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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第五章 始まらない戦争のくだらない終結
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人外

「ホント何なの!? こんな展開つまんない! バカなの!?」


 改革派をとっちめた直後、魔王城の一部が跡形も無く消し飛ばされた。その原因であろう存在は、空中を浮遊しながら苛立ちを抑えられない様子で喚いている。


「あ〜もう! もう! 信じらんない!!」


 ヒステリックに叫ぶ謎の襲撃者は、ふわりと風にそよぐ明るい茶髪を掻きむしった。相当にキレている。


 ……何だこれ?


 頭の中が疑問符で一杯になった。状況を整理しようとするが、如何せん鍵が少なすぎて何も纏まらない。


 なぜあいつは魔王城を襲ったのか。「つまんない」とはどういうことなのか。何に対して激怒しているのか。


 そして何より……あいつは誰だ?


 未だ騒ぎ続けている謎の人物を観察する。容姿は見惚れるほどに整っている。怒りで歪んでいる顔も、どうしてか美しく感じられる。身に纏う衣服は純白で、汚れ一つ無い。


 見た目は完璧だった。


 更に言えば、その雰囲気というか、オーラが違った。


 どこか近寄りがたい、神々しさを感じさせるオーラ。


 目に見えるものでも耳で聞こえるものでもないけれど、ハッキリと分かる。


「……綺麗」


 小さく、御堂が呟いた。謎の人物は女性なのだろうが、同性の御堂からしても、惚けてしまう程度には魅力的だったわけか。


 ただし。


「納得いかなーい! 面白くないー!」


 ……その性格までが美しいわけではなさそうだ。思わず聞き入ってしまうくらいの美声で不満を爆発させてる辺り、碌な奴ではないと察することができる。方向や程度は違えど、ヤヨイさんやレインに近い種類だ。


 残念美人、という類なんだろうな。


 その残念美人さんはやっと怒りを発散し終えたようで、呼吸を整えてこちらを睨んできた。


「アンタのせいで……!」


 彼女の射殺すような視線の先にいるのは、俺だ。剥き出しの敵意が突き刺さってくる。


 聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟かれた言葉に、首を傾げる。


 ……彼女とは初対面のはずだ。自分の記憶力には自信があるが、少なくとも彼女に似た人物に会ったことすら無い。どこかで彼女の関係者に迷惑をかけたのか……?


 いや、違う。何を考えているんだ。大事なのは過去ではなく、今だ。


 つまり、たった今起きたことに対して、彼女はキレていたんだ。


 間違い無く俺と彼女は初対面。それに今までの状況を加味していくと……彼女の怒りの原因は、恐らく改革派の計画を潰したことだろう。


 だが、それでなぜ彼女が怒る? 見た感じで魔族じゃないことは分かるし、空に浮いてることを除けば人間にしか見えない。浮遊については魔法の力か何かだろうし……


「本当に、邪魔しないでよね!」


 俺が正体を掴みあぐねていると、不意に残念美人が動いた。


 思考に耽っていたせいもあるだろう。


 突然の出来事に混乱していたせいもあるだろう。


 俺は、彼女が目の前に現れるまで、何の反応もできなかった。


「消えなさい!」


 向けられた掌。そこから眩い光が迸り……


 俺は意識を失った。






 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「えっ……」


 気がつけば、渡良瀬くんはそこにいなかった。突如現れた女性が彼に手を翳した瞬間、光とともに彼の姿が消えてしまった。


「あー、やっとスッキリした! 雑魚のくせに頭だけは働くんだから。あれ? そういえば、元のステータスでも知力だけは……」


 ブツブツと何か呟いた女性は、けれどそれに執着することなく顔を上げて笑った。


「ま、何でもいっか! どーせあいつはもういないんだし」


 その言葉に。


 私は、震える声で尋ねる他なかった。


「あの……」


「ん?」


 何を気にした様子も無く、こちらを見る女性。


「……そ、そこにいた男の人、渡良瀬くんは、どこに……?」


「ワタラセ? ……ああ、あいつ? 知らないけど、結構力こめたし……」


 女性の視線の先には、何も無い空間だけ。つい先ほどまで、魔王城の壁があったはずの所。


 次に女性が満足げな笑みで放ったのは、聞きたくない言葉だった。




「……死んだんじゃない?」




 刹那。


 私は女性に向けて、一つの魔法を撃った。


 上級魔法「プロミネンス」を、容赦無く撃った。


 私の中に眠る膨大な魔力を糧として生み出された業火は、瞬く間に女性を飲み込んでしまった。


 灼熱はうねりながら魔王城の外へと飛んでいく。後には何も残らなかった。


 ……やった?


