乙女との再会
短めになってます。
ごゆっくりお読みください。
賑わう街の中を、フードをすっぽりと被ったまま俯き気味に歩く。
『マスター。五十メートル先、十字路右手側から警邏隊が接近中。細心の注意を』
「……了解した」
丁度よく通りかかったガタイのいい男の左後ろを歩く。人の多い十字路に差し掛かった所で警邏中の兵士たちが視界に映るが、隣の大男の陰になって向こうからは気づけなかったらしい。
『……周囲の安全を確認。気は抜かずに』
「ああ、もちろんだ」
耳元から聞こえる抑揚の無い少女の声に、雑踏に紛れる程度の小声で返す。
そのまま歩くこと数分。これといった障害も無く、目標地点を目視できる位置に辿り着いた。
露店に並べられた武具を物色するフリをしながら、目的地近辺に「奴ら」がいないことを確かめる。
『……いけます!』
僅かに強くなった語調に押されるように素早く、しかしながらできるだけ自然にポイントへと歩を進める。そこにあるのは、五階建ての立派な建物。
しっかりとした造りの豪奢な扉に手を掛け、そっと開く。
中に「奴ら」がいないことに安堵し、すぐさまカウンターに立つ女に要件を告げる。
金貨を二枚差し出しながら。
「空き部屋を一つ、夕食つきで。釣りはいらない」
「かしこまりました。この鍵の部屋でございます。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
女から鍵を受け取り、鍵に付いていたプレートに書かれた部屋へ。鍵を開けて中に入り、すぐに施錠する。
……もう大丈夫だな。
フードを取り、ベッドに倒れこむ。
「ミッション、コンプリートぉ……」
『お疲れ様でした』
こうして、俺は王都にて宿屋をゲットすることに成功した。
童心に帰って(?)メタル○アごっこを楽しんだ俺は現在、王都の中心から少し外れた所に位置する貴族御用達の高級ホテルに来ている。
王都の中で貴族御用達とは一体どういうことか?
マグジェミナの貴族は、地方の統治を任されているものと、王都で国王の補佐をするものとに二分される。
王都住まいの貴族は当然王都に居を構えているし、地方領主の貴族も年に二回ある国王主宰の国政会議で王都に来る必要があるため、最低一つはこちらに屋敷を持っている。
貴族が宿屋を利用する意味は無いはずなのだ。
だと言うのに、何故貴族はこのホテル(宿屋だが、他とは一線を画してるからそう呼ぶ)に来るのか。
それは、自分の屋敷ではできないことーーー「密会」のためだ。
密会と言っても、贈収賄とかの類ではない。そもそも、貴族は国王を主とした契約魔法で税の横領なんかの後ろ暗いことを禁じられており、違反すると最悪首が飛ぶらしい。しかも、その契約は人間の中でも特に優秀な魔法使いである宮廷魔導師が十人がかりで施すものなので、解除は不可能となっている。ここら辺は厳しめだ。
ここで言う「密会」というのは、「夜の密会」のことである。
もっと詳しく説明すると、貴族と平民が一夜を同じベッドで過ごすことである。
一夫多妻制が常識であるこの世界だが、マグジェミナ王国では法律で「貴族と平民が男女の関係を持つこと」を禁止している。理由は知らないが、昔何かあったみたいだ。
だが、燃え盛る恋の炎は法律なんかで消えるわけがない……らしい。何とか契りを交わすために、貴族たちが共同で融資してこのホテルを建てたのだ。バレないように愛し合うためのホテルである。
実際のところ、ここが「そういう場所」だというのは周知の事実なのだが、見て見ぬ振りをするのが暗黙の了解となっている。王国側も、ここで一夜をエンジョイするだけなら見逃すらしい。
しかしながら、ここは法律を犯すための施設だ。情報管理には最大限の注意を払っている。宿泊客の名前を外部に漏らすなど、絶対にあり得ない。
それだけ管理体制が厳重な場所だからこそ、俺は泊まることを決めたのだ。
因みに、これを教えてくれたのはゲルグだ。若い頃には数回お世話になったらしい。貴族だったのか?
