嫁追加報告
今回はかなり長めです。
ごゆっくりお読みください。
そうか、遂に一千万の大台に乗ったか。これ程の耐久があれば世界征服も夢じゃないな。負ける気がしないわー。
……本気で負ける気がしない。何にというわけでもないし、別に世界がどうとかはどうでもいいけど。俺は嫁たちを守れれば問題無いんだ。
「……お前さん、人間ではなかったんじゃな。知っておったが」
「……個人的には人間だと思うんですがね。ステータスは違うらしいですけど」
「ああ、違うのう。すんなりと受け入れられた儂も大分違うのう」
爺さんには何度も衝撃的なものを見せてきたから、耐性が付いたみたいだ。俺は自分のことでもまだ低耐性だがな。
しかし、七千万弱か……前回の測定では三百万ちょっとだったから、約二十倍の成長か。過剰なインフレーションだ。これ以上にステータスを伸ばす意味は無い気がする。
「一周回って面白くなってきたわい。いっそのことこのプレートはお前さんにやる。たまに確認してみたらどうじゃ?」
「いいんですか? こいつって高いんじゃ?」
「多少はの。ま、その分は対ドラゴンの依頼で活躍してもらうわい」
「それはまた……」
面倒くさい。いや、ディールたちに頼めば簡単なことか。ドラゴンが人を襲わないようにしてくれって。よし、そうしよう。
「じゃ、ありがたく貰っておきます。今日はここら辺で失礼しますね」
「今度はまともな用事で来るんじゃぞ?」
「善処します」
信用ならないセリフを残しギルドを出る。今日は昼ご飯の後は一日休みで、明日の昼に出るリュケイア行きの船に乗ってユリアたちに会いにいく。バロックとの関係を報告するつもりだからだ。
……ついこの間に「仲間」だと説明したバロックが嫁の一人になってたら、あいつらは怒るだろうか? そこは俺次第なんだとは思うけどさ。
「シンイチ、腹が減ったぞ。今日は何を食べるんだ?」
「ん? そうだな。ここらは肉が少ないけど、魚は美味いんだ。それにするか」
「む、肉は無いのか。仕方ない、代わりに目一杯食べやるぞー!」
「肉があっても目一杯食うだろ」
他愛ない会話をしながら、以前にも行った店へと向かう。
隣を歩くバロックとの距離が前よりも近いのは、気のせいではないんだろうな。
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「はっはっはっはっはっはっはっはっは! 流石はシンイチ殿だ! やはり魅力というものがある!」
「もう、そんなに笑っては失礼ですよ。けど、シンイチさんはおモテになるんですね」
「おねえちゃんもシンイチとけっこんするのかー」
ユリア一家にバロックとのことを伝えると、こんな感じで迎えられた。少なくとも反対されるようなことは無いらしい。
「お、お姉ちゃん? 我がか?」
「うん。おっきいからー」
「そ、そうか……ユリアは可愛いやつだな!」
「うにゃ、やーらかーい」
お姉ちゃんなバロックがユリアを抱きしめた。緑色の髪の毛が谷間から覗いており、くぐもった声が聞こえてくる。ユリアの中の姉の条件は胸の大きさだったらしい。
「……ほう」
「あなた?」
「う、申し訳にゃい……」
視界の隅でユリア父が母に圧倒されていた。なんだろう、ユリア母から感じるオーラにはエレンに通ずるものがある気が……
「シンイチー、きょうはにゃにしてあそぶんだー?」
「シンイチ、我も一緒に遊ぶぞ! 『めりーごーらんど』とかいうのだ!」
腕をカリカリしながら見上げてくるユリアと、逆の腕を引きながら言うバロック。お子さまが一人増えた感じだ。
「はいはい、やってやるよ」
二人の頭を撫で、許可をとって屋敷の庭へと向かう。さて、精一杯遊んであげますかね。
五時間ほど遊んで満足したお子さま二人は、夕食を食べて仲良く風呂に入り、さっさと寝てしまった。ユリアはバロックを抱き枕にし、お互いに幸せそうな顔をしている。こうして見ると、母子のように思えなくもない。髪色も違えば顔も似てないんだがな。
俺? 俺はそんな二人を眺めながら同じベッドで横になってる。ユリアに甘えられっぱなしのバロックに軽く嫉妬しつつ、その頬を突ついたりしてる。
楽しいなぁ。プニプニしてらぁ。時折「むぅ……」と寝言が聞こえてきたりして、心安らぐ時間を過ごせている。
平和だなぁ……
………
………………
…………………………はっ!
