さいえんてぃすと
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読者の皆様、本当にありがとうございます!
ごゆっくりお読みください。
「ごほんっ。失礼しましたわ。私の名前はレイン・ガイスト。この第一魔法研究所の所長であり、ロード族の研究総括ですの。よろしくお願いしますわ」
「あ、ああ。知っての通り、俺は渡良瀬 晋一だ」
所長室に通された俺は、半透明の青い美女と自己紹介をしていた。青いと言っても顔色が悪いとかではなく、髪色やドレスの色からそう呼んだだけだ。
縦ロールの青髪に青い落ち着いたドレスを身に纏うレインは、見た目はかなりの美人だ。研究者というよりもどこかのお嬢様に見える。ドレスの上に白衣を羽織ってなければもっと良かったはずだ。
いやいや、一番言及すべき点は「半透明」だということなんだがな。俺の名前を知ってることに関しては、ハルが報告したということにしておく。
「それで、早速なのだけれど」
「解剖は無理だと思いますよ」
「どうして分かったんですのぉ!? ……って、無理? 嫌ではなく、無理なんですの?」
「ああ、無理だ。試してみるか?」
「試させてくれるんですのっ!? そ、それなら一刻も早く! うへっ、うへへへへへ……」
き、気持ち悪い。見た目だけならかなりの美女なのに、近づいてきた顔は紛れもないゲスだ。口の端から涎が垂れていて余計に気持ち悪い。
『申し訳ございません。ロード族は非常に好奇心の強い種族ですので、気になることがありますと理性が吹き飛んでしまうことがあるのです』
No.3が暴走しているレインに代わって謝罪する。ハルとは違って真面目な性格をしているな。
『……マスター、失礼なことを考えてませんか?』
「考えてねぇよ」
どうしてバレた。
「うへへへ……ハッ! す、すみません、少しばかり興奮してしまいましたわ。さあ、実験室へ向かいましょう」
涎を垂らすのは止まったが、ニヤニヤした笑いは止まらないらしい。意気揚々と歩き出すレインに従ってエレベーターに乗り、今度は地下へと潜っていく。実験室って大丈夫なのか?
一抹の不安を抱えながら、結構な速度で目的地に着いた現代の利器を降りた。実験室はごちゃごちゃしてるかと思っていたが、意外なことにとても綺麗だった。血とかが壁に飛び散ってるイメージだったんだがな。
「こちらのベッドに横になってくださいませ。私は少々準備をして参りますので」
そう言い残して、レインはエレベーターではない扉の向こうに消えていった。
とりあえず指示通りにベッドに寝転がる。硬めのマットレスの上で数分ほどゴロゴロしていると、レインが台車を転がして現れた。魔法を使って動かしているから両手がフリー。どれだけ便利なんだ、魔法。
台車の上には様々な器具が載せられている。注射器やメス、何に使うのかよく分からない物まで、山盛りになっていた。
「うへへぇ、楽しみですわぁ……」
戻ってきたらレインの目がイってた。器具を揃えている最中に色々と想像してたんだろうな。どんな想像だったかは知りたくもないが。
「No.3、彼を拘束なさい!」
『了解しました』
しかも看過できない命令まで下した。とは言いつつも大人しくNo.3に拘束される。アダマンタイトの生命金属がぎこちなく形を変えて、俺の手首と足首を実験台に固定した。
「うっへっへっへっへ……」
「……せめて涎だけは止めてくれ」
さっきから俺の服にポタポタ落ちてきてる。
そんな注意は届かなかったのか、レインは手始めに注射器を取り出した。中には薄黄色の液体が満ちているらしい。麻酔か何かの類だろうか。
「安心してくださいませ、シンイチ様。この魔法薬は人体には無害ですので。ちょっと気が狂いそうになるくらいの痛みを伴いますが、すぐに気持ち良くなりますわ」
とんでもなく有害だよ、それ。安心できる要素が皆無だよ。
俺の胸の内など知ったことではないといった感じで、レインは嬉々として注射器の針を俺の腕に押しつける。グッと力を入れて皮膚を貫こうとし……
パキッ。
針が折れた。かなりの力を加えていたのか注射器が手からすっぽ抜け、どんな奇跡か、中身の魔法薬を撒き散らしながらレインのドレスの中に収まった。
「ぎゃあぁぁぁぁぁあああっ!!! い、痛いですわぁぁぁああ!!!」
直後、レインが悶絶し始めた。あの魔法薬は皮膚に触れただけでも効果を発揮する劇薬だったみたいだ。俺の腕にもかかっているが、別に痛くはない。一億は伊達じゃない。
「ふー、ふー、ふー……危うく死ぬところでしたわ。気を取り直して、次の器具に……」
死ぬのかよ。それを耐え抜いたお前に賞賛を送るよ。
今度はメスを取り出したレイン。先ほどまでの苦悶の表情は何処にか、満面の笑みを持ってしてメスを振りかざす。
「とくと味わいなさいっ! 私のメスの鋭さを!!」
全力でメスを振り下ろしてくる。明らかに使用法を間違えているが、そんなことをするから……
バキンッ!!
