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寂しい

「ジルー、外に行きた、」

「駄目です」


 身も蓋もなく即座に却下されて、私は三十八回目のチャレンジに失敗した事を悟ります。

 あれから三ヶ月、また歳を一つ重ねた私ですが、お外には出して貰えない日々が続いていました。庭には許可が出てるので自由に出入り出来るのですが、その一歩外に出ようものなら即座にメイドかジル……大概ジルですけど、飛んできて屋敷内に引き摺られてしまいます。


 そりゃあ数ヵ月前にあった事を考えればその心配も分かりますけども、ちょっと敷地の外で遊ぶだけなのに。流石に懲りてるので街までは降りず、貴族の居住区でお散歩したいだけなのに。貴族の居住区は警備もしっかりしてるから平気だとは思うんですが……。


「ジルのけち」

「何とでも仰って下さい、私はリズ様の身の安全が第一なので」


 父様母様の過保護もそうなのですが、一番過保護になったのはジルです。

 殺されかけたのを目の当たりにしたジルは、私を傷付けないように細心の注意を払ってきます。お部屋に閉じ込めるとかそういう事はしませんけど、ちょっと危ない事をしたら直ぐに叱られて止めさせられます。魔術で氷の城(1/300スケール)建てて中でひんやり涼んでたら崩壊が危ないとか、『グリーンサム』でジャングルジム擬きを作って登ったら降ろされたり。どれだけ私は危なっかしい子だと思われてるのでしょうか、そんな怪我しないのに。


 家にある魔術書も全て読み尽くしてしまったし、遊具作ったら怒られるし、外に出ようものなら連れ戻されるし。私の娯楽はマリアだけになってしまいました。

 そのマリアもメイドのお仕事で忙しいから私が時間を奪う訳にはいきません。


 詰まる所、私は暇をもて余しているのです。




 敢えなく却下された私は、まあ悔しい事に予想の範疇だったのでふて腐れ気味に部屋に戻ります。


 ……何も出来ないのが、もどかしい。何で子供なんでしょうか私は。もっと大きかったら良かったのに。そうしたら、こんなに子供扱いされないし自分の身だって自分で守れるのに。


 ジルは最近周囲の警備に力を割いていて、私にはあまり構ってくれない。私から近付いても直ぐに何処か行っちゃうし。父様達は父様達で私の機嫌が悪いのを理解してるのかあまり干渉はして来ません。過保護には過保護だけど、腫れ物を触るような扱いです。

 それは、良い。父様達はルビィが居ますから、そっちに構ってくれたら。開き直って跡取りに執心だと思う事にしてますから。寧ろそっちの方が精神衛生上良いです。


 問題は、ジルがやけに過保護でその癖素っ気ない事です。


「ジルの、ばーか」


 多分可愛くない膨れっ面。本当に幼くなったというか、段々中身が肉体に合わせて幼稚になってきている気がします。不釣り合いな体に合わせようとしているみたいに。

 まあ別に知識がなくなっていく訳ではなくて、感情の起伏が前より激しくなったのが現状です。喜怒哀楽がはっきりして来たというか、……何故かジルの前だけ、すんなり感情表現をしてしまうというか。ジルには泣き付いたし甘えて来たから、枷が外れているのでしょうか。


「……ひま」


 ジルは構ってくれない、外には出れない、本は読んだ、魔術は危ないの禁止。私は何をすれば良いのか。

 基本私の楽しみは読書か魔術かジルと戯れる、あと食事。こんな所です。その殆どが私の手からもがれている状態なので、何を楽しみにすれば良いのか分かりません。


 女性は自らを着飾る趣味がありますけど、それは大人になってからの話でしょう。お洒落は嫌いではありませんが、動きにくいしそもそも子供だから飾っても仕方無いし。私は着飾った所で大して変わりないし。

 じゃあどうしろって言うのですか、私は何をすれば良いですか。ジルは構ってくれないもん。側に居てくれるんじゃなかったのですか。


「……うー」


 膨れっ面のまま唸って、……そのままベッドにダイブします。

 二人で分けた指

輪を握り締めて、そのまま体を丸めました。やる事ないから寝るしかないです、寝る子は育ちます。そして早く大きくなって一人で身を守れるようになってゆくゆくは魔導師になって魔導院で勤めるのです。幸せな家庭だって築いてみせる。あ、殿下は遠慮しときますが。






『……リズ様は、偶にとても子供っぽいですね。そういう所は可愛らしいのですけども』

『素直に寂しいと言ってくれたら、私は側に居るのに』


 微睡みの中、ジルの苦笑混じりの声が、聞こえて来ます。とろとろと溶けた思考に、直接入り込んで来るような感覚。眠りのせいで体と意識がしっかり繋がっていない感じがしていましたが、髪をやんわり梳かれている、感覚がした気がしました。


「……じ、る……」

「何ですか、リズ様」


 寝起き特有の頭がふわふわとした状態な私に、柔らかい声が届いて。眠くて、でもゆっくり瞼を開くと……穏やかな微笑みを浮かべた、ジルが私の側に居ました。

 もうすぐ成人の儀を迎えるジルの掌は、もう男の人の物。少し骨張った指がさらさらと自慢の髪を梳く。時折頬を撫でられ、擽ったくて目を細めるとジルも柔らかく笑います。


「……じる、これゆめ?」

「んな訳ないでしょう。実物ですよ」

「いひゃい」


 手加減されてはいますが頬を引っ張られて、地味に痛みが頬に響きます。こんな事を平然とするのはジルだけなので、ジルに間違いないでしょう。


「……何で、ジル居るの……?」

「リズ様が指輪で散々『ジルのばーか』と言ったのが聞こえて来ましてね、ちょっと叱ってあげようかと思いまして」

「……だって」

「ふふ、でもその後に、『寂しい』『構ってくれない』『私の側に居てくれないの?』と指輪から流れて来たので止めておきますね」

「なっ、」


 た、確かにそういう事はちょこっとは思いましたけど、それを伝えるとかなんの嫌がらせですか、指環よ。

 ジルは優しい笑みに少し悪戯っぽさを含め、頬を擽って来ます。子供をあやすような、そんな笑み。


 ……ぜ、絶対にからかわれてる……!


 ちょっとむかっときて撫でてくる指をはね除けようとしましたが、逆にその手を掴まれてしまって。寝起きで緩慢な行動ですから仕方ないですけど、それでも、ジルは簡単に止め過ぎです。甘んじて受けて下さいよ。


 少し膨れっ面になってジルの拘束から逃れようとすると、ジルはいつもの笑みに真剣さを少し混ぜた表情。

 何事かと戸惑う私に、ゆっくりと私の手の甲を持ち上げて、……唇を寄せました。


「……は、」

「……私は、あなたの側にずっと居ますよ、あなたが望む限り」


 手の甲に口付けを落とされただけ、それだけです。でも無性に恥ずかしい、物語の騎士様のような、近いの口付けみたいで。いやジルは従者ですし騎士じゃないですけど。

 手の甲へのキスは、敬愛や尊敬の意味。ジルは、分かっててやってる。


「……好きに、して下さい」


 何で、七歳にしてこんなにときめかなくてはならないのでしょうか。落ち着きましょう私、ジルは私を主人として付き添ってくれるのです。だから手の甲にキスした訳です。そう、ジルは私の従者です。それは変わりない。

 ジルの笑顔は変わらなくて、ああいう発言をするのは当たり前だと言われている気がして、ころんと寝返りを打って顔を隠します。


 ああもう、何で私の周りは美形が多いんですかね、そして思わせ振りな態度を取るんですかね。ジルのばーか。

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