表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/184

その後のお話

 あの後私はどうやら緊張の糸が切れたらしく、気が付いたらベッドで寝ていました。

 何かカーペットやシャンデリア、調度品といい明らかに自宅ではありません。まあ城の一室でしょう。


 起き上がってベッドに腰掛け、まずは自分の体を確認。


 足首の痛みはないし、自分で切りつけたナイフの傷もない。受け身を取り損ねて打ち付けた背中も痛くない。

 きっと、城の魔導師さんが治癒術をかけてくれたのでしょう。この場合は治癒術師でしょうか。


 まあ、突っ込み所として私の着ていたネグリジェを、更にフリフリにした如何にもな寝巻きにお着替えさせられているくらいですかね。誰のチョイスですかこれ。


 空気を含んでふわふわひらひらな裾を摘まんで、どうしたものかと溜め息。

 流石にこれで外をうろつく訳にもいきません。というか此処まで如何にも女の子な服になると、人に見せるのが躊躇われるというか。


 やはり、大人しく誰かが来るのを待った方が良いですかね。




 仕方ないので待機、という結論を出した私ですが、結果としてその必要はなくなりました。

 どうしようかなあとベッドに転がったその時に、扉を指の関節で叩く音がします。様子を見に来たメイドさんでしょうか。


「はーい」


 取り敢えず起きている事だけは知らせておこうと声を上げたら、勢いよく開け放たれるドア。あまりの勢いにこっちがびっくりしますよ。

 ドアを慌てて開けたのは、セシル君です。これはちょっと想定外ですね、まさかセシル君がわざわざお見舞い(?)に来るとは思ってませんでしたし。


 艶やかな銀髪を乱したセシル君は、私が起き上がって目をぱちくりさせている事に驚いているようです。


「……起きてたのか」

「さっき起きたんですよ、おはようございます」

「もう昼過ぎだぞ」

「あらまあ、寝坊してしまいましたね」


 というか私どのくらい眠っていたのでしょうか。

 私が言いたい事を察して下さったセシル君。それから「丸二日意識なかったぞ」と付け足してくれます。呆れというよりは不安そうな眼差しをしていました。


 ……大怪我した訳でもないのに、とんでもなく寝坊してしまいましたね。私が寝ている間に反乱軍は鎮圧出来たみたいですけど。じゃなきゃ私放置されないだろうし。


「あれからどうなりました?」

「聞いて気持ちの良いモンじゃないぞ」

「良いですよ別に。粗方想像はついてますから」

「……首謀者の一人、アルフレド=サヴァンは死亡。それから糞爺(ゲオルグ)は尋問中だな。終われば、斬首刑に処される」


 まあ、そんな所ですよね。国家反逆罪は普通極刑ですから。衆人監視で首を落とされるよりは、息子に手をかけられた方がある意味マシだと私は思います。


 ゲオルグ導師はセシル君が重症にして捕縛程度で済ませてあるから、まあ公開処刑は免れないでしょうね。

 ……死ぬ前に一発くらい殴らせてくれませんかね、よくもルビィを巻き添えにしてくれたな、と。




 起き掛けには結構ヘビィなお話で、それを気にしたセシル君は淡々と報告こそしてくれましたが、ちょっと申し訳なさそうです。

 窺うような表情で近寄るセシル君。


「……セシル君は、大丈夫?」

「俺は何とも思わん。散々疎まれて蔑ろにされてきたからな、血縁いえど情は湧かない。お前こそ大丈夫なのか」

「体ならピンピンしてますよ、傷も残ってないし。何なら見ますか?」

「止めろ痴女」


 今のが一番ぐさっと来たのですが。冗談だったのに。


「取り敢えず別に体に傷はありませんよ。まあちょっと男性には構えてしまいそうですが」


 反射だからどうしようもないですよね、と肩を竦める私に、一気に表情を暗くするセシル君。顔には暗鬱とした影が漂っていました。

 近付いたセシル君が距離を取ろうとするので、大丈夫大丈夫と笑って手首を掴みます。そのまま、私の隣に腰掛けさせておきました。


「セシル君が怖いとかは思わないので大丈夫ですよ」

「……お前を傷付ける原因を作ったのはウチだ。身内とは思いたくないが、身内が悪かった」

「セシル君は悪くないですよ。悪いのは導師と伯爵子息本人ですし。私としてはセシル君が友人だって怒ってくれて嬉しかったですよ」


 ぶっちゃけ導師とセシル君って仲悪かったし、そもそも原因が祖父だからって責めるというのもお門違いです。

 個人的にはセシル君が私の為に怒ってくれた事が嬉しいくらいですよ。ちゃんと認めてくれてるんだなーって。


 自然と緩んだ頬をそのままに笑うと、セシル君はちょっとバツが悪そうに頬を掻いてそっぽ向きます。

 これが彼なりの照れ隠しだという事は、これまで付き合ってきた五年間で理解してますよ。


 最初の険悪っぷりから比べると、セシル君ってとても柔らかくなったと思うのです。ちょっとそこらにセシル君可愛いでしょうって吹聴したいくらい。絶対拳骨と雷落とされますけどね。


