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事の顛末と後日談

 そして私は、暫くお部屋に軟禁される事になりました。

 父様母様が絶対安静だ、と譲ってくれませんでした。いやもう母様の治癒術で完全に治ってるのですけど。滅茶苦茶元気ですからね、お庭で土弄りしたいんですけど。


 誘拐事件のお陰で、いや、誘拐事件のせいで? 両親の過保護っぷりが戻ってきました、というか以前にも増して過保護に。

 私が死にかけたので、失って堪るかと言わんばかりに構って来ます。正直ちょっと鬱陶しいレベルで。

 二人の気持ちも分かるし、構って欲しかった私なのですが……何かちょっとこれは違う。束縛されるレベルは困る。




 ああそうだ、誘拐事件の顛末です。

 あの誘拐組織は壊滅しました。うん、壊滅。やると思ってました、父様の性格上。

 父様は私が死にかけた事に大層お怒りになったらしく(オブラートに包んでますが、実際は怒り狂って手がつけられなかったそうです)、ジルと一緒に乗り込んでけちょんけちょん……というか一部消し炭(物理的に)にしたそうな。ジル、止めて下さいよ。騎士団の方は止められず見守るしかなかったそうです、ごめんなさいうちの父が。

 あの人拐い達は末端の人間だったのですが、父様が拷も……こほん、尋問して、幹部やボスの所在地を吐かせました。方法は聞かない方が良いです、気分悪くなるでしょうし。


 そんな感じで本拠地を突き止めた父様は、破竹の勢いで本拠地を攻め落としました。どんだけ凄いんでしょうか、父様は。


 それで、ですが、此処までスムーズに事に運べたのは、陛下の主導があったからだそうです。そろそろ膿を除かねばならないと陛下の命で世紀の大捕物が始まったそうですよ。押収した顧客リストから子爵以上の貴族も出て来たので、それも随時処罰していくそうです。

 こりゃあ今頃、世間や社交界が凄い事になってるでしょうね、出れないから分かりませんけど。




 そして、一緒に逃げていたあの子供達。

 彼らも大怪我していましたが、母様の治癒術で全快し、クラウス君とリリーさんは嬉しそうに家まで送って貰ったそうです。良かった、元の生活に戻れたようで。

 そして、亜人であるマリアさんは。


「はう……もふもふ」


 今、私の腕の中で大人しくしています。


 マリアさんは亜人で売られる為に捕まったそうですが、既に両親は他界していて、一人で生きていたそうです。それも、危険な外の世界で。

 なので帰る場所もなく、このまま街に放り出せば迫害もある。との事で、うちで保護する事になったそうです。いや良いんですよ、もふもふ出来るから。


「はふー」


 お外には基本的に出してくれないので、マリアさんのもふもふだけが癒しです。尻尾はふさふさふわふわつやつやで、三角の耳はもふもふつやつや。触ると心地好くて、うっとりしてしまいます。

 マリアさんは保護とは言いましたがお給金を出してメイドさんをしてもらう形です。猫耳メイド……恐ろしいくらいに破壊力がありそうですね。


「……これ、たのし……?」

「はい!」

「なら、してもい、です」


 たどたどしい言葉遣いが更に可愛らしい。はあ……こんな妹が現実に居たらどれだけ良かった事か。いや此所も現実ですが。

 弟は体があまり強くないらしく、あまり会った事がありません。母様が付きっきりで面倒を見てます。見た限りは父様似でした、赤毛に赤目の男の子。鉱物のルビーみたいだから「ルビィ」、まんまですね。


「……リズ様、顔が緩んでますよ」

「だって……」


 可愛いんですもん、ねえ?


