父様の心配
次の日になっても、体調は戻りません。正確に言えば熱は下がらない、というか寧ろ昨日よりぽかぽかしてる気がします。
内側から広がるような感覚、ふわふわとしていて、その癖やけに熱くて張り巡らされた血管が何かを訴えるように熱を発しているように感じました。
そのせいで気怠いとは思うものの、苦痛とまではいきません。今だけかもしれませんが、体があまり動かないだけで中身は結構に元気です。
但し体は絶不調、昨日よりは動かせるには動かせますが、一人で歩くのはまず無理。腕は重いですが動かせます、ご飯は頑張ればいけるものの腕が辛くなってくるので、餌を待つ小鳥状態でいるしかありません。
ジルも楽しそうに餌やりしてくるので、完全に子供扱いだなあとちょっぴり頬を膨らませてしまいます。
まあ明らかに不便な時間を過ごしていたのですが、ベッドに横たわっているしかないです。
そこに、ノックなしで入ってきた二人。
「リズ、元気か?」
「父様!」
ベッドでやる事なさ過ぎて悶々していたのですが、突然現れた訪問者は私が心配していた人で、勢いよく起き上がろうとして……まあ失敗します。腹筋だけで起き上がれる程回復してなかったのが悔やまれますね。
僅かに浮かんだ頭が枕に着地するのを歯噛みしながら、駆け寄ってくる父様を視界に入れては一息。
父様に怪我はなさそうですね、というかピンピンしていらっしゃいます。父様の事ですから心配はないと自分に言い聞かせていたものの、やっぱり実物を見るまでは安心出来ませんでした。
実に元気でいらっしゃる父様は、横たわった私の姿に眉を下げつつも近寄って抱き起こしてくれました。人の助けがなければ起き上がれないのは申し訳ないですけど、……父様の体温を実感出来るから良いです。
無事で良かった。
逞しい腕と温もりに包まれて、心から思います。
ジルとも違う感触は、本当に包まれるだけで安堵してしまいます。そうですね、陳腐な例えかもしれませんが大地に力強く根を張った大樹のような、そんな安心感がありました。
「体調は大丈夫か?」
「昨日よりは良くなりました。父様、無事で良かったです」
「俺がやられる訳ないだろ」
お父様を信用しろ、と自信満々な笑みで抱き締めては良い子良い子してくる父様。いつになっても私は父様にとって子供なのでしょうね、……でも、子供で良いやって、思ってしまいますね。
実に父様らしいお言葉に頬を緩めて、そのまま出来る限りの力で背中に手を回してぴとりとくっつく私。
私の自慢の父様。
強くて優しくて子供や妻にはとびきり甘い、そして母様には弱い父様。ちょこっと尻に敷かれつつもやる時はやる、格好良い父様です。
そんな父様を持てて、私は誇らしいばかりです。父様達の子供に生まれる事が出来て本当に良かったなあって、純粋に思えるのです。
暫く抱き締めた父様は漸く私の事を離して、それから少しだけ私を眺めては苦笑い。
「大人になったなあ。まさか戦場に出す日が来るなんて思ってもなかった」
「……皆を守りたかったんです」
「そうか。今度から無茶はしてくれるなよ?」
「はーい」
頭をぽふぽふと軽く叩かれたので、はにかみながら父様の掌を満喫する私です。父様の掌は、暖かくて優しくて、お日様みたい。
瞳を三日月にしながら頬を緩めた私に、父様は楽しそうながらもちょっぴり困ったようなお顔。
「しっかしまあ、リズもよくやるなあ……流石に俺達の娘というか」
「父様母様の娘ですもん。偉い?」
「偉いというか……やり過ぎだなこりゃ、下手すりゃ勲章モンだぞ」
「え?」
父様の口から想像してなかった言葉が飛び出て、目を真ん丸にしてしまいます。
勲章って、いやいや国から褒められるってそれはないでしょう。個人的に陛下が褒めてくれるとかならありそうですけども。
「女の子が千を超える魔物を一気に殲滅したって、どんな英雄譚だよ」
「そんな事言ったらジルは一人でワイバーン倒しましたよ?」
