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ちょっと意外な事実

 セシル君は(ルビィ曰く)綺麗って言いたかったらしいですけど、私別に綺麗めの顔立ちじゃないのですよね。母様の血を引いているので、そりゃあ整った方だとは思います。

 比較的端整な顔立ちには分類されますし、母様譲りの柔らかくてさらさらとした髪質も、白い肌も、母様程ではないもののそこそこに凹凸のある体つきも、そりゃあ自覚はしています。

 それでもやっぱり、私としては……これは綺麗じゃなくて、可愛らしい、の方に分けられると思うのです。それも子供らしい愛嬌のある、という意味で。


 鏡に映った自分は、少し膨れっ面。ぱっちりした二重瞼も小さな唇も、何処か子供の印象を与えていました。

 何故こんなにもあどけないというか幼い容貌なのでしょうか。

 というか服装でも印象が決まっている気がします。私は魔力隠蔽のリボンで可愛らしく見えるように髪を結っています。服装は柔らかい印象を与えるひらひらでパステルカラーが多いです。それか赤とか。

 ……この格好のせいな気がしてきました。


 でも、パーティに出ない限り手入れくらいでお化粧なんて殆どしませんし、服は母様やメイドさん達の好みに合わせた服を買い与えられています。私に似合うものを見立ててくれているから、それをそのまま着ている状態なのですよ。

 父様は可愛らしいとかお人形のようだとか褒めてくれますけど、あんまり褒められている気がしません。子供だから微笑ましいとかしか思ってないです、絶対に。


 じ、ジルは……多分女の子としては見てくれているでしょうけど、その、やっぱり可愛いとかそっち系の誉め言葉です。漸く大人扱いしてくれるようにはなったみたいですが、それでも可愛らしいとかしか言わないですし。

 セシル君に至ってはルビィの言う通り真正面から誉める事など殆どありません。……綺麗、って言おうとしていたのかは分かりませんけど、いつもちんちくりん扱いするのはセシル君なのに。


 だから、何処が綺麗なのかさっぱりなのですよ。成人したんだからもっと大人っぽい格好をした方が良いのでしょうか。


「どうやったら綺麗になれるか、ですか?」


 母様に聞くのも良いのですが、母様は元から綺麗めの顔立ちで天性のものなのでなろうとしてなった訳ではありません。

 じゃあその綺麗さってどうしようと思って相談してみたのが、丁度護衛についてくれたフィオナさん。今日は女性のお買い物なので、フィオナさんがついてきてくれた訳です。因みに私達の少し後ろには念の為のロランさんがいらっしゃいます。

 あ、ジルは今日はお仕事があるそうです。父様に呼び出されていましたし。


 話はずれましたが、フィオナさんは女性ですがすらっとしていて背が高く、髪も短め。でも女性らしさはあって端整な顔立ちから、ボーイッシュながらとても綺麗な女性です。

 母様とはタイプが反対な凛々しい綺麗さがあるので、戦う女性の憧れ像です。


「そうですねえ……美容の秘訣となりますと、やはり適度な運動になりますかね?」

「て、適度な運動ですか」


 適度な運動、確かにフィオナさん運動量半端ないですし……スレンダーでしなやかな肢体、そして凛々しい美貌がありますよね。

 私運動量なんて殆どないですし、精々魔導院に通うのくらいで……。


「あとストレス発散ですかね? ストレスは美容の大敵ですよ」

「な、なるほど! じゃあフィオナさんのストレス発散方法は?」

「男共を薙ぎ倒す事ですね!」


 とても良い笑顔でさらっと淑女らしからぬ言葉を口にするフィオナさん。駄目ですね、フィオナさん結構アグレッシブというか大胆というか……ちょっと好戦的なの忘れてました。私とベクトル違い過ぎて参考になりません。


