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互いに譲れぬ争い

 私が以前使用した訓練場は、人払いをされ私達以外の誰も居ません。訓練と言えど模擬戦を行う用に作られてあるので、観客席が周囲を取り囲むように作られてあります。

 観客席の床は高低差があり、観客席は少し上から戦いを眺められるようになっていました。高低差の部分の壁は防御術式が組み込まれていて、誰かが魔力を流す事を前提ですが流れ弾から身を守る事が出来ます。

 今回は、これも最大限に利用します。本来は数人がかりで魔力を流しますが、私一人で賄えるでしょう。それでもある程度の防御力しかないので、父様達はなるべく周囲に被害を及ぼさない事を祈るしかありません。


 私達は訓練場の中心に立っています。決闘前には勿論私と陛下は観客席の方に移動しますが。

 やる気に満ち溢れたジルの表情は、はっきりと分かります。私が以前ジルに贈った特注のコートに身を包み、凛とした眼差しで相対する父様に視線を向けては堂々とそこに立っていました。

 私は共にジルと戦えないから、あのコートが代わりにジルと戦ってくれるでしょう。


 対する父様も堂々と立ち、威厳たっぷりに待ち構えています。その光景たるや、巨大な門の番人のよう。いえ、門を含めた壁そのもの。揺るぎない自信と強さがみなぎっていました。


「では確認する。この決闘はヴェルフ=アデルシャンとジルドレイド=サヴァンの間で行われる。要求はリズベット=アデルシャンとジルドレイド=サヴァンの婚姻の承諾、又は拒否で相違ないな?」

「はい」

「ああ」


 陛下の確認に、二人とも厳格な面持ちで頷いております。ただ、父様はちらりと私達を見て瞳を細めました。


「……ディアス、肩入れするなよ?」

「審判は公平に行うと誓う。気持ちはジルドレイド殿を応援しておくが」

「俺を応援する気は更々なしかよ、ったく。……ジル、恨みっこなしだ。負けたら出直せ、良いな」

「はい」


 言葉では同意していますが、ジルの表情からは負ける気はないと伝わってきて、頼もしい限り。父様はそんなジルにいい度胸だと不敵な笑みを浮かべています。

 父様はジルを侮ったりなどしない。だからこそ勝てるかは保障出来ません。父様は強いなんて百も承知だから。私はジルを信じて見守るしか出来ない。歯痒いけれど、これもジルの矜持を優先した結果です。


「ジル」

「リズ様、行って参ります」

「応援してます。……ねえジル。主人として最後に、良いですか?」

「何でしょうか」

「勝って」


 短く、一言だけ。

 きっと、これだけで伝わると思います。私がジルを信じて疑わない事を。共に在る未来を夢見ている事を。

 皆まで言わずとも伝わったのか、ジルの顔はほのかに笑みを浮かべ、そして直ぐに真剣なものに変わります。思わず目を奪われる程に、真っ直ぐに私を見つめていて。


「……仰せのままに」


 その一言と共に私を優しく抱き締めるジル。隙間から見えた父様がやや頬を引き攣っていましたが、陛下の「不粋な事は止めろ」と一睨みもあってか引き剥がす事はされませんでした。多分、陛下が制止しなくても私達を離そうとはしないと思いますけどね、最後の応援なのだから。


 私を確かめるように抱き締めるジルを腕の中から見上げ、ちょっとだけ悪戯っぽく笑んでみせ。


「……勝ったら、ご褒美あげますね」


 ジルにだけ聞こえる声で囁けば、目を丸くするジル。それから柔らかく微笑んで私を抱き締める力を強めるジルに、これはご褒美が私そのものになりそうだなあとか何となく感じつつも、勿論嫌ではありません。……求められるのは、嬉しい事だから。


「では是が非でも勝たないとなりませんね。元より勝つつもりでいますが。……リズ様、行って参ります」

「はい」


 頬に口付けてそっと体を離すジルに、父様は「……親の前でよく出来るな、この野郎」とぼやいてはいますが、怒ってはいません。私達の仲を知っているからこそ、無理に引き離そうとはしていないのです。父様は、ただ見極める。


