勇者誘拐
段落下げが行われていませんが、本日中に修正しておきます。
※修正しました。ごゆっくりお読みください。
待て。一旦待つんだ。ここは状況分析が最優先の事項になるはずだ。
深呼吸を三回ほどして、もう一度自分の身の回りに起きていることを具に確認する。
ここはどこ?
ここはリオス大陸の最西端。魔族が住むノーグラスに最も近い位置にあり、そのために人が寄りつかない。また、植物や動物の類も見当たらない不毛の地だ。
何故ここにいる?
王都から逃げてきたから。騎士団長に見つかってしまい、咄嗟の判断で飛び出した。
どうやってここに来た?
ハルを使って飛んできた。推進力として、俺の人知を超えた筋力が発揮するとんでもない速度のダッシュがあったな。
さて、ここまで整理したが……次はあえて触れてこなかった大きすぎる疑問点に目を向けよう。
何故……
「何故、御堂がここにいる……?」
俺の腰に結ばれた薄青色のロープの続く先。そこには、がっちりとロープを掴んだまま気絶している御堂がいた。
『恐らく、魔法を用いてついて来てしまったのでしょう。このロープから、先ほどの防護魔法以上の魔力量を感じます』
……あー、そうか。俺を止めようとして魔法を使ったのはいいが、結局力負けして引っ張られ、楽しい楽しい遊覧飛行を経験したわけだ。慣れてない御堂は、あまりの高さと速さで気を失った……って感じか?
けど、そもそも何でそんなことをしたんだ? 別に普通に見逃してくれれば、それで……
黒髪の少女を見て、気づく。
『それに……この世界には渡良瀬くんがいるから!』
その言葉の真意に、気づく。
「いや、これは自惚れか……」
『? どうしたのですか、マスター?』
「ん、何でもない」
気づくが、即座に否定する。
俺がいるから……
その言葉一つで、御堂にとっての俺の存在の大きさは察することができる。
けれど、それがそのまま恋愛感情に直結するわけじゃない……はずだ。きっと、異世界で唯一心を許せる人だとか、そんな理由から出た言葉だったんだろう。
だとしたら……俺がまたいなくなるというのは、御堂にとっては耐え難いことだったのかもな。急いでいたとはいえ、その前にもう少し真剣に考えてやるべきだったか。
と、反省するより先にやることがあるな。
仰向けに倒れている御堂の肩を揺らす。それだけじゃ起きないので、頬をペチペチと叩く。すると小さく呻きながら、ゆっくりと目が開かれた。
「ぅぅ……」
ボーっとした様子でのそのそと上体を起こした御堂は、ズレたメガネを直すとキョロキョロと辺りを見回し、俺を見つけて我に返った。
「あ、あれ? さっきまで王城に……」
「ごめんな、俺が連れてきちまったっぽい」
「えっ……? 渡良瀬くんなら全然許すけど……その前に、ここってどこ?」
許すのかよ。ある意味では自業自得な部分はあるから、その判断は間違いではないと思うけどさ。条件付けが「俺なら」ってとこがね……
「リオス大陸の西の端だ」
「ええっ!? お、王都の対極……どうやってここまで?」
んー、痛いところだな。どうやって、と言われたら「跳んで飛んで」としか答えようが無いんだから。
……教えるか。御堂はどうやら俺に一定の信頼を置いてくれてるみたいだし、秘密を共有することは可能だろう。言っても、騎士団長にはもうバレてるだろうけどさ。
「それに対する返答の前に、これを見て欲しい」
「……?」
腰に下げた袋から一枚のプレートを取り出す。ゲルグの爺さんがくれたステータスプレートだ。首を傾げてるのを見るに、何かは分からないようだ。
「これを使うと、魔力量やその他のステータスが分かるんだ。一度、御堂に使ってもらいたい」
「う、うん。いいけど……」
「じゃあ、ちょっと痛いけど、我慢してくれよ……」
「んっ……!」
許可を得て御堂の指先を小さく傷つけ、血を滲ませる。その指をプレートの窪みに押し付けると、しばらくしてぼんやりと文字が浮かび上がってきた。
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名前 ミドウ シオリ
種族 人
年齢 17
性別 女
ステータス
・体力 1700
・魔力 951600
・筋力 830
・耐久 1240
・知能 31500
スキル
・完全言語
・思考詠唱
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「これが私のステータス……?」
「ああ、そうだ」
実に暴力的な魔力量だ。俺の九万五千倍以上か……
当然というかなんというか、魔力と知能以外の能力値はそこまで高くない。元は普通の女の子だったんだから、当たり前。
そういやスキルに「思考詠唱」なんてものがあるな。考えるだけで魔法を発動できるとか、そんなとこだろうか?
