ハル
今回は少し短めですかね。
ごゆっくりお読みください。
肉体を魔力で構成し直した正真正銘の人外から同族だと言われた後、俺たちはもう一度最上階の所長室に戻ってきていた。
部屋の中にいるのは俺とレインだけだ。ハルやNo.3がどうしているのかというと、
『No.1、ボディメンテナンスをしてきたらどう? 長い間地下にいたのだし』
などとレインに言われて、No.3に連れられてどこかに行った。
『わ、私はマスターの従者として、お側を離れるわけには……』
『行きますよ、No.1』
『あ、あぁ〜〜〜〜〜……』
こんな感じで。色々と理由を並べてはいたが、そんなに嫌なのか。メンテナンスって何をするんだ。
「シンイチ様? 聞いてますの?」
「ん? ああ、悪い。俺が何者か、だったな」
「酷いですわね。解剖もさせてくださいませんし!」
あれは「させ」なかったんじゃなくて、「でき」なかったんだがな。悪いのは俺の壊れ耐久値……あ、俺が悪いんじゃないか。
ボケたことを考えつつ、不満そうなレインのご機嫌取りも兼ねて答えてやる。
「俺は勇者としてこの世界に召喚された異世界人だ。勇者とか異世界とかについては、言わなくても分かるよな?」
「ええ、分かりますが……たった今、また気になることが出てきましたわ。どうして私が勇者について知っていると、知っていたのです?」
……ややこしいな。
俺が何故、レインが勇者について知っていると踏んだか?
そんな難しい話じゃない。
第一に、勇者召喚の儀は伝承になっていることから、かつて行われたことがあると予想。これは以前にバロックで確認済みだな。
次にだが、そもそも勇者召喚の儀を考えたのは誰か? という点に目をつけただけのことだ。
召喚の儀には、人間の中でも優秀な魔導師を何人も使い潰す程の魔力を必要とする。この時点で、人間が扱えるような魔法ではないと考えられる。
普通、自分で扱えないものを考えつくだろうか? それも「異世界」なんていう概念まで持ち出して……まずないだろうな。
とすると、人間以外が考えたという方向に思考が進むはずだ。そこで、今目の前にいる研究者一族の存在を思いつけば後は簡単。
こいつらが作ったと考えれば、それで万事解決。かなりの暴論ではあるが……ロード族だから、問題無い。戦車作ってるし、金属を生命体にするし、肉体を魔力にするし。多少の無理も道理にするのが、こいつらだったのだろう。
魔法の創造に取り組んでるって知識が最大のヒントではあったけどさ。
「……よく考えましたわね。大体はその通りですわ」
推測でしかなかったが、どうやら大筋を掴めていたみたいだ。
「一つ訂正するならば、勇者召喚のための魔法陣は狙って創ったものではない、ということだけですわね」
ん、確かにそこは勘違いだった。ロード族が意図的にやったものだと思っていたのだが……
「じゃあ、元は何のために創った魔法陣なんだ?」
なんとはなしに碌でもないものの気がする……
「黒い悪魔を駆除するための魔法陣でしたわ」
ホイホイ? 予想通り碌でもない……いや、結構大事だな、うん。あいつらはこの世界でも忌み嫌われているらしい。つーか、いたのか。
話を戻して。
「うーん、それにしてもあのステータスは異常ですわねぇ……」
「普通の勇者のステータスってのはどうなってるんだ?」
「魔力値がアホみたいに高いですわね。私が見たのは五、六人程ですけれど、全員が五十万くらいでしたわ」
くそっ、やっぱり魔力なのか。俺は一体何があってこんなことになったんだ。
「それでも、他のステータスが十万を超えた人はいませんでしたわよ? ハッキリ言って、貴方のステータスは化け物の類ですわ」
……知ってるよ。もう何回も言われてきたよ。
最早聞き慣れた単語に辟易しながら、プレートの製作者様に筋力値についても尋ねてみる。
「筋力値の数値が上手く表示されないのはなんでだ?」
「……ちょっと調べてみますわね。『チェック』」
レインがプレートに手をかざし、呪文のようなものを唱えた。淡い光がプレートを包み込み、しばらくしてその光がレインの手に吸い込まれていった。
