あたたかな未来予想図
あんまりにも暇なんですよね、家に閉じ籠るって。
お腹に子が宿っていると分かってから、なんというか皆過保護です。出勤は禁止されるし、安静を言いつけられるし、ジルなんてお外に出したがらないし。
まあ此処までは分かるんですけど、何故家族全員が揃って心配してくるのでしょうか。いえ、母様はいつも通りに穏やかに気遣ってくれるのですけど。
幸いな事に悪阻はそう酷いものではありませんし、割と元気なの、ですが……うん、何で父様までおろおろしてるんですか。三児の父でしょうに。
「何か食べたいものはあるか? 飲み物とか」
「父様、別にそこまで気を使わなくても良いのですよ? どちらとも間に合ってますので」
そんなに心配なんですかね。母様の時もおろおろしていたからまあ予想がつかない訳でもなかったのですが。
しょっちゅう、というかジルと仕事から帰ってきたら毎度こっちに顔を出すという小まめさ。嬉しいですけど、母様に先に顔を見せるべきでは。
何も必要ないと断ればしゅーんと悄気てしまう父様。その隣でジルは苦笑していて、ぽんぽんと肩を叩いています。……何でしょうその連帯感というか打ち解けたんだぜみたいな雰囲気。
「ヴェルフ様、リズもそこまでか弱くありませんよ」
「しかしだな」
「リズ、今日は大人しくしていましたか?」
「……えーと」
「リズ?」
「……お庭で日向ぼっこしかしてない、よ?」
「本当に?」
「……ミストと怪獣ごっこしてました」
じ、と見つめられて白状すると、ジルは少し眉をひそめたものの許容範囲だと思ったのか「それなら良いですけど」と小さく吐息をひとつ。
因みに父様に言ってる癖に一番過保護なのは旦那様です。取り敢えず無茶は厳禁、走り回ったり禁止、重いものを持ったりとか肉体労働禁止等々の禁止令が出ているのです。
私の体を守る為とはいえ、ちょっとやりすぎなんですよね。流石に無茶するつもりはありませんけど、ある程度の運動は母子共々大切だと思うのです。
ソファに座っている私にジルは屈んで口付けます。
父様が居る前では止めなさいとべしりと胸を叩く私。ジルは満足そうです。……ああほら父様が『仲睦まじくてなによりだ』と呆れた眼差しですし。
「……まあ、兎に角ジルに任せるが、くれぐれも無理だけはするなよ?」
「はーい」
父様は一度言い聞かせるように注意して、部屋を出ていきました。
孫の顔が見たいらしい父様はそわそわしているらしいですが、まだまだお腹も膨らみ始めたばかりですので当分先ですからね、父様。
ジルはジルでそわそわしながら働いてるらしいので、この親子はある意味似てますよね、ほんと。
父様を見送ったジルは、そのまま私の隣に座って、肩を抱いてきます。私成分の補充、というらしく、そのまま頬に唇を寄せたり首筋に顔を埋めたりと、部下(ジルにも出来たらしいです)にはとても見せられない表情と態度ですね。
「……リズ、本当に調子は悪くありませんか?」
「大丈夫ですよ、辛くはありません。落ち着いたものです」
寧ろ想定していたより軽くて拍子抜けしたくらいです、人それぞれではあるのでしょうが、私は軽めの人だったみたいです。酷い人は食べ物を受け付けなかったり臥せり気味になったりするそうですし、軽くて良かったなー、くらいです。
私がけろりとしているのにジルは安堵したようで、少しだけ頬を緩めて。
「……体は大切にしてくださいね。あなただけの体ではないのですから」
「分かっていますよ。……この子の為にも、安全を心掛けますから」
まだほんのり膨らんだばかりの、お腹をそっと撫でるジルに、私は寄り掛かって瞳を閉じます。
……今はまだ、小さな命。けど、あと数ヵ月もすれば、胎動を感じられるようになるだろうし、この世界の技術じゃ分からないけど性別だってはっきりしてくる。
確かに、私のお腹にはジルとの子が息づいているのです。
それはとても、幸福な事。愛しい人との子を儲けられたのだから。家族が増えるのだから。
「……男の子か女の子か楽しみですね」
「そうですね。……名前、一緒に決めましたものね」
「ええ。どちらが生まれても可愛がる自信がありますよ」
「知ってます、奥さんにめろめろな旦那様は子供にもめろめろになるのが相場ですもんね?」
くす、と笑って旦那様の頬をなぞると、ジルは「既に今からめろめろですからね」と笑って、私のお腹をまたそっとなぞりました。
……ああ、幸せだな、なんて改めて噛み締めながら、私は生まれてくる子を想像しながら相好を崩すのでした。
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それでは宜しくお願い致します。