 ちら、と後ろのロランさんを見れば、あまり感情の見えない真顔に近い表情。但し、瞳は諦めろと言わんばかり。私の頬が引き攣るのを見ては、溜め息。


「それをリズベット嬢に求める訳にはいかないだろう」

「それもそうだけど。あ、リズ様も騎士の訓練に参加してみます? あーでもリズ様に野郎共が群がるのは良くないから駄目ですね」

「フィオナ、言葉をどうにかしろ」

「私はヴェルフ様に『娘を毒牙にかけようとするやつは叩きのめしておいてくれ』って言われてますしー」


 ……父様こっそり命令してたのですね。一応自衛くらいは出来るようになったのですが、やっぱり父様的には心配なのでしょう。


「リズ様はどうして急にそんな事を言い出したのですか? もしかして恋ですか?」

「へっ」


 まさかの疑問に、私の頬は硬直していました。逆にフィオナさんはにっこりと、いえにやにやとした笑みを浮かべます。


「好きな殿方でも現れたのですか? 恋のお話なら、私でよければ相談に乗りますよ!」

「ちっ、違います! そんなんじゃないです! 私、見掛けが綺麗というよりこ、子供っぽいって意味で可愛い、感じだから、綺麗になりたかっただけで」


 慌てて髪を振り乱す勢いで首を振る私に、ちょっとフィオナさんは残念そう。多分女の子が好きな恋愛トークに発展しなかったのが心残りなのでしょう。

 好きな人の為に綺麗になりたいとか、そんなのじゃ……な、ない筈です。そりゃあ、ジルとかセシル君に褒められたら嬉しいですけど。いやいやいや、だからってその為に綺麗になりたいとかじゃないです。


 何考えてるのかよく分からなくなって、でも気恥ずかしさだけは確かで肩を縮めた私。フィオナの何故か溌剌とした、輝かんばかりの笑みが眩しいです。


「じゃあ綺麗になる一番の秘訣を伝授しますね。女の子は恋をすれば誰だって綺麗になるのですよ」


 何処かで聞いたような言葉を自信満々に囁くフィオナさん。後ろでロランさんが「お前が言うのか。剣と魔術しか目に入らないのに」と言ってフィオナさんが笑顔で裏拳入れてました。なんというか仲良しな兄妹です。


 しっかり鍛えているロランさんでもフィオナさんの拳は痛かったらしくて眉が寄っていますが、仕返しをしないのはロランさんが紳士で、あと多分日常的な事だからでしょう。ぐいぐい押すタイプですからね、フィオナさん。


 まったり歩きながら会話を進めていると、どうやら目的地に着いたご様子。ロランさんが微妙に店の看板を見て固まっています。


「外で待つぞ」

「あれー、兄さん入らないの? 護衛でしょう?」

「……女性の身に付ける物を私がじろじろと見る訳にいくまい」


 にやにや笑いなフィオナさん、勿論わざとです。

 看板には、店名が書いてあります。仕立て屋、但しもっと言うなら素肌に身に付ける物限定の。

 前世のように既製品をだらーっと並べるのではなく、オーダーメイドで作って貰うお店。当たり前ですが店にあるものも買えますけど、そのデザインを参考に特注して作って貰うのが一般的ですね。


 何故こんな場所に来たかと言えば、この間一緒に寝た母様に「そろそろ新調した方が良いんじゃないかしら」との一言を頂いたので。……母様は何でも見抜き過ぎだと思います。


 まあ何にせよどの世界でも男性には居心地が悪い空間だと思うので、ロランさんを無理に連れていくつもりはないのですが……フィオナさんは違うようで。


「あ、兄さんも買ってく?」


 どうやらロランさんに妙な趣味を押し付けたいみたいです。


「何故私が」

「エレノア義姉さんに」

「要らん」

「あれ、お二方ってお姉さんがいらっしゃるのですか?」


 てっきり二人兄妹だと思っていたのですが、フィオナさんの口振りではまだお姉さんが居るみたいな言い方です。

 首を捻る私に、フィオナさんはロランさんの方を見て。


「ああ、兄は結婚してるのですよ」

「けっこ……ええええ!?」


 爆弾発言落としました。

 思わずすっとんきょうな声を発して、慌てて手で口許を押さえるとフィオナさんの顔に悪戯っぽい笑みが広がります。ロランさんは微妙にバツが悪そうな顔ですが、私の視線を受けて困ったような顔。否定しないという事は、本当のお話なのでしょう。


