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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第五章 始まらない戦争のくだらない終結
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魔族の攻撃

やっと、魔族を出せる……!


ごゆっくりお読みください。

 エレンが暮らす犬人族の集落が、改革派を名乗る魔族に襲われそうになった。


 魔族たちが何かをする前に駆けつけた俺が奴らを追っ払ったが……そのおかげで、決心できた。


 改革派はぶっ潰す。


 大切な人が傷つけられそうになったのだ、相応の覚悟があってやったのだと考えていいだろう、多分。俺はその覚悟の程を見せてもらうわけだ。


『マスター、顔がマズイことになってますよ』


 ハルが何か言っているが、いつもの軽口だろう。


 俺は今、レインの研究所前まで戻ってきている。エレンが落ち着いたのを見計らって、即座に行動に移すことにしたのだ。


 戦争前の余興。たったそれだけのことで、エレンに、そして彼女の家族に危害を加えようとした。敵対するには十分すぎる要素が出たと言える。


 もっと言えば、奴らがリリシアやユリアを襲う可能性だって否定はできないんだ。リリシアに関してはリヒトたちが頑張るだろうからまだ安心できるが、ユリアは婚約指輪の使い方をよく理解していないかもしれない。ただ魔力を流すだけのことなのだが、如何せんユリアだからな。


