幕間 『変態』と書いて『乙女』と読む。いや、読め。
本日三話目。
御堂視点です。今回はR15タグが火を噴く内容となっておりますので、苦手な方は読まなくともそこまで問題はありません。
紳士淑女の心構えを忘れずにお読みください。
好きな人がいる。
いや、愛する人がいる。
彼の名前は渡良瀬 晋一。
私、御堂 栞の心を掴んで離さないのは、渡良瀬 晋一をおいて他にいない。
彼は少し変わっている。
一番変わっているのは、そのずば抜けた「頭脳」だ。
高校に入ってすぐから彼に目を奪われていた私は彼の試験の成績を余すことなく知っているが、満点以外の点数を見たことは無い。
二年間で、一度も無いのだ。
ちょっとした小テストですら、一点も落とさなかった。
はっきり言って、人間では無いと思った。その異常性がまた魅力的だったわけだが。
その上スポーツも万能とくれば、神は彼に二物を与えてしまっているのは疑いようも無い。
次に挙げるならば、動くことの無い「鉄面皮」だろう。
それは、面の皮が厚い、という意味では無く、まるで顔が鉄でできているかのように表情の変化が無いということだ。折角の美形(主観)もあれでは形無しである。
とはいえ、全く無いわけでは無い。
二年生の時に一度、出来心から彼に色仕掛けをしたことがある。結論から言うと失敗したわけだが、得られるものもあった。
いや、あれは色仕掛けと言えるのだろうか? ただ欲望が爆発しただけかもしれない。
とりあえず、廊下ですれ違いざまに転んだフリをして思いっきり抱きついて、日本人にしては少し大きめの双丘をこれでもかと彼に押し付けたのだ。それはもう、擦り付けるが如く、思いっきりだ。
言い換えよう。あれはただ発情していただけだ。色仕掛けとか関係ない。
季節は夏。誰しもが薄着で歩き、何もせずとも薄っすらと汗をかくその季節は、燃え上がる様なエロスの季節だと言っても過言ではない。
そう、薄着で汗ばんでいる。
これなら彼も興奮間違い無しだと確信して犯行に及んだ。事実、私は彼の引き締まった身体と鼻腔をくすぐる汗の香りに興奮全開だった。
しかし、彼は全く動じなかった。彼の股の間に挿し込んだ私の太ももには硬い感触など微塵も無い。顔を見ても、いつも通りの冷ややかな鉄面皮。
一気に賢者モードだ。
本当に申し訳なくなって謝りながら離れると、「気をつけて歩けよ」と言って彼は微笑んだのだ。
もう一度言う、微笑んだのだ。
あの鉄の表情筋を歪めて。
まぁ、隣を歩いていた友人は彼のその顔を「極悪人のよう」と言っていたけど、確かにお世辞にも笑顔とは言い難かったけど、彼が微笑んでくれたのは分かる。渡良瀬マイスター一級の私が言うのだから間違い無い。
ともかく、私は虚しさとともに彼の貴重な一瞬を垣間見たのだった。
そんなある日、信じられないことが起きた。
異世界とやらに召喚されてしまったのだ。彼と二人で。
三年の秋。模試の成績の返却が終わった放課後。
化け物じみた頭脳と鉄面皮のせいで友達がいない彼は、すぐに帰ろうとしていた。
私はそんな彼とお話しするために彼を呼び止め、模試の成績を話のネタに声をかけた。
調子はどうだったかと聞くと、いつも通りだと言って踵を返す。
…………あぁ、その冷たささえ感じる応対も良い。
うっとりしていると、彼は急に振り返って私を見つめた。というよりも、睨みつけたという感じだった。
もしかして、勘付かれたのだろうか? それならそれで想いを伝えられるから手っ取り早くていい。
一応、どうかしたのかと聞いたが、彼は何でもないと言って教室の扉を開こうとした。
次の瞬間、私は全く知らない所に立っていた。周りにはローブを着た人たちが何人も倒れ伏していた。
そんなことよりも、目の前で倒れている彼が気がかりだった。
しゃがみこんで彼の体を揺するも反応は無い。息はあるから死んではいないようだが、このまま目覚めない可能性もある。
そうなってしまったらどうしようか? 私が好きなのは彼の体だけではなく、彼という存在自体なのだ。できれば、お話ししたいし、手を握って欲しいし、キスして欲しいし、それから、あんなことやこんなこともして欲しいし…………
ごちゃごちゃと考えていると、彼はゆっくりと瞼を開いた。
よかった、目が覚めた…………
安堵していると、退いてくれ、と言われた。気がつけばとても顔が近かった。これは少し恥ずかしい。後少しで唇が重なる程だった。
まぁ、胸を押し付けといて何を今更と思うかもしれないが、それとこれとは話が違う。スキンシップとキスとでは天と地ほどの差がある。
すると、目の前に立っていた少女が何やら言った。ほとんど聞いていなかったためなんのことやらさっぱりだが、何処かに移動するらしい。
移動中、私は怖がるフリをして彼にずっと引っ付いていた。柔らかく彼の腕を挟もうと四苦八苦。あの夏の再来である。
結局目的叶わずに目的地に着いてしまった。皮肉なことだ。
しかし、その皮肉は美味しく調理されて私の胃袋の中だ。部屋に入って豪華な玉座の前で彼が立ち止まったその時、私は少しタイミングが遅れて止まり損ねてしまった。そのせいと言うかおかげと言うか、彼の腕が私のバストにジャストフィットしたのだ!