「それにしても、どうせなら伯爵子息に魔術の一発でも入れておけば良かったですよねえ。あのロリコンめ」

「……それはジルが、……いや何でもない」

「本当に困った人ですよね。よくも人の胸を……」


 思い出すだけでおぞけがしますよ。そもそも伯爵子息が生理的に無理なので、近寄られるのもアウトです。

 帰ったらお風呂でしっかり消毒しましょう。一応体は拭いてくれてるみたいですけど、舐められた首筋の事を考えれば一刻も早く清めたい所です。


「代わりに蹴ったので、色々再起不能になってればいいのですが」

「……それは心配ないぞ、うん」


 ……何故目を逸らすのでしょうか。しかもかなり遠い目をしてるし。


「本当に大丈夫なのか?お前は女だし、無体を強いられれば怖いだろ」

「そりゃあ、まあ……泣いちゃいましたしねえ」

「は、」

「あ、でももう大丈夫ですよ。馴れない男性にちょっと構えてしまいそうなだけで」


 親しんだ人にならそんな問題はないですよ、とにぎりこぶしに親指を立てて笑うと、セシル君は瞠目。

 それから、溜め息をついて掌を私の頭に伸ばしました。撫でられるのかと思いきや、思い切りぐしゃぐしゃにされましたけどね。


「大丈夫じゃないだろ馬鹿。つーか辛くなったらジルや俺に言っとけ」

「わーセシル君がデレた」

「人が心配してるのに茶化すのはこの口か、ああん?」

「いひゃいれす」


 ぐにーんと両頬を掴まれて伸ばされる私。

 ぐしゃぐしゃの髪に頬が伸びた間抜けな顔。端から見ればさぞや滑稽な姿をしているんでしょうね。


 一応女の子に酷い、と不満を露に瞳を細めたら、セシル君は不機嫌そうだった表情を緩ませ、穏やかな表情に変わります。頬から手を離して、またくしゃりと髪を撫でる。今回は、優しく。


「よし、元気になったな」


 悪戯っ子のような眼差しで、でも気遣いと優しさだけははっきりと取れる笑み。

 ……本当に、打ち解けたというか、優しくなりましたよねえ。そこらの女の子にこれ見せたらころりと落ちちゃいそうです。


「あ、そうだ。セシル君、助けてくれてありがとうございました」

「ん、まああれは俺の都合も兼ねてたし。ああやって国王への忠誠誓ってる所見せないと、俺が処分の巻き添えになるからな」


 シュタインベルトは首の皮一枚で繋がった状態だからなあ、と肩を竦めたセシル君。身内がやらかしてくれたお陰で、セシル君は非常に肩身が狭いのでしょう。

 まあ、セシル君は改易されようと気にしなさそうですけど。死んだり投獄されない限り、平然としてそうです。元々爵位とかどうでも良いってスタンスでしたし。


「私からも一族郎党皆殺しは止めて下さいと進言しておきます」

「それは助かる。まあ郎党のアルフレドは既に死んでるがな」

「ジルが巻き込まれるのは嫌ですもん」

「家系図から抹消されてるらしいし大丈夫だろ。八年前からサヴァン捨ててお前に仕えてるんだろ?」


 まあ一応正式に絶縁してるなら大丈夫……な筈です。

 まあジルが責められた所で従者でしかないので、改易とかしようがありませんし。息子であるジルが断罪した事も、良い方向に向いているとは思いますが。

 ……ジル、大丈夫なのでしょうか。


「ジルは今どうしてますか?」

「……あいつも色々あるからな、後で本人に聞くと良い」

「……それもそうですね。ああそうだ、セシル君、父様呼んで来てくれませんか?この格好だと出るに出られないので」


 誘拐された時はシンプルなデザインだったし緊急事態だったから夜着でうろつきましたが、流石に今この装飾過多なネグリジェで出歩く趣味はありません。見付かったらはしたないと怒られるでしょうし。


 私の趣味とは合致しないのですよね、とフリルがふんだんにあしらわれたネグリジェの裾を摘まんでは、嘆息。丈も短いし。

 そりゃあ多分これ男性に見せる為の物ですから、機能性は必要とされてないのでしょう。これで迫ればイチコロ☆なんて煽り文句がつきそうですね、あくまでデザインが。透け透けじゃないだけマシという認識に留めておきます。


「……はしたないから脚隠せ」


 私の呟きに、今更格好を理解したのかセシル君はぶっきらぼうにそう言っては、側にあったシーツを脚にかけます。視線を逸らしている辺り、セシル君って紳士さんですよね。


「兎に角、俺はヴェルフを呼んで来れば良いんだろ、行ってくる」


 急かした訳でもないのに何処か慌てて部屋を出て行ったセシル君に、私は何だかおかしくて喉を鳴らして笑ってしまいました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