 そう思った時、全身に悪寒を感じた。


 即座に身体強化をかけてその場を離脱すると、一瞬前まで私がいた場所を一筋の閃光が撃ち抜いた。


 呆気にとられる魔族たちを放置し、魔王城の外へと駆ける。視界の上端には、ハニーブラウンの長髪が揺れていた。


「……いきなり何してくれんのよ。ちょっと熱かったじゃない」


 不機嫌そうに眉を歪めながら、女性はそう言った。


「もしかして、あの男を殺されて怒ってるの? 確かアンタ、あいつのこと好きだったもんね。なら仕方ないか……」


 私のことを知ってる。


 けれど私はそれを気にすることなく、スキル「思考詠唱」も用いて魔法を連続で繰り出す。


 炎、水、雷、土、風……ありとあらゆる事象を、憎き敵へと叩きつける。


 奴は彼を殺した。それだけでもう、奴に生きている価値は無い!


 何がどうなっているのかも分からなくなってきた頃、私はやっと魔法を止めた。辺りは混沌としていて、視界は極端に悪い。


「……よくもやってくれたわね」


 そんな声が聞こえたと同時に、私は衝撃に吹き飛ばされた。身体強化を継続していたおかげでダメージは少ないものの、驚きは大きい。


 だって、今眼前に浮かぶ女性は、少し衣服や髪が乱れてはいるものの、その身体にはまるで怪我をしていないのだから。


 あそこまで魔法を連発したのに、無傷? あり得ない。


 それでも、生きているというのなら……殺すだけだ。


「私もやられっぱなしってのは性に合わないから……今度はこっちからいくわ」


 女性が手を振るう。危険を感じて私が後方に飛び退くと、目の前の地面が大きく削られた。


 二回、三回と女性の腕が振るわれ、その度に地形が変化していく。私は強化した脚で何とか逃げ切っているが、目に見えない攻撃に戸惑いを隠しきれない。


 隙を見て魔法を撃つが、それも掻き消されてしまう。よく見れば女性の周囲には魔法陣が浮かんでいる。さっきの猛攻を防いだのはあれかもしれない。


「くっ、ちょこまかと! 大人しく当たりなさい!」


 イライラを抑えられずに感情的に攻撃してくる。あまりの怒りで逆に冷静になっている私には、かすりすらしない。


 ……でも、このままだと私が負けそうだ。こちらの魔法は一切通じず、向こうはまだまだ魔力に余裕がありそうだし。


 魔法が効かないなら。


 そう考えて、私は身体強化を更に強める。渡良瀬くんには遠く及ばないだろうけど、それでもかなりのパワーアップになっているはずだ。


 全力で相手に向かって駆け出す。その速度は予想外だったのか、女性は反応が一拍遅れる。


 それで十分……!


 飛び上がり、拳を放つ。展開された魔法陣が砕け散り、整ったその顔に私の手が届く……


「ふふん、残念だったわね!」


 ……かのように思えた。


 確実に捉えたと思った。それなのに、女性は何の痛痒も感じていない。


 そして、それは私も同じだった。


 振り抜いた手には、何の感触も無い。絶対に当たったはずなのに、触れることさえできなかった。


「私に物理攻撃は効かないの。身体が魔力でできてるからね〜」


 ……身体が魔力? それじゃ、この女は人間じゃないってこと?


 それなら、ますます遠慮する必要なんて無くなるね。


 こちらを見下すふざけた顔に向かって両手を突き出す。


 この魔法なら。


 彼をも苦しめたこの魔法なら、あの魔法陣を突破してダメージを与えられるはず。


 下手をすれば命を落とすかもしれない。ここまでに消費した魔力が多すぎて、魔力切れを起こす可能性は大だ。


 それでも、と私は思う。


 渡良瀬くんがいない世界なら、私がいる意味は無いから。


 全力で奴を殺す。


「喰らえ……『堕天(フォール)』!」


 全身から力が抜けていく感覚。両手から魔力の奔流が飛び出し、天へと伸びていく。女性の頬を掠めて空へと消えた魔力は、光となって降りてくる。


 それは、天空が堕ちてくるような。


「! な、なによこれぇぇぇ……!」


 舞い散る光の粒子に押されるように、女性が地に足をつけた。


 範囲はできるだけ狭めて女性の真上に集中させ、威力を高める。展開された魔法陣を押し潰し、徐々に女性が沈んでいく。


「……はぁ、はぁ、はぁ……」


 目が霞む。思考が濁っていく。前よりも魔力の消費量が多くて、保有する魔力が尽きかけているんだ。


 フラフラとしながらも眼前に生まれた穴を睨む。あの女は殺せただろうか……?


 しばらくして、奴が出てこないことに安堵した。よかった、これで……




 ピシュン……!




「……え?」


 左肩と右脚に熱。見れば、その箇所から赤い血が流れ出ていた。小さく空いた穴から、コポリと溢れ出る真紅。


「……ふっ、ざけんじゃないわよっ!」


「堕天」によってできた穴から、土まみれになった女性が飛び出てくる。


 ……ああ、失敗かぁ。ごめんね、渡良瀬くん。


 意識が薄れていく。出血と魔力切れで体力は限界を超えてしまった。もう、立っていられない。


「本当に、ごめん……」
















「何のことだか知らんが、気にすんな」




 ………………………………へ?


 最後に聞こえた言葉は、幻聴だったのだろうか。


 愛しい鉄面皮を最後に、私の視界はブラックアウトした。




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