 まだキスの感触が残る頬は少し熱くなっていました。中々口付けには慣れないけれど、幸せだけはしっかりと受け止める事が出来ます。

 少し笑んで、それからゆっくりとジルから離れて。名残惜しいけれど、もう、時間だから。


 今までやり取りを見守って下さっていた陛下に視線を移せば、穏やかな表情で首肯。そして観客席の方に移動するので、私もその後を静かについていきます。後は見守るだけ。

 観客席に移動して二人を見れば、距離を取って再び相対しています。ジルも父様も、闘志がみなぎっているのは、表情からして感じ取れました。


 ……思えば、ジルと父様が本気でぶつかるのは、多分初めて。実力は認めつつも、どうしても父様はジルを格下認識はしていましたから。

 でも、今回は違う。一人の男として対等に、本気でぶつかるつもりでしょう。


「リズ様にやる気を注がれたので、今なら何でも出来る気がします。……必ずや、リズ様に勝利を届けてみせましょう」

「はは、良い気合いじゃねえか。手加減はせんぞ」

「望むところです」


 頼もしい言葉を返したジルに、父様は満足そうに口角を吊り上げ、陛下に視線で合図。それだけで何を意味するか理解した陛下も微笑み、ふと表情を引き締めては二人を交互に見遣ります。


「では、始めても良いか?」

「ああ」

「ええ」


 互いに頷く父様とジル。私はきゅっと胃が引き絞られるような感覚を覚えつつ、高鳴り始めた胸を手で押さえて陛下の合図を待ちます。戦うのは私ではありませんが、緊張は同じ分感じていて、胸が苦しい。

 けれど、ジルに任せて逃げるつもりもありません。私はジルが勝つのを信じ続けるのみです。


 隣でゆっくりと吸われる息。一瞬の静寂は、次の瞬間の言葉の為で。


「……それでは、決闘、始め!」


 鋭く発された言葉に、動いたのは二人同時。

 それぞれから魔力の揺らぎ。先に形となったのは、父様です。

 父様に遠慮という文字はありませんでした。

 瞬時に術式で形成したのは、火の攻撃魔術では高威力の部類に入る、かつて私がジルに放った事もある『エクスプロード』。火と言うよりは爆発そのものと言った方の良さそうな、非常に衝撃の強い魔術です。


 轟音と共に爆発の数々がジルの周囲で起こります。私が行使するものより遥かに強力な威力のそれ。並大抵の魔導師では防ぎようのない衝撃がジルを襲っていますが……爆発の止んだそこには、ジルが決闘前と何ら変わらない姿で立っていました。

 父様が先手必勝で強力な魔術を撃ってくるのを予想して術式を発動させていたのでしょう。


 父様は防がれた事に動揺している様子はありません。寧ろこれくらい当たり前だと踏んでいるようで愉快そうな笑みです。


「お前も強くなったな」

「私はリズ様をお守りすると心に誓った。あらゆる災禍から身を守ると。これくらい、退けられなくて守るとは言えません」

「よく言った……が、言葉だけで示せると思うなよ!」


 言葉と同時に体内で紡いでいたらしい魔術を発動させ、次々と炎の槍が生まれ、先端をジルに向けて撃ち出します。

 流れるような動作に、ジルも動じた様子はなく、向かってきた燃え盛る槍を水球を撃ち出す事で迎撃していました。精密なコントロールで的確に相殺しており、炎の残滓一つすらジルには触れていません。

 防がれたと見るや否や今度は槍ではなく、燃え盛る炎の渦がジルに向かう。

 殆ど魔術間のラグはなし、並列処理による連続攻撃。硬直時間など見せずにただジルを攻め立てるます。


 けれどジルも同じように複数術式を体内で展開して、父様の術式を打ち消していく。炎の竜巻ごとジルが生み出した津波が覆い尽くし掻き消し、そのまま父様に向かって流れていきます。


