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休日の過ごし方

 私の旦那様は、何というか、私の為なら何でもしようとする癖があります。もう従者じゃないから身の回りの事くらい自分でするなりメイドに頼むのに、ジル本人がやろうとしたり。

 それから外に出る時はジルが絶対に護衛につくのです。別の人に任せてジルはお仕事してても良いのに、そこは譲りません。まあロランさんやフィオナさんが来てくれた時は渋々譲ってくれますが。


「リズ、此方に。御髪を整えますので」


 朝の用意もジルがしようとするので流石に着替えはストップをかけますが、服は選びたがるのですよね。ジルが選ぶ服を着るのも良いのでそれは自由にさせてますが。

 ジルがやりたがるので言葉に従ってドレッサーの前に座ると、ジルは慣れた手付きで櫛を使い髪を梳いていきます。従者の頃から私の髪を触るのは好きみたいでしたが、結婚しても変わらないみたいです。


 髪を梳かれるのは好きなので気持ち良いのですが、こういう事ってメイドさんにさせるものなんじゃないかなーとかやっぱり思うのですよ。いえ上手なので構いはしないのですが。


「リズの髪は本当に綺麗ですね、柔らかくて艶めいている。触り心地が良いです」

「それは嬉しいのですが、何もジルが整える事はないのですよ?」

「私がしたいのです」


 嫌ですか?と首を傾げられては拒否する気にもなりません。ジルに触れられる事が嫌な訳がないでしょう、ジル本人だって分かってる癖に。

 まあジルが触りたがるなら良いか、と止めるのは止めて好きにさせると、ジルは上機嫌で私の髪を編んでいきます。……私より遥かに器用なので難しい編み込みもこなしていくのは、ちょっぴり複雑ですけども。


 数十分程鏡の前に座っていれば、これまた器用に編み込みが完成していました。何というか、本当に器用ですよね。


「出来ましたよ」

「ありがとうございます。相変わらずメイドもびっくりの出来栄えですね」

「これくらい簡単ですよ」

「……ジルって無駄にこういうの上手いですよね」

「リズの為ですから」


 爽やかな笑顔ですが、私の為といって身に付けた技能がどれだけあるのか分からないです。料理と絵画は出来ないものの、基本的に後の事は何でも出来ますからね。寧ろ欠点があってほっとしてるくらいです。

 何ともハイスペック従者、もといハイスペック旦那様なジルですが、そんなジルは背後から私を包むように抱き締めて来ます。


「……リズ、今日はお休みですからゆっくりしましょうね」

「ふふ、そうですもんね。此処最近ジルにゆっくり休める時間もありませんでしたし」


 結局ジルは魔導院で今まで空いていた導師補佐という席、つまりは魔導院でNo.2という名誉ある地位に就いたのです。やってる事は数年前から導師補佐そのものでしたけど、名実共にジルがその任を任された形です。

 そんな訳で新たに引き継ぎ業務とか何やらで忙しくらしくて、一日ゆっくりと過ごせる日がなかったのですよ。今日は本当にお休みなので、今まで足りなかったリズ成分とやらを補給したいのだとか。……私も、ジル補給したいし。


 今日はジルに沢山甘えさせるつもり……なのですが、際限なくジルの好きにさせると確実にあらぬ方向に行って大変な事になるので、気を付けなきゃ。一回身を以って経験をしてるので、翌日の事を考えると上手く誘導するしかありません。


 ジルは私の決意を知らないのでにこやかに私を抱えてはソファに移動します。これでベッドに連れて行かれたら全力で抵抗するしかなかったのでちょっぴりほっとしてますよ。


「……そんなに私はがっついてるように見えますか?」


 微妙に変化した表情でなにを考えていたかは見抜いたらしいジル、苦笑で私の顔を覗き込んで来た為に私は目を逸らすしかありません。

 実際結婚してから暫く大変だったのですよ。ジルは満足そうでしたけどね。


「別にこんな時間からリズとするつもりはありませんよ」

「出来れば夜になってからも遠慮して欲しいのですが」

「それは保証しかねますけど」


 あっ駄目だこれ食べられる。


 思わず体を揺らした私ですが、ジルは私を膝に乗せては抱き締めて頬に口付け。全くもう、と口では文句を言いつつも、何だかんだ愛されてる実感はあるので本気で拒める訳がありません。向こうもそれを確信して言ってるのでタチが悪いですけど。


 そんな計画犯な旦那様ですが、私を愛しているのは伝わって来ます。ぎゅ、と痛くないけどしっかりと抱き締められて、口付けを落としては幸せそうに笑うから、私も釣られて微笑んで。

