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対決前の準備

 ジルも父様も闘志はあるのですが、直ぐに決闘が出来る訳ではありません。

 立会人が必要ですし、二人の能力を考えればそこら辺で出来るものでもありません。魔導院の長が決闘となれば周囲への影響もありますし、本気で争ったら被害も洒落にならない。かといって外でしたらもしもの時に大変なので、非常に場所に困ります。


 その辺どうするか悩んで、私はある場所に出掛けました。


「……で、歴史は繰り返されるのだな。立場は逆かもしれぬが」

「申し訳ありません陛下」


 出向いたのは、城。

 本来事前連絡もなしに陛下に謁見するなど無茶にも程がありますが、父様から親書を預かったと伝え父様の許可証を見せて、何とか謁見する事に成功しました。因みに父様が直接出向かなかったのは、自分達が持ち出した事だから用意は自分達がすると私が言ったのと、父様から陛下に言えば絶対に笑われるからだそうです。


 陛下は私が訪ねた事に大層驚いていましたが、快く受け入れてくれました。政務の時間を割いてまで私に機会を下さっているので、なるべく無駄なく簡潔にお願いした結果が盛大な溜め息でした。


 私事に国家の長を巻き込んでしまって非常に申し訳なくて頭を下げれば、柔らかい声音で「リズベット嬢を責めている訳ではない」と頭を上げるように言われます。

 陛下は気を害している訳ではなさそうで、何処か呆れ気味な苦笑を浮かべておりました。


「よく似るな、親子は」

「父様にも言われてしまいました」

「だろうな。似た者親子だよ、全く」


 あやつも変な所で不器用だからな、と喉を鳴らして笑う陛下。とても大きな子供が居るとは思えない若々しい美貌の笑みは、失礼ながら一瞬少年のような屈託のない明るい笑顔に見えてしまいました。


 父様の陛下に笑われるという発言が、何となく分かりました。父様も決闘で母様を勝ち得ていて、その時も立会人は陛下だったらしく……過去をなぞっているかのようで。だからこそ陛下が最初に言った「歴史は繰り返されるのだな」に繋がっているのです。


 決闘をするのはジルなので立場こそジルと入れ替わってますが、それ以外はそっくりそのまま父様と同じ事をしている訳です。似た者親子と笑われるのも当然でしょう。

 父様は陛下と悪友的な仲なので、遠慮のないやり取りをしているみたいですが……陛下の方が一枚上手な模様。父様が直接赴いたらからかわれていたでしょうね。


「まあヴェルフ程リズベット嬢は色々仕出かしてないから良いのだが……ヴェルフは落ち着くまでが酷かったからな」

「父様は陛下も悪戯っ子だったと仰ってましたよ?」

「あやつめ……。まあ、その話はまた席を設けて話そうではないか。愉快な話を用意しておこう」

「楽しみにしておきます」


 以前陛下からは昔の父様の様子を聞いた事がありますが、他にもまだまだ色々武勇伝やらお茶目な話が沢山あるのでしょう。

 非常に気になる所なのですが、それはまたの機会に。今は、目の前の事に集中したいと思います。


 私の表情が変わるのと同時に、陛下もすっと真剣な表情に。ですが私を案ずるようにやや気がかりそうな瞳の色。決闘の効力は絶対だと決まっているからこそ、陛下は私を心配して下さっているのかもしれません。


「本当に決闘をするのだな?」

「……貫きたいものがあるなら、それを貫くべきだと思います。例え父様を相手にしてでも」

「リズベット嬢は強く育ったな。ヴェルフやセレンも誇らしいだろう」

「ありがとうございます」


 私が意思を曲げる事はないと分かったのか、陛下は少し瞠目しつつも柔和な笑みを浮かべます。

 微かに目を細めて眩しそうに此方を見てきたので首を傾げる私。すると陛下は「親友の娘の成長が眩しいだけだ」と少し嬉しそうに仰るものだから、私も照れ臭くて微笑み返す事しか出来ません。


「さて、決闘の用意だったな。場所は以前リズベット嬢が決闘を行った訓練場で観客はなし、審判は私で良いのかな?」

「本当に陛下にして頂けるのですか……? 流石に申し訳ない気が」


 広い場所で且つ何かあった時の対応を考えるなら、あの時の会場が一番だと思うのです。魔導院の側だから怪我しても平気ですし、訓練場の敷地自体に対魔術の建材を用いていて全体に防御術式もかけていますから。外で暴れて何かあるよりは此方の方が逆に安全です。

 ですが、陛下に立会人として決闘に立ち会って貰うのは、少し気が引けます。父様の提案と言えど、陛下のお時間を取ってしまうのですから。


「構わんよ、歴史の再来をこの目で見たいというのもある。それに、久しくヴェルフの本気を見ていないからな」

「お心遣いありがとうございます、陛下」


 ですが陛下は気にした様子はなく、寧ろ私も混ぜてくれと言わんばかりの期待した瞳。父様の友人として、私達の行方を見たいという事なのでしょう。

 わざわざ引き受けて下さる陛下には感謝してもしきれません。


 頭を深く下げれば、やはり「気にするでない」と喉を鳴らして笑う陛下。

 公の場で出会えば厳格な印象が強いのですが、こうして一対一でお話しすると……優しくて懐が広いのは勿論なのですが、とても、おおらかで何処かお茶目な部分があるというか。そういう所は父様に似ていて、だから陛下も父様も仲良しなのかもしれません。


「……リズベット嬢は、ジルドレイド殿が勝てると確信しているのか?」

「父様相手に確信はしていません。ただ、ジルを信じています」


 父様は強い、それは理解しています。魔導院でも群を抜いて強い事も、例えジルであろうと並大抵の努力では追い付けない事も、分かっています。

 けれど、私はジルが勝つと信じています。ジルはずっと努力してきた、私と想いが交わるずっと前から、ひたすらに努力してきた。

 だから、私は信じるだけです。ジルが吉報を届けてくれると。


 穏やかに微笑めば、陛下もまた柔らかく微笑み返して。


「そうか。……幸せを掴むと良い」

「はい」


 陛下からも応援のお言葉を頂けて、私は一層笑みを深めるのでした。

29、30、31と連続更新する予定です。二巻の発売日(7/31)に完結予定。目次下部にリンクを張っている人気投票は完結して数日程で締め切る予定なので宜しければご投票頂ければと存じます。

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