いかんいかん、眠ってしまうところだった。
さあ、何故に俺が眠ることを避けたのか? 察しはついてるだろう。
そう。バロックがユリアを抱きしめ返す可能性があるからだ。
バロックはドラゴン。ユリアは幼い猫人族だ。睡眠中のブレーキが効かない状況でドラゴンが猫を抱きしめたら……結果は分かると思う。
そんな事態を防ぐために、俺は起きていなければならないのだ。
後、七時間の我慢だ……!
「? シンイチ殿。寝不足にゃようだが、大丈夫か?」
「……ええ、大丈夫です」
な、なんとか乗り切った。睡魔が隣で何事か囁いているが、太陽光で死滅させてやる。
「シンイチー。おねえちゃん。またにゃー!」
「おお! また、だぞー!」
ブンブンと大きく手を振るユリアに負けじと手を振り返すバロック。あーあー、ちょっと涙ぐんでるよこのお姉さん。離れるのが寂しいのかもな。
「じゃ、次はエレンのとこか……」
「むぅ、あの犬人の娘か……」
「ん? なんだその反応」
「いや、我はあの娘が少し苦手でな。なんというか、得体の知れない恐ろしさがあるのだ……」
……うん、なんとなく分かる。たまにエレンは暴走する時があるし、それを言ってるんだろう。
ま、エレンは良い子だから。そういうのが刺激になってむしろ魅力的なんだと思うことにしよう。
「シンイチさん。私はシンイチさんのことが好きです」
「……俺も好きだ」
「この世界で一番好きです」
「……俺も、エレンたちが一番好きだ」
「『たち』というのは、誰のことですか?」
「エレン、ユリア、リリシア、カグラ、バロックの五人だ」
「………………はぁ」
呆れたっぷりの溜息に心を抉られる。正座した俺の膝の上に対面で座るエレンは、それを境に表情を緩めた。
「シンイチさんが私たちを裏切ることが無いとは信じています。けど、相談も無く他の人と結婚を決めるのはやめてください。不安になっちゃいますから……」
「……ごめんな、エレン」
ギュッと、両手を背中に回して囁いてくるエレンに、俺は謝罪の言葉を漏らす。同時、こちらからも抱きしめてやる。
エレンの家に着いた俺たちは、輝く笑顔のエレンに迎えられた。簡単に挨拶なんかしてから、本題に移ったのだが……
『浮気、ですか……?』
持ち出した瞬間にエレンの背後に般若が現れた。その光景に身動きが取れなくなった俺は、目からハイライトを失ったエレンに自室へと連れ込まれて色んな尋問を受けた。事の成り行きや俺の気持ちなど、たっぷり三時間。
そうして今、ようやく解放された……はずである。
「私は、シンイチさんがバロックさんとも結婚することに反対しません。カグラちゃんたちがいる時点で今更ですから」
……最後の一言が胸に深く突き刺さる。一夫多妻はこっちでは許されてるから悪いことではないんだが、日本人的思考からするとな。改めて言われたら結構なダメージがある。
「反対しませんけど……その分、しっかり愛してくださいね?」
至近距離で見つめ合い、少し潤んだ瞳のエレンが言う。
「……ああ、必ず」
たったそれだけのセリフで、エレンは微笑んでくれた。そこで今の体勢に気づいたのか、顔を真っ赤にさせる。でも、離れない。
「今は、私だけがシンイチさんを……!」
小さく小さく、微かな声でそう呟き、エレンは俺に再度抱きついた。肩越しに見える尻尾はパタパタと振られている。
……エレンの一言一言で理性が飛びそうになってたのは、年頃の男性としては仕方のないことだと思いたい。好きな人に「愛して」とか言われたら、ねぇ? まぁ、相手は十歳だけどさ。
結局そのまま三十分ほど経ってバロックが顔を出すまで、エレンと俺は密着し続けていたのだった。
「また来てくださいね、シンイチさん。待ってますから」
「おう。一ヶ月もしないで来るさ」
「それと、バロックさん」
「な、なんだ?」
「……素敵な旦那様がいるんです。お互い、頑張りましょうね」
「! も、もちろんだ! よろしくな、エレン!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
エレンに話しかけられて怯えた感じのバロックだったが、その言葉に何か思うことがあったのか、最後にはエレンと握手を交わしていた。なんというか、エレンは大人だな。
……素敵な旦那様、ね。恥ずかしいけど、嬉しい。その評価に恥じない男にならないとな。
エレンに別れを告げ、樹海へと突き進む。まだまだ距離があるのに、樹海は真っ二つに分かれている。モーセか……ってこれ前にも言ったな。
遠慮無く通らせてもらい、エルフの里に一直線。数分で到着。
「また貴様か! 姫を誑かした外道め!」
「鬱陶しい。決闘したいならいつでもやってやるから、一旦黙ってろロリコン」
「な、何を!? というか、『ろりこん』とはなんのことだ!」
今日も元気なリヒトくんをあしらい、族長の家に。
「晋一くんじゃないか。それにバロックも。どうしたんだい?」
「どうも。えーと、リリシアを呼んでもらえますか? こいつに関して、話があるんです」
「……うん、察しがついたよ。バロックも晋一くんの虜になったんだね」
バレた。何故。
『……そんなにベタベタくっついてれば当然かと』
「いや、モノローグに反応すんな」
まぁ、ハルの指摘はごもっとも。今のバロックは俺の腕に凭れかかるようにして立っている。近づいても悪寒がしないからとかなんとか。
「リリシアなら特に反対しないと思うけどね。ちょっと待ってて」
そう言って二階へ上っていく。
反対しないって、どんな根拠があって言うんだろうか?
