改革派の失敗
第五章です!
この章がラストになると思うので、気合を入れていきたいと思います!
では、ごゆっくりお読みください。
「ウチが魔族の王、すなわち魔王! 腰が高ーい!」
「それを言うなら頭ですって」
「あれ? 頭? 頭が高いところにあるのは普通じゃない?」
「だからこそ、偉い人の前では……」
「あー、あんまり難しいことは言うなー! ウチの頭が高い高ーいしてしまうー!!」
『既に頭が天国に逝ってますね』
「あ、それ上手い!」
どこも上手くねぇよ。
虹色の少女が無機質な声で毒を吐くのに合わせ、浅黒い肌の人ならざる男が手を打つ。二人に挟まれた位置で眉に皺寄せて不可解そうに唸っているのは、先の少女よりも少し背丈の大きな、真っ赤な髪を持つ少女。
赤髪の少女と人外の男には、共通点がある。
それは、頭部にある角と、背中から生えた蝙蝠のような翼だった。
これが、彼女たちが人外たる理由。
赤の少女が自らを「魔王」と称した通り、彼女たちは魔族である。
燃えるような赤髪をポニーテールにした魔王は、腕を組んで唸り続けていた。
「頭が天国って、どういうこと? 頭は頭じゃん! 変なこと言うのは禁止! これ、魔王命令ね!」
『私は魔族ではないので無効です』
「……なるほど。魔王命令は魔族にしか強制力が無いという点を突いた、スマートな躱し方!」
「え? 魔王命令は魔王命令だよ! 全員に効果あり!」
……くだらない。なんつーか、どこまでいってもくだらない。
三人? が奇妙なやり取りをしているのを、御堂とともに何とも言えない表情で眺める。
一体全体、何がどうなっているのか?
それは、つい先日のこと……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「貴方たちが魔族の国に乗り込んで、改革派を潰してしまえばいいんですのよ」
レインが発した衝撃的な提案。
隣で話を聞いていたメガネ少女の御堂は、想像だにしない戦争の解決方法に口を閉じることを忘れてしまったようだ。
「そもそもの話、貴方たちは揃って化け物みたいなもんですわ。本当に単独で幻級魔法を行使したり、それを生身で耐え切ったり。理不尽ここに極まれり、ですわね」
結構失礼なことを言われているが、それも気にならないくらいのショックがあった。
人間は魔族の進攻を待つしかない。
この前提が大きな間違いだったのだ。
人間は空を飛ぶことができない。故に、陸続きでないノーグラス大陸へと向かうには船での移動を余儀無くされる。転移魔法は消費魔力量が馬鹿にならないから、それを使う作戦は全てアウトだしな。
何にせよ、船ということは海上ということであり、つまりは逃げ場が無いということだ。
そんな状態で魔族に襲われたらどうするか?
魔族は自前の翼で空を飛べる。人間とは機動力が大違いだ。それを考慮に入れた時、海上戦は人間にとって圧倒的に不利。
空を自在に動き回る魔族と、どうしても移動に制限がかかる船。的としての大きさもハンデでしかない。魔法で沈められてしまうのが関の山だ。
加えて、海に棲む魔物の危険性もある。クラーケンなんかが来た日には、魔族の迎撃を待たずして全隻沈没もあり得る。
要するに、人間が魔族を攻めるのにはリスクがありすぎるのだ。
そう、「人間」が攻めるのには。
なら、人間じゃなければいい。人間を超えた力を持つ存在が攻めれば、それでいいのだと。
その存在というのが、俺と御堂のこと。
ステータスが完全にぶっ壊れた俺と異常とも言える魔力を誇る御堂。この世界でもトップクラスの実力があるだろう俺たちなら、先手を打つことが可能だ。
しかも魔族全体を相手にするわけじゃない。改革派だけを叩けばいいのだから、負担も減るだろう。
こう考えた時、レインの出した案は素晴らしいものだと思えた。
ただ……
「わざわざそこまでする必要があるか?」
と思いもする。
王国が魔族と戦争するなら、勝手にして欲しいものだと思う気持ちはある。流石に滅びるようなことは阻止させてもらうが、基本的には不干渉を貫かせてもらいたい。
俺としては、嫁たちに迷惑がかからなければいいのだから。
今まで気づけなかった発想に驚きはしたものの、それを受け入れるかどうかは別の話だ。
……と、考えてはみるのだが。
「そっか、先にやっちゃえば……」
隣で思案中の御堂を見て、どうすべきか悩まされる。
俺は勇者ではない。召喚されはしたが、一度は捨てられた身だ。仇を恩で返す理由など一つも無い。
しかし、だ。御堂は勇者であり、王国とともに戦うことになる。まぁ、これだけの力を持つ御堂ならば何の問題も無いだろうが、少し心配なところがある。
下手をしたら死ぬこともあり得る。
御堂にも傷ついて欲しくはない。それを踏まえると、魔族の改革派を潰す、というのは悪くない。もちろん、向こうに危険が無いという保証はないけれど……
兎にも角にも、後一押しが足りない。何なら戦争が起きる直前にバロックたちとお散歩するという手もあるのだ。偶然に戦地を通りかかったとして、それだけでも十分な効果を期待できる。
なんせ、あいつらはこの世界で最強だった存在なのだから。
『……!』
と、ここまで何も言わずにいたハルがブルブルと震えた。
『マスター、エレンさんから緊急信号です!』
その言葉を聞いた瞬間に、俺はその場から消えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ドグシャッ!!
