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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第四章 頑張る人外さん
74/93

幻級魔法

やっと編集しました。


ごゆっくりお読みください。

「こほんっ! 失礼しましたわ。少々興奮してしまって……私の名前はレイン・ガイスト。この研究所の所長であり、今は亡きロード族の研究総括を務めていた者ですわ。よろしくお願いしますわね?」


「こ、こちらこそ……」


 居住まいを正して優雅に振る舞うレインに、御堂は戸惑いつつも相応の返事をした。さっきの暴走が「少々」で済むとは、いい世の中になったものだ。レインの隣でNo.3が深々と頭を下げているのを見るに、そんな世にはなってないらしいが。


 一通りの自己紹介を終えたところで、レインが話題を提供する。


「シオリ様。もしよろしければ、ちょっとした実験にお付き合い頂きたいのですけれど……」


「実験?」


「ええ、魔法に関するちょっとした実験ですわ。とある魔法を使ってみて欲しいんですの」


「? それくらいなら……」


「本当ですのぉっ!? そそ、それではすぐ参りましょうっ!!」


「ひっ……!」


 とても落ち着いた様子で申し出たレインに油断したのか、御堂が安請け合いしてしまった。それでまたしてもレインが暴走し始めたので、御堂が怯えてしまっている。


「レイン、頭を冷やせ」


「嫌ですわ! 研究とは、熱いうちにやるものなんですのよぉぉぉお!!」


 ダメだこれ。


 仕方がないので、実の母親に惜しみなく侮蔑の視線を向ける虹色の少女を呼び寄せる。


「ハル、この研究者様に、一億越えの筋力値を味わってもらおうぜ」


「いいですね。私も丁度そう考えていました。片手でドラゴンの魔法を消し去るマスターの実力、実験ついでに見せてあげましょう」


「申し訳ありませんでしたわっ!」


 ハルの頭を撫でてやりながらそう言うと、レインが空中で華麗な土下座をかました。純日本式の土下座である。体が魔力だからできる芸当だな。


 軽いジョークで冷静さを取り戻したレインだが、ハルの許しを得て顔を上げ、次の瞬間にこう言った。


「あ、でも実験には付き合って頂きますわよ? 言質はとりましたので」


 随分とまぁ、強かなもんだと思うよ。


 No.3も心なしか冷たい視線を送っていたが、気づいた様子もなくレインが御堂を先導するので、俺たちもついていく。


 レインに従って研究所の外に出ると、音も無くビルが沈んでいった。これを見たとき同様、御堂の目が点になってる。


「どういうことなの……」


「シオリ様? こちらの魔法を使ってみて欲しいんですの」


「えっ、あっ、はい。えーと……?」


 レインが渡した紙のようなものを覗き込んだ御堂が、小さくその眉を顰めた。


 道中の説明だと、失われた魔法を復活させることを目標として創ったはいいが、その必要魔力量によって誰にも扱いきれなかった「失敗作」らしい。


 集団で使えばいいのでは? という突っ込みは、


『この魔法は、理論上、複数人の魔力を混合させて発動させることはできませんわ』


 という感じで斬り伏せられた。理論とか言われたら何も言えないぞ。俺は魔法が使えませんからねー。


「こ、これって、もしかして……」


 魔法に関する何かが書かれた紙を見て、御堂が呟いた。その顔には驚きが見てとれる。どうしたんだ?


