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弟は策略家

「姉様、ちょっと良いかな?」


 今日は旦那も休みで子供達の相手をしてくれているので、私は久々に一人でゆっくりと過ごしていました。

 多分ジルも私が好きに出来る時間が少ないと気遣ってくれたのでしょう。旦那様の気遣いに感謝しながら、私は外から聞こえる子供達の声をBGMにゆっくりと編み物をしていました。


 そんな折りに現れたのが、ルビィです。


「あら、どうしたのルビィ」


 顔を上げると、笑顔で歩み寄ってくるルビィの姿。

 ソファに腰掛けているから立っているルビィは、とても大きく見えます。いえ、実際に大きくなったのですよね、父様くらいに背が伸びましたから。


 もう、二十手前くらいですもの。すっかりと大人びてしまったというか、想像以上の美丈夫になったというか。


 父様を若返らせてややベビーフェイスにしたのが、今のルビィです。

 体つきも昔病弱だったとは思えないくらいにかっちりしているというか、下手したら父様より鍛えられています。何たって現職最強の騎士様が付きっきりで教えてくださっていましたからね。


 あどけなさはほんのりと残しつつも凛々しい顔立ちになったルビィ。

 ……それでも、昔と代わらずに、私の事を慕ってくれているのです。


「ジル、今居ないでしょう?」

「ええ、外でユーディ達と遊んでますからね」

「ああ、知ってるよ。だから、丁度良いかと思って」


 ……丁度良い?


「あ、いや別に何かしようって訳じゃないんだよ。相談があるというか」

「ジルには聞かせにくい事ですか?」

「うーん、聞かせにくいというか……何て言うんだろうか。ジルが聞いたら色々と渋い顔しそうだから」

「……何の相談です?」

「……ちょっと、気になる子が居て」

「まあ!」


 ルビィは、特にこれといったパートナーを作ってきませんでした。勿論社交上手なので上手く女性ともお付き合いをするのですが、表面上のものというか。

 誰かに想いを寄せる事がなく、独り身で過ごしていたのです。ルビィもその方が楽だ、と言っていましたし。立場と見掛けと能力が揃っているので選り取りみどりだというのに、心は頑なで。


 そんなルビィが、気になる女の子が出来たと。

 これは一大事ではありませんか!


「それなら話を聞きますよ。私で良いなら」

「本当に? 良かった、セシル兄様に相談しようと思ったけど、兄様に言うのもちょっとと思っていたから」

「セシル君に対してでも口に出すのが憚られる事があるのですね」

「うん、彼は絶対止めようとするし」


 ……んん? 止める?

 一体ルビィは何をしようとするのでしょうか。恋愛相談ですよね? 意中の女の子が居るから射止める為の相談ですよね?


