親友のお見舞い
思ったのですけど、このお腹の子が生まれる頃には十八歳になっているのですよね。日本で言うなら、まだ高校生の年齢です。
そう考えると何だか凄いなあ、と思うのですが、こっちでは十五で成人なのでその年に生む方もいらっしゃいますし。世界が違えば常識も違うんですよね。
「……まさかとは思ったが、本当にかよ」
目の前で倒れて心配をかけたセシル君には直ぐに伝達して貰ったので、次の日にはお見舞いに来てくれました。お見舞い、というのも何だか変ですけどね。
私の顔を見に来たセシル君は、感慨深そうにベッドで半身を起こす私を見ていて。
でも、顔には紛れもなく喜びが浮かんでいるのです。偽りのない、祝福の色。
「みたいです。まあ、ジルは色々と積極的な方でしたので」
「だろうな」
「愛されている実感はあるので良いのですけど。予定していたよりも早かったのは否めませんが」
そろそろかな、とは思っていましたけど、もう少し新婚生活をゆったりと過ごしてから子を授かれたらな、と思っていたのですが、ジルがあんまりにも……うん、私を好きすぎてですね?
良いのですけど、……私も偶には休ませて欲しかった、と言いますか?
くす、と笑ってお腹を撫でると、まだまだぺったんこな腹部の感触。
当然ですが、まだ数ヵ月程度でお腹の膨らみはありません。
これも、数ヵ月すれば少しずつ膨らんでくるのでしょう。前世ではそんな機会はありませんでしたし、初めての経験なのでちょっとどきどきです。
出産って鼻からスイカ出すくらい痛いって言いますけど、どうなんでしょう。
「……そうか、お前も母になるのか……」
「む。子供っぽいと言いたいので?」
「いや、随分と落ち着いたよ。単に、幼馴染みが母親になるっていうのが不思議というか、感慨深いんだ」
セシル君は、私が七歳の頃からの付き合いです。つまり、もう仲良くなって十年も経っているのですよね。
それが、お互いにこんなにも成長して。
私は結婚して、そしてセシル君は公爵家に相応しい嫡子として成長した。あの頃からは考えもつかなかったでしょうね。
ふっと気の抜けた笑顔を見せるセシル君は、あの頃とは比べ物にならないくらいに、優しくて、素直です。まあ幼い頃のツンツンセシル君も可愛くて良かったのですが、私は今のセシル君の方が素敵だなあ、と思うのですよ。
「セシル君も、随分とツンツンが減りましたね? もう本当に柔らかくなって」
「うるせえ。お前が悪いんだよ」
「私のせい!?」
「お前が、つーかお前の家系が、俺の内側に踏み込んでくるから。……慣れるし、壁もぶっ壊されるに決まっているだろ」
「……ごめんなさい?」
「いや、良い。最初はなんだこいつらとか思ってたが、俺の世界が広がったんだから。寧ろ、感謝してる」
昔は真冬のような冷たい空気を纏わざるを得ない男の子、だと思っていましたが……今のセシル君は、暖かい春の陽だまりのような、穏やかな空気に変わっています。
まるで、雪解けが訪れたみたい。
……違いますね、本来は、きっとこんな男の子だったのでしょう。
少しだけ、恥じらいの様子を見せたものの、それでも擽ったそうにふっと微笑んだセシル君。……その優しげな顔は、慈しむように緩んで此方を見ています。
……ルビィやミスト、多分この雰囲気と眼差しにやられたんだと思いますよ。
「将来子供がセシル君に夢中にならないか心配です」
「いきなり何なんだよお前」
「いえ。セシル君は年下キラーかと」
「意味が分からん」
「その内分かると思いますよ?」
急な話題転換に戸惑っていたセシル君ですが、まあ私には確信があるのですよ、理由はないのですけど。
将来ジルが子供に「セシル君の方が良い!」とか言われて不貞腐れないと良いなあ。そんなジルもそれはそれで、可愛いですけどね。
活動報告にて最終巻の情報と書影を公開しました。宜しければご覧下さい。