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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第三章 旅、それは男のロマン
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急成長

ごゆっくりお読みください。

  暗い……?


  そう感じて、自分が瞼を閉じているのだと気づく。


  そこから体の感覚が徐々に甦ってきて、自分が寝転んでいるのだと気づく。


  ……ああ、そっか。カインたちと勝負して全力出して、それに身体が追いつかなくて気絶したんだっけ。


  思考がハッキリしていく。


  ハッキリしていき、妙な感覚を覚えた。


  柔らかい……?


  そう、柔らかい。後頭部と顔が、種類の違う柔らかさに挟まれてる気がする。


  後頭部に感じるのは、少し固めだけれど確かな柔らかさ。ゴムのような……と言うのが近いだろうか? 今まで感じたことの無いものだ。


  顔に感じるのは、ぷにっとした柔らかさ。これは例えるならば、水風船だろう。つい最近も感じたことがあるから分かる。


  どちらもリラックスできる感触。


  今度は睡魔が襲ってきた。俺はその甘い誘いに身を委ね……


  ることはなく、しっかりと現状を把握しようとする。


「……バロックか?」


  目を開くも、暗いまま。大体の予想はついてきてるぞ。


「む、起きたのか、ワタラセ!」


  視界を塞ぐ物体の向こうから、嬉しそうな声が聞こえた。


「起きていいか?」


「いいぞ」


  一応確認をとってから体を起こそうとして、止める。代わりに寝返りを打つようにして抜け出す。


「安心したぞ。急に気絶するのだからな」


  地べたに座り込むバロックが、優しげな笑顔を見せる。


  ……やっぱり膝枕だったか。


  大方ハルが適当なことを吹き込んだのだろう。右手のこいつは何気無く性格悪いところがあるからな。


『……なんて思ってませんか?』


  ば、バレてる……


『私は何もしてませんよ。バロック様が勝手にやったことです』


  政治家かお前は。


  しかし、本当にハルが教えたんじゃないなら誰が教えたんだ? まさかバロックの知識にあったことではないだろうしな。


  ……まぁ、どうでもいいか。気にしたら負けだ。


  それに、もっと気になることがあるからな。


「……お前ら、何やってんだ?」


  立ち上がった俺の目の前には、赤、青、黄、緑、白、黒の六色がきっちり横一列に並んでいた。


  簡単に言うと、カインたち六体の古龍が片膝をついて頭を垂れていたのだ。


「王の御前であります故に」


  ディールがそう答える。


「分かるけど、聞いておくぞ? 王って誰のことだ?」


「シンイチ様のことでございます」


  ですよねー。


  強き者が上に立つという、ある意味とても分かりやすい上下の区分があるドラゴンだ。その中でも最強の古龍六体を立て続けに打倒していったんだから、俺の強さは証明されてしまったと言える。


  推測でしかないが、真に最強となったドラゴンは絶対種の中でも「絶対」の存在となるとか、そんなところなんだろう。


「……やめてくれ、お前らにそんな態度とられてもむず痒いだけだ」


  こういう奴らに言っても無駄かもしれないがな……


「あ、そうかい? なら普段通りにいかせてもらうよ」


「う〜、真面目な空気は肩が凝るよ〜」


「よく言ったシンイチィ! やッぱこんな堅苦しいのはごめんだよなァ!」


「クフフ、私はどちらでも構いませんがねぇ……」


「うぬ、俺は謙るのは苦手だから助かる」


「さっすが王様ー、心が広ーい!」


  ……そんなこともなかったか。全員が一気に態度を軟化させてだらけ始めた。


  こっちの方が気楽だから問題無いがな。


「あ、崩した態度をとらせてもらうけど、シンイチくんが僕たちの王なのは変わらないから」


  ディールがさも当然かのように告げる。


「……その立場、降りることは?」


「僕たちの内の誰かと『本気で』戦って負ければ降りれるよ」


  実力主義め……ちゃっかり「本気で」とか条件付けして八百長を防いできてる。抜け目無い。


「それにしても、シンイチくんって本当に強いよね〜。あんな簡単にやられるとは思わなかったな〜」


  ノットがのんびり口調で言う。それに対し、ジンが同意の意を示して大きく頷いた。


「俺にまともなダメージを与えられたのはシンイチが初めてだ」


「避けたと思った攻撃が戻ってくるなんて、想定もしていませんでした。クフフフフフフフフ……」


「ホント、ドラゴンの魔法を生身で破るなんて、常識外れにも程があるよねー」


「力といい速さといい、あれは人間じゃないよ〜」


  ワースとフィトムも加わって俺の評価を始め、ノットから人外判定をくらった。実を言うと俺もそう思ってるよ、奇遇だな。


  楽しそうな彼らは現在、人間形態である。


「なあ、なんでお前らは人間の姿なんだ?」


  隣にいたディールに尋ねる。


「そっちの方が楽だからね。ドラゴンの状態だと体が重くて仕方ないんだ」


  へー、あの巨体だからこその悩みだな。


「じゃあ、どうしてドラゴンになる時だけ魔法を唱えてるんだ? 人間の時は何も言わないのに」


「あー、そう言われれば。考えたことも無かったけど……僕の感覚で言わせてもらうと、『こっち』の姿が本来の自分自身のような気がするんだ。それが関わってるのかも」


  ……うん、よく分からない。けど言わんとしてることは伝わってきた。もはやそれが普通だから考えることも無かった、ということだけだが。


「シンイチィ! もう一回勝負しようぜェ!」


  カインがリベンジを申し込んできた。すると、批評会から反省会に移行して、次に闘う時はどうすればいいかを話し合っていたフィトムたちが食いつく。


「あ、カイン抜け駆け! 私もー!」


「それじゃあ僕も〜」


「クフフ、私もやりますよ?」


「再戦だシンイチ」


  こいつら、ついさっき負けた相手になんでそんなにヤル気満々なんですかねぇ……自分より強い奴の登場が嬉しくて仕方ないってことか?