 ジルが少し物欲しそうにしていたから私からも軽く唇にキスをすると、とろりと溶けたような笑みになる。ジルは案外可愛いのですよね、そういう所が。


「今日はリズがやけに積極的ですね。普段は自分からしないでしょう」

「……だって、ジルが……その、欲しそうにしてたから」


 そりゃあ私だって恥ずかしいですけど、大切な旦那様に望まれたら応えるつもりではあります。最初に言っておくと限度はありますけど。


 嫌ですか、と首を傾げると「まさか」という返事。それからジルの方から唇を重ねられて、後頭部に掌を回されて固定されて。

 逃げ場をなくした上で深く口付けるのは、卑怯というか。


 ずるい、と胸を叩くと余計にジルが深く入り込んで来て、ジルの胸を叩く手も縋るものを求めてシャツを握る事に変えさせられてしまう。

 あまり表現したくない声が漏れてしまって余計にジルを煽っている気がするのですが、自分では止めようがありません。ばか、なんてキスの合間に呟けばジルは何故か嬉しそうに笑ってまた口付けて。


 暫くジルに翻弄されて、解放された時には頭がぼーっとする程に息が上がっていました。こういうキスは未だに慣れないのにジルだけ上手くなってて何だか不公平です。


「そういう顔は、非常に色っぽいのですよね。普段はあどけないのに」

「……誰のせいですか」

「私ですね。私以外に見せないから良いでしょう?」


 さらりと笑顔で言われて、もう一度ばかと呟いてジルの胸に顔を埋めます。全部見られてはいますけど、そういう事言われるのは恥ずかしい。ジルは私の羞恥を煽って楽しんでいる節があるので、そういう所は意地悪なんですから。


 するりと髪を梳いては愛おしそうに撫でてくるジルに、気恥ずかしさを覚えつつも心地良さに身を委ね。久し振りに何かに急かされずこうして身を寄せ合うことが出来る事を喜び、でもやっぱり照れ臭くて顔は上げません。

 これじゃどちらが甘えてるのか、分かりませんね。


 頬が赤く染まっている事は察しているのでしょう、ジルは顔を上げようとしない私の態度に喉を鳴らし、そっと「可愛い人だ」と耳打ち。……ほんとに甘い言葉ばかり吐くんですから。

 余計に顔を上げられなくなった私に、抱擁を強めるジル。おまけに耳を軽く食んでくるから擽ったさやら恥ずかしさやらで余計に顔に熱が集まるというか。


 耐えきれず苦情を言おうと顔を上げると口付けで出迎えられます。ジルの思う壷だったのだろうと分かってはいましたが、逆らう気も逃げる気もありません。

 愛でるように唇を食まれ柔らかい感触を擦り付けられて、頭がまたふわふわと浮いた心地になる。下唇をふにふにと唇で挟みながら掌を私の腰から上に登らせているジルは色々と元気ですよね、とか思いつつも好きにさせておきましょう。流石に事に及ばれるのは全力で阻止しますが。

 ……まあ詰まる所、私もジルの事が大好きで単なる睦み合いをしているって事なのですよ。この場に私達二人で良かった。こんな所を他人に見られていたら羞恥で死んじゃいますけど。


「ジルって結構触りますよね」

「愛しい妻に触れたいのは当然だと思いますが」

「……もう」


 結婚前から結構に触れ合っているのですけど。つまり好きな人に触れたいのは当たり前って事ですね。まあ私もジルに触れるのは好きだから良いんですけども。

 首筋に顔を埋めてきたジルの背中を抱き締め、私もまたジルに体重を預けます。互いに求め凭れ合うだけで、不思議と胸の奥が満たされていくような感覚がしました。……やっぱり、ジルが好きなんだなあって、改めて思うのですよ。


「ジル、好きですよ」

「愛してるは言ってくれないのですか?」

「……恥ずかしいです」

「私は言っているのにですか?」

「……言わなくても、分かると思いますけど」

「リズの口から聞きたいのですよ」


 至近距離で微笑んでくる夫にとうとう根負けして、小さく「愛してます」と呟くと、ジルはこれでもかと言わんばかりに笑みをとろけさせ私の頬に軽く口付けて。

 私は幸せ者ですね、なんて呟くものだから、私も苦笑して甘えるように頬を胸に擦り寄せて「私も幸せ者ですよ」と小さく囁きました。


いつも拙作をお読み頂きありがとうございます。

この度『転生したので次こそは幸せな人生を掴んでみせましょう』の三巻が刊行される事となりました。

三巻が発売されるのも皆様のお陰であり、誠に感謝しております。

三巻の詳細は活動報告に書いてありますので、宜しければご覧下さい。

これからも『転生したので次こそは幸せな人生を掴んでみせましょう』を宜しくお願い致します。

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