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ジルのせいで

 ……結局あの後寝られなくて、そのまま魔導院に出勤する事になりました。

 普段はジルと一緒に行くのですけど、顔を合わせたら羞恥とかで死にそうなので父様と行く事に。父様は私の顔色を見て心配そうにしていましたが、大丈夫だと笑顔で誤魔化しておきました。


 それで研究室に行ってセシル君に挨拶もそこそこに椅子に座り、丁度確認で渡されていた術式をぼんやりと眺める私。でも視覚からの情報なんか今の脳味噌はどうでもよくて、今は脳裏にこびりついた昨夜の出来事を再生するので大忙しです。


『私はリズ様が思うよりも結構、男なのですよ。あなたが思うよりも、ずっと……乱暴で、身勝手な人間だ』


 ……私が知るよりもずっと低い、腰の砕けそうな甘い声。思い出しただけで凄く、ぞわぞわする。

 いつもジルは穏やかで私に優しくて、あんな強引な触れ方して来なかったのに。いつも子供扱い、してたのに。

 あれじゃまるで、私に……異性として興奮した、みたいじゃないですか。


 ……ち、違いますよね? その、あれは偶々興が乗ったというか、衝動的な物だったんですよね?

 だって子供の頃から一緒に居るし、子供として可愛がられてたし、何ならお腹丸出しで寝てたのとか見られてるし。今更異性として見るなんて。


 ……いやでも、異性として見てたなら時折感じたジルの男の子っぽい表情とか眼差しには説明がつく訳で。

 い、異性として見るのは……その、よく考えれば有り得ない事じゃないとは、思うのですけども。私だってもう成人してますしそれなりに女性の体をしてるから、本能的に男性が求めてくるとかはあるでしょう。

 ジルは私の事無防備って言ったし、その無防備な所にそういう衝動が働いたのでしょう。そ、そうに決まってます。


「……おい、仕事しないなら帰れ」


 頭を抱えたくなるくらいには悶えている私に、側で仕事をしていたセシル君は冷ややかな声をぶつけてきます。

 仕事の手はとうの昔に止まっていて、危うく術式の描かれた紙をぐしゃぐしゃにする所でした。


「平気です、その、ちょっと寝れなかっただけで。今から仕事します」

「人前で呑気にぐうすか寝るお前が寝れないとか珍しいな」

「失礼ですよね」


 セシル君の私に対するイメージを伺いたい所です。セシル君の事だからあほの子とか危なっかしいとか無鉄砲とか無防備とか言いそう。

 無防備、セシル君にも前そう言われました、よね。セシル君も、そういう衝動とか抱くのでしょうか。……私に……?


 いやまさか、と首を振ると、セシル君はそれを気丈に振る舞っているものだと勘違いしてしまったらしく「あのなあ」と溜め息。


「急ぎの仕事じゃないから、体調悪いなら帰れ」

「へ、平気ですから!」


 別に体調に異常があるわけでもないので、それを何とか伝えたくて身ぶり手振りで訴えるも逆効果。寧ろ益々セシル君の眉が寄っていきます。


「だったらその熱っぽい顔を何とかしろ」

「……ね、熱はないです」


 こ、これは熱があるとかじゃなくて、思い出し羞恥というか。昨日の事を思い出していたら、そりゃあ顔も赤くなりますよ。私を女として見ていて迫られた事なんて、ないし。


「本当か? 無茶ばかりするから信用出来ないんだが」


 完全に疑ってかかっているセシル君、私の言動は信じるつもりがないらしくてつかつかと歩み寄って来ます。

 頬を引っ張って「無理すんなあほ」と強制送還させられると思いきや、セシル君は少し気がかりそうな顔で私の額に触れて、掛かった前髪を掻き上げます。それから、セシル君自身の前髪も上げて。


 こつん、と、お互いの額が遮るものもなくくっつきます。


「ん……ちょっと熱いな。それに目元に隈があるし」


 ジルと違う、気遣わしげな低い声。

 本人になんら他意はないのでしょう、セシル君近付くの好きじゃないだろうし。

 本人は意図してないでしょうが、凄く近くて、セシル君の匂いがして、吐息が肌にかかって。昨日の状況と重なるような体勢と距離に、否応がなしに目の前のセシル君を意識してしまいます。