「気づきましたの? 流石ですわね。それはあの『幻級魔法』のレプリカとして創ったものですわ。私が生きていた時代には既に御伽噺となっていましたので、再現できたかの保証はありませんが……」


 ……やべぇ、何の話かサッパリだ。幻級魔法ってなんだ? 聞いた感じだと、失伝してるっぽいが。


 二人が何やら真剣に話し合いを始めてしまった。それを傍観するだけの俺。


 んー、なんでここにいるんだろうか? 俺はハルを迎えに来たつもりだったんだが……それもハルの意思によるけどさ。


 兎にも角にも、俺がここにいる理由ってなんなんだろう……? どうせ魔法なんて使えないんだし、別に帰ってもいいかなぁ……? この後の用事も無いしー。


 心がやさぐれていくのを感じている内に、どうやら実験の準備が整ったようだ。御堂が険しい顔つきでこちらを見つめている。


「見ててね、渡良瀬くん。私、絶対に成功させるから」


「……おう、頑張れよ」


 どういった経緯があってそんなにシリアスな雰囲気に至ったのか、皆目見当もつかない。それでも一応、応援はしてあげることにする。


「それじゃ、お願いしますわ」


「はい……『堕天(フォール)』」


 目を閉じた御堂が唱えたのは、たったそれだけの言葉だった。


 御堂が天高く両手を突き上げると、そこから魔力らしきものが迸り、天空へと伸びていった。奔流は止まることなく、一分程が経過したところでやっと収まった。


「っ、ぷはぁっ……!」


 御堂がその場に膝をつき、肩で息をしている。恐らくは相当に消耗したのだろう。


「大丈夫か……」


 ただ魔力が天に消えただけで何も起こらない。


 実験が失敗したのかと思って御堂の側に寄ろうとした時、異変が起きた。


 突如、ゆっくりと(・・・・・)光が降り注いできたのだ。そう、視認できるくらいに、ゆっくりと(・・・・・)


 奇妙な現象は、御堂の前方で起きている。俺はギリギリ光の範囲内にいるようだ。


 あまりにも不可思議な光景に呆然としていると、その光が俺の身体に触れた。


 瞬間。


「……っ!? なん、だっ、これ……!!」


 何かとてつもなく重いものに押し潰されるような感覚を覚えた。


 耐久値・筋力値が一億を超えた俺でさえ、圧倒的な重量を感じる。


 足を踏ん張って耐える。見えない何か……いや、この光に対し、俺は堪えることに意識を向けねばならなかった。


 とはいえ、ある程度の余裕はあった。少なくとも、周囲の様子を疎らに確認するくらいには。


 そこで、またしても奇怪な現象を目撃した。


 御堂の前方一メートル程から視界に入る全ての地面が、均等に陥没していったのだ。俺が立つ場所も含めて。


 抵抗を続けること、体感で数分。やっと光が消え去り、圧迫感から解放された。


「はあっ! はぁ、はぁ……これは、ヤバイ、な……」


 息が切れる。この世界に来てからこんなに疲れたのは、ヤヨイさんとの座談会以来だ。


『マスター、無事……ですよねー。分かってました』


 周りから一メートル以上低くなった地面に寝転がる俺の腹の上に、ハルが飛び乗ってきてそんなことを言う。心配してはいたのか?


「す、凄いですわね……」


 顔は見えないが、嬉しそうな声音が聞こえてきたことで、実験が成功したのだと理解した。なるほど、これが幻級魔法だったわけか。


 首だけを回してみると、一方には土の壁が続き、もう一方には一切の障害物の無い更地が広がっていた。


 耐久値一億に負荷を感じさせる程の威力を秘めた魔法、か。


 感心を覚えながら立ち上がり、段差を超えて御堂の元に近寄る。未だにへたり込んでいる御堂が、涙目になって俺を見上げた。先の展開が読めたので、機先を制することとする。


「別に気にしなくていいぞ。俺は無傷だし、不調は無い。避けようとしなかった俺に非があるしな」


 だから気にすんな、と御堂の頭を撫でてやる。万能の技を使ったことで御堂は泣かなかった。代わりに、頬がゆるゆるになった。さっきまで魔法を当てた罪悪感に苛まれてたっぽいが……切り替えが早いんだな。いいことだよ、うん。