 ちょっと引っ掛かりがあったものの、話を聞いてみないと分からないので、取り敢えずはルビィを促して隣に座らせます。


 隣に腰掛けると、よりルビィの成長が分かりますね。もう座っていてもはっきりと差が出ますから。

 ……本当に美丈夫に育ちすぎて、女の子が色々とめろめろになっていると目撃したセシル君から聞いています。


 けど、ルビィが好きな女の子っていうのはどんな子なのでしょうか。普通ならほいほいついていきそうなのですけど。


「それで、ルビィはその子の事……ええと、好きなのかしら」

「……多分?」

「多分って」

「うーん、多分燃えるような恋、とかじゃないんだと思う。何て言ったら良いんだろうか、困ったな」


 自分でも理解しきっていないらしくて、うーんと顎に手を添わせて少し悩ましげな声を上げます。

 ……その仕草一つで数々の女性を魅了出来そうなのですが、ルビィ意中(仮定)の相手は落ちてくれないらしいです。でなければルビィが悩む事もなかったでしょうし。


「……僕は、割と欲しいものって何でも掴みとって来た。生まれ持ったものとかはそりゃああるけど、努力で大体必要なものは揃えてきたじゃないか」

「そうですね。……ルビィ、ずっと頑張ってきましたもんね」


 そう、ルビィは昔あった反乱を契機に、勉強と魔術剣術の訓練に励んできました。

 私を守りたい、という可愛い気持ちから始まったそれは、やがて自分を磨きたいから、次期当主として相応しくありたいから、というものに変わっていったのです。


 実際、ルビィは既に当主として相応しいくらいには、才を得た。得たというか、元からあったものを成長させた、のですけど。

 剣術も師匠(ロランさん)には敵わないものの、他は負けなしレベル。魔術も私達みたいな一芸特化まではいかないものの、全部で高水準を修めているのです。


 父様から当主の座を譲られるのも、時間の問題かもしれません。……父様は「早く引退してゆっくりしてえなあ」とか言ってましたし。


「うん。だから、僕に手に入らないものはないって少し驕りそうになるんだ。流石にそんなに自惚れはしないけど、無理を望まなければ大抵手に入ってしまう、ってのも分かってしまうんだ。難儀だな、自分の出来る事を自覚していると」

「ふふ、そうですね……でもそれだけ自信と能力がついたという事の裏返しですよ」

「そうだと良いんだけどな。……まあ、そんな僕にも中々手に入らないものがあるって知ったんだよ」

「それが、その女の子?」

「うん」


 あっさりと肯定したルビィは、また思案顔。


「その子、僕の事苦手みたいなんだよな。嫌われる事があるのは分かってるんだけど、苦手で逃げられるのは初めてだったんだ」


 基本、ルビィは人当たりが良いし、好青年そのものです。家では結構な甘えん坊ですが、社交界に出れば凛々しい紳士として振る舞うのです。

 それを見たセシル君が「末恐ろしいな、あの人たらし」と評するくらいには、社交が上手いのです。


 そりゃあ個人の好みはありますけど、好き嫌いではなく好印象を抱かせるのがルビィ。

 そのルビィに、分かりやすく拒絶の意を示す女の子が居るとは。


「それでさ、まあ苦手なのは個人の好みだし分かるんだけど、怯えられると気になるじゃないか」

「……怯えられるって何したんですか、ルビィ」

「失礼だな、転びかけた所を支えてあげたくらいだよ。それからちょっと踊ったくらいだし」

「でもそれで怯えられるってのはおかしくないですか? 男性恐怖症、とか……」

「それもあるんじゃないかな。人見知りっぽかったし、壁の華に徹しようとしてたくらいだから」


 思い出したらしくくすりと笑ったルビィは、ちょっと愛おしそうで。


「それでね、機会があったから話し掛けてみたんだよ。どうして避けるの? って。そしたら何て返ってきたと思う? 『いつも瞳の奥が冷えてて怖かったから。仮面張り付けてて怖い』だって。正直というか、よく見抜いたなーって」


 さも面白そうに笑ったルビィは、それから表情を穏やかなものに。


「その子、凄い世慣れしてなくて危なっかしいからこっそり助けてたんだけど、その度に逃げるから可愛くて。うん、いじめたくなる可愛さというか」

「……あんまり社交界慣れしてない子をからかうのは駄目ですよ、ルビィ」

「大丈夫、皆が気にならない程度のサポートだし、いじめたりはしてないから。というか僕がもしも悪感情を抱いたとして、それが周りに知れたら周りが排斥行動に移るから、気を付けてる」


 人気者って辛いよね、と肩を竦めたルビィ。


 ルビィは社交界の中心に居るらしくて、その立場と人柄から、多大な影響を及ぼすのです。

 振る舞い方に気を付けなければ、簡単に他人の人生を滅茶苦茶に出来るくらいには、ね。侯爵家の跡取り息子で、人望も厚く、能力も高い。


 だからこそ、立ち振舞いには細心の注意を払わなくてはなりません。ルビィは分かってるから良いんですけどね。


「でね、子ウサギみたいでその子可愛いんだよ。ぷるぷる震えるのに、でも見えない所の芯は強い。ああいう、うぶで社交界の汚さに染まらない子は珍しくてね。……あの、本質を見抜く瞳が凄く気に入ったんだよ」