竜種の中では比較的下位に位置するものの、それでも竜には間違いありません。因みに高位の竜は出くわしたら即退却するような魔物、って事は本で読んであります。そりゃあ竜って怖いですもんね。
更に余談ですが、かなり高位の竜ともなれば人語を解するとか何とか。竜を崇める国もあるそうです。
ワイバーンは比較的小型で竜の息吹を使えないだけマシですけど、使えたら序列ももっと上だったと思うのですよ。使えないからこそ下位に居るのですが。
流石に高位の竜種が来たら、ジル一人では厳しいと思うんですよね。
一人である種の意味で竜殺しをしたジル。もしかしたら揶揄の意味を込めて竜殺しなんて言われたりしちゃって。
……まあ冗談ですけども。そんな恥ずかしい二つ名ジルも御免でしょうし。
「お前ら揃いも揃って……」
「父様だって倒せるでしょうに」
「いやそりゃあそうなんだが……普通の魔導師には無理な事をけろりとやってのけるな、二人共」
何だか疲れたように額を掌で掴んで嘆息する父様。
最近周りの人を疲れさせている気がしなくもないですけど、こればっかりは仕方ないです。
私は父様母様から頂いた恩恵を遺憾なく振るっただけ。そりゃあ努力もしてますし頑張ったとは自負出来ますが、両親から受け継いだもののお陰です。
その点ジルは完全に自分の力だけで此処まで強くなったのですよね。失礼ながら父親に魔術の才はあまり見受けられませんでしたし、母親がどうかは知りませんけどジル自身の地からが大きいです。
剣術も魔術もこなせるって、鍛練の賜物でしょう。
「ジル格好良かったんですよ、私を守ってくれたもん」
こう、助けられた時の感動と安心感を父様にも知って欲しくて、ついにこにことしながらあの時の光景を思い出します。
本当に死ぬかと思った時に、ジルはいつも来てくれる。というか死にかけ過ぎだと自分でも突っ込み入れたくなりますね、三回目ですよ死にかけるの。
でも、毎回ジルは助けに来てくれるんです。
いつも助けられて、怒られて甘やかされて。ぎゅうっとされる度に、とても安心してふわふわする。ジルに大切にされてるんだなあって実感して、嬉しくて仕方ない。迷惑かけちゃ駄目だと分かってるんですけどね。
頻りにジルの事を褒めると、父様は「そうかそうかー」と微妙に棒読みで頷いてくれるものの、段々笑みが引き攣っているような。それに合わせてジルの穏やかな表情が強張り始めています。
「……リズ様、あまりヴェルフ様には……」
「ほー、まあ守るのはジルには当然だろうなあ。所でいたいけな愛娘に不埒な真似はしてないよな?」
あっ、何か父様誤解してる。
不穏な笑顔でジルを見ては微妙に脅しているので、私は慌てて父様に首を振って誤解を解こうとしておきます。
「失礼ですね、ジルはそんな事しませんよ。ぎゅーってしてくれたのと私が泣いてたから瞼にキスしてきたくらいで」
「ジル、あっちで話を聞こうか」
しまった、本当の事言って悪化させてしまいました。
……不埒な真似、じゃないと思うのですけど。慰める為に抱き締めてくれただけ、泣かないようにキスしてくれただけですもん。……前にそりゃあ口にされた時はびっくりしましたけど、あれは私も受け入れちゃいましたし、ジルも慰めて欲しかった訳で。
女の子に対しての不埒なって、やらしい事ですよね。じゃあジルはそんな事しないですもん、というかないない。もうちょっとぼんきゅっぼんな女性にしたいでしょう。
「父様、ジル責めるなら私を責めて下さい。私が突撃して死にかけたのが悪いんです、泣いたから慰めてくれただけだもん」
だから責めないで下さい、と必殺うるうる上目遣いでお願い。多分これ効くの父様くらいなものですけど。これは自覚的にやってるので、自分でも質が悪いと思ってます。
父様は私の懇願にうっと息を詰まらせて、ぼりぼりと頭を掻いては抱えだしてしまいました。
「……リズに免じてこの場は責めないでおく。はー……」
「……申し訳ありません」
