娘とセシル君
「大変ご迷惑をお掛け致しました」
「いいよ、気にするな」
私が謝っているのは、セシル君。シュタインベルト公爵家を継いだ彼に君づけして良いのかはちょっと悩ましいですが、個人的な場なのでセシル君にも許可を貰っています。
セシル君だって私の事を呼び捨てにしているからセーフといいますか。……勿論公の場では「シュタインベルト公爵」「リズベット夫人」と呼んでますけど。
「うちのユーディが、本当に申し訳ありません。まさかあんな事を言い出すなんて」
「俺もびっくりしたよ。……ジルに睨まれたくないんだけどな」
苦笑と共に肩を竦めたセシル君は、此処には居ない旦那様を想像しては「おーこわ」と笑っています。
何故謝っているのかといえば、事の発端は私の娘にあります。
『わたし、大きくなったらセシルさまのおよめさんになる!』
……いえ予想出来た事だったんですよ、ユーディはうちに度々所用(遊びではない)でやってくるセシル君をいたく気に入っていましたし、なついていましたから。
でもまさか、駄々をこねて泣き喚くくらいに好きだとか思っていなかったのです。子供の淡い恋慕かと思ってたら、本人としては至って真剣だったらしくて私にも反抗してしまって。
セシル君が宥めて泣き疲れて眠っていますが、セシル君もそこまでだったとは思っていなかったらしくて困ったような笑みです。
「流石に二十歳近く離れた子を迎え入れる訳にはいかないからな。それに、ユーディはお前らそっくりな能力だから、アデルシャンを継ぐようになるかもしれない。ルビィの子供達にもよるが」
セシル君の言う通り、ユーディは良くも悪くも私達の魔力の性質を受け継いでいるので、魔導師としての才は飛び抜けています。まだ制御を覚えさせている状態ではありますが、その才能は私と次期導師のジル、それから現導師の父様が保証します。
アデルシャン家特有の赤目の特徴もしっかり引き継いでいますし、本家入りしてアデルシャンを継ぐ可能性もあるのです。まあそこはルビィの子供達の能力次第でもあるのですが。
……あ、ルビィのお相手なのですが、もう決定したというかルビィに本気で狙われて落ちない女性は居ないと言いますか、時間をかけて陥落させたらしいです。私の弟こわい。
まあそんな訳で婚約期間中で、それさえ終われば結婚です。アデルシャン家に嫁いでくる事になります。
父様ももうそろそろ家督を譲りたいと仰っていましたし、恐らく結婚して落ち着いたら当主の座を譲る事になるのではないでしょうか。
「まあそれは分からないのですけど、とにかく流石にセシル君の所に嫁がせるというのは無理かな、と思います」
純粋に慕っているユーディにはかなり申し訳なさがありますが、かなり年の離れた子を嫁がせるのも申し訳ないのです。成人まで両手で数えなければならない年数がありますから。
子供の無邪気な恋慕を大人が制限するのも悪いのですが、まず無理なので先に現実を教えなくてはならない状態です。というか多分ジルが許さないとは思いますけども。
どうしたものか、と溜め息をついた私。セシル君は「まあ大人になったら忘れてると思うけどな」とだけ呟いています。
……そうだと良いんですけどね。
まあ、私としてはユーディには自由恋愛をして欲しいものです。私も我が儘を貫き通してジルと結婚しましたし。
立場と年齢差を考えてセシル君は無理でも、自分の好きな人を見付けて自分で選んでくれればと思うのです。
しかしまあうちの子も早熟ですねえ、と想いを寄せられて困っているセシル君に苦笑しつつ、どうしたものかと頭を悩ませるのでした。
いつもお世話になっております。佐伯です。かなりお久し振りです。
お知らせなのですが、IFルートである『もう一つの物語』もPASH!ブックスより書籍として刊行する事が決定致しました。
詳しくは活動報告に記載しておりますので、興味のある方は活動報告を一読して頂けたらと思います。
最後になりますが、書籍として世に出るのも皆様の応援のお陰です。誠にありがとうございます……!
これからも『転生したので次こそは幸せな人生を掴んでみせましょう』シリーズをよろしくお願い致します!