戦争の終わり
なんとブックマークが500を突破していました。拙い文章を気に入ってもらえて、感謝感謝です。
それでは、ごゆっくりお読みください。
結論から言おう。
あの女神は死んでいなかった。
神と同等の力でぶん殴られた女神は確かに俺の前から消えた。俺はそれを消滅したのだと考えていたのだが、違った。
ハルにいらぬ指摘を受けて少し落ち込んでいるところに、なんと女神が後方から吹っ飛んできたのだ。
そのまま奴はもう一度その場から消え去り、二度目の登場を果たした。
どうやら、殴られた勢いで世界二周を楽しんできたらしい。白目を剥いてピクピクしている女神はとても楽しそうだったな、うん。流石に美しくはなかったが。というか、この世界って球状になってたのか……?
何はともあれ女神は存命だ。世界を管理する存在を殺したら大変なことになっていたかもしれないし、結果オーライだと思っておこう。
で、ズタボロになった女神だが……
「ごめんなさい、出来心だったんです。神だからって調子に乗ってすいませんでした」
頭が地面に埋まるんじゃないかと思うくらいの土下座をしている。いっそ清々しいほどのジャパニーズスタイルだ。
「……本当に反省してんのか?」
寧ろ疑ってしまう。
そんな俺の問いかけに、女神はビクッと肩を震わせた。
「してます! 二度とこのようなことはしません! 最高神様に誓って!」
遂に頭が地面に埋まり出した。
この女神の過剰反応についてだが……原因は間違い無く俺だ。
気絶した女神を放置して、御堂の怪我を治すためにゾフォンたちの所に向かった。未だ混乱の最中にいた魔族たちだったが、御堂の傷を見てすぐに対処してくれた。
治療が済んで一息ついた頃に、女神が復活した。
懲りずにギャーギャーと騒ぎ立てる女神。俺は軽く苛ついたので、その顔に向けて全力の蹴りを入れたのだが……
考えてみて欲しい。人間は、パンチよりもキックの方が力が強い。
更に、俺は直前に女神を「全力で」殴っているのだ。これが示すのは、耐久値の上昇に他ならない。
この二つを合わせた時、何が起こるだろうか。
答えは簡単で、力加減を間違えてしまったのだ。
包み隠さずに話すと、女神の顎が消し飛んでしまった。今度こそは俺の筋力の勝利だったらしい。
そんな経緯があって、女神も力の差を思い知ったのか大人しくなってくれた。
因みにだが、女神の顎は元に戻っている。身体の構造はレインとほぼ同じ女神だ、そこいらの魔力で補ったのだろう。
そんな感じで、女神に恐怖を植えてしまったようだ。これで落ち着いてくれるのならいいんだが……やりすぎた気がしないでもない。特に最後の一撃。
土下座し続ける女神にどうすればいいか悩んでいると、不意に頭上から小さな小さな光の球が降ってきた。
『……あーあー、聞こえてる?』
「この声……まさか最高神か?」
『お、通じた! よかった。初めての試みだから失敗するかと不安だったんだよね〜』
「さ、さささ最高神しゃまっ!?」
光球から発せられた最高神の声に、女神が異様に取り乱す。
『僕さ、天上の世界から出れないんだよね。だからこうやって声だけなんだけど……なんで君は、そんなに焦ってるのかな?』
「ひっ……い、いえ、焦ってなど……」
『へぇ、上司に嘘を吐くんだね。最高神に口先だけの言葉が通じると、そう思ったんだね。甘く見られたものだなぁ……』
「いや、その、あの……」
『大方、天上に逃げてから何かしようと企んだんだろうけど……』
女神の顔が引きつった。そんなことを考えていたのか。全然反省してないじゃねぇか。
『天上の場所は彼に教えちゃったから、逃げられないよ?』
「神樹の延長線上、だったか?」
『神に勝る力を持つ彼なら、天上まで影響を及ぼすことも可能……どういうことか、分かるよね?』
「そ……そん、な……」
愕然とした表情で、女神は崩れ落ちた。俺に対してトラウマがあるのは嘘じゃなかったわけか。
しくしくと泣き始めた女神を無視して、ふわふわと光球が俺に近づいてきた。
『ありがとね、晋一くん。見てて楽しかったよ! 本音を言えばもっと嬲って欲しかったけど……今の彼女でも十分に満足だよ!』
「……そうかい。お役に立てたようで何よりだ」
『このお礼は、いつかまた。僕は帰らせてもらうよ。意外と辛いんだよね、コレを続けるのって……』
「それなら、ついでにこの駄女神も連れ帰ってくれ。邪魔で仕方ない」
『さ、最高神をパシリに使うとは……ま、いいけどね。じゃ、バイバーイ』
「ああ、私のユートピアが……」
光球が女神を包み込み、スッと消えた。後には何も残っていない。
「一体、何だったの……?」
側で神との会話を見ていたゾフォンが、呆然とした体で呟いた。
「……さぁ、何だったんだろうな?」