「申し訳なく思うなら自重しろ!」
「父様!」
「……あーもー……」
ジルを責めちゃ駄目、と頬を膨らませたら更に溜め息をつかれました。親としては心配なのでしょうが、別に危ない事なんてないんです。主従愛が行き過ぎてるだけ、それに誰も見てないから咎められたりしません。
私より父様がぐったりしていて、私を見ては少し悲しそうに眉を下げています。「親離れ早過ぎだろ」と小さな呟きが聞こえて来たので、まだまだだと父様に体を預けて甘えておきました。
「……リズ、体は大丈夫か?」
「は、はい。まだ怠いですし熱もあって、……魔力の流れが熱く感じたりしますけど」
精神的にはぴんぴんしてますが、肉体はそうもいきません。体が自由に動かせなくて不便ですし、何だか魔力が膨張しているような、熱を持って勢いを増しているような感覚がします。
今魔術を使おうものなら、とてつもない疲労感と倦怠感に襲われる事になりそうですね。流石に体調が治るまでは魔術は使用禁止にされてます、ジルに。
「っ、……リズ、後でセレンに診て貰え。それと、次からは無茶は控えてくれ、良いな?」
「はい」
毎度の如く皆に言われてますし、それは重々承知しております。もう死にたくないですし、痛い目見るのも御免なので。
「リズ、元気になって外行く時は色々気を付けろよ。ジルも周囲に気を配ってくれ」
「心得ております」
「……父様?」
打って変わって真面目な表情がジルを捉えていて、真剣な声音で命令を下している父様。
先程までの責めるような眼差しはなく、ジルを頼るように真っ直ぐ見つめていました。ジルもそれに応えるように、重々しく頷いては真摯な瞳を父様に見せています。
何かあったのかと二人を見ると、父様は私の肩をそっと掴んで、ふざけの一切ない紅の瞳で私を写していました。
「リズには自覚はないかもしれないがな、リズはかなり凄い事をした。大量の魔物を一掃したって凄い功績だぞ?」
「父様だって出来るじゃないですか。あの時は死に物狂いだっただけですよ」
「だとしても、だ。リズの存在は騎士や魔導師に知れ渡って、恐らく他国にも行くかもしれない。良く言えば有名になってしまうって事だ」
「は、はあ……それが?」
元々魔導院の方は変な意味で有名でしたからね。ロリコンに目をつけられた女の子として。侯爵家令嬢としてなら父様母様のお陰で元から目立っていた方ですし。
個人的には有名にはなりたくないですが、もう今更感が半端ないので諦めてます。それに、父様の言う通りあの場に居た騎士様には、今回の所業は目に焼き付いてしまったでしょう。
「つまり、良くも悪くもリズ様は我が国にも他国にとても強力な存在となってしまったのです。リズ様を疎ましく思う者や、逆に欲しがる者が現れる事が予想されます」
「これまた物好きな……。そんな事言ったら父様もでしょう」
「俺は自衛出来るし、これでも魔導院の長だからそう簡単には手出し出来ない。というか出来るもんならやってみろ。でも、リズは違うだろう? リズは女の子だし、自衛するには割り切れてない」
人を殺せるか、という問いに迷いなく答えられる程、私は覚悟出来ていない。父様には看破されていました。
……魔物に対しては、覚悟を決めていた。でも、人に対しては、未だに迷っています。意思疏通の出来る、同じ形をしていて生活を営んでいる存在。私と同じ人間を、殺せるか。
……必要に迫られた時、私は果たして手を下せるのでしょうか。
「また誘拐されたり、襲われるのは嫌でしょう?」
そんなの、嫌に決まってます。
もう痛いのも死にかけるのも、好きでもない男に貞操の危機に晒されるのは御免です。まさぐられただけで嫌悪感が湧くというのに。
思い出すとあの時の手が這う感触を錯覚してしまって、ただの気のせいだと分かっていてもぶるりと体が震えてしまいます。トラウマにこそなってませんが、身の毛がよだつ程気持ち悪かったと体と記憶に刻まれていました。
