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イメージの違い

 結局、あれから試行錯誤繰り返し発芽させようと頑張りましたが、一粒も芽が伸びる事はなく。試した回数が精神年齢を越えた所で、流石に哀れになって来たのかジルさんが家に帰りましょうか、と切り出して来ました。


 最早慣れて来た種を袋に……ああ、新しいのでちょっと大きめです、入りきらないので、袋につめていた私は、間髪入れず頷きました。

 いや逃げ出すとか投げ出すつもりもないですが、そろそろ集中力切れてきましたし、どちらにせよ休憩は入れたかった所です。まだまだ疲労感はないんですけどね。親から受け継いだ潤沢な魔力量のお陰です。


「リズ様、まだ始めたばかりですので大丈夫ですよ」

「そう信じていますよ……」


 必死にフォローしてくれていますけど、結果は出来なかったで終わりです。仮定も大事ではありますが、この場合は結果ありきなので。

 それに素質があるとは言え、扱う私に問題があるのです。ほんのちょっと調子に乗っていた自分が恥ずかしいですよ。


 取り敢えず帰ったら書斎にこもって原因追求ですね。このままでは明日も今日の二の舞な気がします。


「リズ様、お疲れではございませんか?」

「いえ、平気です。まだまだいけそうですが……まあこのままでは失敗するので、うちに戻って考えたいと思います」


 ご心配ありがとうございます、と頭を軽く下げると、ジルさんは固まって困惑していました。……軽々しく頭を下げるのがおかしい、そう言いたいのでしょうか。


「……リズ様は変わっていらっしゃいますね、僕のような者にも頭を下げるとは」

「僕のような……と言っても、あなたに師事していますし、何よりジルさんは身分の低い方ではないでしょう?」

「っ」

「少なくとも貴族の方でしょう、魔力に適正があるのは大体貴族ですし、父にお願いされる程なのですから」


 別に父様は貴族とか平民で差別するような人間ではありません。寧ろ理解のある方ですし、能力重視です。

 ですが、私に家庭教師として付けるならば良い所の子を付けるでしょう。将来の友人や繋がりを期待して。それが私の利益になるならば、父様は迷いなく選びます。あと多分見掛け良い歳の近い子を選んだんでしょうね、余計な気遣いですが。


「それに、貴族でも平民でも奴隷でも、尽くす礼儀は変わりません。世話になったならばお礼を言うのは当然でしょう」


 ジルさんは息を飲んで私を凝視していましたが、やがて張り詰めた表情が苦い笑みに変わりました。

 見抜かれたくなかったのか、子供にこんな事を言われて困惑しているのか。まあ両方な気はしますが、ジルさんは端整な顔に年齢に似つかわしくない苦笑を浮かべます。


「……どうでしょうね」

「まあどちらでも良いですよ、詮索はしませんし」


 私に不利益がない限りは。

 好き好んで人の過去や弱味を探ったりする趣味などありません。罪悪感がありますし。


「……帰りましょうか、リズ様」

「そうですね」


 何処か他人行儀な距離感を保ったまま、私達は帰路に就きました。




「……うーん、やり方には問題はないと思うんですけどねえ」


 帰ってジルさんと別れた私は、宣言通り書斎にこもって関係ありそうな魔術書を引っ張り出して来て見直しをしていました。

 ジルさんの教えてくれた方法は調べた限りは間違いではありません。イメージを術式を通して具現化する、それが魔術のプロセスです。そこに魔術毎の違いは見受けられません。

 例外は幾つかあって、余程慣れて来た場合とか完全に術式に魔力を流すだけで発動する超広域破壊系の魔術とかその辺です。どちらにせよ今のところは関係無さそうでおいておきましょう。


 なら私には何が問題なのか。術式は覚えた通りで問題はないです。魔力量は試金石とろんとろんの件でお墨付き。

 そうとなると、やはりイメージの問題でしょうか。まだ慣れていない私は魔力を流すにも明確なイメージを元に魔術を形作らないとならない。それが欠けていたのでしょうか。


 ですがあれだけ試行錯誤しても出来ないのはおかしいと思うのです。もう種が四桁に突入しそうなくらいには分裂しているのですが。増殖?

 まああれだけあればお花畑は出来そうですよね、庭が一面ピンクに染まってリーシアの花畑に。

 ……花畑?