「……終わりましたけれど、プレートには特に異常はありませんでしたわ。貴方の身体がおかしいだけなんじゃないんですの?」
マジか。俺の身体がおかしいのは間違い無いが、少しの希望も無いというのか。
俺だけじゃなく、御堂も十分な化け物だぞ。確か九十万だったか? 他の勇者と四十万もの差があるんだし、これはもう十分に化け物だ。同類同類。
と、それよりも聞きたいことがあるんだったな。
「なあレイン。お前、ハルのこと……No.1のこと避けてないか?」
「う……わ、分かりますの?」
「少しだけな。久しぶりに会ったっていうのに、まともに会話しようともしないし。ちょっとばかし不自然に見えたんだよ」
「そうでしたのね……」
俯いたレインの頬を、青色の髪が滑り落ちる。そのせいで表情が隠れてしまっているため、今何を考えているかの想像もつかない。
しかし、自分から話題を振っといてなんだが、結構深い事情がありそうだな。
催促するのは躊躇われるので、気長に待つ。別にこのまま話してくれなくてもいい。他人の事情にそこまで深入りするつもりはないからな。
黙っていると、レインが小さな声で語り出した。
「……実は、No.1は、私の娘でしたの」
飛び出したのは意外すぎる事実だった。しかし俺は反応すること無く、ただ静かにレインの言葉を待つ。
「娘は体が弱くて……六歳の頃、もう魔法でもどうにもできない状態になってましたわ。私は娘を生かすために、オリハルコンの体に彼女の精神を移植しましたわ」
声音からは悲しげな、そして悔しそうな気持ちが感じられる。
「結果として、娘は、娘としての人格を失いましたわ。実験は成功しても、私の願いは叶わなかった」
ハルは……レインの娘は、その時に本当の意味で死んでしまった。
「笑えますわよね。自らの手で娘を殺したようなものなんですもの……それで、娘の代わりにNo.1のことを大切にしてきた。我がことながら滑稽ですわ……」
何も言わない。
「ごめんなさい、変な話を聞かせてしまって。別にあの子のことを避けようとしたわけじゃ無いんですのよ? 久しぶりに会って、どう接すればいいか分からなかったんですの。私、研究以外はてんでダメな女でしたから」
上げられた顔を見て、俺はやっと反応を返した。
「……引きずってる、って感じはしないな」
「あら、気づきましたの?」
「なんとなく、な。吹っ切れてる感じがする」
「そうですわね。あの時に何もしなければ、娘はただ死んでいた。昔のことを思い出すと悔しくはなりますけれど、そう考えれば少しはマシになりますわ。それに、八百年も同じ気持ちではいられませんもの」
「……それもそうか」
見た目は二十代半ばの美女だが、レインは八百数歳なんだよな。それだけの時間があれば、気持ちの整理もつくか。
和らいだ空気の中でレインと談笑する。元の世界でのことを聞かれたので答えたが、以前に喚んだ勇者と何ら変わることは無かったらしい。俺のいた時代にこっちに来た奴もいたらしいな。
『ま、マスター。ただいま戻りました……』
『異常はありませんでした』
筋力値の簡単な測定としてアダマンタイトの塊を握り潰していると、ハルとNo.3が帰ってきた。ハルは人間形態で疲れた表情を浮かべ、No.3はマネキンだ。さっきレインに聞いたが、No.3は魔法を使って無理矢理人型になっているとのこと。動きがぎこちないのはそのせいか。
「おう、おかえり。ハル、ちょっとこっちに来い」
『? なんですか、マスター……!』
フラフラと歩いてきたハルを抱き上げて、膝の上に乗せる。いつもカグラがやっているような体勢に、ハルが驚いているのが分かった。
『……いきなりなんですか? ついに私にまで手を出そうと……』
「ちげーよ。お前に聞きたいことがあってな……なあ、ハル?」
『?』
疲れても変わらぬ毒に内心で苦笑しつつ、首を傾げるハルに問う。
「お前、自分とレインの関係に気づいてるよな?」
自分でも驚愕の事実。
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