先代魔王
ごゆっくりお読みください。
ハルが人間形態になってマリナやゾフォンとくだらない話を始め、やっと落ち着いたところ。こいつらは状況を理解しているのかと思ったが、敢えて言わないでおく。
俺の冷たい視線に気づいたのか、ゾフォンがわざとらしく咳払いして本題に戻る。
「コホン……えっと、改革派を潰す、ということだったよね? それなら、二日後がいいと思うんだ」
今までの会話の中で俺が魔王派につくことは確定した。ゾフォンとしても、改革派の力を削げるなら嬉しいのだろう。そこには別の意図もありそうだけどな。
で、その別の意図が絡んでくる場合、行動はできるだけ早く起こすべきなんだろうが……
「実を言うと、僕たちはまだ改革派のメンバーを把握し切ってるわけじゃないんだ。魔王派に属する者のことは分かるけど、その内の何人かは改革派に寝返っていてもおかしくないと思ってるし……」
「スパイがいるかも、ってこと?」
御堂の問いに、ゾフォンは重々しく頷く。
「というより、間違い無くいるんだよね。それが誰か判然としないのが問題で……」
……なんか、城の中と外では知力に差があり過ぎるな。何がどうなったらこんな状態になるんだ。
まぁ、そのおかげで改革派が魔王城にいると範囲を絞れるのは僥倖か。
「ハッキリと改革派を名乗っている奴らが大きく動きすぎて、裏で何をされているのか精査できないんだ。ほら、前みたいに転移させられたりしてね」
あ、気づいてた。リオスで会った時はもっとアホっぽかったんだが、非常時には本気を出せるタイプなのか。
「それで、今すぐ明らかな改革派を潰しても、残党が何をするか……ってことか」
「うん、そうなんだ……でもね、それを解決できるタイミングがあるんだ。丁度二日後にね」
裏切り者がいる可能性を気にせず、改革派を一挙に潰せる。そんな機会というと、つまり。
「シンイチは分かったみたいだね。二日後に、改革派たちの集会が開かれるらしいんだ。それも、どうやら大規模な」
「そうか……重要な集会なら、改革派たちが一堂に会するはず。そこを叩けばいいんだね!」
御堂も得心いったようだ。
それにしても、よくゾフォンはこの情報を掴めたな。スパイまで送り込んでる改革派にしては、管理が疎かな感じがする。
「僕たちは勢力が均衡してる。どちらかがもう一方に喧嘩を売っても、引き分けにしかならないんだ。だから油断して集会なんて開くんだろうけど……」
今は俺たちがいる、か。ゾフォンが俺や御堂の実力を正確に知っていることは無いと思うが、改革派を潰す、なんて豪語したことから相応の力があると踏んでくれたみたいだ。
「そういうわけで、動くなら二日後にして欲しいんだ。シンイチたちも、そっちの方がいいだろう?」
「だな。俺は魔王派の連中のことも知らないんだ。下手に攻めて味方を倒しちゃ意味が無い」
ぶっちゃけ、魔族って皆同じ顔に見えるんだよな。ほら、外人は皆似たり寄ったりに見える、みだいな。
そんな俺からすれば、改革派の集会は都合がいいことこの上無いのだ。
その後、ゾフォンから魔王城のことを簡単に説明された。集会が行われそうな場所や、魔王派と改革派の分布なんかを軽くだ。改革派が多くいるエリアには近づかない方がよさそうだな。
言っておくと、俺は城の外で時間を過ごす気はさらさら無い。アホ魔族たちに囲まれていたら自分までアホになりそうだ。
なので、これからは魔王派エリアの中心部にいることになる。つまりはゾフォンの執務室の近辺なのだが、ここら辺が最も改革派から遠く、人間である俺たちでも安全らしい。
そういや、マリナは随分と大人しかったな。さっきまであれほど騒いでたってのに。
ふと目を横に向けると。
「zzz……」
爆睡してた。よくよく見ると、ハルがベッド代わりになっている。明らかにフカフカしてそうなのだが、オリハルコンってそんな材質にもなるのか。
マリナのことは一旦置いといて、俺たちが泊まる部屋に案内してもらう。なんでも部屋が一つしかないとのこと。仕方ないので俺と御堂は相部屋になる。
「べ、ベッドは幾つあるの?」
「へ? ああ、そのことなら心配しなくていいよ。ちゃんと二つあるから」
「……そう」
途中の会話で御堂が酷く落ち込んだが、フォローのしようが無い。俺からすると安心だしな。
通された部屋は普通に豪華だった。ついこの前泊まった王都のホテルと同じくらいだろうか。流石にこういうところは魔王城なだけあるな。
「……ねぇ、渡良瀬くん。明後日まで、ナニするの?」
何、だよな?
「特にすることは無いだろうな。ゾフォンと話し合って、その時にどう動くべきかを決めるくらいだ」
それ以外にもやっておきたいことはあるが……それは、御堂がいない時にするとしよう。
「そっか。夕食まで時間があるって言ってたし、お話でもしてよう?」
「……そうだな。何か話題はあるのか?」
「うん! この前、ヤヨイさんに聞いたんだけどね……」
おおう、初っ端から飛ばしてきますね。
とんでもないものが出てくるかと思いきや、中身は何てことないちょっとした怪談だった。あの人のことだから変なことを教えたんじゃないかと疑ってしまった。
「どう? 私、これを聞いた時は思わず笑っちゃった。だって元の世界でも似たようなのがあったから……」
クスクスと笑う御堂。二人きりの空間で見せるその無防備な表情が、俺に気を許していることの証明になっている。
そう思うと……少し、嬉しくなるな。
胸中に温かい気持ちを抱きながら、俺はこの後のことを考えていた。
夜。
俺はゾフォンの執務室にやってきていた。どうしても聞きたいことがあったからだ。
因みに、御堂は部屋で熟睡している。勝手に俺のベッドに潜り込んできたりしたが、おかげで寝ていることを容易に確認できた。
「ふわぁ……んぅ、ごめんね。で、話って何かな?」
あくびを噛み殺したゾフォンが居住まいを正して促してくる。深夜に押しかけたのは悪かったか。
「大したことじゃない……こともないな。魔王について、マリナについて聞いておきたいことがあるんだ」
マリナの名前を聞いた瞬間、眠たげだったゾフォンの顔に緊張が走った。それだけでも俺の予想がそう外れてはいないと分かる。
「まず一つ目だが……なんでマリナが魔王なんだ? 人の上に立つにはまだ幼いだろ?」
これは初めて会った時から疑問だった。どうしてこんな少女が魔王なんだろうか、と。
この問いに、ゾフォンは沈痛な面持ちで語り出した。
「……魔王様、マリナ様は、先代の魔王様の娘なんだ」
俯きがちなゾフォンの表情は、どこか悲しそうだ。
「本当なら、先代様の意向に従って次代の魔王が決められるはずだったんだけどね……」
「それができなかった、ってことか?」
「うん。先代様は僕を次代魔王にしようとしてたみたいなんだ。荷が重すぎると思うけど」
くすり、と笑うゾフォン。
「……でも、そうはならなかった。何故なら……」
次のゾフォンの言葉は、俺の中にあった「悪い予想」と一致するものだった。
「先代様は……マリナ様のご両親は、改革派に殺されてしまったから」
シリアス成分の補充です。
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