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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第三章 旅、それは男のロマン
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幕間 乙女の憂い

御堂視点です。人によっては不快な表現がありますので、お気をつけて。


ごゆっくりお読みください。

  黄昏時の王都の街並みを、王城の一角から見下ろす。


  勇者として与えられた部屋は広く調度品も絢爛なものが多かったが、日本の庶民感覚が染みついている私には少し鬱陶しいものがあった。


  要は、好きになれないのだ。私にはもっと質素な部屋が似合っている。


  だから、部屋のバルコニーに出て街の景色をボーっと眺めるのが、この暇な時間帯の過ごし方として定着している。


  遠く、遥か遠くに、薄っすらと赤い色が見える。群青に占められた空の中、そこだけは混じり合って神秘的な色合いになっている。


  街ではもう明かりが灯されているようだ。柔らかな魔力灯の橙が石造りの家々を照らし、どこか現実離れした風景のように思える。


  ……ここは現実世界。いくらファンタジーっぽくても、それは変えようのない真実だ。


  そして、彼がここにいないということも。


  彼、渡良瀬 晋一は、勇者としての資質が全くと言っていいほどに無く、国が定めた「公認奴隷」となっている。これは国民の信を得るための苦渋の決断らしい。


  ……何が「苦渋」だ。無理矢理に召喚した挙句、自己保身のために奴隷にするだって? 笑い話では済まされない。


  その上、あの愚王は、彼に会いたいという私の要望を悉く拒否している。公認奴隷の作業場に勇者を向かわせるのは外聞がどうとか、また自分のことだけ。


  その気になれば王国を消し飛ばすことなんて造作も無い。それを、王国の上層部は理解しているのだろうか?


  幻想的とも言えるこの王都の夜景を殺風景な荒野に変えるくらい、今の私なら三十秒とかからない。


  友達にファンタジー小説を好んで読む子がいて、何冊か貸してもらったことがある。そういったものの中には、圧倒的な力を持つ救国の勇者が国から排斥されて悲劇的な結末を迎えるものもあった。


  一人で国家規模の力を所有する勇者が、何故国からの排斥に負けたのか?


  それは、信じていた人に裏切られたという絶望があったからだ。


  己が身を戦地に投げ入れ、殺戮者となってまで守った人たちから、心ない誹謗中傷を受ける。これがどれだけ心を壊したのかは、勇者の最期を思えば推し量るのは容易だ。


  勇者は、自殺した。


  そんなミゼラブルな物語は、私にだって当てはまる。というより、今の私は見事にその「勇者」ではないか。魔族との戦争に勝利すれば、漏れなく国全体が私を異端者呼ばわりする……かもしれない。


  まぁ、例えそうなったとしても、私は自殺なんてしないけれど。


  私と「勇者」の相違点は、国に信頼を置いているかどうかだ。


  私はこの国が嫌いだ……ということもなく、別段好きではないだけだが。街の景色は綺麗だし、住みやすい。それだけならば、好きになっても不思議ではなかった。


  そんな王都の長所は、しかしながら第一王女様や愚王の対応で打ち消されていく。


  街は好きだが、それを統治する人が嫌いだ。


  もしも私を使い捨ての道具扱いしようものなら、即座に王国と敵対することができる。その結果として、国が滅びても問題は無い。


  人を殺すというのに多少の抵抗はあるけど……私は既に魔物を何体も殺しているんだ。今更生命を奪うことを忌避する理由は無い。というよりも、資格が無い。


  いっそのこと、私がこの国を壊滅させればいいんじゃないか? そうすれば戦争も無くなるし、渡良瀬くんを奴隷から解放することもできる。一石二鳥じゃないかーーー


  ーーーーーああ、ダメだ!


  頭をブンブンと振って今までの思考を脳から追い出す。


  そんなことをしてはいけない。


  だって、彼に嫌われてしまうから。


  どうも最近、不穏な考えが頭を過ぎって仕方ない。彼に一ヶ月以上会っていないから精神的に不安定になっているんだ。


  こんな時には決まってこれ。


「渡良瀬くんの制服……!!」


  彼が召喚直後に着ていた制服だ!


  王城でこっそりと盗み出したこれには、約二年分の渡良瀬エネルギーが蓄積している。匂いはもう薄れてしまったが、私ほどの渡良瀬マニアとなると「彼が着ていた」という事実だけでも十分に魅力的に見える。


「……ふぅ。落ち着いたかな?」


  制服の前側を自分の正面に向け、脇の下に手を通して強く抱きしめる。


  こうすると、なんだか彼に抱きついてる気がして安心(こうふん)するのだ。彼の引き締まった肉体が無いのが非常に惜しい。


  ……やり終わった後の虚しさが酷いけれど。それも心を落ち着かせるのに一役買っているから、結果オーライだろう。


「次は……うへへぇ……」


  おっと危ない。涎が垂れてしまうところだった。


  さて、次に取り出しますのは、なんと!


  渡良瀬くんのパンツです!!