とぼけて、思う。
これで、本当に一件落着ってことかね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「何だか、シンイチにはいっぱい助けられちゃったね。後は僕たちだけで何とかしてみせるよ。元気でね」
「ウチの力があれば余裕だな! ところで、何をするんだ?」
別れ際、ゾフォンたちはそんなことを言っていた。何があってもボケてるマリナに内心で苦笑しつつ、魔王派の未来が安泰であることを願う。
魔族の国を離れて、やってきたのはムサ大陸だ。回復した御堂とともにここに来た理由は一つ。
「……シンイチ様のせいですわよね、コレ。絶対にそうですわよね?」
水浸しになった研究所の前で文字通り幽鬼の如く佇むのは、ロード族の研究総括であるレイン・ガイスト。
「遠くの海で爆発が起きたと思えば、津波が押し寄せてきて……危うく溺れ死ぬかと思いましたわ!」
いや、死なないだろ……とは言わないでおく。
お察しの通り、数刻前に俺が海の底から飛び出し海を叩き割った弊害についての謝罪に来たのである。
「純粋に悪かったと思ってる。償いとして、俺にできることなら……」
「ん? 今、何でもするって仰いましたわよね? 仰いましたわよね?」
言ってねーよ。何かしてやる、とは言おうとしたが、何でもとは言ってねーよ。
「それなら、私の実験にご協力願えません? 別に解剖させろとは言いませんわ。まずできませんし」
「……それは、また今度な」
「よっしゃぁ!! 言質は取りましたわよ!?」
……う、ウザい。やっぱり止めとけば良かったかもしれん。
まぁ、レインが無事なようで何よりだ。見れば、No.3が研究所の整備をしていた。手を振ると丁寧にお辞儀を返してくれた。
「それにしても、何がありましたの? シンイチ様もシオリ様も、随分とボロボロですけれど……」
言われて気づいた。俺も御堂も、服がズタボロになっている。俺は女神の一撃を喰らったし、御堂はあいつと戦闘したらしいからな。
「わ、私はその格好の渡良瀬くんもワイルド感があって良いと思うな……」
フォローのつもりなのか、御堂が頬を染めてチラチラとこちらを見やる。そういう反応は、できればやめて頂きたい。
とりあえず御堂は置いといて、レインに事情を説明するか。
これは彼女にも深く関わることだしな。
「……そういうことでしたの。俄かには信じ難いですけれど、下手に理屈っぽいよりは信憑性がありますわね」
突拍子もない話だが、納得しようとしているようだ。急に神だのなんだの言われても信じられるもんでもないか。
「しかし、神……また興味深い対象ができましたわね。うへ、うへへへ……」
……うん、こうなることも予想してはいたよ。涎を垂らして笑うレインは、何とも彼女らしかった。
「そんじゃ、俺たちは帰るわ……って、聞いてないか……」
首を振り、ムサを後にする。No.3が何とかしてくれることを祈ろう。
跳んできたのはリュケイア大陸。意外と時間が経っていたらしく、もう夜が明けて太陽が顔を出していた。その眩しさに目を細め、俺は草木の茂る大地に降り立つ。
「ん、くぅ……! ふぅ、疲れた」
「大丈夫?」
「ああ、問題無い。肉体的というよりは精神的なものだし……」
『マスターは肉体派ですからね。これで疲れてたら神の名折れというものでしょう』
「いや、神ではないから」
「それにしても驚きだよね。渡良瀬くんがそんなに凄い人だったなんて……」
「それもそうだな。最初は役立たずだと思ったもんだが」
『実は始めから神様だったんですもんね。従者として鼻が高いです!』
「いや、だから神じゃ……もういいや」
「あはは。それで、これからどうするの? 私としては、その、お風呂に入りたいなぁ、なんて……」
「あ、そうだったな、悪い。風呂だったらカグラの家にあるし、あいつらに会いたい気分だったから丁度いいか」
微風に揺れる草原に寝転んで、御堂とハルと他愛無い会話をしてダラダラする。
懸念していた戦争が始まることなく終わった今、思い浮かんだのは大切な嫁たちの顔。
未だ幼く純粋無垢なユリア。しっかり者だけど少し変わってるエレン。意地っ張りで素直じゃないリリシア。ちょっと不思議な性格のカグラ。アホが故に真っ直ぐなバロック。
全員が、俺の大切な婚約者だ。
将来そこに、隣に寄り添う少女の名が加わるかは分からないけれど……御堂だって、俺にとっては大切な人だと言える。
ふと、思い返す。
この世界に来てからのことを。
マグジェミナの奴らとは良い思い出が無い。唯一、騎士団長には同情するところがあったな。
奴隷になって、亜人娘四人組に出逢えた。そこでグロウにも会ったな。強面だが心優しい男だった。今は元気にしているのだろうか?
