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新しい家族

 三週間もすれば、すっかり体調も元通り。沢山寝て大人しくしていた甲斐があったというものです。

 もう完璧に熱も下がりましたし、倦怠感など微塵も残っていません。寧ろ力漲るというか、体の端々まで活力が溢れ返った状態に近いです。

 魔力の増加が終わった、という事なのでしょう。


 そして元気一杯になったのも束の間、母様の破水が始まりました。まるで示し合わせたように私が元気になったと同時に始まってしまって、母様も意図した訳じゃないでしょうけど待ってくれたのかな、なんて。

 お医者さんや助産師さんが待機していたので、直ぐに部屋に駆け込んで行きます。此処からは私には何も出来ません、私は医者でもなければ出産を経験した事もありません。お外で無事に祈る事しか出来ない訳です。


 三回目の出産で少しは慣れたのかと思った父様も、うろうろと部屋の前で不審者の如く陣取っています。少しは落ち着いて欲しいのですが、我が子の出産に立ち会えないから仕方ないのかもしれません。

 因みに立ち会えないのは衛生的なものと、父様があまりに心配症で母様がちょこっとうざがるからです。力むのに集中させて欲しいだそうな。母様は強いです、色々と。


 それから暫くして、別室で待機していた私とルビィに、生まれたとの知らせが届きました。

 何処か不安そうなルビィを伴って母様の居る部屋に赴けば、産湯は使わなかったのか布で拭かれて、こちらでいう産着っぽいものにくるまれた赤ん坊を抱いた母様と優しく見守る父様の幸せそうな姿。

 あまり音を立てずに近付いてそっと覗き込むと、お顔はしわくちゃで顔が真っ赤な、まさに赤ん坊。ルビィも覗き込んでは、感動したように瞳を丸くしております。


「ふふ、男の子よ」

「じゃあ私達の新しい弟ですね」

「ぼくの、おとうと?」

「そうですよ、新しい家族です」


 私にルビィが出来たように、ルビィにも下の子が出来た。これでルビィもお兄ちゃんになった訳です。

 あまり実感がないのか「おとーと」と舌足らず気味に呟くルビィを抱き締めて撫で、「お兄ちゃんになったんですよ」と優しく囁きました。


 今までは末っ子だったルビィですが、これからはお兄ちゃんです。小さい頃は「ねーちゃ」と私を慕ってくれたルビィ、今度はルビィがお兄ちゃんぶるのだと思うと微笑ましくて仕方ありません。


 さて、赤ん坊を見るのはこれくらいにして、私達はそろそろ退室しましょう。本当に生まれたばかりらしいですし、この後多分胎盤が出て来るでしょうし、出て来なければ引き摺り出すという作業が待ってます。

 結構グロッキーらしいのでルビィに見せるのも忍びないですし、それに……今は、父様と母様の時間だから。


 父様もその内追い出される事を想像すると少し面白くなってしまいましたが、それは控えてルビィを連れて静かにお外に出ます。

 ……何か、幸せだなあって改めて認識しました。父様も母様も本当に幸せそうで、お互いを大切に思っているのが傍目からも分かります。

 あの二人の下に生まれたのは、きっととても幸せな事。


 強くて格好いい父様、優しくて美しい母様、可愛らしく姉思いな弟。それに優秀な従者と素直じゃないけど優しく強い友人。

 私の周りは素晴らしい人達ばかりです。

 恵まれ過ぎていて、偶に怖くなるくらいに。


 父様母様を見ていると、やっぱり恋愛結婚って良いなあって思います。あんなに幸せそうだと、ちょっと羨ましくなりますね。

 きっと私には、好きな人が出来ない限り政略結婚が待っているでしょうし、出来ても叶うとも限りません政略結婚の相手は見知った二人くらいに絞られそうなので不満はないですけど。

 ……でも、好きな人の子供を授かるのは、とても幸せな事なんだろうなあって、純粋に羨ましくなりました。






「……二人目の弟かあ」


 母様が出産して数日。

 父様は母様にそろそろ仕事が溜まってるだろうし行ってきなさいと閉め出されていました。

 あの時の父様の顔は筆舌しがたいものでしたが、お仕事なので仕方ありません。まだ諸々の処理が残ってましたからね、こればっかりは仕方ないです。


 私はというと、まだ来なくて良いとの事。つーか来るな、とはセシル君のお言葉です。多分、体調を気遣ってくれたのと、弟の事、それから私の扱いについて心配しているのでしょう。

