旦那様はモテ期(?)
私の夫であるジルは、導師補佐の役割についています。つまり、魔導院では二番目に偉い立場という事になります。
魔導院は実力重視なので上に行けば行く程強い、となりますし、父様とジルが決闘した事は後に広まったので、ジルは父様と対等にやり合うくらいには強い、という認識を魔導院の職員に持たれています。
そんなジルは、何故か今人生最大のモテ期らしいです。
「ジルも大変ですねえ」
今日私はお休みだったので、お仕事から帰ってきた旦那様を迎え入れれば、何だかへとへとなジル。
事情を聞けば、何だか最近やけに女性職員さんから話しかけられるそうです。あと貴族の令嬢とか。ジルは紳士さんなので笑顔で対応するのですが、何だかかなり多いらしくて困っているみたい。
モテモテですね、と微笑むと、何だかジルは不服そう。
「笑い事で済ませるリズもリズです。あなたの夫が言い寄られてるのですよ」
「その人達の気持ち、分からなくもないですから」
ジルは強い。国王陛下にも認められて実力の持ち主です。だからこそ魔導院で二番手を名乗れるのですが。
それに加えて、ジルは贔屓目抜きに、格好良い。爽やかな紳士さんって見掛けですし、その美貌は落ち着きを増した分色気すらあるのです。見惚れるのも、仕方ありません。
……これでは私がのろけてるようですけど、実際ジルってとても整ってますし、こう、綺麗なんですよね。
更に、ジルはアデルシャン家に婿入りした。国内でも一二を争える程に有力な、侯爵家に。
流石に結婚しているし父様の目もありますし、本気で略奪に走ろうとする女性こそ居ませんが、仲良くしたいと思う女性は多数のようです。男性だって交流して繋がりを持っておきたいって思ってる方が多数ですし。
まあ、生い立ちと境遇故に忌避する人も少なからず居ますが、大抵は好意的に見てくれているみたいです。
「既婚者に言い寄る女性も色々剛胆ですよね」
「心配とか嫉妬とかしないのですか」
「ジルは私一筋なの、知ってますので」
浮気の心配は必要ないでしょう。だって、ジルは昔から私に一途だったみたいですし、今でもその愛情は薄れるばかりか増していて、嬉しいのですが色々と大変です。
愛情を一身に注いでくるので、うん、ちょっと物理的には控えて下さると助かりますが、愛してくれているのは間違いありません。
そんなジルが浮気なんてする筈がありません。靡くとも思いませんし。
私の信頼っぷりに、ジルは喜んで良いのか悪いのか、複雑そう。ジルとしてはやきもち焼いてくれた方が嬉しいんでしょうね。
「私としては、ジルが好かれて嬉しいですよ」
「……まあ、嬉しくなくはないですが」
「未来の導師が好かれて悪い事はないでしょう? それに、ジルも逆にコネを作っちゃえば良いのですよ。幾らあっても困らないでしょうし」
今のところは二番手に収まっていますが、いずれ父様は導師の座をジルに譲る。その時に人望がなかったりしたら悲惨ですし(ジルの努力は職員さん達も知ってるしそれはないでしょうが)、ある程度繋がりを持っておく事は悪くないでしょう。
「それはそうですが、複雑ですね」
「ふふ。……あのね、ジルの事、信頼していますけど、感情としてはあんまりにべたべたされるとちょっとむかっとしちゃいます」
「え」
「だから、適切な距離は守って欲しいなあ、とは思います。あと香水臭いのは嫌ですから」
別に、何とも思わない訳じゃないですよ。ただ、私の感情一つで交友を制限するのはよくないと思うから、ジルに判断を任せますし私から咎める事はありません。
個人的には、べたべたされたらむむっとなっちゃいます。
流石にやきもちは子供っぽいので我慢してたのですが、零すとジルは途端に嬉しそうに笑って「リズ一筋ですので」と抱き締めてくるので、やっぱりなあと思ったり。
……だから、信頼して、ジルに全部任せてるのですよ。私のところに帰ってくるって、分かってるから。
自分でも言い切れるくらいにべた惚れな旦那様に苦笑して、それから「私もですよ」と小さく返しておきました。