 襲い掛かる莫大な量の水。


 父様に津波が襲い掛かる、発動してから父様に到達するまでには少しラグが発生します。父様レベルなら対応は可能で、だからこそジルは瞬時に魔術を紡ぎ氷柱を大量に生み出し、意趣返しとばかりに父様に向けて塊を降り注がせます。


 津波で視界を阻害させ、鋭い氷柱を捉えきれない数で津波ごと父様を貫こうとさせる。

 一撃一撃の威力は父様には及ばないけれど、ジルは扱いが繊細で多彩な魔術を使うのが得意です。

 父様は火の魔術が得意で使用も火が多い。特化しているからこそ、頂点まで登り詰めている。


 父様は強い。紅蓮を従え、何者も寄せ付けない。……だからといって、火に特化しているからと他に長けていない訳でもないのです。


「惜しいな、もっと強い魔術なら届いたかもな」


 届く前に、津波が凍り付き、がしゃんと音をたてて砕け散る。ジルが飛ばした氷柱の数々は落とされ父様に届かず役目を放棄していました。それも父様の放つ魔術の熱によって溶かされ、水蒸気となって宙を漂い始める。


 何も、父様は他の魔術を扱えない訳ではない。高水準で留まっているのは、父様も同じ。寧ろ経験の分父様が上手です。 

 それを承知の上でジルは戦いに挑んでいますが、やはりというかジルが不利です。

 父様と違い、ジルは攻撃よりも防御に比重をおくスタイル。攻めるのが苦手という訳ではありませんが、得意な魔術の性質上攻撃魔術同士の衝突では父様に軍配が上がります。


「一筋縄でいかないとは思っていましたが、厳しいですね」

「じゃあ諦めるか?」

「まさか」


 父様の揶揄するような笑みと提案を笑って否定したジルは、不安を感じながらも見守るしか出来ない私の方を見て、柔らかく笑み。大丈夫ですよ、と私の心を解すように眼差しが訴えかけてきます。


「……私は、勝たなくてはならない。リズ様の為に、私の為に!」

「やれるものならやってみろ!」

「そろそろ守る立場を私に譲って頂きます!」


 自らを鼓舞するように声を張り、再び魔術を繰り出し父様に立ち向かうジルは、決して諦めないと眼差しが語っています。

 父様もそれを認めているのでしょう、口許に笑みを湛えているものの瞳は鋭い。煌々と輝く紅玉は獰猛な光が揺らぎ、ジルを本気で打ちのめそうという戦意が見てとれます。


 ジルが放った紫電を障壁で掻き消し、お返しとばかりに幾多もの業火球をジルに撃つ。

 迫る猛炎、けれどそれはジルには届かない。ジルの本領が防御にあり、父様よりも強固な障壁が行く手を阻む。


 火の粉となって火球が散る。あっさりと防がれてはいますが、父様の笑みは濃くなるばかり。

 防がれる事を読んでいたかのように障壁で散った火の粉を火種として炎が生まれ、ジルを取り囲む渦を瞬時に形成してはジルの障壁を侵そうと揺らめきます。

 燃え盛り音を立てて立ち上がる渦は、やがて紅蓮の竜巻となってジルを包む。


 休む暇もなく攻撃されるジルですが、炎の切れ目から見えた姿は、焦りも慌てた様子もありません。瞳こそ好戦的に輝いていますが、表情は静謐を湛えて。

 父様の業火を障壁を維持しながら砂嵐を自身の周囲の極一部に作り出し、砂塵で炎の猛威を退けていました。

 