 カグラは……まぁ、大丈夫だろう。狐人族の里はそう簡単に攻められやしない。


 元々あった「戦争を未然に防ぐ」という目的も合わされば、改革派に先手を打つことを拒否する理由なんか無い。


 とりあえずは御堂と相談することにして、研究所に来ている。単身で突っ込むのも悪くないが、変に心配かけたくないからな。


 現代的な自動扉をくぐり、これまた現代的なエレベーターに乗ってレインの部屋に向かう。さっきは窓から飛び出したが、それについては謝らないとなぁ。


 大きな扉を開く。


「あ、戻ってきましたわねぇぇぇええええ!? あ、貴方、誰ですの! 私にそんな悪人面の知り合いなんていませんわよ!」


「! ……な、なんだろ。ちょっとドキッとしちゃった……」


 ……先にハルに謝っておこうかな。











「私はついて行くよ」


 レインの提案を受けてその通りに行動することを告げると、御堂は間髪入れずにそう答えた。予想してはいたが、本当に迷いの無い即決具合だ。


「億に一つも無いと思うけど、渡良瀬くんが危なくなった時には役に立てるかもしれないし。何より、私は渡良瀬くんの近くにいたいから」


 ……そ、そうか。真っ直ぐ見つめられながら言われると、かなり恥ずかしいな。レインの視線が突き刺さっているのも原因の一端だが。


「それじゃ、早速行くか。ノーグラスまでは俺が跳んで行くことになるけど、それで大丈夫か?」


 御堂は高所恐怖症らしいからな。一応の確認だ。


「問題無いよ。けど、一ついいかな?」


「? なんだ?」


「えっと、その……私はどうやって運ばれちゃうのかな、って……」


 妙なことを気にするな。まぁ、そこは御堂の好きにすればいいと思うが。後、言い方が語弊を招きそうだ。


「特に考えてないぞ。御堂が良いと思う方法で行くけど」


「本当!? な、なら……!」


 興奮気味の御堂が詰め寄ってきて、耳元で要望を伝えてくる。それを聞いて、最近できてきた御堂のイメージが間違っていないことを再確認できた気がした。


「……いいよ。何も難しいことじゃないしな。例の如く、身体強化はかけておいてくれよ?」


「うん!」


 元気に頷く。元の世界では考えられないくらい顔を綻ばせているが、そんなに嬉しかったのか。


「じゃあ、またなレイン」


 研究所の外に出て、見送りのレインを振り返る。彼女は青い縦ロールをかき上げて小さく笑った。


「ええ、またですわ。今度は『エレンさん』とやらも連れてきてください。面白そうな匂いがしますわ!」


 絶対に連れてこないことを誓う。


「よし、行くか。ほら、御堂」


「よ、よろしくお願いします……」


 何を畏る必要があるのか。


 おずおずと近寄ってきた御堂の背に片方の手を回し、もう片方で膝の裏辺りを持ち上げていく。当然、できあがるのは……


「は、はわぁ……お姫様抱っこ……!」


 ……というわけだ。


 頬を朱に染めた御堂が小さく震えるのを見て内心で溜息をつきながら、ノーグラス大陸のある方に駆け出す。


 およそ三分くらいでムサ大陸の端に辿り着き、力を調節して大地を蹴る。


 推進力をできるだけ水平方向に持ってきたので、ほぼ真っ直ぐに進んでいる。眼下では綺麗な海が恐ろしい速さで過ぎ去っていく。


 十秒かそこらで草木の一本も生えていない土地に降り立った。そのまま止まることなく走り続ける。


「たしか、魔王城はあっちだったはず……」


 前にゾフォンを送り届けた時の記憶を辿り、行くべき方向に見当をつける。


 二分程経ったところで、大きな城を見つけた。あそこが魔王城だな。


 最後の一蹴りで一気に城までの距離を詰め、城壁の前で停止する。改めて思うが、俺の身体はとんでもないみたいだ。


「御堂、着いたぞ」


「えっ、もう?」


 残念そうに言うんじゃない。


 しかし、彼女の気持ちを知っているだけにそんなことも言えず、名残惜しそうな御堂を下ろすだけにした。


「……ここが魔族の国、ね」


 不満げな御堂を他所に、立派な造りの城壁を見上げる。高さは五メートル前後といったところか。見た感じだと随分頑丈そうだ。


 ただし、そこまで広い範囲を囲っているわけではなさそうだ。国というよりも都。魔族の人口はすくないというし、これで事足りるのかもしれないな。


 一先ず、中に入る場所を探すことにする。


 しばらく城壁に沿って歩くと、それらしきものが見つかった。門番と思わしき魔族が数人、ボーっと突っ立っている。


 ……いや、見た通りのことを言ったんだ。あいつらは間違いなく突っ立ってる。見張ってるとは思えない。


 怪訝に思うが、一応警戒して近づく。まずは穏便に話しかけて、中に入れるかを聞いてみよう。駄目だったら城壁を飛び越えればいいし、ゾフォンの名前を出してもいいだろう。


「なあ、ちょっといいか?」


 御堂には少し離れてもらって、虚空を眺めていた門番の一人に声をかける。


 眠そうにしていたそいつは、俺に気がついた瞬間にハッとして……


「人間じゃん! 何してんのこんなとこで? 散歩?」


 ……酷くフレンドリーにそんなことを宣った。


「えー、人間? めっちゃ珍しいやん」

「うわっ、イケメンだ!」

「後ろの娘は彼女さん? ノーグラスでデートとかないわー」


 門番をしていた魔族たちがぞろぞろと集まってきて、口々に思ったことを述べていく。因みに、彼女と呼ばれた御堂はサッと俺の隣に現れて腕を組み始めた。何のアピールだ。


「……あー、一旦落ち着いて欲しいんだが……」


「そうだねー。立ち話もなんだし、寄ってきなよ。外は魔物がいて危ないしね」


 いや、話を聞けよ。それとも聞いた結果がその反応だったのか?


 ともかく、期せずして城壁の中に入ることができた。門番としては何の役にも立っていないが、こいつらはこれで大丈夫なのか?


 門番たちが使っているのだろう、詰所のような場所に通される。


「んー! 今日も仕事頑張った! それじゃ、早速……」


「ちょっと待て」


 門番全員が入ってきて、全員が急に寛ぎ出した。しかもその内の一人は戸棚から酒瓶のようなものを取り出している。これは流石に突っ込まずにはいられない。


「? あ、君の分もあるよ。てゆーか、折角だし皆でパーティーしない?」

「おっ、いいなそれ! 新婚旅行に来た夫婦を、俺たちで盛大におもてなしてやろうぜ!」

「ならさ、魔王様も呼んだ方がいいんじゃね? あの人、そういうの大好きだし」


 ……くそ、話についていけない!


 ツッコミどころが多すぎて処理しきれない俺は、夫婦と言われて身悶えている御堂とともに魔族の国、その街中へと連れ出された。


 もう何を言えばいいのかも分からないので流れに身を任せることにして、とりあえず街の様子を確認してみた。


 今は夕方に差し掛かった時間帯で、道行く魔族も多い。殆ど全員が俺たちを見ては何か声をかけ、後で行くと言い残しては足早に去っていった。


 ……これは何かの罠なのか? いっそのことそう思えてくるぐらいだ。俺たちの気力を削ぐ作戦なのではないか?


 一周回ってしまった思考だったが、直後に粉々になった。というか、粉々にされた。


「むむむ! どうして人間がいるの!? ウチの知らない間に何があった!」


「あ、魔王様! 丁度よかった、これから、こいつらの披露宴をやろうって話だったんですよ!」


「そうなの? ならウチがいなきゃ始まらないでしょ! 祝辞はお任せ!」


 真っ赤な髪を後ろで一つに括った魔族の少女が、テンション高く無い胸を張る。


 ……もう、どうしたらいいんだ……


 魔族からの精神攻撃は、人外の身体能力をもってしても防げるものではなかった……




人外をノックアウトできるのは奴らしかいません。


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