 ……どうやら、魔導院や騎士団の中での評価が少々上がり過ぎて逆に畏怖されてるみたいで。行ってみない事にははっきりしませんが、遠巻きにされる事請け負いですね。


「ぼく、お兄ちゃんになったの?」


 ルビィもあまり実感がないのか、私を見上げてこてんと首を傾げております。

 もうルビィもお兄ちゃんなのですよね、生まれたてとはいえあの子も歴としたうちの家族です。

 そうそう、弟の名前なのですが、ミスティオ……略称でミストと名付けられました。

 どうやら母様似らしく、瞳は分からないですけどうっすらアイボリーの髪が生えてました。さっき見に行ったら真っ白なぷにぷにほっぺで可愛かったです、大きくなったら更に可愛いんだろうなあと思うとにまにましてしまいましたよ。


「そうですね、ルビィもお兄ちゃんになったのですよ。これからは、弟に優しくしてあげて下さいね?」

「うん。ぼくも、姉さまみたいに優しくする!」

「ふふ、偉いですね」


 ルビィが真っ直ぐに育ってくれたのがよく分かって、頭を良い子良い子すると擽ったそうに目を細めます。でも、直ぐに少しだけ眉を下げて指を絡めてはいじいじとしだしました。


「……でもね、何かね、もやもやするの」

「もやもや?」

「母さまも父さまも、弟にずーっとかまってるから」


 ……ああ、やっぱりルビィも寂しいのですね、今まではルビィにかかりきりだった二人が、今度はミストに構うようになったから。

 赤子は自分で何も出来ないから親が世話するしかないと、私は納得してますしそういうものだと分かっています。

 でもルビィにはやっぱり寂しいですし割り切れないですよね。だからこそ幼児返りというものがあるのです、もしかしたらルビィにも起きるかもしれません。


「……生まれたては仕方ないですよ。ルビィの時もそうだったんですよ?」

「ぼくの時も?」

「はい、父様母様はずっと付きっきりでしたし」

「……姉さまも、さびしかった?」

「……ちょっとだけ、ね」


 あまり大っぴらに、特にルビィには言えませんが、構って貰えなくて拗ねていた時期が私にもありました。

 我ながら子供っぽいなあとは思いつつも、溺愛の対象が待望の跡取り息子なルビィに移って自分は用済みなんじゃないかと心配した事もあります。


 まあそれは杞憂で、変わらずに愛情を注いでくれていましたけど。誘拐事件の直後とか凄かったです、外出禁止令とかその他諸々。

 それに、ジルが居たから、本当に寂しかった訳ではありません。いつも、側に居て、私を抱き締めてくれたから。


「じゃあぼくもうわがまま言わない!」

「優しいですね、ルビィは」

「ぼく、さびしくても姉さま居るもん。セシル兄さまもマリアも居るもん、平気だよ!」

「……ふふ、しっかりして来ましたねえ」


 若干ジルの事無視してるの気のせいですかね。セシル君よりジルの方が側に居るんですけど。


 ……まあ、私に構ってばかりなジルより、ルビィを何だかんだで可愛がってるセシル君の方が懐いてますからね。こればっかりはセシル君のお兄ちゃん気質の問題ですし、ジルは割と子供の扱いが上手くないので差がついた形です。


 それを抜きにしてもルビィはジルの事可愛らしく挑発したり、私から引き剥がそうとしてますね。お姉ちゃんはルビィのお姉ちゃんだから何処にも行かないのに。可愛いから良いですけど。


「姉さまはぼくの姉さまだよね、どこにも行かないよね?」

「そうですね、いつまでもルビィのお姉ちゃんですよ」

「うん! あっ、でも兄さまには分けてあげてもいいよ! 姉さま半分こ!」

「スプラッタな事態になるから止めましょうね」


 それは流石に怖いので止めて頂きたいです、私裂けるタイプのチーズじゃないので。

 というかどれだけルビィはセシル君好きなんですか……うーん、惜しむらくはルビィが女の子じゃない事ですね。女の子だったら結婚とかも有り得たのに、そしたらセシル君義弟になったのになあ。残念です。


12/1の活動報告にてクリスマス企画の参加募集中、宜しければ御参加下さい。

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