「あ、そういう事か」


 成る程、これは私が悪かったですね。確かにイメージの問題です。そう、私がイメージと現実を近付ける努力をしていませんでした。

 そうと分かれば早速用意をしましょう、今からなら日暮れまでに間に合うでしょうか。母様やジルさんをびっくりさせてあげられるでしょうか。

 ……まあ、仮説が正しければ、ですけど。






「母様、ジルさん、ちょっと裏庭に来て貰っても良いですか?」


 夕飯の支度をしていた母様……あ、母様はメイドに任せっきりじゃなくて自分で作ったりもします、と、リビングに居たジルさんに声を掛けます。

 母様は不思議そうにこっちに歩み寄って来ますが、私の手を見て目を丸くしていました。


「書斎にこもっていたと思ったら……どうして土まみれなの?」

「ちょっと事情がありまして。あ、ジルさんも裏庭まで一緒に来て下さいますか?」

「……それは構いませんが……」

「なら行きましょう」


 よく分かっていない二人を連れて、私は今まで駆け回っていた裏庭まで案内してあげます。


「二人は此処に立っていて下さい。あ、じっとしていて下さいね」


 目的の場所まで連れてきた私は、二人をある特定の場所でストップさせます。その回りには二人を囲むように色の違う土が円を何重にも描いていました。

 うん、スコップ使ったとはいえ子供の肉体では大分苦労しました。魔術の練習よりこっちで疲労困憊です。

 苦労に見合う成果が出るかは、私の推測と実力次第。


 変な行動をしている私に二人は困惑していますが、私はそれにはにっこり笑顔を返しておきます。


「それじゃあ見ていて下さいね」


 色の違う土の輪から二歩程下がって、膝を着きます。クラウチングスタートみたいな体勢ですねこれ。よーいどん。


 まあそんなおふざけは置いておき、私はすうっと大きく息を吸い込み、両指、具体的には親指を押し付けるように地面に触れされます。

 私がジルさんから教わったのは『グリーンサム』という魔法。直訳は、緑の親指。自然を愛する人、植物を育てる人の意。


 そして私が思い違いしていたのは、私はどのような光景を母様に見せたかったのか。その答えがこの場にはあるのです。




 地面に触れた親指を介して、私はありったけの魔力を地面に、主に色の違う土の辺りに流していきます。

 成功するかなんて分かりません、でも、私は見せてあげたい。あなたの娘から、贈り物ですよ、と。


「……咲いて」


 頭にある術式が震えそうな程に力を入れて、私は口には出さず、『グリーンサム』と呟きました。




「……これ、は」


 眩い光が目を焼きそうで反射的に目を閉じた私。ジルさんの呆然とした呟きに、ゆっくりと瞳を開けて……口許を綻ばせました。


 目の前には、母様達を取り囲むように、淡いピンクの花が咲き誇っていました。


「……大成功、ですね」


 そう、私の仮説は当たっていました。


 何故失敗したのか。


 それは、私が描いていたイメージと、ジルさんとの練習でやろうとしていた開花は違ったのです。

 ジルさんは一輪咲きさせて、それを私に指示しました。そしてそれを実行して失敗……ううん、失敗というよりは私の望みの準備をしていたんですね、無意識に。


 私は、母様に花畑を見せてあげたかった。だから、一輪咲きは上手くいかなかったのです。というか種が増えたのは、花が咲く通り越して種子になってたんですね何故か。だから増えたらしいです。

 増えたのも私の目標の前段階という事で、最終的に土に埋めて魔術をかけて開花させた、と。うん、我ながら良い推理です。目的通り花畑作れたし結果オーライ。


「これ……リズが?」

「どうですか? 中々上手く出来たでしょう。これ母様が好きな花だから花畑見せたかったんです」


 上出来でしょう、と薄い胸を張る私に、ジルさんと母様は顔を見合わせては困った表情。あれ、あんまり喜んでない。


「……駄目、でした? 足りないならまだ種あるし増やして、」

「違うのよ、想定外に凄い事されてびっくりしているというか……」

「さっきまで出来なかったのに、どうしたらこんな……」

「頑張って考えました」


 私頑張りましたよ、いや本当に。お陰で凄く疲れてくらくらするというか。……視界がぶれているというか。


「リズ!?」


 ……あれ、母様が、歪んで見える。何か、たこみたい。いつから軟体動物になったんでしたっけ……?


 ぐにゃぐにゃした母様とジルさんが焦った顔をしているのを満足げに眺めてから、私は意識を手放しました。


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