苦労する義兄
最近、やけにルビィがジルと仲が良いというか、昔に比べてこう、ぎこちなさがなくなったというか。
昔はルビィがセシル君を私の夫にと応援していたから、ルビィにとってはジルの存在は面白くなかったのでしょう。ジルはそういうルビィにたじたじでしたから。
けど、今は違う。
何というか、打ち解けたと言いますか……変にぎくしゃくしたり牽制したりする事がなくなったんですよね。まあする必要がなくなったんですけど。私がジルと結婚したから。
義兄弟になった二人は、今では魔術について話し合ったり、父様に仕事を学んでいるルビィのサポートをジルがしたり、距離を縮めて行っているみたいです。
一番の驚きが、呼び方の変化。
ジルはルビィを呼び捨てにするようになったし、ルビィは義兄さんと呼ぶようになった。なんか、私をそっちのけに親密になっている気がするのですよ。
「姉様、何不貞腐れているの」
ルビィがジルに素直に教えを乞うようになって、偶にルビィは別館を訪れてジルとお勉強したり鍛練したり。今日もまたジルと鍛練に励んでいるルビィなのですが……何か、複雑というか。
「不貞腐れてはいませんけど、何か……いきなり仲が良くなってて戸惑うというか」
「元から仲良かったよ?」
それは嘘のような気がしますが……。仲悪いというかルビィが一方的に敵愾心……いえ、ライバル心を燃やしていたというか打倒ジルと燃えていたというか。
「ねー、義兄さん」
「そうですね」
ジルは何とも言えない感じで苦笑い。ジル的には多分私寄りの意見な気がしますよ。
「ま、まあ、何にせよ、ルビィが仲良くなったなら良かった。これで打倒ジルはなくなりましたよね」
「いや? ジルは倒すつもりだよ?」
「……はい?」
「それはそれ、これはこれ。僕の目標は打倒ジルだから、そこは変わりないよ」
にっこり笑ったルビィ。……この鍛練もジル打倒の為なのでしょうか。本人を目の前にして言うって、豪胆というか……。
ジルはもう慣れてしまったのか苦笑いで流していて、このやり取り多分ジルもやったんだろうなあって想像がつきます。そこは相変わらずなんですね、ルビィ。
あどけない笑顔のルビィの野望はもう私では止められそうにないので、ジルに任せる事にします。頑張って、ジル。
何とも逞しくなりましたね、ルビィは。中身もそうですが、外見は顕著。もう私の背を抜かしていますし、体つきも鍛えているお陰で男の子っぽさが見てとれます。
童顔というかベビーフェイス気味だから可愛らしさは健在ですけど、中身が強かだと知っている私は純粋に可愛いとは思えなくなりました。いえ、可愛い弟なのは間違いないのですけど。
「……ルビィはジルを倒してどうするのですか?」
「え? 別に意味とかないよ、自己満足だし」
「じ、自己満足……」
「ジルを倒したら一人前って、自分で勝手に決めてるだけだもん」
……それはまあ、なんと高い壁なのでしょうか。ぶっちゃけ、ジルかなり強いですからね? 父様と対等にやりあえるくらいには強いですからね?
というか、ルビィは魔導院に入れるくらいには強いですし、最早一人前と呼べるくらいには実力があるのですけど……。
幾ら何でも目標の設定を間違えているんじゃ、と零すとルビィは「目標は高い方が燃えるからね!」と胸を張っています。いえ、そうですけどね?
「ジル、頑張って下さい」
「……はい」
色々と将来苦労しそうなジルに今から労いの言葉をかけておくと、ジルは既に疲れたように頷き返してくれました。
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