「ふむ、僕も混ぜてもらおうかな」


  ディールまでもが参戦の意思を見せた。


  またしても面倒くさい流れになってきたが……ちょっとしたお試しも兼ねて。


「やってやるよ」


「オッ! ノリがいいじゃねェか!」


  喜色満面。子どもの無邪気さを感じさせる笑顔を浮かべるカイン。隣にいるディールも、唇の端を小さく吊り上げている。


「ただし、条件が二つある」


  指を二本立て、一本ずつ折りながら言う。


「一つは、全員同時にかかってくること。そんでもう一つは、ディールが審判役になることだ」


「なッ!? それは不公平じゃないか!」


  除け者同然の扱いをされたディールが詰め寄って来るが、手を出して制止する。


「俺はお前らの要望を叶えてやるんだ、文句を言うな。それとディール、これはどうしてもお前に頼みたいことなんだ」


  俺の言い分に対し、少しの逡巡の後にディールは渋々首を縦に振った。


「悪いな。この勝負が終わったらやってやるよ。お前がやりたかったらな」


「……必ずだぞ」


「しッかしよォ、シンイチィ……」


  ディールの同意を得られたところで、今度はカインが突っかかってきた。


「テメェ、オレたち五人全員を相手しようッてのかァ? そいつァ、ちッと思い上がりが過ぎるッてもんじゃねェかァ……?」


  やっぱりそこが引っかかるか。ノットたちも同様に不可解そうな、そして不服そうな表情だ。


「いや、思い上がりかどうかはまだ分からないぞ」


  その言葉に、カインの眉がピクリと動いた。徐々にその顔が凄惨に歪んでいくのは、怒りのせいか愉悦のせいか。


「言うじゃねェか……なら見してもらうぜェ、その自信の根拠をよォ!」


  がなるように言い放ち、龍化するカイン。続いて、残りの四人もその真の姿を露わにする。


  その間に、俺は全身に意識の糸を張り巡らせた。今までよりも遥かに深いところまで潜っていき、その底を探す。


  奥へ奥へ、もっと奥へ……


  文字通りに底知れない力が身体の中に眠っている。俺はそれを無理矢理に叩き起こして、その全体像を把握する。


  ………………ここだ。


  自分の意識を落とせる最大の場所に行き着く。


  その瞬間、何かが漲ってくるの実感した。それは一種、絶対的とまで言えるもの。


「皆、もう用意はいいかい?」


  ディールの問いかけに、五人を代表してカインが頷く。俺もそれに合わせて頷きを返す。


「ワタラセ、無茶ではないか……?」


  バロックが側に来て不安そうな声を上げる。いつになくしおらしいその態度に思わず笑いそうになったが、悪魔になるのを抑えるために必死に我慢した。


「心配すんな。危ないから、離れてろよ」


  バロックの深紫の髪を撫で、優しく肩を押す。こちらを見つめるバロックを見て少し申し訳無く思った。


  ザッと五人が俺を囲うようにして臨戦態勢に入った。バロックが闘いに巻き込まれない位置に行ったので、俺も切り替える。軽く腰を落とし、すぐに反応できるように。



「ーーー始めッ!」



  ディールが開戦を告げ、俺は動き出し……



「………………は?」



  五体のドラゴンが沈んだ。


  ディールは、文字通りに開いた口が塞がらないようだ。


「……ディール、結果は?」


「え? あ、一体何が……」


「ん? もしかして見えなかったのか? 外からなら問題無いと思ったんだがな……」


  想定と違った。第三者の視線だったら物事の全体図を掴めると踏んだんだが、そうでもなかった。


「いや、だからシンイチくん、何があったんだい?」


  ……ディール、混乱してるな。教えてやるか。


「何ってことでも無い。気絶させただけだ」


  そう、ただ単に殴って気絶させただけで、タネも仕掛けも無い。全力で近づいて、吹き飛ばさないように腹を殴った。


  六連戦のせいというかおかげというか、ステータスが暴力的なまでに成長してる感じがしてた。事実、遠目に見てたはずのディールが視認できない速度で動けたし、超硬度のジンも一撃だった。


  ……けど、よく制御できたな。下手して殺す可能性もあったんだが。


「そんなことが、あるか……?」


「あったんだよ。で、お前もやるか?」


  信じられないといった感じのディールに聞くと、少したじろいだ後に力なく頭を振った。


「……いや、遠慮するよ。君の言ってることが真実なら、僕では絶対に勝てない……参ったね。ドラゴンが怯むなんて、尋常じゃないよ」


  どうやら戦意喪失したみたいだな。思わぬ収穫だ。あんまり他者を傷つけるのは好きじゃないから……というか、今のは遠回しに俺が異常だと言ってるんじゃないか?


『マスターは異常ですね』


「言われちゃったよ、おい」


  ともあれ、こうして対古龍戦は終わったのだった。




ちょっと晋一の強さが分かりづらかったですかね。


対ノットの時、晋一の動きは観戦者全員に見切れてました。ノットが余裕ぶっこいてただけです。


それが観戦者でも捉えられない程になったと考えて頂ければ。



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