「はうー……」

「……複雑ですね、これは」





 次の日の事です。


「リズ、無事か!」


 そして押し掛けてくる安定の殿下ですね。


「平気ですよ、この通りぴんぴんしてます」

「わっ、私は心配したんだぞ、死にかけたと聞いてっ!」

「別に死んでないですし平気ですよ」

「散々泣いておいてよく言えますね」

「ジル!」


 何で余計な事言うんですか、わんわん泣いたなんてばれたら恥ずかしいのに。この人生で泣いたのなんか初めてで、それが大号泣でジルに慰めて貰ったとか、あまり知られたくない。

 明らかに要らない付け足しに瞳を細めると、ジルは何処吹く風でお茶の用意をしています。最近ジルの私に対する扱いが一部雑になってきているのは気のせいでしょうか。


 殿下は殿下で、まさか私が泣いたとは思わなかったらしく、唖然としています。


「リズ、泣いたのか……?」

「……助かった後にです」


 嘘はつかないでおきますけど、何で殿下はそんなに驚いているんですか。そりゃあいつも子供らしからぬ態度で居るから泣くのは想像出来なかったのでしょうけど。

 私だって、一応人間ですし、女でもあります。殺されかけた恐怖を感じない訳でもないし、抱き締められた時のひたすらな安心感に心が緩まないという訳でもない。ジルの胸でずっと泣いていたのは、……非常に落ち着いたというか、ジルに包まれてると安心して要らない事までぽろぽろ洩らしちゃうというか。


「……辛かったな」


 口をつぐむ私に、殿下は頭のてっぺんに掌を乗せてなでなで。……何か違う、殿下のは、手荒というか……こう、抱擁感がないんですよね。撫でてるけどどっちかと言えばわしゃわしゃ、って感じです。

 気持ちは凄く有り難いですし、殿下も人を思いやれるようになったという成長の証ですけど。もう少し女の子の扱い方を覚えた方が良いかと。


 うーん、と微妙な顔で唸っていると、殿下は私を抱き締めて。


「今度は私に甘えると良い」


 甘えろと言われても。……気持ちはうれしいんですけどねえ……殿下、もうちょっと、優しく抱き締めて下さい。嫌じゃない分勿体ないんですよね、殿下。

 何だかジルは笑顔なんですけど、……目が笑ってない気がします。これはどっちに怒っているのでしょうか、べたべたする殿下か殿下を拒まない私にか、或いは両方か。

 というか何で怒ってるんですかジル、所詮は子供の戯れなのに。まあ主人取られて複雑なのかもしれません、まさかやきもちはないでしょう、私子供ですし。


 困ったなあ、と腕の中で悩む私に、殿下は閃いた、と拘束を解きます。……何を企んでいるのでしょうか、その笑顔は。


「殿下、何を、」

「元気が出るまじないだぞ」


 そう自信満々に言い張った殿下は、私の両肩を掴んで。


 ちゅ、と。


  柔らかな感触を、顔の一部に触れさせて。


「は、え、」

「母上が、父上にすると元気になると言っていたぞ」


 原因は王妃様ですか。殿下はマナーとか魔術剣術の教育はちゃんとしてても、情操教育や一般常識はちょっと欠けてるんですが。そりゃあ私も小さい頃は父様に頬にキス、くらいしてました、し。

 ……いやいや、何でこんな恥ずかしがってるんですか、たかがキスです、ちょっとした接触です。別に、こんな恥ずかしがる事じゃないです、子供のやった事ですし。


 ……楽しげに笑う殿下に、不覚にもドキドキしてしまった。美形って何でも格好良く見えて、ずるい。


「ユーリス様、そろそろリズ様のお体に障るので」

「む? ああ、すまないな、リズ。また来る」


 何故か逆に穏やかになったジルが恐い。そして殿下はジルに向かって、勝ち誇ったように口の端を吊り上げました。まるで、挑発するみたいに。

 取り敢えず言えるのは、分かってやりましたね殿下、キスの意味。


 ジルはにこやかなままです。うん、ジル、普通に目元がひくついてます。殿下のどや顔がジルの神経を逆撫でしているのでしょう。普段は滅多に怒らないのにジル。昔からあまり仲良くないですよね、二人は。




 ジルを見送りに付けた殿下が部屋を出て行った後、私はベッドで膝を抱えて溜め息。

 そっと唇の横に触れて、羞恥がまた疼き出します。


 ……ジルは角度的に唇に当たったと思ってるでしょうけど、唇には当たってません。唇の横に触れたのです。殿下がわざとずらしたのでしょう。

 それでも、キスされた事には変わりなくて。


「……何で皆、たらしになってるんですかねえ」


 六歳児に何を求めてるんだ、と、深く溜め息をついて、シーツを被りました。

 当分、頬の赤みは取れそうにないです。



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