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出した結論

「セシル君」


 うっかり寝てしまい殿下に愛でられ(?)騎士様には生暖かい眼差しで見守られていたという失態を演じた私は、セシル君と共同の部屋に戻ります。

 そこで机に向かって紙に筆を走らせるセシル君に、私はセシル君の陣地には入らずにぎりぎりの所で声を掛けました。セシル君は私が帰ってきた事に気付いていたでしょうが、反応すらしてくれません。ただ黙々と作業に取り組んでいました。

 私の事が嫌いなのは、誰が見ても明らかでしょう。


 存在自体を拒むような無視の仕方に、私は顔を引き締めて線の境界線に立ちます。それでも見向きもしないセシル君に、ちょっと凹みそうです。


「セシル君」


 もう一度呼んでも無反応で、私は覚悟を決めて、彼に呼び掛けます。


「セシル君は私の事目障りだと思ってるかもしれません。嫌ってるのも、分かります」


 正直、此処まで嫌われて怨まれるのは理不尽な気はします。ですが、彼にとっては私の存在が疎ましいのは確かです。私に覚えがなくても。

 無視しているセシル君の筆の動きが、止まりました。聞いてくれているのでしょう、反応はしてくれませんが。


「だけど、お仕事の時だけでも、ちゃんと、お話して下さい。ムカついてるのも分かってますが、私の人格を知らないまま、嫌われて無視されるのは納得がいきません」


 カルディナさんは私ではなくセシル君の肩を持つ……というか、セシル君の過去を知っているらしく彼の味方。セシル君はセシル君で私の事が大嫌い。それは変わりないので。

 私は無意識に彼を傷付けている、それはカルディナさんから暗に示されています。私も何と無く分かりました、彼には私が鼻持ちならない女だという事も。


 悩んで悩んで、結論として……私は、彼に正面からぶつかる事にしました。弱気なんてらしくないです。情緒不安定なのは肉体と精神が釣り合っていないからと言い訳をします。


 私の事をよく知って、それでも嫌うならもう諦めます。足掻いても無駄なので。

 でも、セシル君は私の事を知らない。知っても表層。それで勝手に嫌悪して、怨まれて、敵対視されるのは、理不尽のように感じます。あまりに一方的過ぎて、納得が出来ない。


 嫌われるなら、私の事を全部知って貰って、それから嫌うなら嫌えば良い。話し合いも相互理解もしないで嫌われるなんて真っ平御免です。




 ゆっくりと、セシル君の顔が気怠そうに此方に向きます。相変わらずの眼差しに、私は、真っ直ぐに彼を見詰めます。


「私の事を知らない癖に、勝手に決め付けて嫌わないで下さい」

「……お前も俺の事知らない癖に」

「私はあなたを嫌ってなどいません。知らないのはお互い様です、分かり合う努力もしない内に嫌われるなど納得出来ません」


 というか私は滅多に人は嫌わないです。例外が二人居ますが。


「私があなたを傷付けていたなら謝ります。ですが、何も分からない内に嫌いなど言われたくない。例えそれが私の我が儘であっても、私は表面だけで嫌悪されたくない。私がどのように嫌いなのか、何処が嫌いなのか、少なくともその理由くらい教えて下さい」


 毅然とした態度で言い切ると、セシル君は分かりやすく顔を歪めて、それから舌打ち。子供らしからぬ表情にも、私は態度を変えずにじっと見詰めます。

 セシル君から底冷えするような視線を受けましたが、目を逸らさずに見詰めると……セシル君は、ばんと机を叩いて立ち上がります。びしゃ、とインクの瓶が跳ねて中身を溢しても、セシル君は構わず私を睨み付けました。


 口を少しだけ開いて、それから悔しそうに唇を噛み締めて、境界線の側に立つ私を押して部屋から出て行ってしまいます。尻餅を着きながら、私も大人気ない、と溜め息。


「……子供の喧嘩みたいになれば良いのですけど」


 私は勿論なのですが、セシル君、考え方が大人びています。激情型という子供っぽいところもありますが、全体的には大人びた思考をしています。能力値的には大人と遜色ないのでしょう。……だからこそ、私を嫌うのかもしれませんが。


 明日からちゃんと話してくれれば良いのですけど、と一人呟いて、抱えた膝に顔を埋めました。






「リズちゃん、セシル君に何かした?」


 次の日、研究室に向かった私に、カルディナさんは訝るような声。あ、朝起きたらちゃんと部屋に戻ったらしいセシル君も起きていたので、朝の挨拶もしておきました。滅茶苦茶機嫌悪そうに舌打ちされました。可愛げなかったです。


「昨日喧嘩を遠回しに売りました」

「……あのねー」

「私の事全部知ってから嫌えって」


 カルディナさんはセシル君を庇うだろうから、先に言っておきます。


「私の嫌な所を言ってとお願いしたら出て行っちゃったんですけどね。直せる範囲は直しますし」

「よく言えたね本人に。まあセシル君はそんな事で本心出す程素直じゃないよー?」

「でしょうね。でも理不尽に理由も言ってくれずに嫌われるなんて嫌です。力があるだけで嫌悪されるって複雑ですし」


 力があるだけで怨まれるって凄く生きにくい世の中です。それはどの世界でも共通のようで、まああまり知りたくはないですが私を暗殺とか誘拐しようとする一派も居るそうな。父様が色々な手段で黙らせているそうですが。

 別に、力を欲して生まれた訳ではないです。あったから使ってしまって、それが気に食わない人が居る。隠そうとしない私が悪いのですが。此処まで納得するのにちょっと悩みました。


「話し合いで分かり合える所まで頑張りますよ。仲良くなりたいですし」

「ほほー、それなら頑張ってねーリズちゃん」


 仲良くなりたい、の言葉にカルディナさんはにっこりと笑って、応援してくれます。セシル君の味方っぽいカルディナさんですが、お友達になるのは大丈夫だそうです。一人で居るセシル君が心配なのでしょう。


 よし、頑張ろうと拳を握り、軽く腰に回った腕をどついておきます。以上、カルディナさんの腕の中からお送り致しました。頬擦りしていたカルディナさんが寂しそうにしていた事を追記しておきます。


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