 僅かな間とはいえ視界を阻むのは、父様もジルも一緒。だからこそ二人共同時に魔術を編み次の一手を用意しては相手に向ける。

 母様譲りの魔力への敏感さが二人の練る魔力の緻密な制御を感じ取って、余計に不安ばかり煽られます。

 制御力だけだったら、ジルは父様に追い付ける。魔導院の長に迫る制御力は、それだけジルが努力してきた事だし、今に備えてきた事という事。


 ……だからこそ、怖い。明確な殺傷の目的を持って研ぎ澄まされた力が振るわれるのだから。


 幸いと言って良いのか、二人にはまだ傷がありません。どちらも届く前に無効化されているので、体を害するにまで至っていません。

 けれどジルが一歩間違えれば大火傷を負うし、父様も氷に貫かれたり感電したりする可能性は大いにある。それを双方納得して決闘しているのは、分かってる、けど。


「ジル……」

「リズベット嬢、辛いか?」


 堪らず愛しい人の名を呟けば、隣で共に争いを見ていた陛下が静かに問い掛けます。顔を向ければ少しだけ気遣わしげに此方を見る陛下が居て、私はそこで漸く自分の胸元の布地を掴んだ手が白くなっていた事に気付きました。

 力が入りすぎていつの間にか拳になっていたらしく、開けばゆっくりと血が巡って来るのを感じて力みすぎていたのだと思い知らされます。


 見てるだけで何も出来ないのが歯痒い。ジルに希望を託したけれど、側に居られたらどれほど良かった事か。


「……そうですね、ジルに任せきりなのが、そして私の大切な人達がお互いを傷付けようとするのを見るのは、苦しいです」


 ……決闘を選んだのは私達ですが、本当は争って欲しい訳ではありません。


「けれど、二人で決めた事ですから。それに、男の矜持をかけた勝負だと言い聞かされてます。だから、目を背けるつもりはありません」


 陛下に心配をかけたくないですし、これもまた私の本音でもあります。

 微笑み、皺になった服の胸元に、もう一度そっと掌を当てて。


「私はこの戦いを見届けたい。ジルが勝ってくれると、信じてますから」


 私が信じずに、誰がジルを信じるのですか。

 私は、ジルが勝つと信じています。父様を打ち倒し、父様に認めてもらえると。


「そうか……そこまで信じてもらえるなら、ジル殿も幸せだろう」

「そうだと良いのですが」

「……そういう所はセレンそっくりだよ。セレンも、ヴェルフが勝つと信じて疑わなかったからな」

「母様が?」


 思わぬ名前に瞬きをする私に、陛下は懐かしむような眼差し。

 ……そうだ、母様の時も、母様は決闘を見守っていたんだ。母様は父様を信じ続けて、そして勝った。歴史を繰り返していると皆が言うなら、信じた人が勝つ歴史も繰り返して欲しいです。いえ、きっとそうなると、私は信じています。


「リズベット嬢は、本当に両親によく似ている」


 愛でるような微笑みの陛下に、何だか恥ずかしくてジル達に視線を改めて向ければ、二人は魔術の応酬の真っ最中でした。


 父様の攻撃を防ぎ、反撃し、打ち消され。拮抗している戦況に見えますが、その実状況は芳しくありません。

 ジルも負けじと父様に反撃しているものの、元から防御重視なジルには不利。攻撃で父様を出し抜こうとするのは至難の業のように思えます。

 それをジルも分かっているでしょうが、諦めるつもりは更々ないようです。瞳はまだ爛々と輝き戦意に満ちていて、何処までも食らい付こうとしていました。


 いつまで経っても有効打を欠いた争い。互いに疲弊していってるのは間違いないでしょうが、どちらもダメージを食らう気はまだまだなさそうです。

 魔導院の長に対しそんな状況にまで持ち込んでいるジルは、贔屓抜きに凄いと思います。父様が歴代の中でもかなり優秀な長だから苦戦しているだけで、本来既に長になるだけの実力はあるように思えました。