そんな私に、ジルはそっと手を握って覗き込んで来ます。
「そうならない為に、私が居ます。必ずや、守り通します」
「……うん。信じてます」
ジルの事、信じてますよ。いつも助けてくれるもん。頼ってばかりでは悪いと分かりつつも、どうしてもジルに頼ってしまう。
ジルならきっと助けてくれる、そういう考えが根底にあるから、私はいつまで経っても甘ちゃんなのでしょう。囚われのお姫様なんて柄じゃないのにね。
体の強張りが解けて柔らかくなる頬に、ジルも穏やかな笑みを返してくれます。但し、ふわふわした空気は直ぐに父様の咳払いで打ち消されてしまいましたが。
「親の前で不埒な真似したら、流石に俺も怒るぞ」
「もー……たかが手を握るだけでしょう。ジルだってこんな小娘に何かしたいなんて思わないですよ」
父様は心配性ですね、と娘の溺愛具合に微苦笑しつつ「ね?」とジルに首を傾げてみたら、柔和な顔立ちに曖昧な笑みを浮かべるのみでした。
結構時間が経っても体の倦怠感と熱が治まらなくて、ちょこっと心配になった私。治癒術で治るとはあまり思ってもいませんけど、父様のお言葉には従っておこうと思います。
父様が私の事を心配して母様を呼んできてくれたらしく、風船が入ったようなお腹を抱えてわざわざ様子見に来てくれました。
もう妊娠末期に入った母様は、細い体にお腹だけを膨らませています。此処まで来る大分成長していて、お腹の中の子も元気に動いているそうです。
その分母様の体も負担がかかっているので、身重の母様に診て貰うのは申し訳ないとちょっと思ってます。
そんな私の心配を吹き飛ばすかのように、母様は私の姿を見てにっこりと微笑みます。心境を完全に理解されたみたいな不安に溶け込んで中和する柔らかい笑顔に、無性にほっとしてしまいました。
「リズ、体調はどう?」
「……凄く、熱いです。中身は元気なんですけど……」
母様はお医者様ではなく治癒師。外傷は直せても内側の問題は対処出来ません。それがお医者様と治癒師の違いです。
でも父様がわざわざ母様に診て貰えと言って呼ぶくらいですから、母様が今の症状に心当たりがあるという事でしょう。
今私の状態を例えるなら、インフルエンザにかかって臥せているけど、テンションはハイな感じ。体は言う事聞かないのに、心だけがそこから離れて高揚しているような気分です。
かといって理性が失われるような感じではないので、何だか変な感じがしますね。
何とも言えない感覚にどうしてでしょうね、と首を捻ってみると、母様は特に驚いた様子もなく口許に手を当てて上品に微笑みました。
「でしょうねえ、私もびっくりだわ。珍しい、リズの年齢でなるなんて」
「……何がですか?」
「内側が熱くて、こう、魔力が膨張しているような感じがするでしょう。その通り道も広げられている感覚って言うか」
細かく話していないのに的確に体調を看破されて、ぱちりと瞬くと、目の前の笑みは更に深まります。
少しだけ悪戯っぽくウィンクしては私の頬をぷにっとつつく母様は、なんだか三児の母というか同い年の少女に思えてしまう程可愛らしい。
口紅を引かなくても艶めく薄紅の唇に人差し指を当てては、「珍しいものねえ」と薄紅に弧を描かせる母様。
「……よく分かりますね」
「経験者は語るってやつね。私も昔なったから」
「……そうなんですか?」
「ええ。これがあったから魔導院入り出来たようなものね。私の場合小さい頃に二回あったのよ」
母様も体験済みだったなら、特に案ずる事もないのだろうと深い理由もなしに安心してしまいました。私の体調を見て父様も察して母様に診察に行かせたのでしょう。
そして、魔導院入りというか単語から推測するに、魔力について影響がある症状のようです。試しに母様を窺うと、穏やかな笑みで頷かれました。
「まあ、分かりやすく言えば魔力を作る機能が強化されてるって言うか、貯める所が拡張されてるって感じかしら?」
「つまり?」