キュボエの町でゲルグの爺さんに会った。何度も迷惑をかけ、何度も呆れさせてしまった。それでも俺のことを気に入ってくれた、なんだかんだで寛容な爺さんだ。
ユリア父には驚かされたな。あの見た目で「にゃ」は、インパクトが強すぎた。俺のことを家族だと言ってくれたのは、嬉しかった。
エレンの養父母と、実母であるローラさん。彼女らにも色んな迷惑をかけてしまっている。機を見て何か返してあげたいな。
エルフの族長さんは掴み所の無い人だった。飄々としてる。比べてリヒトは直情的な奴だ。次にエルフの里を訪れた時は、どんな手段で迎えてくれることやら。
ヤヨイさんと狐人族の奴らは……悪い奴らではないんだよな。悪戯好きで人をからかうことが生き甲斐みたいだけど……それだけに、楽しい奴らだと思える。
ルーフィムの迷宮でハルに出会った。あの迷宮の難易度からするに、こいつと会ったのはある種の運命だったのかも、と思う。ふざけた奴だがいないと寂しい。そんな存在だ。
古龍たち戦闘狂とは、友達のような関係になれた。バロックを通じての家族だとも言える。実際には俺が王らしいけどな……
レインの第一印象は変人だったな。その認識は今でも変わってないんだけどさ。面白いっちゃ面白い、ハルの母なだけはあるって感じだ。
ゾフォンはまともに話ができる数少ない魔族だ。魔王であるマリナも含め、魔族は総じてアホだったから。裏表の無いスッキリした種族だと言えば、聞こえはいいかもしれん。
振り返ると、多くの人に出会っていた。そしてその殆どの人が、無表情で無愛想な俺に良くしてくれた。
「……ふふっ」
自然と、笑みが零れてしまった。ハルに茶化される前に表情を取り繕う。
『……? マスター、今……』
「どうかしたか?」
『い、いえ、何でも……気のせい、だったのでしょうか……?』
一人で呟くハルを不審に思うが、誤魔化せたのならそれでいいということにする。
見上げれば、透き通るような青空がそこにあった。ゆっくりと白い雲が漂っていく。
……そろそろ、動き出しますかね。
「おーい、御堂。そろそろ、って……」
「……すぅ、すぅ……」
あらら、寝ちまってたのか。
起き上がろうとしていた体を再度横たえた。
こうして穏やかな世界に生きていられるのは、良いことだな。
柄にもなくそんなことを思い、もう一度、五人の婚約者の顔を思い浮かべる。
……御堂が起きたら、すぐにでも会いに行ってやる。
高揚する気持ちを感じながら、俺は静かな時を楽しむのだった。
お疲れ様でした!
これにて「人外さんの異世界旅行記」は終了……ではありませんね。
第五章が終了です!
最終章じゃないの? とか思った方、申し訳ありません。実はもう一話だけ続くんです。
その一話の更新は少し遅れてしまうかもしれませんが……それでも、ここまで見てくださった皆さんには、是非読んで欲しいと思います。
それでは、「人外さん」のラストを見届けてもらえますよう、お願いします!
次話でお会いしましょう!