 見た目も勿論ちんまりしてて可愛いんだけどね、とにこにこと褒めています。

 ……ちょっとルビィの意外な一面を見てしまった気もしますが、結局は惚れてしまった、という事で間違いないのでしょうか。


「彼女が側に居てくれたら、きっと僕は僕を偽らなくていい気がする。だからね、僕は彼女に決めた。彼女が良い」

「……ルビィ、それは物珍しさからくる好奇心でないと、誓えますか?」


 もし、興味本意だったとしてそれが飽きてしまった時、彼女が捨てられる事にでもなれば、可哀想です。もし恋仲になってからならば、取り返しがつきません。


 基本的にルビィの意思を尊重する姿勢なのは変わりませんが、もし誤った事をするなら正さなければなりませんから。


「僕がそんな過ちを犯す訳ないだろう? ちゃんと自分の気持ちくらい、分かってるよ。……最初に言った多分、は訂正するよ」

「……なら、良いのです。それなら私はルビィを応援するだけですもの」

「うん、ありがとう。……よーし、頑張らなくてはね」


 穏やかな微笑みを浮かべたルビィは、柔和な印象を抱かせるよう緩められた瞳に……あれ、何処か好戦的なものを滲ませて?


「まずは父様の説得だよなあ。彼女男爵の娘だし……ああいや母様の例を持ち出せば行けるだろう。それと並行して彼女にアプローチと、他への牽制……確か一人近付いてきてる不届きな輩が居たよね。あれはどうにかするとして、あと僕の周りの面倒くさい取り巻きが余計な事しないように手を回して……」

「あ、あの、ルビィ?」

「うん?」


 なぁに? と昔と変わらない屈託のない笑みを浮かべる ルビィに、言い知れない何かを感じてちょっぴり私の笑みが強張ってしまいます。


 ええと。

 ……ちょっとこわいかな、なんてやる気を出しているルビィにはとてもではないけど言えません。


「……お手柔らかにね?」

「大丈夫、後顧の憂いなく迎え入れるつもりだから!」


 あ、これ決定系なんですね。彼女は逃さないと。

 ……ルビィ、一度決めたら貫きますからね。これは多分、逃げられない気がします。


 自分が振られるなんて微塵も思っていなさそうなルビィに、私はまだ見ぬ義妹(予定)の彼女を想像しては「頑張ってね」と応援するに留めておきました。


 どちらの意味で頑張れ、なのかは秘密で。

 気付けば三ヶ月放置していて愕然としている佐伯です、こんにちは。

 この三ヶ月の間てんやわんやしていたので、中々此方の更新がままなりませんでした。本当はもうちょっといちゃらぶを書きたかったのですが(´・ω・`)

 活動報告をご覧になっている方はご存知かと思いますが、私の別の連載が第四回一迅社文庫アイリス恋愛ファンタジー大賞で大賞を頂いたのでそちらの書籍化作業をしてました。受賞は三ヶ月前の事ですが(今更な報告)

 来年1月6日発売なので興味のある方は活動報告をご覧頂けたらな、と思います。素敵なカバーイラストも公開中です。

 あと新連載始めました。『忌み子なぼっち王子様を手なづける方法』というタイトルです。詳しくは連載が活動報告をご覧頂けたら幸いです(宣伝ごめんなさい)


 これからは子世代のお話やルビィのスピンオフもちろっと書けたらな、と思いつつ、取り敢えずまた夫婦の日常を書いていく予定です。

 それでは長い後書きを読んでくださりありがとうございました、これからも宜しくお願い致します!

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