「この仏頂面朴念仁に妻が居るとか意外ですよね」

「えっ、そんな事は。でもどんな方なのか気になります!」

「エレノア義姉さんはとても可愛らしくて、マイペースな方ですよ。あとこんな無愛想な兄を受け入れてくれる器量の持ち主です。良くもまあこんな男を選びましたよね」


 にこにこした笑顔なのですが、それは実の兄に言う台詞ではないような気がします。然り気無く酷い評価にも、ロランさんは怒った様子はありませんでした。


「……エレノアが私には勿体ないのだけは同意する」

「と、まあこんな感じで兄も溺愛してるのがエレノア義姉さんです」


 いい人ですよ、と締め括ったフィオナさん。

 ロランさんが妻を迎えているのもびっくりですし、いつもクールなロランさんが凄く優しい顔をしていたのも印象的でしたが、個人的にびっくりした事があります。

 ……ロランさんって、ジルと然程歳は離れてないですよね? というかジルの方が歳上ですよね?

 そんなロランさんが結婚して奥さんが居て、幸せそうにしているのです。……これは由々しき自体では。


 ジル、もう二十三……いえもうじき二十四になる筈。まだ貴族の適齢期の範囲には居ますが、肝心の恋人のこの字も見当たりません。それが私に仕えているからなのは自覚してますけど、幾ら何でも。

 ううう……ずーっと、私を想い続けて来た、とか? いやでも本人からそんな事聞いてな……いや嫁に貰われなかったら私が貰う発言がそれ? あんなの子供に対する口約束でしかないでしょうに。

 それに、あの頃のジルはただの従者です。それもあの頃の私十歳ですよ? ちんちくりん極まりない時期に恋愛感情持つなんてないです、よね。


「リズ様?」

「あっ、いえ何でもないです!」


 うっかり変な方向に思考が傾きかけて、慌てて首を振って笑顔で誤魔化します。フィオナさんが不思議そうにしているので、心此処に在らず状態だったのでしょう。


「それで、エレノアさんにも買うのですか?」

「買わない!」


 追及される前に話を逸らすと、ロランさんが珍しく声を強めて否定したので、私とフィオナさんは顔を見合わせて笑うのでした。




 結局ロランさんは中には着いて来ず、お店の外で待機していました。女性の買い物だからこそフィオナさんに頼んでいたのですが、心配だからと着いて来てくれたロランさんには申し訳ない事をしたと思います。

 下着の仕立て屋さんの前で無表情のまま直立不動な美丈夫……ロランさんにもこのお店にも大打撃な気がしなくもないですね。視線に晒されるのに遠ざけられてるので。ロランさん、近寄りがたい感じの美形ですし。


 注文をお願いした私が外に出る頃には、ロランさん微妙にお疲れのご様子でした。それを見てフィオナさんがけらけらと愉快そうに笑って、ロランさんが僅かに眉を寄せたのは見逃しません。


「あ、兄さんの名前で注文しといたから」

「何をやっているのだお前は」

「大丈夫、エレノア義姉さんのサイズはばっちりだから。良かったね、色々捗るよ?」

「お前は口を慎め!」


 比較的温厚であまり感情を露にしないロランさんも、この時ばかりは眦を吊り上げて鋭い語気での注意。流石にこれ以上からかっては駄目だと分かっているらしく、フィオナさんは「はーい」と素直に口を閉ざしていました。

 妹に夜の生活を心配されるのは複雑なのでしょう。少しだけ顔を薄紅に染めているロランさんは、私の視線に居心地が悪そうです。私も知り合いのそういう生々しい事情を知るのは気恥ずかしいので、肩を縮めるのですが。


 何にせよ往来で話す事ではないので会話を切り上げ、屋敷に戻る道を歩み始めます。ロランさんとフィオナさんは、若干言い争いをしておりました。

 その会話をぼんやりと聞きながら貴族の責務とこの前あったジルとの出来事を思い出して、少しだけ溜め息。


 ……ジルに聞くなんて出来ないから、私の仮説は推測の域を出ないのです。知りたい癖に知りたくない、関係を壊したくないというのが、私の本音。


 我ながら優柔不断で酷い人間だな、と苦笑して、屋敷への帰路を辿りました。

活動報告にて正式にカバーイラストをアップしました。リンクではなく直接見て頂けるようになっているので、宜しければご覧頂けたらと思います。

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