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お叱り

「……で、リズは何回死にかければ済むんだい」


 気が付いたら父様が居て、私に厳しい眼差しを送って来ました。

 いつの間にかセシル君の部屋に寝かされていて、傷も見事に治って痛みすらありません。父様が治癒術を使ってくれたらしいです、何となくですがそう感じました。


 起きて早々に説教してくる父様、本当に心配したらしく、だからこそ怒っているのでしょう。あれからどのくらい時間が経ったかは分かりませんが、中々に起きなかった、のでしょうか、私は。

 因みに父様の数歩後ろにはセシル君が居て、こちらも複雑そうに私を見ています。心配、してくれたのでしょうか。




 もう傷は治っているので、私はゆっくりと体を起こして自分の体を確認。うん、着替えてる。……カルディナさんに着替えさせられていたらどうしよう。

 それから、今まであった事を振り返ってみます。


 ジルがナイフを突き付けた暗殺未遂で一応一回。誘拐未遂の時に一回。決闘は危うげもなかったから良いとして、今回のこれは……まあ一応死にかけ? なのですかね。負傷レベルだとは思うのですが。

 というか私、傷付き過ぎじゃないですか? 治癒術なかったら今頃お嫁に行けない体なんですが。


「ジルのを含めて今回で三回目ですね。大丈夫です、致命傷ではないと分かっていたので」

「……ジルに言い付けるぞ」

「やっ! それは駄目! 怒られちゃう!」


 ジルはにこにこしながら怒る時と無表情で怒る時、真剣に怒る時があります。そのどれもが怖いのですが、無表情は私に向けられる事はないにしても笑顔と真剣な顔では怒られます。

 多分今回は真剣に真面目に丁寧に怒られる、物凄く怒られる。軽率な行動は控えろと言われたのに半年も経たない間に痛い目に遭ったとか、絶対ジルに怒られる。それだけは避けたいです。


「俺は良くてジルは駄目なのか……っ」


 嫌だ、とすがるつもりで向けた眼差しに父様はショックを受けていました。

 ……いや、だって、ね? 父様が私に本気で怒る事って、あんまりないし……というか今までになかったし。父様は私を大事に大事にしてくれてますから、怖さというよりは、優しさが際立ちます。


 ジルも勿論優しいし大切にしてくれますが……うん、怒ったら怖いと三年間で身に染みているので。だから怒られたくないのはジルが一番と言いますか。




 ジルにばれるのだけは避けたい、と顔を強張らせる私に、セシル君は目を丸くして此方を凝視していました。


「死にかけた、って」

「ああ、私結構危ない目に遭いやすいので。暗殺されかけたり誘拐犯に殺されかけたりとか」


 今回のは私にも非があるのでどうしようもないですけど、一年に一回くらい危ない目に遭うような気がして来ましたね。もう痛いのは懲り懲りなのですが。

 まあ今回は私がセシル君を挑発する形になってしまって、セシル君が魔術使ったから……お互い様でしょう。


「……すまな、かった」

「セシル君は今回の件で謝る事はないですよ。私も悪かったので」


 痛い目は見ましたが、セシル君に少し近付く結果を出せたので良しとしましょう。それにしてはリスクが大きかったですが、終わった事ですし。

 それでも何だか申し訳なさそうな顔をし始めるセシル君に、私はふっと笑ってセシル君に手招き。びくっと大袈裟に反応しながらも、どうやら罪悪感があるらしく素直に寄って来ました。

 ……責めるつもりはないと言ったのですけどね。


「くよくよしないの。私は大丈夫だから」


 セシル君に、今度は優しく額を当てるようにして額をくっつけ、「ね?」と微笑むと、セシル君はそのまま俯いて、肩を小刻みに揺らします。よしよし、と手を伸ばして背中を擦りながら、黙っていた父様に視線を移しました。

 父様は微笑ましそうにしていますが、そういう事じゃなくて。


 何故セシル君の魔術の制御が甘い事言ってくれなかったんですか。セシル君に怪我した事を責める訳つもりは全くありませんが、セシル君自体に辛い思いをさせてしまった事の方が問題です。明らかにこれトラウマほじくったようなものでしょう。


