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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第四章 頑張る人外さん
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終結と展開

話を進めてみました。


ごゆっくりお読みください。

「……ということです。では、これにて講義はお開きとさせて頂きます」


「「そんなぁ……」」


 ヤヨイさんが丁寧にお辞儀をすると、残念がる声が聞こえてきた。出処は二箇所。メガネの少女と犬耳の少女からだ。


「うふふ。そのように言ってもらえて、講師冥利に尽きるというものです」


 妖艶でありながら悪戯っぽさが見え隠れする微笑は、魅惑的ではあるが俺にとっては不吉に映るだけ。


「ありがとうございました、師匠!」


「……また一つ、大人になった」


 深々と頭を下げるバロックと、会得したものを確かめるように拳を握るカグラ。両者とも俺の大切な人なのだが、どうにも今は距離を置きたい気分だ。


「うぅ、なんなのよ……」


「??????」


 火が出るんじゃないかと思う程に顔を真っ赤にして俺をチラ見するリリシアに、話に全くついていけず首を傾げて俺の背を掻くだけのユリア。二人だけは、どうかそのピュアな心を捨てないで欲しい。


『マスター、五年後が楽しみですね』


「なんて反応すればいいんだよ……」


 楽しそうなブレスレットに、俺は重い溜息を吐くしかなかった。


 御堂と俺の嫁たちの対立は、ヤヨイさんという第三者の登場によって穏便に収められた。その代わりといってはなんだが、今度はヤヨイさんの講義が始まって、御堂とエレンが完璧に毒されてしまった。耐性が無かったリリシアと幼いユリアがあまり影響を受けなかったのは、せめてもの救いか。


「……とりあえず、次のことを考えないとな」


『御堂様のこと、ですね』


 やり切った感を出して固く握手を交わす御堂とエレンを尻目に、思考を開始する。


 題はハルの言った通り、御堂のことについてだ。


 御堂はマグジェミナの、ひいては人間の希望とも呼べる存在だ。ゾフォンたち穏健派が抑えてくれてるとはいえど、いつ魔族が押し寄せてくるかは分からない。そんな不安な状況下にあって、勇者の不在は大きな痛手となっているだろう。


 そうなると、だ。御堂をいつまでも俺たちの近くに置いておくわけにはいかないだろう。王国が滅ぶのは俺の望むところではないからな。


 しかし……


『それに……この世界には渡良瀬くんがいるから!』

『私は、渡良瀬くんについていきたいな……』

『私だって、渡良瀬くんのことが好きだもん!!』


 ……御堂が俺から離れることを良しとするだろうか? 予想するに、きっとしない。俺と一緒にいることを選ぶはずだ。


 それ自体が悪いことだとは思わない。好きな人と一緒にいたいと思うのは、何も間違っていないんだ。俺もよくそう感じるから、余計に分かってしまう。


 故に、俺は御堂の意思を否定することはできない。正確には不可能ではないが、進んでやりたいことではない。告白されてしまっている身としては尚更だ。


 だからと言って、御堂の好きにさせていてはな……


「……シンイチ」


 くいっ、と服の裾を引かれる。それをなしたカグラは、無言で前方を指差した。その先にいたのは、真剣な面持ちでこちらを見つめてくる御堂だった。


「……渡良瀬くん。私、元の世界にいた時から、ずっと渡良瀬くんのことが好きだった。初めて見かけた時から、ずっと」


 静かな部屋の中に御堂の声が響き、吸い込まれていく。僅かな震えを伴ったその想いは、それでも確かな温度を持って綴られていく。


「同じクラスになって、話せるようになって嬉しかった。偶にクラス委員の仕事を手伝ってくれる、その優しさにどんどん惹かれていった」


 初日から教室で孤立していた俺に、御堂は臆することなく話しかけてきた。重そうなプリントの山を一人で運んでいる御堂に手を貸してやったこともある。どちらも些細なこと。それでも、彼女にとっては“思い出”なのだろうか。


「こっちの世界に来て、渡良瀬くんがいなくなって……。寂しかった。何度も会いたいと思った。だから今朝、渡良瀬くんが現れて、無事だったと分かって、本当に嬉しかったんだ……」


 メガネ越しの双眸に薄っすらと涙が滲む。それだけで、先の言葉が真実であると、心から想ってくれていたのだと察することができる。


「渡良瀬くん。私は、あなたのことが好きです。私とも、結婚してくれませんか……?」


 三度目の告白。


 不安に揺れる瞳に、俺はゆっくりと口を開く。


「……俺さ、まともな恋愛とか、一切したことが無かったんだ。そのせいで、誰かを好きだと思う気持ちも、あんまりハッキリしたものじゃなかった」


 御堂は何も言わない。俺は話を続ける。


「けど、俺はこいつらに会って変わったと思う。こいつらのことが好きだって、言い切れる」


 側にいたユリアとカグラの頭を撫でてやると、二人とも気持ち良さげに目を閉じた。


「俺は、俺のことを好きだと言ってくれたこいつらのことが好きだ。でも……その気持ちと、御堂に向ける気持ちは、少し違うんだ」


「……」


『好きじゃない』


 遠回しながらも酷な現実を示す言葉に、まるで予想していたとでも言うように御堂は何も言わない。ただ、俺が話し終えるのを待っている。


「それでもさ、やっぱり、好きだって言われて嬉しかった。こんな俺のことを想ってくれる人がいるんだって思うと、胸が熱くなる気がして……これって、誰が相手でもなるわけじゃないよな」


