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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第五章 始まらない戦争のくだらない終結
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作戦前日

ユニークが60,000を突破しました!


ごゆっくりお読みください。

 ゾフォンとの会話の翌朝。移動させたはずなのにまたしても俺のベッドに入ってきていた御堂に驚きつつ、そっと部屋を出た。魔王派のエリアにある洗面所に行き顔を洗っていると、思わぬ人物に出くわした。


「うにゅ〜、眠い〜……はっ! 人間がいる! なんで!?」


 若き魔族の王、マリナ・スカーレット・アステルドである。目をぐしぐしと擦っていたが、俺に気づいた瞬間に覚醒した。しかも俺のことを忘れているっぽい。


「……昨日会っただろうが」


「昨日……? 昨日、きのう……ああ! シンイチか!」


 どうやら思い出したらしい。流石にそこまでアホでは無かったか。


「何をしてるんだ? ウチはお腹が空いたんだけど……」


 きゅるるる……と可愛らしい音が鳴った。ここは洗面所なのだが、突っ込むべきだろうか。


「そうか。朝飯が楽しみだな」


 まぁ、スルーで。マリナは天然でこれだから、突っ込んだところでどうにもならない。


 欠伸をしているマリナの肩を押して、彼女の部屋へと向かう。まだ朝食まで時間はあるし、ハルと遊んでてもらおう。


『おや、朝帰りですか? 不倫は文化と言いますが、種族を超えても通じるものなのですね』


 部屋に入るや否や、無機質な声でとんでもないことを言われた。一夫多妻制が認められている世界でその考えが生まれるのかは甚だ疑問だ。それと、俺は不倫などしない。説得力無いだろうけどさ。


「ぷりん? ウチは大好きだぞ!」


『ほう、幼いのに盛んですね。実はもうゆるゆ……』


「ハル、デコピンするぞ」


『ソーリー、マイマスター!』


 謝る気ねぇな、こいつ。


 普段と変わらない様子のハルに、俺は胸中で安堵する。この調子だと、どうやら改革派からの襲撃は無かったみたいだ。


「じゃあ、また後でな」


「えぇー、もういくのかー? ウチとお話ししようよー」


 自室に戻ろうとしたところ、マリナが駄々をこね始めた。特に用事があるわけじゃないから時間はあるが……こいつと話してると精神的に疲れそうだな。


「……ま、いいか。そんで、何の話をしたいんだ?」


「ん〜、何にしよう……」


 あ、話題は無かったのね。


 うんうんと唸るマリナ。ハルより少し大きい程度の少女に、本人だけが知らない思惑がのしかかっている。それも、下手をすれば命を失うような。


 ……不憫だと、思うべきではないのかもしれない。


「むむむ……あ、そうだ! ウチがこの間見つけた魔物がな……」


 パッと顔を輝かせて喋り出した彼女の笑顔は、とても無垢で無邪気。自分が置かれている状況など全く知らないと、それだけで理解させられる。


 マリナは……自分の両親がいないことを、どう思っているんだろうか?