「……父様、先に言ってくれたら幾らでも対処出来たのですが」

「こればっかりはセシルに許可を取らないと言えないからな。……もう良いだろう、セシルも話してくれる」

「それを言われると父様に文句が言えません。はー……まあ血がちょっと抜けたし大人しくして、」

「リズ様!」


 ……あ。

 ……いやいや、何で。何でジルが、魔導院に来るんですか。だって、ジルは屋敷に居たし父様だってまだ言ってない筈。


 ぶわっと背中を流れ始める冷や汗に、私は顔の筋肉を硬直させて、堪らず腕の中のセシル君を抱き締めます。セシル君はそのまま私の……いえセシル君のベッドに乗ってそのまま凭れかかってきました。それは、良い、別に良い。問題は飛び込んで来た従者というか。


 勢いよく扉から飛び込んで来たジルは、セシル君を一瞥するものの引き剥がしはしません。但し私に鋭く細めた瞳で怒りを露にしながら近付いて来ますが。


「何で無茶するんですか! 何度無理をするなと私が言ったと思ってるんですか!」

「な、何で知って、」

「指輪の反応ですよ、お忘れですか」

「あ、」


 しまった、それがあった。繋がりがあるから、場所が大体分かったり感情が流れ込んで来たり、……今回は身の危険が流れたのでしょう。普段は嬉しいものですが、今回ばかりは何で着けていたんだと後悔です。


 私をとても大切にしてくれる従者は、今はとてもとてもお怒りで、お説教モードに入っています。

 こうなると、私は手の打ちようがありませんし、素直に謝るしか選択肢が残されていません。反論する程愚かではありません、絶対に勝てないので。


「私は軽率な行動は控えろと言いました、覚えてますよね?」

「は、はい」

「なら何で死にかけるんですか、おかしいですよね? 約束は守って頂けましたか?」

「ご、ごめん、なさい」

「本当に反省してますか? 分かりますか?私の心配する気持ちが」

「ご……っ、ごめんなさい!」

「ジル、あまりリズを、」

「ヴェルフ様は黙っていて下さい」

「ハイ」


 ジルの剣幕に父様も敵わず引き下がります。私の中でジル>父様の不等式が確立された瞬間でした。


 父様の助けは期待出来ないのは最初から分かっていたので、もう父様は気にしません。抱き締めたセシル君にも伝わる震えが体から出ているのにも気付いていますが、どうしようもないです。

 セシル君は私がジルの怒りに対して怯えているのが直で伝わっているらしく、肩に乗せていた顔を上げて涙に濡れた瞳を見せて来ました。


 初めて見た、敵意のない純粋な眼差し。私は大丈夫ですよ、と小声で囁いて引き攣りながらも笑っておきます。怖がっているのは震えでばればれですが。


 ジルはジルで非常にお怒りで、何故か私達二人を見て更に怒りというか、最早それを通り越して何だか疲れたような表情。


「当分街に連れていくのもなしですね。折角落ち着いてきて外出許可を出そうと思ったのですが」

「ご、ごめんなさいそれだけは許して下さい! ジルとお買い物行きたいです!」

「取り敢えず仕事が終わったら屋敷で謹慎を」

「じ、ジル、許して下さい、これには訳があって」

「でしょうね。でも駄目です」

「ジルうううう」


 酷い。あれだけ外に出たがってたの知ってる癖に。四十回近く頼んでも断られた私の不満と退屈と絶望を分かってる癖に。この怪我と街に行く許可と関係ないのに、酷いジル。もう泣きそうです。


「……変なやつ」


 ジルの変える気のない罰に悲しくてしょげる私に、セシル君は小さく呟きました。

 ……良いもん、セシル君と仲良くなって遊んでやりますもん。もうちょっと頑張ったらセシル君と仲良くなれる気がしますもん。ジルの意地悪。



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