「でへへ、なでなで……」


 おおう、なんか淑女がしていい顔じゃなくなってきた。怖いのでそっと手を引っ込めると、めちゃくちゃしょんぼりした。


 ともあれ機嫌は直ったようなので、安心安心。


「本当に大陸全土に影響を及ぼしますわね……素晴らしいですわっ!」


 大興奮である。御伽噺の中の存在を自らの手で復活させたんだから、そりゃ嬉しくもなるか。


 青い研究者はしばらく放置するとして、先ずはこっちの心配をしてやらないとな。


「御堂、そっちは大丈夫なのか? 結構疲れてるみたいだが」


「うん……この魔法、とんでもなく大量の魔力を使うみたい。でも、まだ魔力は残ってるから大丈夫だよ」


 頷いて分析する。一億に匹敵する威力をもつ馬鹿げた魔法だ。魔力量九十万という御堂であっても、辛いところがあるのだろう。過去の勇者たちでは実験ができなかったようだから、数字で言うと六、七十万は魔力を消費しそうだな。


 狂喜して文字通り宙を舞うレインに内心で苦笑しつつ、御堂の隣に座る。俺の方にもそれなりのダメージがあるみたいで、回復に時間がかかっている。


 超回復が済むまで待っていようと、御堂と他愛ない会話をする。時折アプローチが混じっているような気がするのは、ヤヨイさんの講義の影響だと思われる。


『オイオイオイオイオィィイッ!! なんだよコレはよォッ!?』


『すごーい! 地形が変わってるー!』


『うわ〜、壮観だね〜』


『クフフフフ、面白そうな匂いがしますよ……』


『ぬぅ、これはまた、なんとも……』


『一体何があったら……?』


 ダメージが抜け切ってきた頃、不意に上空から聞いたことのある声が聞こえてきた。感じたことのある暴力的な存在感と共に。


『うぉぉぉぉぉぉおおおお!! シンイチーーーーーーーーー!!」


 これは久しぶりの面子だな、と思って顔を上げると、紫色が高速で降下してきた。雄叫びを上げる紫は、途中で安い煙のエフェクトを残して全裸の麗人となり、そのまま俺目がけて降ってくる。


「うおっ、と……」


 咄嗟に立ち上がって優しく抱きとめると、落下のそれと劣らない勢いで詰め寄ってきた。


「なんなのだシンイチ!? これはなんなのだ! 急にキラキラっとしたら、ズゴゴゴゴ、ってなったぞ! ど、どういうことなのだ! シンイチがやったのか!?」


 お分かりだろうが、紫の正体はバロックだ。


 後数センチで唇がくっつく程に近づいたバロックが、さっきまでのレインと遜色無い興奮具合で問い詰めてくる。唾が顔にかかってるとか、何か魅惑的な柔らかいものが当たってるとか、色々と言いたいことがあったのだが……


「だだ、ダメだよバロックさん!」


 御堂が間に入ってくれたおかげでバロックが離れた。


「おおっ、シオリではないか! 一体何がどうなってこうなったのだ!?」


「えっと、それは、わた、し、が……」


 言葉の途中で、御堂の視線が釘づけになってしまった。どこかと言えば、バロックの白い双丘に他ならないんだが。俺は見てないぞ?


「し、シオリがやったのか!?」


 全身で驚愕を表現するバロック。ぶるんっ、と揺れる二つの凶器に、御堂がショックを受けたようにふらついた……いや、見てないぞ? うん、見てない。


『へぇ、それはいいことを聞いたね』


 そこに蒼い巨体がやってきた。蒼龍のディールだ。


『シオリくん、と言ったかな? 君からは感じるよ。途方もない“強者の香り”をね……』


 ディールの芝居がかったセリフが途切れたところで、残りの古龍五体が横一列に並ぶ。その異様さに御堂が唖然とする中、ディールはこう宣った。


『どうだい? 僕たちと闘ってみないかい?』


 ……戦闘狂は今日も絶好調だ。




次回、古龍vs乙女!(予定)


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