「……凄いの?」
「魔力量が半端じゃない。少なくとも、この世界では最大だろうさ」
以前に会ったSランク冒険者のヨハンって奴の魔力が、大体二万弱だった。それを踏まえると、御堂の異常性がよく分かる。
「じゃ、次は俺の番だな」
未だに意図が読めていないのか、御堂は怪訝そうな顔をしながらも俺を見つめてくる。あんまりジッと見られると恥ずかしいんだがな……
血を垂らし、プレートに新たな文字が示されていく。
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名前 ワタラセ シンイチ
種族 人
年齢 18
性別 男
ステータス
・体力 1073900
・魔力 10
・筋力 $$$$$$$$$$$$$$$$$$$$
・耐久 139259200
・知能 34500
スキル
・完全言語
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「………………………………へ?」
現れた数値に御堂がフリーズした。
ゲルグの爺さんじゃない限り、このステータスを見れば全員がそんな反応になる。中には失神した奴もいる程だし。
……体力と耐久が上がってることに関しては、何も言わないで欲しい。スカイウォールからムサの近海に落っこちて、海中で「でっかいイカ」と死闘を繰り広げたらこうなったんだ。あの時は本気で死ぬかと思った。化け物の身体でも一時間呼吸しないと流石に苦しかったな。
「えっと……渡良瀬くん?」
「何だ?」
「その……もしかして故障しちゃった……? 私が使ったから……」
「いや、そんなことはないぞ。これが俺のステータスだ」
「なら良かった……って良くないよ! 一億ってどういうこと?」
「それについては俺も知らない。ただ、筋力値に限界が無いから、それに合わせて耐久が上がってるみたいだ」
その答えに納得したのかしてないのか、御堂はぺたんと座り込んでしまった。
「凄いなぁ、渡良瀬くんは……」
別に褒められることでもないんだが……まぁ、いいか。
「このステータスを見れば分かるように、俺の身体は明らかに人間離れしてる。それこそ、大陸を一秒以内で走破できるくらいに。そんで、ここまで来た方法も察しはついたと思うけど、単純に跳躍しただけだ」
『嘘を吐かないでくださいマスター。私の功績があります』
「? 今の声、どこから……」
ハルが突っかかってきた。おかげで御堂に説明することが一つ増えちゃったじゃないか。
「……実は、この右手のブレスレットがな……」
そうしてハルのことを説明し、御堂を驚かせた。途中で虹色の少女になったハルが暴走してたが、特に大きな問題も無く終わった。
王城では隠していた俺の実力についてもある程度明らかにした。デコピンで近場にあった岩を砕いたら尋常じゃなく褒められた。ハルにはいつも通りの無駄口を叩かれた。
『流石はマスター。人外鬼畜野郎の二つ名は伊達じゃ』
「ハルちゃん……?」
『流石はマスター! マスターの配下という立場にいられるなんて、私は世界一の幸せ者です!』
……まぁ、御堂に威圧されたんだけど。
そんなこんなで、話は本日一番の問題に移る。
『御堂様をどう扱うか、ですね』
「そこなんだよなぁ」
魔族との戦争における人間の最終兵器、勇者を連れ出してしまった。最大の問題である。
しかも、
「私は、渡良瀬くんについていきたいな……」
当の本人は戻る気ゼロ。いや、俺が王国側につくと言えばそれに従うのかもしんないけど……俺にその意思が無いのは御堂も知るところだ。
どうやらこの勇者様、相当俺に依存しているっぽい……というか、さっきの気づきはあながち間違いじゃなかったのかもしれない。だからと言って、今ここでどうこうするつもりも無いが。
「……どうすりゃいいんだか」
徐々に思考が空回りしてきた。王国の方は騎士団長が何とかしてくれてると思う。あの様子から見て、あいつは俺を犯罪者にするつもりは無いだろうから、数日の間はこの状態でも保つはずだ。
『一先ずどこかに移動しませんか? ここは殆ど人は来ませんが、全く来ないわけではありませんし』
ハルがそんな提案をしてきた。確かにここで騎士団に見つかるのはあまり良くないし、食べ物も休む所も無い。
『狐人族の里は如何ですか? あそこならば普通の人間は辿り着けませんし』
「……そうしてみるか。ちょっと遠くなるけど、御堂は大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「そっか。じゃあ、思い立ったが吉日ということで」
「えっ、きゃっ!」
御堂を背負い、ハルで固定する。いきなりだったが、嫌がりはしないだろう……しないよな?
「ぅぁ……背中、おっきぃ……」
『御堂様。お楽しみ中のところ申し訳ありませんが、身体強化をした方がよろしいかと』
「! な、何のこと……?」
「ハル、変なこと言うなよ。御堂、気にすることはないが……身体強化は推奨する。是非やっておけ」
「う、うん。分かった……」
「そんじゃ、行くぞ……!」
膝を曲げ、南に向けて軽く跳躍。
それだけで一気に音速レベルまで加速し、その場から掻き消える。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
すぐ耳元から声にならない声が。もう少し優しめにした方がよかったか?
俺はこの時、予想だにしていなかった。
リュケイア大陸で起こる、人間と亜人の戦争のことなど……
次回、史上最大級の戦争が幕を開ける……!
あまり期待しないでお待ちください。
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