飲み込んだ恋心
セシル君視点。短め。
結婚してからは大分大人びてきたリズ。少女のあどけなさは残しつつも淑やかに、落ち着いた少女に。いや、急速に女性に変貌しつつある。
夜会でもしっとりと微笑み旦那と側に居るリズは、優雅で美しい。幼く無邪気でいる期間は終わり、女性としての立ち振舞いや表情に変わっていた。
……恐らく、色々ジルに教えられているのもあるのだろうが。少女としてでなく、女としてジルに求められた結果が、あれなのだろう。
新婚一週間は部屋に引きこもらざるを得なかったという話を聞いて、複雑な心境ではあったがそれよりも色々可哀想という方が強く合掌してやった。
今のリズは、昔とは違う魅力に満ちている。幼さと危うさが強かったそそっかしい少女は何処にも居ない。美しく女性としての包容力に満ちた、淑やかな女性がそこには居た。
そうしたのは、ジルだ。
……その事実に然程胸が痛まなくなったのは、きっと、俺がリズを好きという感情が過去のものになってきたからだろう。無論好きだが、それが友情としてのものになった。……本心からあの時好きで良かった、そう素直に思えるようにすらなった。
これはきっと、上手く飲み込めたのだろう。
俺は、今ちゃんと心からの笑みを浮かべられるようになっただろうか。無理をしたような笑みではないだろうか。
リズと視線が合うと、ふわりと陽だまりのような笑顔が浮かぶ。いとけない笑顔というよりは、幸せに満ちた女性のもの。幸せそうで何よりだ。
穏やかに微笑むリズを遠目に、俺は少しだけ微笑んで会場を後にした。
もう俺からの庇護は必要ない、立派な女性になったのだから。
「セシル君セシル君、見てください! 私でも魔術開発出来たんですよ! 褒めて下さい!」
前言撤回。こいつはまだ無邪気な少女である。