 ……何で、こんな意識してるんでしょうか。セシル君も、小さい頃から側に居るのに。私よりも小さい時期があったのに。でも、いつの間にか大きくなってて。

 この前のお出掛けの時、セシル君の腕の中に収まってましたけど、とても大きくて、がっしりしてて。やっぱり男の子なんだなあって、そう思って。


 ……それを思い出したら、更に色々恥ずかしくなって、頬が意図せぬ方向で熱を持ち出します。

 何でこんなに意識してるんですか私、この間まで平気で抱き付けたし触れられたでしょうに。変に意識する事なんてないんです!


 でもそう考えれば考える程逆に意識してしまって、端整な顔を至近距離で見る事が辛くて何故か視界が少し歪んで来ます。

 泣く訳じゃないのですが、羞恥で少しだけ涙腺が緩んで瞳を湿らせていました。


 言葉に上手く表せなくて恥ずかしさとよく分からない感覚に耐えていると、私の様子がおかしいと気付いたらしいセシル君が此方を見て固まっていました。

 額をくっつけたままフリーズするものだから近いままで、体勢もそのまま。セシル君も体勢に問題があるとは分かってきたらしく、じわじわと顔が赤らんでいました。


「わ、悪い、その……近かったな」


 慌ててではなくゆっくりと離して、セシル君も混乱気味。普段なら私が平然としているから、戸惑っているのでしょう。

 寧ろ戸惑っているのは私の方で、何で自分がこんな如何にも女の子な反応してるのか分かりません。これじゃ、凄く初心な女の子じゃないですか。別に私、そこまで初心じゃないですし、寧ろ擦れている方だと思うのに。


「い、いえ。此方こそ心配かけてごめんなさい」


 お互いに恥ずかしくて、ろくに目が合わせられません。セシル君は私の反応に困っているでしょうし、私は私でセシル君を男の子だと変に意識してしまっている。

 こんな状態に陥るとは誰も想定していなかったでしょう。


「……お前、変だぞ。普段なら平気でくっつくしへらへら笑うのに」

「それは私も痛感しています」


 言われなくとも私だって自分で理解しています。何でこんなにも動揺しているのか、解せない。この名状しがたい感覚のせい、でしょうか。


 セシル君の私に対するイメージはちょっと問い詰めたいものがあったものの、今詰め寄ったら私が何だか死にそうなので我慢です。

 寧ろ落ち着く為に距離を取りたくて、俯きがちに立ち上がって逃げるようにソファに。落ち着きましょう、セシル君に何ら問題はないのです。私が落ち着けばセシル君に疑われる事なく普通に接する事が出来るのです。

 落ち着くのです私、深呼吸深呼吸。


「おい」

「ぴぇっ!?」


 一人で心を鎮めようとしていたのに、セシル君は私の様子が気になったらしく近付いて肩に掌を乗せます。その事で喉の奥から奇声が漏れてしまって、別の意味で心臓がばくばくとしていました。

 一瞬息が詰まって噎せた私に、セシル君も慌てて背中を擦ってくれます。誰のせいだと……いえこれはセシル君のせいじゃなくて、不安定な私が悪いのですけど。


 半泣きになりながら意図とは裏腹に浅い呼吸を繰り返し、何とか咳は収まりました。但し、余計な心臓の痛みは追加されましたが。


 運動してもいないのにもうぐったりな私、セシル君は明らかにおかしいと感じたらしくて不安げに此方を覗き込んで来ました。それが私の羞恥を増やすなんて、気付いてないみたいで。


「……俺が何かしたなら謝るぞ」

「違います、セシル君は悪くないです!」


 見るからに挙動不審な私を気にかけてくれていたらしく、寧ろ自分が悪いのかと気に病んでいる模様です。

 べ、別にセシル君が悪い訳ではないので勢いよく首を振って否定するものの、セシル君はまだ気遣わしげ。セシル君ははっきりしないと嫌なタイプだから、原因究明しないと気が済まないでしょう。