「別にいいわよ。私は構わないわ」
族長さんの言ったことは本当だった。リリシアはバロックをチラチラと見ながらそう答えた。
「……理由を聞いてもいいか?」
「理由? そ、そんなのなんでもいいじゃない! ……ただ、あなたのことを信用してるってだけなんだし……」
「……そ、そうか。ありがとなリリシア」
少しずつ素直になってきているのか? 小声だったが、確かに今のは本音だっただろう。顔を真っ赤にしてるしな。
「感謝するぞリリシアよ。我もお前も、シンイチの『嫁』として頑張っていこう!」
「え、あ、うん。よろしく……」
リリシアがバロックに飲まれた。決して物理的な意味ではない。ペース的な意味だ。
何はともあれ、リリシアにも報告できた。残るはカグラのみだ。
「準備ができたぞ人間! 今日こそは貴様に勝つ!!」
うわー、出鼻を挫かれたー。
「あらあら、バロックさんも堕とされて。貴方様は罪なお人で……」
「ヤヨイさんの入れ知恵じゃないですか……」
「はて、何のことでございましょう? うふふふ」
こ、この人は……!
数人の反俺派のエルフと共にエルフの秘奥まで持ち出してきたリヒトをデコピンで吹き飛ばし、リリシアと別れて狐人族の里に来ていた。別れ際に頭を軽く撫でてやると、されるがままになっていた。必殺技は伊達じゃない。
お決まりの幻影魔法を馬鹿げた筋力で一蹴しながらカグラの下へ向かうが、どうやらカグラは湯浴みをしてるらしい。言ってなかったが、ここには風呂がある。どこからか水を引っ張ってきて『狐火』で温めているのだ。便利な魔法だな、『狐火』は。
「……シンイチ」
ヤヨイさんと歓談していると、抑揚の無い声が聞こえた。カグラが風呂から上がったみたいだな。
振り向くと、そこにいたのは。
下着姿のカグラだった。
「……? お母さん、噓吐き。シンイチ、襲ってこない」
「あらら? 私がやった時は、殿方は皆飛びかかってきましたのに……」
まだ湿った銀の長髪を揺らしながら、不機嫌そうにヤヨイさんを責めるカグラ。また妙なことを教えたようだ。
「……やはり、胸……!」
「いや、違うからな?」
勘違いされてはいけない。俺は別に胸に強い興味があるわけではない。全く無いと言い切れないのは男の性だ。
「……なら、こっち?」
大きな銀の尻尾を持ち上げ、小さくて可愛いらしいお尻をこちらに向けてくるカグラ。そこを守るのは白い布一枚だけなので、とても目のやり場に困る。
「……髪を乾かして、服を着てきなさい。濡れたままじゃここに座れないぞ?」
「……反応薄い。分かった」
膝を叩いてそう言うと、カグラも恥ずかしかったのか、ほんのりと頬を朱に染めながら部屋を出ていく。十歳相手に激しく欲情することなんて無いぞ? 本当だぞ?