「……お前もしぶといな」


 お互いに傷はない事に、父様は苦笑。その額には汗を掻いていて、自身の魔術ではない要因によって滲んだものだと表情からして分かります。


 対するジルも、顔には汗が滴っています。

 当然ジルも疲労が蓄積しているから元気一杯とは言いませんが、気迫と生気にみなぎった表情。寧ろ、生き生きとした顔をしているのはジルの方でした。

 未来への希望と私が託した想いが、ジルを奮い立たせているのだと、私は思います。


「リズ様がかかっておりますので。それに、信じてると言われたのです、応えない訳にはいきません」

「……そうか。お前が本気なのはよく分かった」


 譲らないと全身で語るジルに、父様はどう思ったのか。

 攻撃の手を休め、 ゆっくりと肩の力を抜き真っ直ぐにジルを見つめる父様。戦意は消えていないけれどただ止まった父様に、訝るジルは瞳を細めて睨みに近い眼差しを向けています。


「……何の真似で?」

「三年前の続きといこうか」

「……三年前……?」


 反芻するように呟いたジルに、父様は笑みを浮かべます。それは懐古するような穏やかで、けれど瞳の奥には獰猛さを宿したちぐはぐな表情。


「あの頃のお前は全力を以てしても俺の『インフェルノ』を防げなかった。お前にはまた早いと、あの頃は思っていたよ」


 ……三年前、父様は、私の目の前でジルの全力の障壁を破ってみせた。私がどれだけ頑張っても砕けなかった障壁を、容易く破壊した。

 あれでも父様は加減していました。本気の『インフェルノ』は、人に向けて撃つにはあまりに強力すぎるからと。

 ……もし、本気で撃ったら……?


「俺の全力を受けきってみろ。それでも尚お前が立っていたら、認めてやろう」


 言葉と同時に揺らめく魔力。それは今までの比ではない、あまりに魔術にかける魔力が多い為に、父様の周囲には可視化した魔力が渦巻いています。

 紅蓮。濃く重い魔力がこれでもかと固められ圧縮され、魔術を紡いで。言葉通り、全魔力を注いでいるのでしょう。

 血のような深紅の靄を纏った父様は、もう瞳に宿る獰猛さを隠そうともしていません。闘争本能を剥き出しにして、けれど理性的に。


 父様は、ある意味でジルに一つのチャンスを与えているのです。父様もジルの本領は防御にあると分かっていたから。

 真にジルの実力を見るならば、父様の本気をジルが防ぎきれるかを見なければならないという事を、父様は理解している。


「……リズを守ると言うのなら、お前の力を見せろ。託すに相応しいか、この目に見せてみろ」

「……御意」


 渦巻く殺意そのものにも等しい魔力を見ても、ただジルは静かに頷きます。

 ジルも防御術式を編んでいく。強固に、堅牢に、頑丈に。何をも通さぬ最強の盾を。全ての危険から守り切る為の、至高の盾を。幾重にも障壁を重ね、誰も侵す事は敵わぬ、絶対の守護を。


「リズ、悪いがディアスの周りだけでも本気で障壁を張ってくれ。……本気だと、巻き込みかねん」

「あの阿呆……! 此処を破壊するつもりか……!」


 陛下の焦りように、この場に無関係の観客が居ない理由を、真に理解しました。……父様の本気は、常人では絶対に防ぎきれない。例え防御術式を張っていようとも、それごと破壊して焼き尽くす。

 それが紅蓮という名を冠する父様の、実力。


 見ているだけでも危険なのは分かるので、言われた通りに障壁を作り出します。ジルには敵わないけれど、ジルに教えられた強固な障壁を、私と陛下に。

 ……障壁を形成しながら、猛烈な不安に襲われます。人に向けるのには有り得ない程の絶大な威力を誇る魔術を、ジルが受ける事に。


「ジル、受けきってみせろ。これは火傷じゃ済まんぞ、死んでも責任は取れん」

「父様!」

「リズは黙ってろ! ……良いな?」

「来て下さい。私の覚悟を、見せてみましょう」


 私の悲鳴じみた声にもジルは意思を曲げようとしません。それどころか、父様に受けてたつと真摯な眼差しで。


「よく言った」


 ゆるりと満足げに笑む父様。

 膨れ上がる魔力、今にもはち切れそうなくらいに固められた魔力が術式を通り、現象となって、この場に顕現する。


「……ジル」


 視界が紅蓮に染められる前、ジルは確かに私に微笑みました。

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