王だとか言う渋いおじ様が座っている。
そんなことどうでもいい。
私はさっきから嗅いでいた彼の匂いと念願叶った嬉しさとでキテしまっていたのだ。
思わず震えてしまう私を余所に彼は王と話し始めた。ほ、放置プレイ……!? なんて素晴らしい!
トリップしている間に話が終わったのか、またしても何も分からないまま騎士っぽい男の人に変な部屋に連れられた。甲冑を着た彼を見てみたい。
その騎士男は、「魔力量」を測るとか言っていた。促されるままに台座の手形に手を合わせると、目の前の板に『875000』という数字が表れた。どうやら凄い値らしい。彼の表情が少し動いたのだからそうなのだろう。
次は彼の番。私であれなのだから彼はもっと凄いのだろう。
そう思って見た彼の魔力量は、たったの『10』。逆の意味で凄かった。
それから慌てた騎士男に連れられて王の所に行く。測定結果を聞いて唸っていた王だが、そこに見知らぬ少女が飛び込んで来たかと思えば、彼に対して「死ね」と言い出すではないか。
ちょっと怒りが込み上げたが、一先ずどういうことか説明を聞いて、落ち着こうとした。したのだが、どうにも彼女の怒りは理不尽な怒りであるということが分かってしまったため、文句を言わずにはいられなかった。
こちらの正当な言い分を聞いてもまだあの女は騒いでいる。愛欲に塗れた雌豚が、彼を殺せと鳴き喚いている。
流石に、我慢の限界だった。
体から何かが勢いよく溢れ出す。これが騎士男の言っていた魔力なのだろう。周囲の人間が青褪めている。
そんな中でも涼しい顔の彼は本当に素敵だと思う。体の奥底に渦巻く熱いリビドーが噴き出してしまう程に。
どうしようもない切ない気持ちを感じている内に、騎士男と王が何かの相談をしていたのか、私の顔色を窺うように、それで良いか、と聞いてきた。
何の話か知らないが適当に、それなら、と答えておいた。こちらに来てからどうも暴走気味だ。彼に嫌われては堪らない。落ち着かねば……
スッ、と魔力が引っ込む。周りから安堵の溜息が聞こえた。
その後、様々な人に書類を持ち寄られては許可を求められたので、テキパキとOKを下していった。なんだったのだろう。
その後、渡良瀬くんは奴隷になったと聞かされた私が、思わず魔力で王城を覆ってしまったのは仕方のないことだと思う。
最後の魔力噴出は、「晋一を奴隷にされた怒り」から来るのか、「奴隷になった晋一を『解放』して所有者になれば、フフフ……」という欲望から来るのか………
御堂視点でした。メガネな彼女は超弩級の乙女だったということで。
因みに言うと、彼女が晋一に惚れた理由は、所謂一つのひ・と・め・ぼ・れ♪ というヤツです。運命の赤い糸を幻視しています。
あと、晋一の顔面偏差値は上の下か中くらいで、普通に良い顔してます。無表情なのが減点ですが。御堂のスキンシップについては、晋一はほとんど気にしてません。何も無い所で躓くとか変な奴だな、とか、何だこの状況は……とか思ってます。
誤字・脱字などがありましたら、適当にご指摘ください。