マリナ・スカーレット
ごゆっくりお読みください。
「マリナ様のご両親は、改革派に殺されてしまったから」
違っていて欲しかった。
しかし、過去に起きたことを変えることはできない。
改革派を潰す理由が一つ増えたと思うだけにしておこう。
「先代様は二人で一人の魔王だった。群を抜いた力を持つ夫と、魔族とは思えない知力を持つ妻。二人は夫婦として、歴代でも最高の魔王だったよ」
今までの魔王が少しアレだったのもあるけどね、とゾフォン。
「けど、当時の側近……今の改革派のトップに殺された」
ついこの間まで、先代様が掲げる「人間との共存」を誰よりも推していた側近に……
「妻を人質にとり、夫を殺し。打ちひしがれる妻も……最悪な奴だ」
握り締められた拳から紅い雫が落ちる。
「先代様が亡くなった後、改革派が生まれた。僕はなんとか魔王派を打ち立てて、先代様の娘……マリナ様を魔王に祭り上げた」
そうか……まだ幼い、その上平均的な魔族と変わらない知能のマリナが魔王なのは、そういう……
「マリナ様には申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。政争の道具にしてしまったんだから」
悔いるようなその声音は、しかし、すぐに強い決意を秘めたものへと変わる。
「でも、僕は先代様の意思を受け継がなきゃいけない。あの人たちには恩義があるからね」
……それがどういったものなのか、俺には分からない。だが、その目から感じられる思いは、本物なのだと理解できた。
「……なるほどな。ありがとよ、話し辛いことを話してくれて」
「別にいいよ。シンイチには前に助けてもらったし、これから協力する者同士、隠し事なんてしてられないさ」
「そうか。じゃあ、二つ目の質問に入っていいか?」
「うん、いいよ……」
実はもう答えを確信しているんだが、念のためだ。
「マリナは、改革派に命を狙われているのか?」
ゾフォンが小さく驚くが、納得した顔で頷いた。
「うん、その通りだよ。マリナ様は改革派から数回の襲撃を受けてる。そのどれもが失敗に終わっているけどね。何せ、マリナ様は父親似だから」
苦笑しながら言う。マリナは小柄な体格に反して相当な実力を持ち合わせているらしいな。
マリナが狙われているというのは、先ほどの質問からの推測と、酒場で彼女を見つけた時のゾフォンの言葉を合わせて考えたことだ。これも外れていて欲しかったんだがな……
「あ、今は襲われる心配は無いから大丈夫だよ。それに、多分だけど、シンイチも手を打ってくれてるよね?」
「バレてたか」
「そりゃあね。僕もその辺には気を配ってるし」
「……それもそうだな」
ちょっとゾフォンを見くびっていたみたいだ。第一印象はアレだったが、伊達に魔族の政治的トップやってないか。
現在、俺の右手にブレスレットは無い。代わりに、小指に虹色のリングを嵌めている。これは例の如く分離したハルの一部だ。
マリナをいたく気に入ったらしいハルを、条件付きで自由に行動させている。その条件というのが「マリナを守ること」だ。その意味を察したハルが、連絡用にこのリングを渡してきたのである。
実のところ、ハルはかなり強い。オリハルコンだから耐久が半端じゃないし、形を変幻自在に変えられるから全身が武器だ。攻守一体、とでも言えばいいのか。ハル曰く、彼女を本当の意味で倒せるのは俺と御堂ぐらいのものらしい。
そんなハルだからこそ、俺は最悪の事態を想定してマリナと一緒にいさせている。あいつは意外と律儀だし、気に入った奴を殺させはしないだろう。
「魔王派の区画には、常に護衛の者を巡回させてもいるから。改革派が足を踏み入れることも無いよ」
付け加えられた情報に、ゾフォンの周到さを感じた。警備は万全だってことだな。
「そんじゃ、次にいかせてもらうか。先代が次代を決めずに死んだ時……つまりはマリナのことだが、どうやって魔王を決めてるんだ?口ぶりからして、ゾフォンが決定したみたいだが」
「あー、そこはちょっと複雑なんだけど……簡単に言うと、僕が一瞬だけ魔王になって、即座にマリナ様に位を譲ったんだ」
ほほう。歴史の授業で聞いたことがあるような手段だな。
ゾフォンが位を退いた理由は、自身の行動を取りやすくするためだろうな。魔王……トップともなれば、その行動はどうしても目につきやすくなる。ぶっちゃけ摂政も似たようなもんだが……まぁ、無いよりはマシって感じなんだろう。
「よし……次が最後の質問だ。これは答えられないなら答えなくてもいい」
「? よく分かんないけど……うん。何でも聞いて」
ゾフォンの目が覚悟の色を宿した。言い方が悪かったのか、少し誤解をさせてしまったみたいだ。
「んーと、あんま気負わなくていいからな? じゃ……」
先の話の中から見つけ出した違和感。それは、前からずっとある、不自然さに似たものだった。
「……改革派のトップは、どうして急に自分の考えを変えたんだ?」
「え……?」
問いかけに、大きく目を見開いたゾフォン。
「あれ……? そういえば、何でだろう……考えたことも無かった……」
ブツブツと思考の渦に沈んでいったゾフォン。その様子に、俺はまた一つの確信を得ていた。
……これは、絶対におかしい。
何が、とは明言できない。けど、この「流れ」がどうにも不自然なのだ。
エレンの集落を襲った熊型の魔物。あいつはドラゴンには及ばないものの、そこいらのAランク魔物を餌にするだけの力はあっただろう。
これについては、突然変異とでも片づけられる。レインの知識にはいなかった魔物だが、彼女は千年近く前の人だから情報が間違っていても仕方ない。
ただ……やはり、俺はあいつが単に突然変異であるとは考えられないのだ。
また、ロード族の滅亡も同じだ。レインの話にあったが、絶対に失敗しないはずの魔法陣を失敗するという出来事が数回あったらしい。
そして……俺のステータス。一般人どころか、そもそも常軌を逸している勇者の中でも異端である、俺のステータスだ。
この世界に来てから感じた不自然。
どこか……そう、どこか作為的とも思えるような、不自然。
「……ごめん、分からないや」
それに気づかされたゾフォンだが、解答は浮かばなかったようだ。期待してはいなかったが、少し残念だ。
「謝ることはないぞ。そもそも、理由なんて無いのかもしれないしな」
「うん……」
「……今日は夜遅くに悪かったな。絶対に改革派をぶっ潰してやろうぜ」
「! そうだね。頑張ろう、シンイチ!」
表情を暗くしてしまったゾフォンに声をかけると、何とか持ち直したようだった。
さて、これで改革派を潰す理由が、また一つ増えたかな。今回の話で奴らに対する遠慮は一切いらないと分かった。
それでは、「化け物」の力をお見せしましょうかね。
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