 口にできない疑問が浮かぶが、なんとか抑え込む。当の本人は魔物の話をして楽しそうだ。


「それでな、でっかいネズミの魔物がな、二本足で立って笑ってたんだ! 『ハハッ!』って!」


 身振り手振りでその魔物の真似をするマリナ……少々、既視感を覚えるが、気のせいだと思おう。そうしないとマズイ気がする、色々と。


 ……当人が気にしてないなら、俺がわざわざ掘り返すような話題でも無いか。


「ここにいる気が……渡良瀬くーん?」


 蜂蜜まみれの黄色い熊や、独楽に乗って空を飛ぶ傘を持った魔物など、何だか危ない気配がする話を聞いていると、御堂がやってきた。


「うん? 誰だお前は? ここはウチの部屋だぞー!」


「え、あ、勝手に入ってごめんね? 渡良瀬くんがいる感じがして……」


「そうなのか? ならよし!」


 頭の悪い会話をすんなりとこなした御堂が俺の隣に座る。何だよ、俺がいる感じって。


「それでな、でっかいネズミの魔物がな……」


 あ、話がループした。


「……? それって、ミッキ……」


「御堂、ストップだ」


 言わせねぇよ。


 その後は朝食の時間までマリナに付き合ってやった。ハルも交えて精神的な疲れが半端じゃなかったが、それもいいかと思わされた。


 そう大きくない食堂で青肉のサンドイッチを食べている時に、隣でマリナの世話をしているゾフォンに一つ聞いてみた。


「なあ、どうしてマリナを城の外に出してるんだ? 危なくないのか?」


「マリナ様は父親似で、ずば抜けて魔法が得意で……」


 そう言って溜息を吐いたゾフォンに、俺は何となく事情を察してそれ以上聞くのをやめた。











『マスター、少しお話が』


 朝食を終えて自室に戻ったところ、そこにはなんとハルがいた。確かさっきまでマリナと一緒にいたはずだが……


『マリナ様については心配無用です。もう一人の私がついてますから』


 ああ、そうか。分裂してるってことね。


 オリハルコンのハイスペック具合の感心し、心を切り替える。ハルが珍しく真面目だからだ。


「何かあったのか?」


『いえ、その……』


 躊躇いがちに口をもごもごさせるハル。随分としおらしいが、どうしたんだ。


 待つこと数秒、ハルがようやく口を開いた。


『……マリナ様のことなんですが、昨夜、彼女は泣いていました。恐らく、父母のものであろう名前を呼びながら……』


 俯いて話すハルの言葉に、俺は少なくない衝撃を受けた。そして、それが当然のことであると再認識する。


『私はマスターの力を信じています。絶対に、改革派を潰してください』


 ……なるほど、ね。


 ハルの頭にポンと手を置いて、軽く撫でてやる。


「当たり前だ。元々そのつもりだったからな」


『……ありがとうございます、マスター』


 ……礼儀正しいハルって、何か落ち着かないな。


 ハルが俺に何かをお願いすることは滅多に無い。軽口や毒を吐くことは多いものの、基本的には自分の本心からの希望を口にはしないのだ。


 そんな彼女がこう言うのだ。それだけ、マリナのことが気に入ったのかもしれない。


 それに……寂しいという気持ちを知っているからこそ、彼女は行動したのかもな。千年近い孤独を耐えてきたハルだからこそ。


 俺も……


「そんじゃ、もう一回マリナと遊んでくるか。どうせやることなんて無いしな」


『マスターは小さい女の子と遊ぶのが大好きですもんね』


「誤解を招く言い方はやめてくれ」


 ……やっぱ、こっちの方がハルらしい。


『! ……マスター、流石にその顔でマリナ様に会うのはヤバイです。捕まりますよ』


 ちょっとくらい頬を緩めてもいいじゃないか……











 結局、作戦の前日だというのに何もしないまま一日が過ぎてしまった。強いて言えばゾフォンから作戦の概要を聞いた程度で、それ以上のことは何もしていない。そもそもの話、二日でできることなんて限られてるんだが。


 夕食で魔族の食事に更なるカルチャーショックを与えられて戻った自室。ベッドに座って向かい合うのは、言わずもがな御堂だ。


「明日だね」


「そうだな。問題無く終わるといいんだけど……」


 色んな懸念が残るところではあるが……それが障害となるかは、明日にならないと分からない。


「大丈夫だよ。私もいるし、渡良瀬くんもいるから」


「……それもそうか? まぁ、油断はできないがな」


 御堂の俺に対する信頼が重い気がするが、あながち間違いではないし、否定する理由は無い。


 控えめに言って、どちらか片方だけでも世界を征服できる力があるからな。魔王城一つくらい、どうということもないはずだ。


 明日の作戦のメインは魔王派の魔族たちだ。彼らが集団で魔法を使って改革派を一網打尽にし、俺と御堂はそのサポートをする。元は俺たちを含まない作戦だったわけだから、当然の配置だと言える。