気持ちの悪い音を立てて一体の魔族が吹き飛んでいった。恐らく死んではいないだろうが、どうなったかは分からない。
「な、何だ!? 何が起きた!」
急に仲間がいなくなったことに困惑する魔族に音も無く接近し、軽く拳を振るう。
ゴッ……!
それだけで、その魔族は空の彼方へと飛んでいった。
残る魔族は三体。そいつらに優しく、とても穏やかな気持ちで、微笑みかける。
「ひ、ヒィィィッ! 悪魔だ! て、撤退しろぉッ!」
すると、何故かは知らないが三体とも怯えに怯えて逃げ去っていった。方角的にノーグラスへと引き返したのだろう。
「……なんだって、この集落はこうも襲われるのかね」
厄介なものだと思うよ。
溜息を吐いて肩を竦めると、前から何かが駆けてきて、勢いよく飛びついてきた。
「シンイチさん! 来てくれたんですね!」
茶色の尻尾をフリフリしながら胸に顔を埋めるエレンの頭を撫でてやる。
「間に合ったみたいで良かった。怪我は無いか?」
「はいっ! 何かされる前に呼びましたから!」
ギューっとしがみついてくるエレンに内心で苦笑しつつ、ほっと安堵の息を漏らす。今回は何事も無くて済んだんだな。
さて、何があったのか疑問に思う人もいるだろう。突然のことだからそれも仕方ない。
以前、俺はエレンたちにプレゼントを贈った。そのプレゼントというのは、所謂「婚約指輪」というものだ。
今もエレンの左手薬指には虹色に輝くリングが嵌められている。
気づいただろうか? そのリング、実はハルが元になっているのだ。ハルの身体の一部を分離して指輪にし、それを着けてもらっている。この世に五つしかない貴重品だ。
だが、この指輪、ただの指輪ではない。もちろんオリハルコン製だから耐久性に優れているのだが、それとは別に「通信機能」が付いている。言っても、救難信号のようなものではあるが。
今回はそれが役に立った、ということだ。
「で、あいつらは何をしに来たんだ?」
「えっと、『戦争前の余興だ!』みたいなことを言ってました。それで魔法を使おうとしてるのを見て、咄嗟に……」
なるほどね……改革派の魔族だったわけか。そうだろうとは思ったけどさ。
「ありがとうございます、シンイチさん。助けにきてくれて、嬉しかったです!」
俺の背に回した腕の力を強めるエレン。周りを見れば、物陰からこちらの様子を窺う三人の犬人族が。ローラさんたちも無事なようで何よりだ。
エレンの頭を撫でてやりながら、俺は魔族たちが去っていった方を見つめる。
レインの提案は、こうだった。
改革派を潰す。
そうだな。俺はそれにこう答えよう。
「改革派の連中は、一人残らずぶちのめす……!」
魔族は人外の怒りを買った。
改革派の運命や如何に……
というわけで第五章です。遂に魔族側のキャラを出す日が来ました。中々に個性があると思います。
それでは読者の皆様、できれば最後までお付き合いください!
誤字・脱字の指摘、感想、評価などをお待ちしております。