  言い換えるなら神器です。


  制服を持ってきた時にちゃっかりもらって来ました。自分でも引くくらいの行為だと思ってます、はい。


  でも、止まらなかったんだもの。


  制服でスイッチが入ってしまった私は、バルコニーから部屋のベッドにダイブする。身体強化万歳。


  このベッドは広いから、少し激しくしても落ちたりしないのが良い。ナニが激しくなるのかは言わないけれど。


「渡良瀬くん……」


  己を覆う殻を脱ぎ捨て、神器と愛を持っていざ戦場へ……




 ーーーー乙女、お楽しみ中ーーーー




「んっ……ハァ、ハァ……」


  聖戦が幕を閉じた。


  五度に渡る戦いは、僅か一時間足らずで終焉を迎えたのだ。このスピードは神器あってこそのもの。神器がなければ、もっと長引いていた。


  このように、神器は聖戦において非常に強い力を持つ。そこにあるだけで最強の遺物の名に恥じない効果を発揮する。


  神器の使い方の詳細は企業秘密だ。


  毎晩のオカ……相棒として、神器とはこれからも長い付き合いとなるだろう。


  私は満足感と倦怠感に包まれて、心地良い気分を味わっていた。


  でも。


  ……隣に彼がいてくれたら、どれだけ幸せだっただろうか。


  うら寂しい気持ちを感じながらも、テキパキと後片付けを済ませる。そろそろ夕食の時間になるはずだから。


  ベッドメイクを済ませ服装を整えた時、部屋のドアがノックされた。夕食の準備ができたみたい……


『シエルです。入ってもよろしいでしょうか』


  チッ! 雌豚じゃねぇか!


  入れたくはないが、わざわざ自分から出向いてきたあたり、何か重要なことがあるのかもしれない。


「……どうぞ」


『ありがとうございます、勇者様』


  ドアが音も無く開き、清楚なドレスに身を包んだシエルが現れた。部屋に入るなり、ほんの少しだけ顔を顰める。失礼な奴だ。


「……何の用ですか? まさか、夕食の呼び出しではないですよね?」


「ええ。私と勇者様にとって、大事なお話があって……バルコニーに行きませんか? 涼みながら話をしましょう」


  青褪めた顔のシエルが提案する。


  ……あ、そうか。ついさっき聖戦があったから、この部屋の魔力濃度が上がってるんだ。顔を顰めたのはそういうことか。


  私は感情が昂ぶると魔力がだだ漏れになってしまう。悪い癖だ。


  バルコニーに出て、シエルの調子も戻ったみたいだ。真剣な眼差しで私を見据えてくる。


「お話というのは……もう一人の召喚者のことです」


  その言葉を聞いた瞬間、気がつけば私はシエルの肩をガッチリと掴んでいた。


「渡良瀬くんのこと!? どうしたの! 彼に何かあったの!?」


「お、落ち着いてください、勇者様!」


  言われて、ハッとする。手を離すと、シエルは一度咳払いしてから話し始めた。


  ……渡良瀬くんのことを「召喚者」と呼称したことについては、この際不問にしておく。


「あの男が公認奴隷になった、というのはご存知ですね?」


「……知ってる」


  お前たちがそうしたんだから。


  ……実は私のせいでもあるのだけれど。彼は恨んでいるだろうか?


「そのことなのですが……違法奴隷の話は知っていますか?」


「……知ってる」


  確か、元の世界と同じ意味での奴隷だったはずだ。それがどうしたと言うのか。


「……先に謝っておきます。本当に申し訳ありません」


「……なんのこと?」


  深々と頭を下げるシエルに、嫌な予感がこみ上げてきた。まさか……


「私たちは勇者様に嘘を吐いていました。あの男がなったのは公認奴隷ではなく……違法奴隷です」


  ああ……!


  嫌な予感は的中した。同時に、言いようのない怒りが沸いてきた。


「ひっ……!」


  シエルの表情が怯えのそれに変わり、顔色が青を通り越して白になった。


  私の体から魔力が溢れ出しているからだ。高密度の魔力がプレッシャーとなってシエルに襲いかかっているのだろう。


  ……早く、助けに行かなくちゃ。


  王国のクズどもに構っている暇はない。一刻も早く渡良瀬くんを助けないと、酷い目に合わされてしまう。


「……渡良瀬くんは」


  どこ、と言おうとした瞬間だった。


「ぶべらっ!!」


  視認さえ困難な速度で飛翔してきた何かに顔面を強襲され、シエルがバルコニーから吹っ飛んでいった。


  下からガサッと音がしたから、茂みか何かに突っ込んだんだと思う。この部屋はそこまで高い位置にあるわけじゃないし、死んではいないはずだ。


「……え?」


  ただ、一体何が起きたのかは分からなかった。抑えられないほどの怒りもスッパリと消えてしまうくらいに、突然の出来事。


  呆然とするだけの私だったが、不意に奇妙な感覚を覚えた。


  ……渡良瀬くんは無事だ。


  そう確信させるような何かを、感じた。根拠は無い。でも、そう感じたのだ。


  徐々に冷静になっていく。怒りと混乱でぐちゃぐちゃになっていた思考回路が通常に戻っていく。


「……渡良瀬くんは、無事」


  呟いて、ますますそう思った。


  考えてみれば、彼は異常に頭が良かった。違法奴隷になったとしても、その頭脳で切り抜けられるだろう。


  ……ん? そういえば、前にも何かがシエルにぶつかったような……


  デジャヴを感じながらも、私は部屋のベッドに体を預けた。兵士たちが騒いでるのを聞きつつ、彼に思いを馳せる。


  ……早く、会いたいな。




御堂の心情の変化がものすごく不自然でしたよね?

それに、シエルに関しても不可解な部分があったかと思います。

これらについては残りの幕間で説明できると思うので、少々お待ちください。


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