 だからこそ、誤魔化しが効きにくいのですが。


「セシル君は悪くないもん、悪いのはジルで……」

「つまりジルに何かされたから、俺にも意識してるって事だな?」

「あう」


 そして余計な事をちょっとでも口から滑らせればそこから全体図を見抜いてくる、賢さというか今の私には目敏さでしかない鋭さがあります。

 初っ端から核心を突かれてあううと喘ぐしかない私に、セシル君は遠慮なく此方を見詰めて来ます。その視線すら今の私は恥ずかしいのに、これでは済まないセシル君、問い詰めるべく隣を陣取ってしまいました。こ、これじゃあ逃げれない……。


「ほら、全部吐いてみろ」


 ……どうやら逃亡は不可能らしいです。私の台詞で更に原因追及する気が増したみたいです。

 で、でも、これはよく考えてみれば良い機会なのかもしれません。私には分からなかった男の人の気持ちを、セシル君なら説明出来るかもしれません。


 恐る恐る視線を合わせると、真顔で早く話せと眼差しで訴えかけられました。……これ、話すの恥ずかしいのですけど。


「そ、の。……男の人ってキスマーク付けるの好きなんですか?」

「は!?」


 疑問に思っていた事を伺ってみると、セシル君が目を剥いていました。それから「あいつ……」と声を震わせて呟いたので、ジルの所業は透けて見えたみたいです。


「き、キスしたがるのはまだ分かるのですが……」

「……キスされて痕付けられたんだな?」

「き、キスは唇の端っこだったからセーフです」

「アウトだあほ」

「あうっ」


 頭頂部にチョップ頂きました。

 痛い、と打撃を受けた所を擦る私に、セシル君は無表情で肩を掴んで来ます。叱られるのかと思いきや、首の辺りをじろりと睨んで居ました。多分、キスマークで想像出来る場所に目をつけているのでしょう。


「何処だ、痕付けられたの」


 冗談とか洒落のない平坦な声に嘘がつける筈もありません。怖々とジルの唇が痕を残していった首と鎖骨の中間辺りを人差し指で示します。因みに朝出掛ける前、お着替えの時間に確認したので鬱血はばっちりある事確認しました。


 無表情なのが逆に怖いセシル君、私の示した場所を服の上からなぞります。

 少し擽ったくて目を細めれば、セシル君の指先が淡く光ります。ほんの少しの魔術反応、それが治癒術だった事が感じ取れました。

 温い感覚、それは僅かな擽ったさをもたらして、やがて普通通りの感覚に戻ります。セシル君が指を離したのも、同時。


「……まあ多分消えただろ、後で確認しろ」


 鬱血なんだから簡単に治るぞ、と微妙に不機嫌そうなセシル君。本当に治っているのかと一つボタンを外して覗き込めば、綺麗さっぱり自慢の白い肌に戻っていました。


「だから後で確認しろって言ってんだろ!」

「ご、ごめんなさい」


 至近距離に居たセシル君にお叱りを受けて縮こまると、セシル君は大仰に溜め息をつきます。この馬鹿は、とか結構に失礼な事を呟かれているのは気のせいではないでしょう。


「……だから無防備なんだよあほ。俺が何かするとか考えないのか」

「せ、セシル君が?」


 何かするって……例えば、ジルみたいに迫ったら、とか?

 えっと、セシル君が、私に迫る? セシル君がジルみたいに……つまり、抱き締めて来たり肌を吸って来たり、キス、に近い事してきたら。

 い、いや、流石にセシル君がそんな、でもセシル君だって男の子だし、有り得るのですか……? ジルのせいで近付かれただけの今でも精一杯なのに、その上でセシル君に迫られたら。