 恋愛のことなんて小説の中でしか知らない俺だが、それは分かる。見ず知らずの人に突然告白されても、今ほどに心動くことは絶対にない。


「嬉しいと思ったのは、こいつらでもお前でも変わらない。自分でもよく分かんねーけど、御堂には心を許してる部分がある」


 ……きっと、元の世界にいた時から。


「今は『好きだ』とは言えない。だから、結婚することはできない」


 見せたのは拒否。


 狡いと思いながらも俺は最後の言葉を紡ぐ。


「それでも……!」


「……言わないで」


 しかしながら、御堂の細い人差し指がそれを許さなかった。


「なんとなく、分かってたよ。それでもね、私は渡良瀬くんの側にいられて幸せなんだ。今、この時が」


 触れれば壊れてしまいそうな、脆さを孕んだ柔らかな微笑み。


「結婚はできなくてもいい。渡良瀬くんとこうしていられれば、それだけでも……」


「……悪いな。五年後、こいつらと正式に結婚する時までに、答えを出す」


「謝らなくていいよ。勝負はこれからなんだし」


 そう言うと、御堂は一歩分の距離を詰めた。少しでも手を伸ばせば触れられる距離。


 そこで、今度は悪戯な笑みを浮かべた。


「絶対に好きになってもらうから。覚悟しててね?」


「……ああ」


 自信あり気な宣言に、俺は小さく肩を竦める。


 さて、これからどんなアプローチを受けるのかねぇ……


 不思議と浮き立つような気分になった。これだけ好意を向けてもらえるなんて、俺は大層な幸せ者なんだろうな。


「? シンイチー、これにゃんだー?」


 御堂の告白タイムが終了し、エレンが彼女に何やら声をかけようとした時、ユリアが俺のズボンのポケットから何かを引っ張り出した。


 スルリと抜け出たのは白い布製の物体。あれ? 今日はポケットには何も入れてないはず……


 ユリアからそれを受け取り、広げてみる。随分と触り心地の良いソレの全貌が明らかになりーーー


「……っ、いやぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 ーーー御堂の絶叫に耳を劈かれた。


 まぁ、仕方ないよな。


 だって。


「なななななんで、わ、渡良瀬くんが、私のぱぱ、パンツを持ってるのーーー!?」


 ……うん、そうだね。とっても不思議だね。


 理由は分からない。ただ一つ、俺のポケットから御堂の下着が出てきたということだけは、疑いようのない事実だ。


「……シンイチさん? これは、どういうことですか?」

「……事と次第によっては、軽蔑も視野に入れる」

「へ、変態!! そんなことをする人だとは思わなかったわっ!!」

「むぅ、流石にフォローのしようが無いな。というか、欲しいなら言ってくれれば……」


 エレン、目が怖いぞ? カグラ、これは事故なんだ。だから嫌いにならないで欲しい。リリシア、誤解だ。俺は変態じゃない。それとバロック、お前だけちょっと違う。


「あらあらあら。うふふふふ、やはりシンイチ様も殿方でしたか。溜まっていらっしゃるようで……」


「「「「溜まってる……?」」」」


 八つの瞳が俺を捉える。そこに理性の輝きは見受けられない。


 ヤヨイさん、本当に厄介な人……!


 こうして始まった第二次リュケイア戦争は、次の日の朝になるまで続いたのだった……






「……それじゃあ、私は戻るね」


「ああ、面倒な役を押しつけちまって、ごめんな」


「いいよ。これも渡良瀬くんのためだもん」


「……そっか」


 二度目の戦争が有耶無耶になった後、俺と御堂は今後のことについて話し合った。結果、御堂には一度王都に戻ってもらうことになった。王国の滅亡が不利益になると、御堂も考えてはいたらしい。


「最後に……えいっ」


「おっ、と……」


 ぎゅっ、と抱きついてくる御堂を受け止める。


「えへへ、渡良瀬パワーをほじゅー……」


 なんだそりゃ。それで元気になるならお安い御用だけどさ。


「……うん、もういいかな。渡良瀬くん、気をつけてね」


「御堂もな。何かあったら頼ってくれ。力仕事なら役に立てるから」


「ありがと。じゃ、またね。『テレポート』」


 呟きに応じ、御堂の足下に幾何学的な魔法陣が形成され、光を放った。


 光が収まると、既に御堂の姿は無かった。どうやら転移したようだ。


 少しだけ寂しい気がした。どうしてか俺の中で御堂の存在が大きくなっているのかもしれない。


『……マスター。余韻に浸っているところ申し訳ありませんが、一つお願いがあります』


「ん? なんだ?」


 戦争以来沈黙を保っていたハルが、遠慮がちに声をかけてきた。その様子を珍しく思いながら聞き返すと、ハルは驚くべきことを宣った。


『私の“親”が見つかりました。ムサ大陸に連れて行ってもらえませんか?』




なんでポケットにそんなものが……?


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