未来の王妃決め、難航中
二十歳になってから、父上や母上が縁談を持ってくるようになった。
それは当然の事ではあるし、寧ろ今までよく自分の好きにさせてくれていたな、と感謝するくらいだ。
本来ならば幼少期から婚約者が決まっていてもおかしくなかった。恐らく、父上がヴェルフに本気で頼み込めば、リズを婚約者にしていただろう。ヴェルフだって本当に頼めば無下にしなかった筈だ。
それを、自分達の意思を尊重という形にしてくれて、待ってくれていた父上。……本当に、感謝の気持ちしかない。
家族とはいえ忙しく中々会えない人ではあるが、いつも尊敬している。自慢の両親だ。
だから、もう私は我が儘を言うつもりもない。リズと結ばれなかったのは心の底から残念ではあるものの、諦めもついている。リズが笑っているのだから、それで良いとは思えるのだ。
これも私は成長したという事なのだろうか。……強がりなつもりでは、ないのだが。
「ユーリス殿下」
「ヴェルフか。どうした」
私とヴェルフは、他の大臣達に比べると仲が良いというか、私的な縁を築いている。何せ幼少時の教師であり、そして好きだった女性の父親だからな。
中庭で休んでいる所にやってきたヴェルフは、気さくな笑みを携えて近寄ってくる。
普通なら無礼だと少し離れた位置に居る護衛に止められるだろうが、互いに長い付き合いをしているし、そもそも護衛がヴェルフを御せる筈がない。
私は私で、ヴェルフには取り繕わないで欲しい為、咎めるつもりもない。公式の場ではきっちり臣下として接してくるから、問題もないだろう。
「いや、黄昏てるな、と。嫁探しが難航しているのか」
「貴殿は明け透けだな。まあ、事実そうではあるが」
人が聞けばお前の娘が断ったんだろう、と思いそうな台詞である。私としては、ヴェルフは無神経というよりは、もう乗り越えたからこそ腫れ物のようにしないで軽く言うのだろう。
実際、乗り越えてはいるし、一々気を使われても困る。
逆に「殿下の想いを無下にして」などとリズに当たる人間も居るから厄介なのだが、他人が口出しするなと私から言っておいたから収まってきている。
ヴェルフは私が苦笑すると「まあ殿下も二十歳超えたからな、探さないといけないもんな」と同情された。まあヴェルフは自分で見付け出して勝ち取ったやつではあるが、親に相当反抗したらしいからな。
「中々に難しいものだな」
「理想はリズみたいな女か?」
「いや。リズはリズだから好きだった訳で、リズのような女性が好みという訳ではない」
だった、と過去形に出来るのは、年月のお陰だろう。もう、リズを見て胸を痛める事もない。ただ、あるのは幸せになって欲しい、という気持ちだ。
……まあ、リズを泣かせたらジルドレイドはただじゃおかない、くらいには思うのだが、それは恐らくヴェルフも含めて周りの皆がそうだろう。
「貴族で魔力持ち、年齢はなるべく同世代という条件ではあるのだが、中々に父上のお眼鏡に敵う相手は見付からないな。魔力持ちは絶対であるが故に、難しい」
「魔術大国のセレスティアルだからな」
「それだから、他国の姫君ならば尚更かなり限定されてくる。魔力持ちなどこの国以外だと本当に珍しいからな」
セレスティアルだからこそ、基本的に珍しいとはいえ魔力持ちも居るし、貴族の子は大抵が連面と魔力を受け継いできている。だから探すならば自国で、なのだが、周囲に認められるような魔力持ちとなると、限られてくるのだ。
まあ候補に上がったのがヴェストレムのご息女だが、本人が剣に生きたいと言って固辞された。当主にはこっぴどく怒られていたみたいだが。
「困ったものだな」
「そうだな。……まあこればかりは仕方ないから、よく選べとしか言えんな」
「よく考えてから選ぶさ。未来の王妃で、この国を一緒に背負って貰うのだからな」
そう考えると、リズを嫁として迎え入れないで正解だったのだろう。彼女は、締め付けられる事を厭うから。ただ一人に囚われているのが、リズには良いのだろう。
リズならば重荷も一緒に背負ってくれるとは思っていたが……今のリズを見ると、自由で居た方が魅力的だ。まるで咲き誇る花のようなリズは、国のシンボルになってしまえば愛想笑顔が貼り付いて、きっと、陰で萎れてしまうから。
「……殿下も大人になったな」
「当然だ。……もう、夢見がちな子供で居る期間は過ぎたのだから」
私は、もう子供では居られない。大人として、そして次の国王として、生きていかねばならないのだ。それが、責任ある立場に生まれたものの宿命であり、義務だ。私は民のお陰で生きているのだから。
だから、これは願わくば、だが。
次こそは、本当に愛し合える人を妻に迎えられたら、と思う。今は義務で結婚だとしても、いつか、愛を育めたら、と。そう思うのは、我が儘だろうか。
「……殿下」
「何だ」
「振った娘の親である俺が言うのはおかしな話かもしれないが、……いい人を見付けて欲しいと思う」
「ああ」
らしくないしおらしさを見せたヴェルフに笑って、未来の妻はどのような女性になるのか、と想いを馳せておいた。
長らく更新しておらず申し訳ありません。
その内またお知らせしたい事とかあるのでまた更新再開致します。
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