 考えると色々と頭がパンクしそうで、軽く目まで回って来そうです。普段こんな風に思う事なんてないのに、何でこんなに意識してるんですか自分。

 ……い、今更性別を意識するなんて。


 頭を抱え込んでやろうかとぐちゃぐちゃした思考で考え出した私に、様子を見ていたらしいセシル君が慌て気味に頭を撫でて来ます。 


「分かった悪かった、今のお前にはこういう発言しない方が良さそうだ」

「だ、大丈夫です! 私は至って平常です!」


 い、意識しなければ良いんです、セシル君もジルも。そう、普通通りに対応すればきっとこんなどきどきする事はないんです。

 ひゅーひゅーとちょっと荒れた息で断言するのですが、セシル君は信じてくれません。寧ろあほかという呆れた眼差しを送ってきてくれました。


「嘘つけ。じゃあお前普段みたいに平気で居ろよ」


 何を言っているのか、理解出来ませんでした。正しくは理解する前に、行動に移されたというか。


 肩を掴まれて、引き寄せられて。

 気がつけば、視界がセシル君のシャツに染まっています。視覚もセシル君、嗅覚もセシル君の匂い、おまけに触覚もセシル君の体温というか筋肉というか、そんなもので満たされていて。

 遅れて、セシル君の胸に顔からダイブしたのだと、気付いてしまいます。


 勿論犯人はセシル君なのですが、そのセシル君はそれ以上は何もしません。抱き締める事もしてこない、ただ、頭に大きな掌が乗っかっているくらいです。

 お陰で、考える余裕が出来てしまって逆に混乱してしまいました。


 何で、こんな体勢に? いやそれは私を試しているのでしょうけど、普段抱き付かれて嫌がる素振りを見せるセシル君が自ら?


 セシル君に抱き締められはしないものの、くっついている状態には間違いありません。お陰で落ち着くけど落ち着かないという矛盾した感覚です。セシル君の匂いって凄く落ち着くのに、今の精神状態だと心臓に悪いというか恥ずかしくて。

 嫌じゃないけど、凄く凄く恥ずかしくてもやもやするのです。本当にどうして良いのか分からないと行動もなくなるって本当なんですね、拒む気にもなれなければ抱き付く気にもなれなくて、そのままの体勢でしかいられません。


 それでもどうにかしたくておずおずとセシル君を見上げると、セシル君はセシル君で顔を押さえて斜め上を見ていました。掌が隠しきれていない肌は、きっと私にも負けず劣らずな赤さ。


「……調子狂う」


 ぼそっと呟いて、セシル君は自身の頭をわしわしと掻き乱します。


「お前が女らしいとか、不気味だ」

「し、失礼です! 私だって女の子な所もあります!」

「それを今思い知らされて調子狂ってんだあほ!」


 その台詞がセシル君の余裕のなさを如実に示していて、何でセシル君までとは思いつつも訳の分からない恥ずかしさにお互い顔は茹で蛸さん。セシル君は明らかに目を逸らして「くそ」とか「しにてえ」とか色々な感想を漏らしております。

 私はというとその言葉のせいで全部本音なのだと分かってしまって余計に羞恥が煽られていました。


 暫くお互い離れずに呻いていると、ふとドアをノッする音。


「おーいリズ、体調は大丈夫か?」


 ドア越しに聞こえた父様の声にいち早く反応したのはセシル君。半ば反射に近い速度で私の肩を掴み、凭れていた私を引き剥がします。

 半分涙目な私の顔を見てまた小さく「くそ」とか呟いてから、慌てたようにセシル君専用の机に戻ります。父様の前で何事もなかったように振る舞いたいのは私も同じで、火照った頬を何とか冷やそうと軽く魔術で冷却する事になってしまいました。