「本来は緩やかに貯められる総量や扱える量が増えていくのだけど、稀に爆発的に増える人が居るのよ。本来は子供に多くて成長を止めた大人には発症しないのだけど……」
私の年齢になれば、殆ど魔力総量は変わりません。誤差はありますが、成人する頃には完全に成長を止め、その時点での貯められる限界が一生の魔力の総量になってしまいます。
そこまでにどれだけ伸びるかが、魔導師の資質でもあります。私の場合は生まれた時から無駄とも言えるレベルで備えていました。それも順調に育って、この頃は多分伸びていない筈。私にも限界は来ていました。
でも母様の言い分を信じるなら、また増えてしまっているという事。ただでさえ潤沢過ぎた魔力が更に増えるとか、私どうなるんですか。
「リズは多分、この前凄く魔力を使ったじゃない? そのせいで普段使われてなかった魔力まで使って刺激されて、拡張が起こってるんじゃないかしら」
「……あー……」
だから体が熱くて内側が変わるような感覚があったのですか。というか今でさえ平均からすれば十倍近くありそうなのに、これ以上増えてもどうしろと。
……あ、私がタンクになってセシル君達に補給出来ますね、人間電池ってあんまり嬉しくないですけど。今回みたいに大量の魔物を仕留める時には便利だと思うものの、日常で使う事はないですよね。
「まあ悪い事じゃないわ。私はこれが二回あったお陰で総量がかなり増えたし。まあ辛いけどね、体は」
「……今実感してます」
倦怠感はまあ自業自得なのですけど、熱だけでも結構に辛いです。中身は元気であるものの、熱のせいで体がぽかぽかし過ぎて辛いですし、こう、内側がむずむずするというか。
それが急激な魔力の増加の感覚というのは分かるんですけど、何か慣れないです。
「当分は体が馴染むまで熱は引かないけど、二、三週間もすれば馴染むわ。倦怠感の方は魔術を無茶に使ったからよ、そっちは直ぐに治るわ」
「……長いですね」
「仕方ないわよ、反面見返りも大きいんだから」
顔色を暗くした私に「一応良い事なのよ?」と私の頬をぷにぷにして屈託なく微笑む母様。
それは分かっているのですが、体調不良が暫く続くというのはあまり嬉しくないです。外に行きたくても全員に止められるでしょうし、私自身ふらふらしてて歩けそうにないですから。
まあそんな理由もありますが、もう一つ、嫌な理由があります。
「……母様の出産までに完治しますかね」
そう、母様は出産を控えています。現代と違って正確には分からないですけど、大体の見当で出産一ヶ月前後って事なのは分かります。
細かく分からないですし、何が起こるか分からない。私が臥せている間に生まれる可能性だって充分にあります。
生まれる場所に立ち会うのは衛生的に無理かもしれませんけど、せめて、産湯に使った後の姿くらい見ておきたいのです。まだ性別も分からない、私の大切な家族の姿を。
「まあ、何とか間に合うと思うわ。そろそろ臨月でしょうけど」
「……男の子かなあ、女の子かなあ」
「リズはどっちが良い?」
「どちらでも沢山愛情注いで可愛がりますよ」
弟がもう一人生まれてルビィと仲良くなっても嬉しいですし、妹が生まれて大きくなったらおしゃれしても楽しそう。その頃には流石に私も子供を産んでいるでしょうし、仲良くして貰いたいです。
尚、相手はまだ居ない模様。
まあ私の相手は兎も角、出産前一ヶ月を控えた母様に、心配と期待がある訳です。早く生まれて欲しいけど、治るまで待って欲しいなんて、我が儘ですよね。
「ふふ、それは良かった。あ、治るまでは魔術を使っちゃ駄目よ? 多分制御上手くいかないし魔力に酔うから」
「はーい」
先人からありがたいお言葉を頂いたので素直にお返事して、ちょっとだけ甘えたくて膨らんだお腹にそっと耳元を寄せます。
元気に生まれて来てね、新しい家族さん。
そっと囁いた私に、ぽこりとお腹の中で動いた気がして、まだ見ぬ新たな家族に想いを馳せては相好を崩しました。