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子供好き

間隔が空いて申し訳ないです。

 私が十七歳も後半になるとミストも三歳になり、言葉もそこそこに喋れるようにはなりました。

 ミストは私似なので、さらさらふわふわアイボリーの髪にルビーと見紛うばかりの鮮烈な赤の瞳。団栗眼にいとけない笑顔が特徴の、それはそれは可愛らしい子供に成長しました。


「おねーちゃ、あそぼ!」


 その愛らしさたるや、昔のルビィにも負けない程。いえ、ルビィと比べるというのも間違っていますね。二人共とても愛らしいのですから。……まあルビィ、十二歳になってからちょっぴり可愛げがなくなってきた気もしますけど。


「姉様、ミストが遊ぼうだって。今日は何するの?」


 もう私の身長をすっかり通り越したルビィ、心なしか掠れたような感じでちょっぴり声も低くなっている……気がしなくもないです。声変わりの前兆なのでしょうか。

 ルビィももう立派な男の子なんだなあ、と妙に感心してしまいますよ。ミストを高い高いしてあげる所なんて、もう一人前のお兄ちゃんですから。


「ミスト、何して遊ぶ?」

「んー、おうまー」

「お馬ですか。私でも良いですけど……」


 成人女性がお馬さん役をするのもどうかと思うのですが、可愛いミストの為です。まだ全然軽いし、一人くらい跨がられても平気ですよ。ミストが喜ぶなら私も喜んでしますとも。


 よし来なさい、という意思表示でカーペットの上に寝転がると、ミストは笑顔で私にのし掛かります。ルビィが微妙に呆れた顔してるけど気にしません、服が汚れちゃうかもしれませんが気にしません。大丈夫、うちの家はメイドが綺麗にしています。


 結構ミストも重くなったなあ、なんて感慨深さを覚えつつミストを振り落とさないように四つん這いになると、ミストは視界が高くなった事に興奮しているのか楽しそうに笑っています。

 軽く揺すってあげるとこれまた気に入ってくれたようで、髪を掴んで乗馬気分を味わっているみたい。出来れば髪を手綱にしないで欲しいのですが、まあ愛しの弟なので我慢我慢。


「……リズは偶に突拍子もない事をしていますよね」


 ルビィに落ちないよう見張って貰いながら暫く乗馬体験(人力)をしてもらっていると、どうやら父様と話が終わったらしくてジルが部屋に入ってきました。まあ、顔を見なくても声だけで呆れているのは分かります。


「あっジル」

「あー、じるだ」


 素早く反応したのはミスト。私からぴょこんと飛び降りては、ジルの元に駆けていきます。

 これで抱き付くのならとても微笑ましい光景なのですが……何処を誰に似たのか、ミストはジルに近寄ってはぽこぽこパンチし出すのです。まあ確実にルビィ辺りの影響が出て来ている気がしなくもないのですが、ルビィを見ると顔を逸らされました。


 最近ルビィは反抗期なのか、暴言や素っ気ない態度こそ取りませんがちょっぴりよそよそしかったり、隠し事をするようになりました。男の子の成長なので仕方ないのですが、お姉ちゃんちょっと寂しい。


「ねーちゃは、ぼくの。わたさないもん!」

「言ってやれミストー」


 やはり私の弟は天使です。ルビィ、囃さない。


「ミスト様、リズは私のです」

「ジル、流石にそれは大人気ないですよ」

「だから、ミスト様には大切なリズを貸してあげますね」

「いつの間に賃貸契約が」

「やだー、ぼくの」

「じゃあ半分こしましょうか」

「スプラッタな発言しないでください」


 いつぞやのルビィも言いましたからねそれ。


 ……まあ流石のジルもルビィのように扱う訳にはいかず、何だかんだでとても優しく大切に接しています。ジル、子供嫌いって訳じゃないので。まあルビィがジルに反抗的なせいでちょっと苦手意識はあったみたいですが。

 それに、ミストは私に似ているのでかなりジルも態度が甘いです。ルビィに対しては……うん、多分ルビィが幼いなりに敵愾心を持っていたので対応に困っていたのでしょうね。


 半分こで手を打ったらしいミストはご機嫌も回復した模様。高い高いをジルにねだって、私やルビィよりも高い位置の高い高い。脳をシェイクしないように慎重な手付きなのは見てて分かります。


 数回したら満足したのか、今度はルビィの所にいって腕にしがみつこうとしています。ルビィも笑って積み木の所まで連れていって一緒にお城を作ろうとして居るので、下が居るとしっかりしてくるんだなあっていう実例ですね。


 手が空いたジルは、私のところに来てはゆったりと微笑みます。


「……子供は可愛らしいものですね、邪気がないですし」

「ふふ、そうですね。ミスト、可愛いでしょう?」

「ええ」

「でも、ジルが進んで相手するってのは予想外でした。てっきり困り顔で相手するのかと」


 ジルはいつも遠慮がちに接するので、ああやってとても慈愛に満ちた優しい笑みをして好んで相手をするというのも、中々にないのです。昔は嫌がってはなかったけど戸惑ってましたからね。

 どういう心境の変化があったのでしょうか。


「ふふ、自分達に子供が出来たら、ああいう風に遊んであげたいな、と思いまして」


 疑問をほどいたのは、ジルの一言。


「私が愛されなかった分、子供には沢山愛を注いであげたいでしょう?」


 ……ああ、そっか……ジルは……自分の事を考えて、そこから沢山の愛情を注ぎたいっていう結論に至ったのですね。

 親に愛されなかった子供程、苦しくて、辛いものはないから。二度と同じ思いをさせたくないと、心に誓っているのでしょう。


 ……馬鹿ですね、私達が自分の子を愛さない訳がないでしょう。ジルにだって、いつか授かる子供だって、同じくらいの愛情を注ぐつもりですよ。


「……子供が溺死しそうな程に愛情を注いであげましょう」

「溺れかけたらルビィに助け船出してもらえば良いですからね。……寂しくないように、満ち足りた子であって貰う為にも、沢山の愛を送りましょうね」


 まあまだ先なんですけどね、と茶化したように笑うと、ジルはルビィが見ていないのを良い事に私の頬にキス。

 唇は直ぐに離れたけれど「その内来ますよ」と予言じみた事を耳元で囁いて。……多分実行に移しかねませんね。まあ、それだけ愛されていて、私は幸せなのですが。


「お手柔らかにお願いしますね」


 拒む事はせず、ただ熱を共有するように、掌を重ねました。

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