宿泊代(夕食つき)が金貨一枚のところに倍の金を出し、あまつさえフードで顔を隠していたんだ。中央貴族の関係者だと誤解してくれてればいいんだが……
斜陽が射し込む部屋の、質の良いベッドに寝転ぶ。
「……御堂の様子を見るのは、明日の早朝にしよう」
起きてるかは分からないがな。
その後は美味しい夕食に舌鼓を打ち、ぐっすりと眠らせてもらった。
満点評価の味だったが……
……青野菜が出てきたのには驚いた。
『マスター、朝ですよ』
「ん……もう、か」
ハルを目覚まし時計代わりにして体を起こし、軽く伸びをする。フカフカのベッドから離れるのは名残惜しいが、やることがあるので仕方ない。
「よし。ハル、今日も頑張ってもらうぞ?」
『タダ働きました』
「……分かりました、の言い間違いだよな?」
なんか申し訳なくなった。
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「んぅ……あれ? もう朝……?」
寝ぼけ眼をこすりながら私、御堂 栞は今の自分の状態を確認する。
……左手に神器が握られている。どうやら昨夜、一試合終えてそのまま寝落ちしてしまったようだ。服やシーツが乱れ、少しいやらしい感じが出てる。
渡良瀬くん以外に見られても得が無いので、さっさと片づける。手間なので魔法で一気にやってしまう。
……よし、綺麗になった。
神器をしまい、髪を整える。寝癖は殆どついてないけど、気分だ。
まだ陽が昇ってからそんなに時間が経ってない。騎士男たちや使用人なんかは起きている頃合いだろう。
髪をセットし終えた丁度その時、ドアをノックする音が響いた。朝早くに何だろうか?
訝しみながらも、許可を出す。こういう場合、重要な案件だったりするのだ。
静かにドアが開かれていく。
……? 何か、変な感じが……
少し警戒しながら挨拶も何もなしに部屋に入ってきた人物を見据え、私は驚愕した。
騎士団が正式採用しているミスリルの甲冑に身を包み、現れたのは。
私の最愛の人ーーー渡良瀬 晋一だった。
「よっ、御堂。久しぶりだな」
私を見つめる黒い瞳。フレンドリーな口調とは裏腹に、全く感情の読めない表情。幾度となく思い浮かべた、愛しい鉄面皮。
目をこすり、メガネを丁寧に拭いて掛け直し、再度目の前に立つ人物をよく観察する。
「あー、いきなり来て悪かった」
……間違い無い。渡良瀬くんだ。
どうしてここに彼がいるの?
頭の中が疑問符で埋め尽くされた。会えて嬉しい……どころか、ちょっと昇天しそうになったけど、それ以上に疑問が強かった。
言うべき言葉が見つからないでいると、急に渡良瀬くんの着ている甲冑が形を崩した。うねうねと蠢いたそれは渡良瀬くんの右手首に巻きつくと、虹色のブレスレットになった。
もう訳が分からない。突然いなくなったはずの想い人が訪ねてきたと思えば、不可思議な現象を目の当たりにした。
思考がまとまらない。胸の内で嬉しさと疑問が渦巻いている。
けど、一つだけ。
一つだけ、確かなことがある。
ーーー渡良瀬くんは生きてた。
そう思うと、自然に涙が溢れた。
「渡良瀬くん……無事で、よかった……!」
ギュッと、その体にしがみつく。存在を確かめるように、もう二度と離さないように。
「……心配させちまったみたいだな。俺も、御堂が無事で安心したよ」
泣きじゃくる私を優しく抱き止め、そっと頭を撫でてくれる。
渡良瀬くんの温もりを感じながら、私はひたすらに泣き続けていたのだった……
……そのシチュエーションに興奮していたのは、言うまでもない。
なんか綺麗な再会になってしまった。
下書き段階のタイトルは「即昇天」だったのに、何故……?
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