腹部に当たったメスが真っ二つに折れてしまった。剥き出しの刃がクルクルと宙を舞って、
「ぎゃあぁぁぁぁぁあああ!!! さ、刺さりましたわぁぁぁああ!!!」
レインの額にサックリといってしまった。お子様にはお見せできないシーンだが、一切赤色が無いから健全だ。
「はぁ、はぁ、死ぬかと思いましたわ……! これでダメとなれば、次はこれですのッ!!」
今度は何だ、と思い目を向けると、レインの右手には巨大なドリルが。さっきまでそんなの無かっただろ。
「喰らいなさいませぇぇえっ!!」
ギュィィィィィン!!
凶悪な回転音を響かせてドリルが俺の腹に突き立てられる。お察しの通り、全く刺さってなどいない。腹筋の上で空回りしてるだけだ。ちょっとはくすぐったいかな?
「……だ、ダメですわ……ならば! お次はこれで……」
レインがまた新たな器具を取り出す。
……諦めた方がいいと思うがな。
結局、レインは一時間近く俺を解剖しようと努力していたが、傷一つつくことは無かった。最後には涙目になってたな。
「ば、バケモノですわ……」
「そいつはどうも」
最大級の賛辞を受けて俺は起き上がった。レインが床に手をついてプルプルと震えているが、俺は聞きたいことがあるので遠慮はしない。好き勝手されてたんだから、こっちの番でいいだろ。
「レイン、お前たちロード族って滅んだよな? どうして生きているんだ?」
「ぇあ? 私、明確に生きているわけではありませんのよ? 肉体を魔力変換する際に一度死んでますもの。精神だけは生きてますけど」
「……ん? すまん、よく分からん」
「あー、説明しようとすると長くなるんですのよねぇ……大雑把に言って、肉体を魔力に変換して、その魔力を精神で統制しているんですわ」
「んー……少しだけ分かった。精神は自前で、身体は魔力で構成、ってことか」
「そうですわね。ですから、普通の物体には触れませんの。魔力は物質ではありませんから」
へー、なるほどね。
「だから台車を魔法で動かしてたわけか。そんで、オリハルコンには触れられると」
「? 私、言いましたっけ? まぁ、その通りですわ。オリハルコンは半分が魔力で構成された特異な金属。故に私でも扱えるんですの」
ビンゴ。死なないように配慮してハルを纏ったビンタをしたんだが、それが思わぬところで役に立った。恐らくだが、あそこにある器具は一部にオリハルコンを使ってるんだろうな。
「他のロード族はどうなったんだ?」
「残念ですが、滅亡しましたわ。肉体の魔力化に成功したのは私だけですわね」
……どうにも、人体実験は沢山してきました、みたいな言い方だ。してるんだろうけどさ。マッドな種族だ。
「そんじゃ、次を聞かせてもらうか。今までは何をしていたんだ?」
「バラバラになってましたわ。極大魔法陣が暴発して起きた魔力の波で身体が崩れましたの。元々再構成には時間がかかるのですけれど、最近まで身体ができる度に吹き飛ばされて……踏んだり蹴ったりでしたわ!」
「ふーん……」
それ、多分カインたちのせいだな。あいつらの魔法はアホみたいに強いから、運悪く巻き込まれ続けていたのだろう。
「あ、そうだ。ハル、お前はなんでここに来たがったんだ?」
忘れかけていたが、レインを訪ねてきた主目的はハルにあったんだ。
『いえ、特にこれといった用事はありません。少し懐かしいと思ったので』
へー。まぁ、千年近く地下に放置されていたんだもんな。そう思うのも仕方ない、って感じか。
「シンイチ様。お聞かせ願いたいのですけれど、貴方、ステータスはどうなってますの?」
ん? 唐突だな。何しても傷一つつかない身体に興味を持ったか?
レインの問いかけに、俺は最近常備しているステータスプレートを取り出した。すると、レインが反応を示す。
「あら、アナライザーじゃないですの。懐かしいですわねぇ」
「? 知ってんのか?」
名称は違うみたいだが。わざわざ突っ込むことはしない。
「ええ、それを作ったのは私ですもの。あの時も苦労しましたのよ? 血液に含まれる微量の魂魄を解析する魔法陣を……」
長くなりそうなのでスルー。いつも通りに血を垂らすと、これまたいつも通りに異常な数値が示される。
「どれどれ……はぁぁぁあっ!? 貴方、本気で何者ですの!? 人間じゃないですわっ!!」
……こんなとこでも人外判定を貰いましたとさ。
なんとなく不自然な点があるのは仕様です。
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