 父様は私達が各々の隠蔽手段を取って直ぐに部屋に入っては私を見て、眉をひそめます。


「……思いきり熱出てるんじゃないか?」

「か、かもしれませんね」


 父様とは色々と視線を合わせにくいので少し逸らし気味に返事を返すと、訝る表情。どうしよう、と困った私にセシル君がそっぽ向きながら援護してくれます。


「そうだな、だからそいつを早く連れてってくれ」

「お前も移ったんじゃねえのか、顔赤いぞ」

「かもしれん、早めに仕事切り上げて寝る」


 しれっと言ってますが、セシル君はセシル君で顔が赤いままです。それも熱のせいにする辺り私よりは嘘つくの上手いと思います。

 頑なに父様には視線どころか顔の向きすら合わせないセシル君。父様は私とセシル君を見比べたあと、少しだけ口角を吊り上げた……気がしました。


「特に急ぐ仕事なかったよな。じゃあ一旦執務室でリズ休ませて連れ帰る。ほら、行くぞリズ」

「わっ」


 その意味が何なのか分からない間に父様は私をソファから抱えあげて、横抱きにされます。軽々と私を持ち上げる父様は凄く男らしいですけど、二人みたいにどきどきする訳じゃありません。実の父親にどきどきしても困りますけど。


 いとも簡単に持ち上げた父様はそのまま部屋を後にしようとして、セシル君は素っ気なく「それじゃあお大事に」と呟きます。その言葉を受けて、父様は今度は紛れもなく口の端を吊り上げました。


「ああそうだセシル。俺の居ない所で何するも勝手だが、あんまり娘に意地悪するなよ」


背後でぐしゃっと紙が握り潰される音。恐らく書類か何か。……セシル君、それ直すの大変なのじゃあ……。


 父様は全てを見抜いたように愉快そう。父様にばれてる……という羞恥より、何で何かあった事分かったんだろうという疑問の方が大きかったです。


 セシル君の何かが爆発する前に父様はさっさとその場を後にしてしまいました。……扱い方というか接し方が慣れているというか。




 そのまま父様に抱き抱えられてふたりで執務室に進みます。視線が突き刺さるので恥ずかしいのですが、父様が下ろしてくれそうにないのでそのままな状態です。


「やー、セシルも色気付いて来たな」


 視線の中を平然と進む父様、微笑ましそうです。……父様にとって、セシル君も小さい頃から面倒を見てきてある意味子供のような存在なのかもしれません。実際、成人しても扱いは子供をからかったり可愛がったりするようなものでしたから。


「……セシル君は悪くないです、私が今日おかしかったので」

「まあ朝からおかしかったからな。昨日ジルと何かあっただろ」

「……父様には言えません」


 ……言ったら絶対に父様怒るもん。父様、そこの辺りのけじめはつける人なので。……セシル君に対しては面白半分唆そうとしてますが、セシル君の性格的に無理だと分かっているからでしょう。実際にしたら怒ると思います。

 あんまり親に秘密を作りたくないのは本心ですが、私にも言えない事情が多いので今回もだんまりするしかありません。


 てっきり私が口を閉ざした事を叱るとばかり思っていたのですが、父様はただ苦笑するだけ。


「そうかー、まあ女の秘密は無理に暴くもんじゃないからな。言いたくないなら聞かないよ」


 ぱち、と瞬きをして見上げれば、茶目っ気溢れる父様のウィンクが帰って来ました。「セレンから学んだ」とさえ続けなかったらもっと格好良かったんですけどね。

 多分気になって母様に詰め寄って怒られた過去があるのでしょう。そして母様はキレたら怖いそうです、これ父様談なので間違いありません。


 意外かもしれませんが、昔は父様の方が嫉妬深かったみたいです。というか気に入ったものの執着が。今でこそ母様の方がやきもちを焼くのですが、昔は結構父様も母様にやきもちやいてたみたいですよ。


 でもまあ、そんな父様もやっぱり愛嬌があって魅力的です。今私に突き刺さっている周囲の眼差しも、女子からは羨望を含んだものが多い。

 妻帯者とは言え美形ですし若々しく、魔導院のトップ。憧れの的なのも頷けます。ただ本人が愛妻家なので入り込む隙間は紙一枚分もありませんけど。


「ただなあ、親として心配はするからな。俺が駄目ならセレンにでも相談しろよ?」


 俺らはいつでもリズを心配してるからな、と笑って額にキスを落として来る父様には、どきどきは起こりません。

 代わりに、ちゃんと愛されてるんだなあと暖かい気持ちになって、頬を緩めて「はい」と頷きました。


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