「……シンイチ様、もしや不能なのでは……?」
要らん心配すんな。普通に元気だわ……って何を言ってるんだ俺は。
『心配は無用です。先ほどのやり取りの最中、マスターは僅かながらに反応して』
「それ以上言ったら握り潰す」
『申し訳ありませんマスター、どうかご慈悲を! オリハルコンにも限界はあるんです! 許してください!』
「うふふ、それなら安心です」
厄介極まりない……
つーか、ハルは必死すぎないか? 冗談だよ、冗談。
「? 反応って何のことだ?」
「……バロック、お前は知らなくていいぞ」
現状、唯一まともなのはお前だ。決して毒されないでくれ。
「……シンイチ、服着た」
「おっ。よし、良い子だぞー」
「……シンイチの嫁だから、当然」
うん、それならヤヨイさんの下世話な教えに反駁して欲しいものだ。教育によろしくない。
「そうだカグラ。実は話があってな……」
膝の上で頭を撫でられ気持ち良さそうに目を細めるカグラに癒されたところで、バロックのことを話す。ヤヨイさんには事前に説明してあり、その反応が先の言い草だ。しらっとしている。
で、聞き終えたカグラは。
「…………」
「む……どうした?」
ジーっとバロックを見つめている。実際には話の途中からずっとこんな調子だ。
「……バロック、シンイチのこと、好き?」
「好きだぞ!」
「……本当に?」
「本当だ! 我は嘘は吐かん!」
「…………」
カグラの急な問いに、バロックは躊躇うこと無く即答していく。その間、カグラの銀色の瞳はバロックの紫根の瞳を捉えていた。正確には、その深奥を見ようとしていた。
「……ふ」
あ、笑った。いつぞやの勝ち誇った感じではなく、満足したようなイメージだ。
「……合格。でも、甘い」
「むぅ、何が甘いというのだ?」
「……私の方が、シンイチのこと、好き」
「むむ! わ、我だって……!」
おおう、なんか張り合い出したぞ……
恐らく、カグラは『銀狐様』のスキルを使っていたんだろう。それによってバロックの心中を覗いていたんだ。
結果は、カグラのお眼鏡に適うくらいに俺のことが好きだったと、いうことになるみたいだ。ちょっとどころじゃなく恥ずかしいが、認められて一安心だな。
「……そんなんじゃ、シンイチは悦ばない」
「なっ……! では、どうすれば喜ぶというのだ? 我はシンイチと共にいたい。離れたくないぞ!」
「うふふ、バロック様? それならば、私から殿方を悦ばせる技を伝授しましょう。ええ、貴女様ならすぐに皆伝できましょう。素晴らしい武器をお持ちなのですから……」
「ほ、本当か!? 是非教えてくれ!」
「……ずるい」
……狐と龍では「よろこぶ」という字に認識の差があるように思えるが、気のせいだよな?
その日の夜、俺は一人で床に就いた。カグラとバロックは真剣にヤヨイさんの講義を受けている。時折バロックの驚きの声が耳に届くが、何の話をしているのやら……
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『マスター、今度はどこに行くのですか?』
「んー、建築とか、そういうのに詳しい人を探しに行くつもりだ。夢のマイホームってやつが欲しいんでな」
『なるほど。マスターたちの愛の巣というわけですね』
「言い方に引っかかるとこはあるが、概ねその通りだ」
とは言っても、今すぐに建てるわけじゃない。結婚するのは五年後だから、それまでに劣化してしまうのは惜しい。やるにしても二年後だ。
港町ロニエへと小走りで進む。まぁ、時速で言えば百キロ近いんだが。
いるのは俺と、右手のハルだけ。バロックは、
「む、むぅ。その、シンイチよ。我はヤヨイから教わることがあるのだ。すまないが、ついてはいけない。そ、その代わり! 次に会った時は精一杯『ほーし』するから、楽しみにしているんだぞ!」
とかなんとか言って狐人族の里に残った。着実にヤヨイさんの影響を受けているみたいで、こちらとしては戦々恐々。謎の「ほーし」が待っている。
……ユリアたちは絶対にヤヨイさんに会わせないようにしよう。カグラが教えちゃうかもしれないけど。
『マスターって枯れてますよね』
「……いきなり何の話だ」
『性の話です』
「……お前の親の顔が見てみたいよ」
『そんな、金属に手を出すつもりですか? 外堀から埋めていこうと』
「あり得ねぇよ。そもそもお前は人間じゃない……って、俺の嫁に人族のやつはいないな」
今更な事実に軽く衝撃を受けつつ、ハルとの馬鹿馬鹿しい会話を続ける。
……あ。ふと思い出したが、御堂って何してんだろうな? 戦争の道具になっちまったのかと思うと可哀想だ。ゾフォンや現魔王様に頑張ってもらって、戦争が無くなるのが一番だな。
一緒に召喚された規格外魔力なメガネ少女。元の世界では俺に話しかけてくる稀有な人物だったから、死んで欲しくはない。王国側にバレないように様子を見に行くのもありか?
十分な金を得た。新たな嫁……守るべき人ができた。ついでに口の悪い従者と世界最強クラスの配下もできた。
後は家と、平和な時間だな。
すれ違う商人らしき男に驚愕の視線を向けられながら、俺はそんなことを考えていた……
はい、これで第三章は終わりです。章タイトル詐欺でしたね。旅ってなんだったんでしょう?
やっと魔族が出てきたり、戦争という設定にちょっと触れたりな三章、いかがでしたか?
感想や評価をもらえるとありがたいです。
それと、四章からは更新速度がガクッと落ちると思います。最低でも週に一話は投稿したいと思っていますが……
幕間を少し入れてからの四章は戦争手前までの話になるはずです。なるといいなぁ……
行き当たりばったりな拙作ですが、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!




