでも愛しそうに此方を見てくるから、私も責められないですけど。
「けほ、ジルだって頑張ってるんですよ。父様に打ち勝てるくらいに強くなるって」
「……ジルが?」
「はい。認められるようになる、って。だったら私も頑張らなきゃと思いまして」
あれだけ強いジルがまだまだ高みを目指すのですから、その弟子である私もこんな実力に甘んじるのは駄目だと思います。自衛の為にも、私は魔術の腕を磨かないとならないと感じました。
理由は至極真面目なものなので、父様は私を抱えては唸っています。微かに頬の辺りがひくひくと動いては、不機嫌そうな形を作っていました。
体を反らすような体勢で見上げているから判断は微妙ですけど、何か父様に受け入れがたい事があったっぽいです。
「……良くも悪くも成長したな、お前ら」
「あ、ルビィも剣術学びたいって」
「ルビィもか!?」
マジか、と額を後頭部に押し当てて深い溜め息を零す父様。何で親離れ早いんだよ、と切実な響きの呟きが鼓膜を震わせます。
……父様は私達を溺愛してましたからねえ……早く自立しようとするのが寂しいのでしょう。でもルビィの親離れはまだまだなので安心していても良いかと。甘えたい盛りですし。
「私は兎も角ルビィはまだ親離れしてませんよ」
「リズはするんだな、つまり」
「親離れというか、自立を。いずれは一人立ちするんですし」
「一人立ちって……嫁ぐ方向はないのか。いや、嫁にはまだ行かさないからな」
「誰に嫁ぐんですか」
行かすまいとぎゅうぎゅう抱き締められましたけど、相手が居ないのに嫁ぎようがないでしょう。そう言えばジルが居なかったら貰うって、……いやいやいや、あれは建前です。冗談に決まってる。
だから父様も心配しなくて良いのに、と肩を竦めても父様は抱擁を解きません。
というか何でこんな話になってるのですか、私は強くなりたいという話をしていた筈。
「兎に角、私は強くなりたいので。どうしたら良いですか?」
「そりゃ地道に頑張るしかないな」
父様の返答は至極当然のもので、私はですよねえと苦笑。まあ学問に近道なしと言いますし、全ての事は基礎の積み重ねが大事ですよね。
楽をしたかった訳ではありませんけど、最短距離を欲していたのは事実。それは都合が良過ぎでした。やはり地道に訓練を重ねていく方が良いですね。
「俺も研鑽に励むとするか。そう簡単に渡す訳にはいかないし」
「今や魔導院トップですもんね、父様」
「……まあそういう意味でも良いが。当分の間は、リズは俺達の腕の中に収まっててくれよ」
「よく分かりませんけど、いつまでも父様の子ですよ、私は」
複雑そうな態度の父様に首を傾げつつ、私はそのまま父様に体を預けました。
父様は何を危惧してるんでしょうね。別に親嫌いになったりはしないのに。
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