 漠然としたものだが……ゾフォンが中心となって組んだ作戦だし、大きな穴は無いだろう。あいつはそれなりに頭が良いからな。


「っと、そうだ……」


 脇に置いといた荷物からステータスプレートを取り出し、血を滲ませた指を押し付ける。一応今のステータスを確認しておこうと思ったからだ。


 予想が正しければ、また上昇してるはず……


 もはや見慣れてしまった人外の数値が浮かび上がってくる。




 ーーーーーーーーーーーーーーーー


  名前 ワタラセ シンイチ


  種族 人

 

  年齢 18

 

  性別 男

 

  ステータス

  ・体力 1816550

  ・魔力 10

  ・筋力 ||.$>|^€|~+$€,+<€*]%]<{?+?+?!,

  ・耐久 250666000

  ・知能 34500

 

  スキル

  ・完全言語


 ーーーーーーーーーーーーーーーー




 予想通りというか、何というか。


 御堂が使った幻級魔法の「堕天」を食らったのが原因だろうな。なんとか対抗できたものの、あれはかなり辛かった。その辛さの分だけ耐久値が伸びているのだと考えられる。


 これまでに何とか力を制御する方法を身につけてきたが、以前の感覚でやると大変なことになりそうだな。明日に支障が出ないよう、イメージをしっかりしておかないと。


「うわぁ、凄いね……体力が百万……一晩中、いや、三日三晩……」


 御堂がブツブツと呟いているが、一体何のことやら。全く分からない。そう、俺には分からないよ。


「……改革派の集会は明日の深夜だったよな? 今日は早めに寝ておこうぜ」


「えっ!? あっ、そそそうだね! おやすみ渡良瀬くん!」


 顔を真っ赤にして慌て出した御堂が頭まで布団を被ってしまった。それを見て内心で呆れながら、俺も横になる。


「……ねぇ、渡良瀬くん」


 少しして、御堂がひょっこりと頭を出した。


「なんだ? 緊張して眠れないのか?」


「ち、違っ……いや、うん、そうなんだ! だからそっちのベッドに行ってもいい?」


 ほう、目をキラキラさせることが緊張するということなのか。冗談のつもりで言ったんだが、藪蛇だったようだ。


「ダメだ。そんで、何の用だ?」


「残念……まぁ、いいや。あのね、明日のことなんだけど……」


 シュンとした御堂だが、向こうも冗談のつもりだったのかすぐに本題に移った。


 メガネを外した御堂の瞳が、ジッと俺を見据える。


「……無茶は、しないでね」


 告げられたのは、いつかリリシアにも言われた願いだった。


「渡良瀬くんが強いのは知ってるけど、でも……」


「心配すんな」


 不安そうな御堂の言葉を遮る。


「言われなくても、無茶はしないって決めてるんだ。どこかの素直じゃないお姫様に怒られたからな」


 素直じゃない彼女の、素直な気持ちだ。よほどのことが無い限り、それを無碍にしたりはしないさ。


「……むぅ。リリシアちゃん、意外と……」


 あらら、御堂がむくれてしまった。自惚れでなければ、これは嫉妬なのかね?


「ま、そんな感じだから、心配は無用だぞ。それに、俺が怪我をすると思うか?」


「それはないね」


 即答かよ。


「それでも、私は……私たちは、渡良瀬くんのことが大切だから、心配せずにはいられないんだよ」


 ……想われてんね、俺。異世界に来てからというものの、相当な幸せもんだな。


「だから不安を紛らわせるために、一緒に寝て欲しいなぁ……」


 畜生、恨むぜヤヨイさん。ここまでは良い雰囲気だったのに。ほぼ確実にあの人の影響が出てると思われる。


「それはダメだ。もう寝ようぜ? あり得ないとは思うけど、万一にでも御堂に傷ついて欲しくないからな」


「! そ、そうなんだ? なら早く寝ようかな?」


 チラチラこっちを見てから目を閉じた御堂は、数秒後には眠りに落ちたのか、スースーと寝息を立て始めた。なんつー就寝速度だ。


「……おやすみ、御堂」


 綺麗に切り揃えられた黒髪を撫で、俺も瞼を閉じた。


 さあ、明日が勝負だ……




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